前の講座では、業務改善や小さな販促企画を任された若手が、「制約」と「分解」という型で別案を出す練習をしました。ただ、制約と分解だけだと、出てくる案は「足し引き」に寄りがちです。ここに「すでにあるものを掛け合わせる」「別の場所で使う」という視点が加わると、別案の幅は一気に広がります。スマートフォンが「携帯電話+PC」だったように、世の中のヒットの多くは、ゼロから生んだものではなく、既にあるものの組み合わせや転用なのです。
この講座で扱うのは、その「組み合わせ」と「転用」を問いの形で引き出す型、SCAMPER(スキャンパー)という7つの問いです。読み終えるころには、SCAMPERの全体像と成り立ちを説明できること、組み合わせ・転用などの問いを当てて1つの案から複数の別案を出せること、「発想」と「評価」を切り分けて発想を止めないコツを使い分けられることができるようになります。
この講座は最後まで、「自分の部署の定例業務を1つ改善する」という1つの場面で説明します。同じ業務に7つの問いを当てながら、別案を増やしていきます。
この講座のポイント
- SCAMPERがオズボーンのチェックリストから生まれた7つの問いであることを説明できる
- 組み合わせ(C)・応用(A)・転用(P)・逆転(R)の問いを使い、1つの題材から複数の別案を出せる
- 「発想」と「評価」を切り分け、発想の段階では批判を止めて出し切るコツを使い分けられる
オズボーンのチェックリストとSCAMPERの全体像
「いいアイデアはセンスのある人にしか出せない」。そう思うと、案出しの場で自分だけ固まります。でも、ヒット商品の多くは才能ではなく「問いに答えた結果」です。その正体を知りましょう。
この章のゴール
この章を読み終えると、SCAMPERがオズボーンのチェックリストから生まれた7つの問いであることを説明できるようになります。
アイデアは「降ってくる」ものではなく、問いで引き出すもの
発想には、よくある誤解が2つあります。「アイデアはセンスや才能だ」「いいアイデアはふとした瞬間に降ってくる」。これを信じていると、案が出ないとき「自分には才能がない」と手が止まります。
実際は逆で、アイデアは自分から問いを投げて引き出すものです。人間の脳には、慣れ・固定観念・思い込みという強力なフィルターがあります。「自由に考えて」と言われると、このフィルターの内側からしか案が出ません。そこで外から特定の視点を強制的に与えると、脳はその枠の中で答えを探し、フィルターを突破した発想が出ます。「問い」とは、この強制的な視点のことです。
オズボーンのチェックリストが、問いの原型をつくった
この「問いで強制的にアイデアを出す」やり方を最初に体系化したのが、アメリカの広告代理店BBDOの共同創業者、アレックス・F・オズボーンです(ブレインストーミングの考案者でもあります)。1953年の著書『Applied Imagination(応用想像力)』で、「9つの問い」、いわゆるオズボーンのチェックリストを提唱しました(出典[I-2])。思いつきに頼らずアイデアを量産する、チェックリスト発想の原型です。
SCAMPER=7つの問いに整理したもの
このチェックリストを下地に、1971年にボブ・エバール(Bob Eberle)が7つの要素へ整理・統合し、頭文字を取って名づけたのがSCAMPER(スキャンパー)です(出典[I-1][I-2])。現在はこちらが広く使われています。7つの問いは次のとおりです。
- S=Substitute(代用する)……プロセス・材料・場所・時間・人を、別のものに置き換えられないか
- C=Combine(組み合わせる)……2つ以上を結合して、相乗効果を生めないか
- A=Adapt(応用する)……他業界や過去の事例を、当てはめられないか
- M=Modify(修正する)……大きく/小さく、強く/弱く、速く/遅く、変えられないか
