リスク管理の基本 | マナビズ

リスク管理の基本

リスク管理の基本

「展示会、リスクは洗い出した?」「これ、もし間に合わなかったらどうするの?」——先日、初めて業界展示会のブース出展リーダーを任されたあなたは、上司にそう聞かれて、「たぶん大丈夫だと思います」としか答えられませんでした。やること(タスク)の段取りはメモしたけれど、「もし◯◯が起きたら」という先回りは、考えたことがなかったのです。そして迎えた当日。目玉の新製品デモ機が届かず、配布パンフには誤記が見つかり、説明員も1人が急病で欠席——と、起きてから次々に火消しに追われて、一日中バタバタ。こんな経験、ありませんか。

実は、あなたが慌て者なわけではありません。多くの人はリスク管理を「何か問題が起きたときに対処すること」だと思っています。でも、それは火が出てから消す「火消し」。本当のリスク管理は、火が出る前に手を打つ「火の用心」です。起きてから動くのと、起きる前に備えるのとでは、慌て方も結果もまるで違います。違いはたったひとつ。起こりうることを、起きる前に書き出して、発生確率×影響度で評価し、優先度の高いものから備えてあるかだけです。

この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. リスク管理を「問題が起きてから火消しすること」ではなく、起こりうる出来事を起きる前に書き出し→発生確率×影響度で評価し→対応策を決めておく備えとして、課題(すでに起きている問題)との違いを含めて、自分の言葉で説明できる
  2. あるプロジェクトについて、起こりうるリスクを5〜10個書き出し(特定)、それぞれを「発生確率(高・中・低)×影響度(大・中・小)」のリスクマトリクスに置いて評価し、優先度(赤・黄・緑)の高いものから順に並べられる
  3. 優先度の高いリスクに対して、回避・低減・移転・受容の4つの対応策から適切なものを選び、「誰が・いつまでに・何をするか」まで含めて対応策を決められる(「がんばる」で済ませない)

この講座は最後まで、「初めてリーダーを任された、3か月後の業界展示会への自社ブース出展プロジェクト」という、たった1つの場面だけで進めます。この同じプロジェクトを、頭の中の“なんとなく不安”から出発して、リスクを書き出す→確率×影響で評価する→対応策を決める、と1段ずつ組み上げ、最後には「優先度の高いものから手が打てる1枚のリスク管理表」に仕上げます。各章末には手を動かす演習も置いているので、書きながら読み進めてみてください。そして、その一覧表をそのまま使えるよう、リスク管理表テンプレート(リスク/発生確率/影響度/優先度/対応策/担当・期限の列を持つ一覧表)も用意しました。まずは下からダウンロードして、自分の仕事で1枚埋めながら読むのがおすすめです。覚えて帰ってほしい合言葉は、ひとつだけ——「リスク管理は“火消し”ではなく“火の用心”」です。

この講座のポイント

  • リスク管理を「問題が起きてから火消しすること」ではなく、起こりうる出来事を起きる前に書き出し→評価し→対応を決めておく備えとして、課題(すでに起きている問題)との違いを含めて、自分の言葉で説明できる
  • あるプロジェクトについて、起こりうるリスクを5〜10個、具体的な「もし◯◯が起きたら、◯◯になる」の形で書き出せる
  • 洗い出したリスクを「発生確率(高・中・低)×影響度(大・中・小)」のマトリクスに置いて評価し、優先度(赤・黄・緑)の高いものから並べられる
  • 優先度の高いリスクに対して、回避・低減・移転・受容の4つの対応策から適切なものを選び、「誰が・いつまでに・何をするか」まで含めて決められる

リスク管理とは何か(火消しでなく、起きる前の備え)

まずは、「たぶん大丈夫」で進めて当日に慌ててしまう、そのモヤモヤの正体をはっきりさせましょう。リスク管理という言葉を、「問題が起きたときの対処」というイメージから、「起きる前に使える備えの手順」に変える土台の章です。

この章のゴール

この章を読み終えると、リスク管理を「問題が起きてから火消しすること」ではなく、起こりうる出来事を起きる前に書き出し→評価し→対応を決めておく備えとして、課題(すでに起きている問題)との違いを含めて、自分の言葉で説明できるようになります。

