部下育成入門 | マナビズ

部下育成入門

部下育成入門

「あのメンバー、育ってる?」——上司にそう聞かれて、言葉に詰まってしまった。任せたい気持ちはあるのに、忙しいと「自分でやった方が早い」とつい仕事を巻き取ってしまい、気づけばそのメンバーには、いつも同じ簡単な仕事(議事録づくり、データ入力、資料の体裁直し)しか回していない。たまに「そろそろ任せよう」と少し難しい仕事を渡すと、説明が足りないまま丸投げになって、本人が固まり、結局やり直し。そして「やっぱり自分でやろう」に戻ってしまう——チームを任され始めた頃、こんな経験はありませんか。

「育成って、研修に行かせるか、面談で発破をかけることでしょ?」。そう思っていると、育成は日々の「どの仕事を任せるか」と切り離されてしまい、人はなかなか育ちません。でも、安心してください。部下を上手に育てるリーダーと、そうでないリーダーの違いは、人柄でも熱意でもありません。巻き取るか丸投げかの二択で考えるか、それとも、今の力の少し上を一段ずつ設計するかだけです。

実は、人が仕事で育つ部分の大半は、研修や説教ではなく、実際の仕事経験から来ます。これは「70:20:10(経験7割・他者からの学び2割・研修1割)」という経験則として知られています(米国のリーダーシップ研究機関の調査に由来します)。比率そのものは目安ですが、「育つ主役は仕事経験だ」という方向は、多くの現場の実感と重なります。だから育成の本体は、研修に送り出すことでも発破をかけることでもなく、任せる仕事を“ちょうど一段上”に積み上げていく階段づくりなのです。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. 部下育成を「研修・説教」や「巻き取る/丸投げ」ではなく、任せる仕事の難易度を、本人の力の“ちょうど一段上”に一段ずつ上げて回すこととして、自分の言葉で説明できる
  2. あるメンバーについて、「今ひとりでできること」と「まだできないこと」の線を見立て、次に任せる“一段上”の仕事を設計できる(難易度のつまみを1〜2個だけ上げ、丸投げを防ぐ最低セットを渡せる)
  3. 半年ぶんの育成計画(階段表)を作成でき、各段を「任せる→ふりかえる→次の一段」で回し、つまずいたら半段戻す、という判断ができる

この講座は最後まで、「あなたが、入社2年目のメンバー『たくみさん』を、半年かけて“小さな引き合いを1件、要所だけ相談しながら回せる”ところまで育てる」という、たった1つの場面だけで説明します。同じ1人を、育成とは何か→今の力を見立てる→一段上を設計する→半年の階段表にする、と1段ずつ積み上げ、最後に階段表が1枚できあがります。各章末には手を動かす演習も置いているので、自分のメンバーを思い浮かべながら読み進めてください。そして、ここで作る階段表をそのまま自分のチームで使いたくなったら、段階的な育成計画表(階段表)テンプレートをDLして、最初の一段から設計してみましょう。

この講座のポイント

  • 部下育成を「研修・説教」や「巻き取る/丸投げ」ではなく、任せる仕事の難易度を本人の力の“ちょうど一段上”に一段ずつ上げて回すこととして、自分の言葉で説明できる
  • あるメンバーについて、「今ひとりでできること」と「まだできないこと」の線を見立て、階段の出発点(1段目)を置ける
  • 次に任せる“一段上”の仕事を設計でき(難易度のつまみを1〜2個だけ上げ)、任せ方を段階に合わせて手放し、丸投げを防ぐ最低セットを渡せる
  • 半年ぶんの段階的な育成計画(階段表)を作成でき、各段を「任せる→ふりかえる→次の一段」で回し、一段クリアしたら次へ・つまずいたら半段戻す、という判断ができる

部下育成とは何か(教えることでなく、任せる仕事の難易度を階段で上げること)

まずは、「巻き取り」と「丸投げ」の間で揺れてしまうモヤモヤの正体を、はっきりさせましょう。部下育成という言葉を、ふわっとした「研修・説教」のイメージから、自分で使える1枚の地図に変える土台の章です。

この章のゴール

この章を読み終えると、部下育成を「研修・説教」や「巻き取る/丸投げ」ではなく、任せる仕事の難易度を本人の力の“ちょうど一段上”に一段ずつ上げて回すこととして、自分の言葉で説明できるようになります。