- P=Put to other uses(転用する)……別の使い道・業界・ターゲットに使えないか
- E=Eliminate(削ぎ落とす)……機能やプロセスを、最小化・簡略化できないか
- R=Reverse, Rearrange(再構成する)……順序を入れ替える、逆さにする、弱みを強みに変えられないか
7つすべてを毎回使う必要はありません。1つの案に上から順に問いを当てるだけで、別案が次々に出ます。前の講座の代用(S)・修正(M)・削ぎ落とし(E)もこの7つに含まれます。この講座では、足りなかった組み合わせ(C)・応用(A)・転用(P)・逆転(R)を中心に広げます。
この章の確認(演習)
SCAMPERの7つの問いを、頭文字の順に日本語の意味(代用/組み合わせ/応用/修正/転用/削ぎ落とし/再構成)とセットで書き出してください。見ずに書ければ全体像はつかめています。
組み合わせ・応用・転用・逆転で広げる
問いを覚えても、業務に当てられなければ意味がありません。身近なヒット事例で「問いの効き方」を体感してから、自分の定例業務に当てます。
この章のゴール
この章を読み終えると、組み合わせ(C)・応用(A)・転用(P)・逆転(R)の問いを使い、1つの題材から複数の別案を出せるようになります。
ヒット商品は、4つの問いの答えでできている
身近なヒットが、SCAMPERのどの問いの答えなのかを並べます(いずれも出典[I-1])。
- 代用(S)……モスバーガーのライスバーガー。1987年、バンズを米に置き換えた。
- 組み合わせ(C)……スマートフォン。携帯電話とPCを1つに結合した。
- 応用(A)……ドローンの農業転用。別用途の技術を農薬散布などに当てはめた。
- 修正(M)……ダイソンのサイクロン掃除機。吸引の仕組みを変えた。
- 転用(P)……ワークマンの一般向け「ワークマンプラス」。作業着のノウハウを一般客に使った。
- 削ぎ落とし(E)……LCC(格安航空会社)やAmazon Go。工程を最小限に削った。
- 逆転(R)……逆さ傘。閉じると濡れた面が内側になる。
大事なのは、これらが「天才のひらめき」ではなく、問いに答えた結果だという点です。同じ問いを当てれば、あなたも再現できます。
自分の定例業務に、4つの問いを当ててみる
では共通の場面です。あなたは「毎週の定例会議の議事録作成」を改善したいとします。4つの問いを当ててみましょう。
- 組み合わせ(C)……議事録と事前配布のアジェンダを1枚に結合できないか。各項目の下に決定事項を書き込めば、別々に作る手間が消える。
- 応用(A)……他部署や他社のやり方を持ち込めないか。「結論・宿題・期限の3項目だけ書く」型を当てはめてみる。
- 転用(P)……この議事録を欠席者への共有資料という別の使い道に振り向けられないか。すると「読めば状況がわかる」書き方に変わります。
- 逆転(R)……「会議の後に書く」を逆にして、空欄を先に作り会議中に埋められないか。書く作業を会議に組み込みます。
1つの業務に4つの問いを当てただけで、4つの別案が出ました。どれが良いかはまだ判断せず、この段階では「量を出す」ことに集中します。
ここでつまずきやすい
「組み合わせ」と聞くと奇抜で大きなものを掛け合わせようとして手が止まりがちです。相手はすぐ隣にあるもので構いません。議事録とアジェンダのように、毎日触れている2つを足すだけで十分に別案になります。
この章の確認(演習)
あなたの定例業務を1つ選び、組み合わせ・応用・転用・逆転の4つの問いを当て、別案を1つずつ書き出してください。合計4つ出れば成功です。
発想と評価を切り分けて、案を出し切る
問いを当てれば案は出ます。ただ、多くの人は案を出す最中に「でもコストが」と自分でブレーキを踏みます。この章でその止め方を直します。
この章のゴール
この章を読み終えると、「発想」と「評価」を切り分け、発想の段階では批判を止めて出し切るコツを使い分けられるようになります。