“火消し”に追われる正体

当日になって慌てたのは、あなたの段取りが下手だからではありません。やること(タスク)はメモしていたのに、「もし◯◯が起きたら」を起きる前に書き出していなかった——これが正体です。

リスク管理を「何か問題が起きたときに対処すること」だと捉えていると、行動はいつも「起きてから」になります。デモ機が届かないと分かってから代わりを探し、誤記が見つかってから刷り直す。これが「火消し」です。火事になってから消すので、いつも後手に回り、ばたばたします。

ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。リスク管理は“火消し”ではなく“火の用心”。起きてから動くのではなく、起きる前に、確率×影響で優先順位をつけて備える。この一言さえ持てば、「たぶん大丈夫」という口グセが、「このリスクは確率中・影響大だから、こう備えます」に変わっていきます。

リスク管理=目的を脅かす“もし”を、起きる前に洗い出し・評価し・手を打つこと

そもそも「リスク」とは何でしょうか。リスクマネジメントの国際規格である ISO 31000(日本では JIS Q 31000)は、リスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。むずかしい言い方ですが、かみくだくと、これから起こるかもしれない、目的(=あなたがやり遂げたいこと)を脅かす不確実な出来事、ということです。展示会で言えば、「目玉のデモ機が間に合わないかもしれない」「人が足りないかもしれない」——この“かもしれない”が、リスクです。

そしてリスク管理(リスクマネジメント)とは、その“かもしれない”を、起きる前に①洗い出し(書き出す)→②評価し(どれくらい起こりやすく、起きたらどれくらい困るかを見る)→③手を打っておく(対応策を決める)こと。この3ステップを、火が出る前に回しておくのがリスク管理です。

ひとつだけ、ことわっておきます。厳密には、リスクには「思いがけずうまくいく」という良い方向の不確実性(好機)も含まれます。ただ、初めてリーダーを任されたあなたがまず身につけたいのは、目的を脅かす「マイナスのリスク」への備えです。この講座は、そのマイナスのリスクに絞って進めます。

いちばん大事な区別:リスク(まだ起きていない“もし”)と課題(すでに起きた問題)

リスク管理を始める前に、絶対に押さえてほしい区別があります。それは、リスクと課題(問題)の違いです。

リスク課題(問題・イシュー)
状態まだ起きていないすでに起きている
言い方「もし◯◯が起きたら…」「◯◯が起きてしまった」
例(展示会)「もしデモ機が間に合わなかったら」「デモ機が壊れて動かない(今)」
対応の姿勢起きる前に備える(予防)すぐ解決する(火消し)
書き出す先リスク一覧(リスク登録簿)課題一覧(課題台帳)

「もし◯◯が起きたら…」がリスク、「◯◯が起きてしまった」が課題です。リスク管理は、課題になってしまう前の、まだ“もし”の段階で手を打つ営みです。だからこそ「火消し(課題対応)」ではなく「火の用心(リスク管理)」なのです。

ここで、よくある思い込みも先回りでほどいておきます。「先のことなんて分からないんだから、考えても無駄」。そう感じる気持ちは分かります。でも、分からないからこそ、“もし”を先に出して備えるのです。先回りは、心配性ではなく段取り力。リスクを直視して紙に書き出すほど、かえって安心して進められます。

この章の確認(演習)

共通例「展示会ブース出展」について、「もし◯◯が起きたら困る」という“もし”を、対策はまだ書かずに3つだけ書き出してみましょう。書けたら、その3つそれぞれが「リスク(まだ起きていない“もし”)」なのか「課題(すでに起きている問題)」なのかを見分けて、印をつけてみてください。“もし”を1回紙に出して、リスクと課題を見分けられたら、この章はゴールです。