巻き取りと丸投げ——どちらも部下が育たない正体

あなたの面倒見が悪いわけではありません。多くの場合、育成がうまくいかないのは、育成を「研修に行かせる・面談で発破をかけること」だと捉えていて、それが日々「どの仕事を任せるか」と切り離されているからです。基準がないので、任せ方が両極端に振れます。

一方の極が「巻き取り」です。「自分でやった方が早い」と仕事を引き取ってしまい、メンバーにはいつも同じ簡単な仕事しか渡さない。もう一方の極が「丸投げ」です。たまに思い切って難しい仕事を渡すけれど、説明が足りずに本人を固まらせ、結局やり直し。この2つを行ったり来たりして、「やっぱり自分でやろう」に戻る——これが、育たない正体です。

ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。部下育成とは、任せる仕事を“ちょうど一段上”に、一段ずつ積み上げていく階段づくり。巻き取りでもなく、丸投げでもありません。この発想に切り替えるだけで、「何を・どこまで任せればいいか」が見えるようになります。

育つ主役は“仕事経験”:だから育成は任せる仕事の設計

なぜ「任せる仕事」がそんなに大事なのでしょうか。それは、人が仕事で育つ部分の大半が、研修でも面談でもなく、実際の仕事経験から来るからです。冒頭で触れた「70:20:10(経験7割・他者からの学び2割・研修1割)」という経験則は、まさにこのことを言っています。研修や本(10)も、上司からの助言(20)も大切ですが、いちばん大きいのは、本人が実際に手を動かした経験(70)なのです。

このことを認めると、育成の見方が変わります。育成とは、研修に送り出して終わりではありません。日々、本人にどの仕事を・どの難易度で任せるかを設計すること——これが育成の本体です。あなたが毎日メンバーに渡している仕事そのものが、いちばんの教材だ、ということです。

ここで先回りして、いちばんありがちな誤解を潰しておきます。「育成=研修や説教のこと」という思い込みです。研修や面談は、育成の一部分にすぎません。その手前に、「日々どんな仕事を任せるか」という、もっと大きな土台があります。ここを設計せずに研修だけに頼ると、土台のない家を建てることになります。

仕事の難易度は3つの領域:簡単すぎ/ちょうど一段上/難しすぎ

では、任せる仕事の難易度を、どう見分ければいいのか。仕事の難易度は、本人にとって次の3つの領域に分けられます。

領域本人の状態育成への効果
① 簡単すぎ今のままで楽にこなせる安定するが、成長しない
② ちょうど一段上少し背伸びすれば届くここで人は育つ
③ 難しすぎ力をはるかに超えて手が止まる丸投げで潰す

この3つは、人材育成ではコンフォートゾーン(簡単すぎ)/ストレッチゾーン(ちょうど一段上)/パニックゾーン(難しすぎ)と呼ばれ、ミシガン大学のノエル・ティシーが広めた考え方とされています。名前は覚えなくて大丈夫。大事なのは、人が育つのは、まん中の「ちょうど一段上(ストレッチ)」だけだ、ということです。

ここで、1-1の「巻き取り」と「丸投げ」を、この地図の上に置いてみましょう。巻き取りは、メンバーを①簡単すぎの領域に留め置くこと。安心ではありますが、いつまでも育ちません。丸投げは、いきなり③難しすぎの領域に放り込むこと。本人は手も足も出ず、固まってしまいます。どちらも、まん中の②を飛ばしているのです。だから育成とは、②の“ちょうど一段上”を狙って、任せる仕事を階段状に積み上げること。これが、この講座でいちばん大事な発想です。

共通例:たくみさんで「巻き取り」と「丸投げ」を見る

では、この講座を通して使う共通例に登場してもらいましょう。あなたのチームの、入社2年目のメンバー「たくみさん」です。たくみさんには、議事録づくりや資料の体裁直しを任せています。

あなたは半年もの間、たくみさんに同じ議事録づくりばかり任せてきました。これは①簡単すぎの領域に留め置いている状態です。あるとき、「そろそろ任せよう」と思い切って、引き合い対応を「この案件、一人でやってみて」とまるごと渡しました。すると、たくみさんは何から手をつけていいか分からず、固まってしまいました。これは③難しすぎの領域に放り込んでしまった状態です。