発想中に評価を持ち込むと、案が死ぬ
SCAMPERで案を出していると、頭の中にもう一人の自分が現れ、「それ、予算的に無理でしょ」と案を潰します。
これがいちばんよくある失敗です。「コストがかかる」「実現できない」といった批判は、発想の最中には厳禁です。荒唐無稽な案も含めてまず出し切り、評価はあとでまとめてやる、と切り分けます(出典[I-2])。発想は枠を広げる作業、評価は狭める作業。同時にやると、広げる前に狭めてしまいます。
「あえて極端に」で、フィルターをこじ開ける
それでも案が小さくまとまるときは、「あえて極端に」振ってみてください。「少し効率化しよう」では枠を出られません。「この会議の時間を10分の1にするには?」と極端な仮定を置くと、固定観念のフィルターが外れ、これまで出なかった案が顔を出します(出典[I-2])。極端な案を採用せず、そこから現実的な案に引き戻せばいいのです。
出した案には、必ず検証ステップを用意する
ただし、SCAMPERで「面白い案が出た」だけで満足して終わるのも、よくある失敗です。発想で出た案は、実現性・コスト・法規制を無視した理想論になりがちです。だからこそ、「出した案を後で必ず検証する」ステップを最初からスケジュールに組んでおきます(出典[I-2])。
「発想の場では出し切る、評価は別の場でやる」。次の講座では、広げた複数の案を実現性とインパクトの2軸で「絞り込む」型を扱います。今は思い切り広げてよい、という安心が、案の量を増やします。
ここでつまずきやすい
「批判を止める」は、評価を軽んじることではありません。評価が後で必ず来ると決まっているからこそ、発想の場では安心して批判を止められます。評価を捨てるのではなく、後ろにずらすだけです。
この章の確認(演習)
第2章で出した別案に「あえて極端に」を1回使ってもう1案追加し、これらの案をいつ評価するか検証の予定を1行メモしておけば、発想と評価の切り分けができています。
まとめ
この講座では、「自分の部署の定例業務を1つ改善する」という場面で、組み合わせと転用の問いを使って別案を広げてきました。歩いてきた道を整理します。
- 全体像(第1章)……アイデアは問いで引き出すもの。オズボーンのチェックリストを下地にエバールが整理した7つの問いがSCAMPER(代用・組み合わせ・応用・修正・転用・削ぎ落とし・再構成)。
- 広げる(第2章)……ヒット商品は問いの答えでできている。組み合わせ・応用・転用・逆転を業務に当てれば、1つの業務から複数の別案が出る。
- 出し切る(第3章)……発想と評価を切り分け、発想中は批判を止めて出し切る。「あえて極端に」で枠を広げ、評価は後でやる。
この講座の背骨は「アイデアは才能でなく手順で出せる」です。広げる手順を覚えれば、案の量は努力で増やせます。
明日の最初の一歩:今かかえている業務を1つ選び、SCAMPERの「組み合わせ(C)」だけを当ててみてください。「この業務と、隣の何かを1つ足せないか?」。たった1つの問いでも、いつもと違う案が出てきます。
次の講座へ:思い切り広げた案は、多すぎて動かせません。次の講座では、広げた案を実現性×インパクトの2軸で1案に絞り込む型を学びます。広げる→絞る、の「絞る」へ進みましょう。
よくある質問
SCAMPERとオズボーンのチェックリストは何が違うのですか?
オズボーンが1953年に提唱した9つの問いを、1971年にエバールが7つに整理・統合したものがSCAMPERです。同じ系譜で、SCAMPERのほうが覚えやすい形です。
7つの問いは全部使わないといけませんか?
いいえ。1つの案に使えそうな問いを当てるだけで十分です。まず組み合わせ(C)から試し、慣れたら他も足していきましょう。
出している最中に「実現できない」と思ったらどうすれば?
評価はいったん脇に置き、案は消さず残してください。実現性の判断は、出し切ったあとの「絞り込み」でまとめて行います。