リスクを洗い出す(特定)=“もし”を5〜10個、紙に出す

リスク管理の3ステップ、その1つ目「洗い出し(特定)」に入ります。頭の中の“なんとなく不安”を、評価できる「具体的なリスクの一覧」に変える章です。

この章のゴール

この章を読み終えると、あるプロジェクトについて、起こりうるリスクを5〜10個、具体的な「もし◯◯が起きたら、◯◯になる」の形で書き出せるようになります。

頭の中の“なんとなく不安”を、紙に出す

リスク管理の最初のステップは、リスクの洗い出し(特定)です。ここで多くの人がつまずくのは、「危なそうなことは何となく頭にあるけれど、紙に出していない」状態。

頭の中にあるだけのリスクは、3つの理由で役に立ちません。忘れます。人と共有できません。そして、評価できません(次章の確率×影響の評価は、書き出していないと始められません)。だから、まずやることはシンプルです。“もし”を、紙(一覧表)に書き出す。頭の中から外に出す。これだけで、不安は「対処できる対象」に変わります。

抜けを防ぐ2つのコツ:段取りに沿って問う/5つの切り口

とはいえ、「リスクを挙げて」と言われても、思いつきだと偏ります。抜けを防ぐコツが2つあります。

ひとつ目は、プロジェクトの段取り(タスク)を上から順に見て、「この作業がうまくいかなかったら?」と1つずつ問うこと。出展なら、「会場予約」「ブース設営」「デモ機準備」「集客」「当日運営」と並べて、各作業の“こけたら”を拾います。

ふたつ目は、人・モノ・時間・お金・外部の5つの切り口で抜けを探すこと。これは、リスクが隠れがちな場所のチェックリストです。

切り口問いかけ展示会での例
必要な人が足りなくなる?説明員が急病で欠ける
モノ必要な物が揃わない?デモ機・備品が届かない
時間間に合わない?パンフの印刷が締切に遅れる
お金予算を超える?想定外の出費が出る
外部自分の外で起きる?当日が悪天候・取引先都合

この2つを使えば、「思いつき任せ」の偏りが減り、抜けが見つかります。なお、この5つの切り口は抜けを防ぐための一例です。プロジェクトに合わせて、足したり言い換えたりして構いません。

書き方は「もし◯◯が起きたら、◯◯になる」/数の目安は5〜10個

書くときの形も大事です。「デモ機が心配」とだけ書いても、次章で評価できません。原因→結果がつながる「もし◯◯が起きたら、◯◯になる」の形で書きます。たとえば、「もしデモ機が当日までに間に合わなかったら、目玉の実演ができず、来場者を呼び込めなくなる」。こう書くと、起こりやすさ(確率)も、起きたときの困り具合(影響)も、見積もれるようになります。

数の目安は、身近なプロジェクトならまず5〜10個。多すぎると評価しきれず、少なすぎると抜けます。これは厳密なルールではなく、手を動かす目安です。この章では対策はまだ書きません。リスクを出しきることだけに集中しましょう。

実際に、共通例「展示会ブース出展」で洗い出すと、こうなりました。

No.リスク(もし◯◯が起きたら、◯◯になる)切り口
1デモ機が当日までに間に合わず、目玉の実演ができないモノ
2来場者がブースに立ち寄らず、商談につながらない外部
3説明員が当日急病で、対応が手薄になる
4パンフの印刷が遅れる・誤記があり、配れない時間
5モニターや電源など備品の搬入トラブルで、展示できないモノ
6当日が悪天候で、来場者が減る外部
7想定外の出費で、予算をオーバーするお金

頭の中では「なんとなく不安」だったものが、紙に出すと「7つの具体的なリスク」に変わりました。とくに、No.1「デモ機が間に合わない」は、この先の章でずっと追いかける目玉のリスクです。

この章の確認(演習)

共通例「展示会ブース出展」で、人・モノ・時間・お金・外部の5つの切り口を使って、リスクを「もし◯◯が起きたら、◯◯になる」の形で5つ以上書き出してみましょう(本文で挙げた7つ以外も歓迎です)。対策はまだ書きません。“なんとなく不安”が、原因→結果の形のリスク5つに変わったら、ゴールです。

発生確率×影響度で評価する(リスクマトリクス・優先順位)

3ステップの2つ目「評価」です。書き出した7つのリスクを、「まずどれから手を打つか」が一目で分かる形に並べ替えます。

この章のゴール

この章を読み終えると、洗い出したリスクを「発生確率(高・中・低)×影響度(大・中・小)」のマトリクスに置いて評価し、優先度(赤・黄・緑)の高いものから並べられるようになります。