どちらでも、たくみさんは育ちません。本当は、その中間——今のたくみさんが「少し背伸びすれば届く一段上」の仕事から始めるべきでした。たとえば、いきなり案件まるごとではなく、「顧客への進捗メールの下書き」あたりです。次の章から、この“ちょうど一段上”をどう見つけ、どう設計するかを、たくみさんと一緒に進めていきます。

この章の確認(演習)

自分のメンバーを1人思い浮かべて、その人に今いつも任せている仕事を3つ書き出してみてください。そして、それぞれが「簡単すぎ(楽にこなせる)/ちょうど一段上(少し背伸び)/難しすぎ(手が止まる)」のどれかを判定します。

多くが「簡単すぎ」に寄っていませんか。もしそうなら、それは巻き取りのサインです。最後に、「育成とは、任せる仕事を“ちょうど一段上”に一段ずつ上げることだ」を、自分の言葉で1〜2行に書いてみてください。巻き取り・丸投げの二択から、“一段上”の発想へ切り替える——その感覚を、自分の手で言葉にできたら、この章はゴールです。

今の力を見立てる(階段の1段目を置く)

地図の最初のマス、今の力を見立てるに入ります。“ちょうど一段上”を設計するには、まず本人が今どこに立っているかを知る必要があります。

この章のゴール

この章を読み終えると、あるメンバーについて、「今ひとりでできること」と「まだできないこと」の線を見立て、階段の出発点(1段目)を置けるようになります。

“一段上”を測るには、まず今の天井を知る

第1章で、狙うのは“ちょうど一段上”だと分かりました。でも、「一段上」がどこかは、本人の今の力の天井——「ひとりでできること」と「まだできないこと」の境目——が分かって初めて決まります。この境目を知らないまま仕事を渡すと、それが本人にとって一段上なのか、それとも丸投げ(難しすぎ)なのかを、見分けられません。だから、設計の前に、まず見立てです。

「タスク×自立度」で地図を作る

見立てのコツは、その人を「できる人/できない人」と丸ごと評価しないことです。仕事を「タスク(仕事の種類)× 自立度(どこまで一人でできるか)」で、こまかく見ます。自立度は、次の3段階に置くと分かりやすいです。

自立度状態
A手取り足取り指示すれば、できる
B相談しながらなら、できる
Cひとりで任せられる

メンバーが持っている仕事を一つずつ、このA・B・Cのどこかに置いていくと、その人の「今の力の地図」ができあがります。Cの集まりが、今の天井(ひとりでできる範囲)。Bが、今まさに育っている最中の領域。Aが、まだ届いていない領域です。

ここで大事なのは、年齢や社歴で決めないことです。「2年目だから、これくらいできるはず」と十把ひとからげにせず、タスクごとに見ます。同じ人でも、資料作成はC(ひとりでできる)なのに、顧客対応はA(指示が要る)、ということは普通にあります。

なお、こうして「部下の今の段階に合わせて任せ方を変える」という考え方は、SL理論(部下の発達度に応じてリーダーシップを変える、というハーシーとブランチャードが提唱した考え方)として知られています。用語は覚えなくて大丈夫。「相手の今の力に合わせて見る」とだけ掴んでください。

1段目は「BをCへ/Aの入口をBで」に置く

地図ができたら、次に任せる“一段上”をどこに置くかが見えてきます。置き場所は、だいたい次の2か所です。今Bにある仕事を、Cに引き上げる(相談しながらできる仕事を、ひとりでできるように)。あるいは、今Aの入口にある仕事を、Bで任せる(まだ指示が要る仕事を、相談しながらやらせてみる)。

逆に避けたいのが、Cの仕事をもう一度渡すこと(簡単すぎ=巻き取りのまま)と、Aの奥にある仕事をいきなり渡すこと(難しすぎ=丸投げ)です。一段上は、いつも「今いる場所のすぐ隣」にあります。

共通例:たくみさんの「今の力の地図」

たくみさんの今の力を、地図にしてみましょう。

タスク自立度
議事録づくりC(ひとりでできる)
資料の体裁直しC
データ入力C
顧客への進捗メールB寄り(型を見せれば下書きはできそう)
見積書の作成A(やり方をまだ知らない)
案件を一人で回すA(手も足も出ない)

こう並べると、たくみさんの天井がはっきり見えます。「社内の決まった作業はC、でも顧客が絡むと一気にA」。つまり、社内向けの定型作業は卒業しているけれど、顧客が関わる仕事はこれからだ、ということです。

だから、階段の1段目(最初のストレッチ)は、議事録(C)の延長ではなく、「顧客への進捗メールの下書き」(B)に置くのが妥当だ、と決まります。第1章で固まらせてしまった「案件をまるごと」(A)は、まだ4〜5段先。地図があると、一段目の置き場所が、こうして論理的に決まるのです。

この章の確認(演習)

共通例のたくみさんにならって、自分のメンバー1人の仕事を8〜10個書き出し、A(指示すればできる)/B(相談すればできる)/C(ひとりでできる)に仕分けしてみてください。

仕分けできたら、その人の「今の天井(Cの集まり)」と「育ち中(Bの集まり)」を、一言ずつ書いてみます。最後に、次に任せる“一段上”の候補を、Bの仕事をCへ/Aの入口をBで、のあたりから1つ選んで書いてください。年齢ではなく「タスク×自立度」で今の力を地図にする——その感覚をつかめたら、ゴールです。

一段上を設計して任せる

地図の2マス目、一段上を設計して任せるに入ります。第2章で選んだ“一段上”の候補を、実際に渡せる形にしていきます。

この章のゴール

この章を読み終えると、次に任せる“一段上”の仕事を設計でき(難易度のつまみを1〜2個だけ上げ)、任せ方を段階に合わせて手放し、丸投げを防ぐ最低セットを渡せるようになります。

一段上=難易度の「4つのつまみ」を1〜2個だけ上げる

“一段上”を作るとは、今の仕事の難易度を少しだけ上げることです。では、何を上げれば「少しだけ」になるのか。難易度を上げる「つまみ(軸)」は、次の4つに分けられます。

つまみ上げるとは
① 範囲作業の量・工程の数を増やす1工程 → 複数工程
② 裁量自分で決めてよい範囲を広げる指示どおり → 方針は本人が決める
③ 関わる相手相手を社内から社外へ社内だけ → 顧客が相手
④ 責任の重さ最終成果への責任を重くする下書き → 送信・最終物

一段上にするコツは、この4つのうち1〜2個だけを上げて、残りは据え置くことです。なぜなら、4つをいっぺんに上げると、それは“一段上”ではなく、第1章で見た「丸投げ(難しすぎ)」になってしまうからです。少し背伸びが必要な仕事を意図的に任せて育てる方法は、ストレッチアサインメントと呼ばれますが、専門家も「むやみに難題を押しつけるのは、それとは別物だ」と注意しています。つまみを1〜2個に絞る——これが、一段上と丸投げを分ける線です。

任せ方を手放していく:指示型→コーチ型→委任型

難易度を上げたら、任せ方も段階に合わせて変えます。ポイントは、相手が育つほど、あなたは手放していくこと。任せ方は、大きく3段階あります。

任せ方あなたの関わり方どんな段階で
指示型やり方を見せる・手本やチェックリストを渡す初めての仕事
コーチ型一緒に考える・「どうする?」と問いかけ、本人に決めさせる慣れてきた仕事
委任型任せて見守る・節目だけ報告を受けるひとりで回せる仕事

最初の一歩を渡すときは、口を出してよいのです(指示型)。でも、同じ仕事を2回、3回と任せるうちに、だんだん「どうしたらいいと思う?」と問いかけ(コーチ型)、やがては「任せたよ、何かあったら言って」と見守る(委任型)。難易度が上がるほど、口は出さず任せていくのがコツです。この「相手の段階に合わせて、指示型から委任型へ手放していく」考え方も、先ほどのSL理論の中心にあります。

丸投げを防ぐ「最低セット」:ゴール・期限・確認ポイント・連絡線

「任せる」と「放置する」は違います。任せても放置にしないために、どの段でも必ず渡すものがあります。これを「最低セット」と呼びましょう。次の4点です。

最低セット渡すもの
① ゴール何ができたら完了か
② 期限いつまでか
③ 確認ポイントどこまで進んだら一度見せるか(中間チェック)
④ 連絡線困ったとき、いつ・どう相談していいか