全部に同じ力で備えない:評価して優先順位をつける

リスクを書き出すと、今度は逆の不安が出てきます。「7つもある。全部に備えるなんて無理だ」。

ここが大事なところです。リスクは、全部に同じ力で備えるものではありません。全部を等しくつぶそうとすると、手間もお金も足りず、どれも中途半端になります。やるべきは、評価して優先順位をつけ、優先度の高いものから手を打つこと。「リスクは全部つぶさなきゃ」という思い込みを、ここで手放しましょう。

2つのものさし:発生確率 × 影響度

では、何で優先順位をつけるのか。ものさしは2つです。

  • 発生確率:どれくらい起こりやすいか
  • 影響度:起きたら、どれくらい困るか

大事なのは、必ず2軸で見ること。影響度だけで決めると、めったに起きないことに過剰に身構えます。確率だけで決めると、起こりやすいけれど大したことのないものに振り回されます。たとえば「会場が地震で倒壊する」は影響は壊滅的ですが、確率は極めて低い。逆に「来場者アンケートの回収率が少し低い」は起こりやすいけれど、影響は小さい。両方を掛け合わせて初めて、優先順位が見えます。

見積もりは、細かい数字は要りません。発生確率は高・中・低、影響度は大・中・小の3段階で十分です。むしろ、正確なパーセントを出そうとすると手が止まります。まずは「えいや」で置くことが大事。これはリスクを定性的に評価するやり方で、数字での精密な計算は、もっと専門的な分析の領域です。

リスクマトリクスに置いて赤・黄・緑に色分けする

この2軸でリスクを置く表を、リスクマトリクス(確率影響マトリクス)と呼びます。確率(高・中・低)を縦、影響(大・中・小)を横にとった3×3のマスに、各リスクを置いていきます。そして、確率も影響も高い右上=赤(最優先)/どちらかが高い真ん中=黄(要注意)/どちらも低い左下=緑(様子見)と色分けします。

共通例「展示会ブース出展」の7つを置いてみると、こうなりました。

影響→ / 確率↓影響:小影響:中影響:大
確率:高
確率:中6 悪天候(緑)4 パンフ誤記・7 予算オーバー(黄)1 デモ機・2 来場者(赤)
確率:低3 説明員急病・5 備品搬入(黄)

色(優先度)の順に並べ替えると、まず手を打つべきは赤の No.1(デモ機が間に合わない)と No.2(来場者が立ち寄らない)だと、一目で分かります。「あれもこれも危ない」と広がっていた不安が、色分けすると「まずこの2つ」に絞られました。とくに目玉リスク No.1 は「確率中・影響大=赤」と確定。次章で、このリスクの対応策を決めます。

手順をまとめます。①各リスクの発生確率を高・中・低で見積もる ②影響度を大・中・小で見積もる ③3×3のマトリクスに置いて赤・黄・緑に色分けする ④赤→黄→緑の順に並べる。これだけです。

この章の確認(演習)

第2章で書き出したリスクそれぞれに、発生確率(高・中・低)と影響度(大・中・小)をつけ、3×3マトリクスに置いて赤・黄・緑に色分けしてみましょう。そのうえで、「まず手を打つべき赤のリスク」を1〜2個に絞って書き出してください。“あれもこれも”が、色分けで“まずこの1〜2個”に絞られたら、ゴールです。

対応策を決める(回避・低減・移転・受容の4つ)

3ステップの最後、「対応」です。優先度がついた赤のリスクに、具体的な手を打ちます。ここで使うのが、4つの引き出しです。

この章のゴール

この章を読み終えると、優先度の高いリスクに対して、回避・低減・移転・受容の4つの対応策から適切なものを選び、「誰が・いつまでに・何をするか」まで含めて決められるようになります。

“がんばる”で済ませない:対応策は4つの引き出しから選ぶ

赤のリスクが見えたら、最後は対応策を決めます。ここでやりがちなのが、「がんばって間に合わせます」「気をつけます」で終わらせること。これは対応策ではなく、ただの決意表明です。