この4点がそろっていれば、難しめの仕事を任せても、放置にはなりません。実際、ストレッチアサインメントでも「課題を与えて放置せず、フィードバックでサポートすることが肝心だ」と言われます。とくに抜けやすいのが③確認ポイントと④連絡線です。この2つがないと、本人は「いつ相談していいか分からない」まま抱え込み、締切直前に「実は何もできていません」となりがちです。

ただし、逆に確認ポイントを増やしすぎるのも禁物です。一挙手一投足を確認すると、それは「任せた」のではなく、こまかく管理するマイクロマネジメントになってしまいます。中間チェックは、要所に1〜2回。それくらいがちょうどよい手放し方です。

共通例:たくみさんの2段目「進捗メール下書き」を設計する

では、たくみさんに2段目「顧客への進捗メールの下書き」を任せる設計を、実際にやってみましょう。今の天井は「議事録づくり」(社内・決まった作業)です。ここから、つまみを2つだけ上げます。

上げるのは、③関わる相手(社内 → 顧客)と、④責任の重さ(社内メモ → 対外文書の下書き)の2つ。一方、①範囲(メール1通分)と②裁量(型に沿って書く)は据え置きです。だから、ぐっと背伸びはするけれど、“一段上”の範囲に収まります。

任せ方は、初めての仕事なので指示型。過去の進捗メールを手本として見せ、チェックリスト(宛名・要件・期限・次のアクション)を渡します。そして、最低セットを4点とも添えます。①ゴール=「顧客が読んで、今の状況と次にすることが分かる進捗メールの下書き」。②期限=木曜の午前まで。③確認ポイント=「下書きができたら、送信する前に必ず見せてね」。④連絡線=「書き出しで詰まったら、いつでも声をかけて」。

もしここで、いきなり「顧客とのやりとりを全部やって」(範囲も裁量も相手も責任も、つまみ4つ全部を上げる)と渡していたら、それは2段目ではなく、5段目への丸投げです。たくみさんはきっと、第1章のときのように固まっていたでしょう。つまみを2つに絞ったからこそ、たくみさんは「これならできそう」と、最初の一段に足をかけられるのです。

この章の確認(演習)

共通例にならって、自分のメンバーに次に任せる“一段上”の仕事を1つ決め、設計してみてください。(a)上げるつまみを1〜2個選ぶ(範囲・裁量・相手・責任のどれか)。(b)任せ方を、指示型/コーチ型/委任型から選ぶ。(c)最低セット(ゴール・期限・確認ポイント・連絡線)を4点とも、具体的に書く。

書けたら、2つの目で見直します。つまみを上げすぎて、丸投げ(難しすぎ)になっていないか。最低セットに、抜けはないか。“ちょうど一段上”を、最低セットつきで渡せる——その形にできたら、ゴールです。

育成計画にして半年回す

地図の最後のマス、育成計画にして回すに入ります。一段上の設計を、半年ぶんの階段につなげて、計画として動かします。

この章のゴール

この章を読み終えると、半年ぶんの段階的な育成計画(階段表)を作成でき、各段を「任せる→ふりかえる→次の一段」で回し、一段クリアしたら次へ・つまずいたら半段戻す、という判断ができるようになります。

今の天井→半年後のゴールを「4〜6段の階段表」にする

一段上の設計ができるようになったら、それを1回で終わらせず、半年ぶんの階段につなげます。これが育成計画です。とはいえ、難しい書類は要りません。次のような表を、1行に1段で並べるだけです。

時期任せるタスク上げるつまみ任せ方確認ポイント
1
21か月目

作り方は、ゴール(半年後の到達点)から逆算すること。半年後にどうなっていてほしいかを決め、今の天井(第2章で見立てたC)から、そのゴールまでを、4〜6段の階段に割ります。一気に登る階段ではなく、一段ずつのゆるやかな階段にするのがコツです。