対応策は、根性ではなく4つの引き出しから選びます。プロジェクトマネジメントの知識体系である PMBOK では、脅威(マイナスのリスク)への代表的な対応策として、回避・低減・移転・受容の4つが整理されています。まずはこの4つを覚えて、リスクごとに「どれで対応するか」を選べるようになりましょう。

4つの対応策:回避・低減・移転・受容

4つの引き出しを、ひとつずつ見ていきます。

対応策意味ひとことで
回避(やめる)リスクの原因になっている活動そのものをやめる・別のやり方に変えるリスクを消す(ただしメリットも消える)
低減(下げる)発生確率を下げる手、または起きても被害を小さくする備えを打つ起こりにくく・被害を小さく
移転(移す)お金や契約で、リスクの影響を第三者に移す(保険・外注・契約条項)他者に肩代わりしてもらう
受容(受け入れる)確率も影響も小さい、または自分で動かせないものは、対策せず受け入れる受け入れて「起きたらこうする」と決める

ここで2つ、注意があります。

ひとつは、回避は万能ではないということ。活動そのものをやめればリスクは消えますが、その活動で得られるはずだったメリットも一緒に消えます。デモ機の実演をやめれば「間に合わない」リスクは消えますが、「目新しさで来場者を惹きつける」という強みも失います。

もうひとつは、受容は「放置」ではないということ。受容とは、対策にコストをかけない代わりに、「もし起きたら、こう動く」と前もって決めておくことです。たとえば「雨が降ったら、屋外での配布はやめて、ブース内での声かけに切り替える」。何もしないのではなく、起きたときの動きを決めておく——これも立派な対応です。なお、ほかにエスカレーション(上位者に判断を上げる)などの対応もありますが、本講座はまず使える代表的な4つに絞ります。

選び方:赤から順に、確率が高ければ確率を、影響が大きければ影響を下げる

4つの引き出しを、どう選ぶか。基本は、赤(優先度高)のリスクから順に着手し、そのリスクに4つを当ててみることです。「原因をなくせる?(回避)」「確率や影響を下げられる?(低減)」「お金や契約で移せる?(移転)」「小さいから受け入れる?(受容)」と問いながら選びます。

共通例の目玉リスク No.1「デモ機が当日までに間に合わない(確率中×影響大=赤)」に、4つを当ててみましょう。

対応策このリスクに当てると採否
回避デモ機の実演をやめ、完成済み製品+紹介動画に切り替える(間に合わないリスクは消えるが、目新しさも失う)
低減開発に前倒しを依頼して確率を下げ、間に合わなかった時用に紹介動画を予備で用意して影響も下げる
移転デモ機の製作を、納期保証つきで外部業者に委託する(納期遅延の責任を業者に移す)
受容影響が大きすぎて、受け入れるには重い×

検討の結果、ここでは低減を選びます。そして、選んだら必ず「誰が・いつまでに・何をするか」まで具体化します。たとえば、「開発リーダーに前倒しを6/20まで依頼する(担当:自分/期限:今週中に依頼)。あわせて、間に合わなかった時用の紹介動画を、自分が今週中に用意する」。ここまで書いて、はじめて対応策です。

一方、緑のリスク No.6「悪天候(確率中×影響小)」は、コストをかけて備えるほどではありません。受容にして、「雨なら屋外配布をやめてブース内の声かけに切り替える、とだけ決めておく」。同じプロジェクトでも、リスクの色(優先度)と性質によって、選ぶ対応策は変わるのです。緑のリスクは受容でよい、と割り切ることで、赤に力を集中できます。

この章の確認(演習)

第3章で「赤」に絞ったリスク1つを選び、回避・低減・移転・受容の4つを当てはめて、どれを選ぶか・なぜかを書いてみましょう。選んだ対応策は、「誰が・いつまでに・何をするか」まで1〜2行で具体化してください。4つの引き出しから選んで、具体策まで書けたら、それはもう“使えるリスク対応”です。

まとめ:リスク管理は“火消し”ではなく“火の用心”