各段は「任せる→ふりかえる→次の一段」で回す

階段表ができたら、各段を、ただ任せて終わりにしてはいけません。次の3ステップで回します。①任せて経験させる → ②ふりかえる → ③次の一段へ

この中でいちばん大事なのが、②のふりかえりです。仕事を任せて経験させても、やりっぱなしでは、経験が学びに変わりません。やってみた直後に、「どうだった?」「何が難しかった?」「次はどうする?」と問いかけて、本人に言葉にさせる。ここで、あなたが「ここがダメだった」と一方的に反省点を述べてしまうと、それはあなたの感想であって、本人の学びにはなりません。本人が自分の口で「次はこうしよう」と言えたとき、経験は初めて教訓に変わります。

この「経験 → ふりかえり → 教訓 → 次の実践」という流れは、経験学習(コルブが体系化した、経験から学ぶサイクル)として知られています。1段ごとにこのサイクルを回すと、ただ渡しただけの仕事が、本人の中に積み上がる育ちに変わっていきます。なお、このふりかえりを丁寧な面談として行う進め方は1on1、途中の声かけ・伝え方はフィードバックという、別の講座で深められます。ここでは「任せたら、必ず問いかけてふりかえる」とだけ押さえてください。

一段クリアで次へ・つまずいたら半段戻す

階段は、機械的に登るものではありません。相手の様子を見ながら、登るペースを調整します。判断はシンプルです。一段クリアできたら、次の段へ上げるつまずいたら、無理に上げず、半段戻して足場を固める

ここで「半段戻す」とは、前の段まで下げてしまうことではありません。同じ段の仕事を、もう1〜2回、今度は少し手厚く(コーチ型で相談に乗りながら)やらせて、足場を固めることです。つまずいているのに無理に次の段へ押し上げると、それは第1章の「難しすぎ(丸投げ)」に逆戻り。逆に、もうクリアしているのに不安で次に上げないと、今度は「簡単すぎ」に留め置くことになります。計画は固定ではなく、相手の伸びを見て、段の幅や時期を調整してよいのです。

共通例:たくみさんの半年6段の階段表

たくみさんの半年の階段表を、実際に作ってみましょう。ゴールは、6か月後に「小さな引き合いを1件、要所だけ相談しながら回せる」状態。今の天井(議事録づくり=C)から、ここまでを6段に割ります。

時期任せるタスク任せ方
1議事録づくり(ひとりでできる)
21か月目顧客への進捗メールの下書き指示型
32か月目テンプレに沿って見積書を作る指示→コーチ型
43〜4か月目定例ミーティングに同席し、進捗報告のパートを進行コーチ型
54〜5か月目小さな引き合いを、要所だけ相談しながら回すコーチ→委任型
66か月目小さな案件を一人で回し、節目だけ報告委任型

各段で「任せる→ふりかえる(問いかけ)→次の一段」を回します。たとえば3段目の見積書で、たくみさんが「金額の根拠の出し方」でつまずいたとします。ここで4段目に無理に上げてはいけません。見積書をもう1〜2件、今度は隣で相談に乗りながら作って、足場を固める(半段戻す)。それから4段目へ進みます。

どうでしょう。第1章では「議事録ばかり(巻き取り)」と「案件まるごと(丸投げ)」の間を行き来していた育て方が、こうして1枚の階段表になりました。行き当たりばったりの「たまに任せる」が、見通しのある育成計画に変わったのです。

この章の確認(演習)

共通例にならって、自分のメンバー1人について、半年後のゴールを1つ決め、今の天井からゴールまでを、4〜6段の階段表(段/時期/タスク/つまみ/任せ方/確認ポイント/ふりかえりメモ)にしてみてください。

そして、最初の1段について、「任せる→ふりかえる→次」をどう回すか——とくに、どんな問いかけでふりかえるかを、書いてみます。行き当たりばったりの育成を、見通しのある計画に変える——その手応えを、自分の手でつかめたら、ゴールです。階段表づくりには、段階的な育成計画表(階段表)テンプレートを使うと、項目を埋めるだけで形になります。

まとめ:育成とは、任せる仕事を“ちょうど一段上”に積み上げる階段づくり

おつかれさまでした。「2年目のメンバー・たくみさんを、半年で“小さな案件が回せる”まで育てる」という、たった1つの場面を、育成とは何か→今の力を見立てる→一段上を設計する→半年の階段表にする、と1段ずつ積み上げてきました。最後に、4つの章を振り返ります。

  1. 部下育成とは……研修・説教でも、巻き取る/丸投げでもなく、任せる仕事の難易度を、本人の力の“ちょうど一段上”に、一段ずつ上げて回すこと。育つ主役は仕事経験。簡単すぎ(巻き取り)では育たず、難しすぎ(丸投げ)では潰す。狙うのは、まん中の“ちょうど一段上”(第1章)。
  2. 今の力を見立てる……年齢や社歴ではなく、「タスク×自立度(A指示すれば/B相談すれば/C ひとりで)」で地図を作る。Cが今の天井、Bが育ち中。一段上は「BをCへ/Aの入口をBで」のあたりに置く(第2章)。
  3. 一段上を設計して任せる……難易度のつまみ(範囲・裁量・相手・責任)を1〜2個だけ上げる。任せ方は、指示型→コーチ型→委任型と手放す。そして、丸投げを防ぐ最低セット(ゴール・期限・確認ポイント・連絡線)を渡す(第3章)。
  4. 育成計画にして半年回す……今の天井からゴールまでを4〜6段の階段表にし、各段を「任せる→ふりかえる→次の一段」で回す。ふりかえりは、問いかけて本人に言葉にさせる。一段クリアで次へ、つまずいたら半段戻す(第4章)。

この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「『あのメンバー、育ってる?』に、任せてきた段階・次の一段・半年後のゴールを、“計画”として示せるか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——育成とは、任せる仕事を“ちょうど一段上”に積み上げる階段づくり。巻き取りでも、丸投げでもなく。これが身につくと、上司に「育ってる?」と聞かれても、「今は見積もりの下書きまで一人でできます。来月は定例に同席させて、半年後には小さな引き合いを回せる状態がゴールで、ここに階段表があります」と、計画として答えられるようになります。

明日の最初の一歩:育てたいメンバーを1人選んでください。そして、(a)その人が今「ひとりでできること(C)」を1つと、「次に任せたい“一段上”」を1つ書きます。(b)その一段上について、最低セット(ゴール・期限・確認ポイント・連絡線)を添えて、今週ひとつ、実際に任せてみます。完璧な階段表は、後でかまいません。「巻き取る」でも「丸投げ」でもなく、“一段上”をひとつ渡せたら、それが第一歩です。

そして、この「一段ずつ上げる」育て方を、半年の計画としてきちんと組みたくなったら、段階的な育成計画表(階段表)テンプレートをDLして、自分のメンバーの「今の天井→一段上→半年後のゴール」を、4〜6段の階段にしてみてください。さらに、ふりかえり面談の進め方は1on1、任せる先のゴールの立て方は目標設定、途中の声かけ・伝え方はフィードバック、リーダーの役割全般はマネジメントの基礎——それぞれの講座で、今日描いた階段の各場面を、もっと深められます。まずはこの階段表を、自分の手で1枚描けるようにしておきましょう。それが、人を育てるすべての土台になります。

よくある質問

部下育成とは何ですか?

任せる仕事の難易度を、メンバーの今の力の「ちょうど一段上」に一段ずつ上げて回すことです。研修や説教が中心ではなく、日々どんな仕事を任せるかの設計が育成の本体です。

巻き取りと丸投げの何が問題なのですか?

巻き取りはメンバーを「簡単すぎ」の領域に留め置いて成長させず、丸投げは「難しすぎ」の領域に放り込んで手も足も出なくさせます。どちらも「ちょうど一段上」を飛ばしているため、人が育ちません。

メンバーの今の力はどうやって見立てればよいですか?

仕事を「タスク×自立度」で仕分けします。「A=指示すればできる」「B=相談すればできる」「C=ひとりでできる」の3段階に置くと、今の天井(Cの集まり)と育ち中(Bの集まり)がはっきり見えます。

一段上の仕事を設計するときのコツは何ですか?

難易度のつまみ(範囲・裁量・関わる相手・責任の重さ)を1〜2個だけ上げ、残りは据え置くことです。つまみを一度に増やすと丸投げになるため、絞ることが一段上と丸投げを分ける線になります。

任せたあとに何をすればよいですか?

「任せる→ふりかえる→次の一段」を1サイクルとして回します。ふりかえりでは一方的に反省点を伝えるのではなく「どうだった?」「次はどうする?」と問いかけ、メンバー自身に言葉にさせることが大切です。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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