おつかれさまでした。最後に、4章で歩いた道を1本の線でつなぎ直します。

リスク管理は、「問題が起きてから火消しすること」ではありませんでした。①リスクを起きる前に書き出す(特定)→②発生確率×影響度で評価して優先順位をつける(評価)→③優先度の高いものから対応策(回避・低減・移転・受容)を決める(対応)——この3ステップで“火の用心”をすることでした。

ステップやること合言葉
① 洗い出す“もし◯◯が起きたら、◯◯になる”を5〜10個、紙に出す頭の中から外に出す
② 評価する発生確率(高・中・低)×影響度(大・中・小)のマトリクスで赤・黄・緑全部に同じ力でなく、赤から
③ 対応を決める回避・低減・移転・受容の4つから選び、誰が・いつまでに・何をするかまで“がんばる”で済ませない

共通例「展示会ブース出展」では、頭の中の“なんとなく不安”が、紙に出すと7つのリスクになり、確率×影響の色分けで赤2つに絞られ、目玉リスク「デモ機が間に合わない」が「低減(前倒し依頼+予備の動画)」という具体策まで仕上がりました。すべての判断は、「起きてから動いていないか(起きる前に備えているか)」「全部に同じ力でなく、確率×影響で優先しているか」に戻ります。覚えて帰ってほしいのは、この一言です——リスク管理は“火消し”ではなく“火の用心”。起きてから動くのでなく、起きる前に、確率×影響で優先順位をつけて備える

明日の最初の一歩です。自分が今関わっている仕事・プロジェクトを1つ選び、①“もし◯◯が起きたら”を5つ書き出す ②それぞれに確率(高・中・低)と影響(大・中・小)をつけて赤・黄・緑に色分けする ③赤の1つに、回避・低減・移転・受容のどれで対応するかと、誰が・いつまでに・何をするかを書く。ここまでを15分でやってみてください。きれいでなくて構いません。「たぶん大丈夫」を1回、紙の上の備えに変えられたら、それが第一歩です。

この「洗い出し→評価→対応」を1枚で回せるよう、リスク管理表テンプレート(リスク/発生確率/影響度/優先度/対応策/担当・期限の一覧)をダウンロードして、自分の担当業務で1枚埋めてみましょう。そして、このリスク管理を組み込んだプロジェクト計画づくりの全体像——目的・体制・スケジュールを1枚にまとめる進め方——は、「プロジェクト管理入門」で扱います。情報セキュリティや事業継続(BCP)など、分野ごとの専門的なリスクへの備えも、その先に続いています。まずはこの1枚で、「火の用心」を始めましょう。

よくある質問

リスク管理とは何ですか?

リスク管理とは、目的を脅かすかもしれない出来事を起きる前に書き出し、発生確率と影響度で評価し、優先度の高いものから対応策を決めておく備えのことです。問題が起きてから火消しするのではなく、起きる前に手を打つ「火の用心」です。

リスクと課題(問題)の違いは何ですか?

リスクは「もし◯◯が起きたら」とまだ起きていない出来事を指し、課題(問題)は「◯◯が起きてしまった」とすでに起きている状態を指します。リスク管理は、課題になる前の「もし」の段階で備えることが目的です。

発生確率と影響度はどのように評価すればよいですか?

細かい数字は必要ありません。発生確率は高・中・低、影響度は大・中・小の3段階で見積もれば十分です。この2軸を組み合わせたリスクマトリクスに置き、確率も影響も高いものを赤(最優先)、どちらかが高いものを黄、どちらも低いものを緑と色分けして優先順位をつけます。

対応策はどのように選べばよいですか?

回避・低減・移転・受容の4つの引き出しから選びます。赤のリスクから順に着手し、「原因をなくせるか(回避)」「確率や影響を下げられるか(低減)」「保険や契約で移せるか(移転)」「小さいから受け入れるか(受容)」と問いながら選びます。選んだ後は「誰が・いつまでに・何をするか」まで具体化することが重要です。

リスクを全部なくすことは必要ですか?

全部に同じ力で備える必要はありません。リスクを確率×影響で評価して優先順位をつけ、優先度の高いものから手を打つことが大切です。影響が小さく確率も低い緑のリスクは受容(起きたときの動きだけ決めておく)で十分で、その分の力を赤のリスク対応に集中できます。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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