MASTER / ACCOUNTING & FINANCE
黒字なのに、なぜ資金が足りなくなる?
一つの取引をPL・BS・CFの三つの視点で追い、利益と現金のずれをつかむ
4月の利益
+40万円
4月の現金増減
−60万円
約35分基礎〜発展演習 5問講義をはじめる
※ アオバ商事は説明のための架空の会社です。税金・金利・給与・家賃・設備などを省いた単純化した例で、正規の財務諸表作成を指導するものではありません。数字はすべて万円です。
この講義でできるようになること
- 売上・利益・入金の違いを説明できる
- 単純な取引をPL・BS・CFに反映し、営業キャッシュフローを直接法と間接法で照合できる
- 利益が出ていても資金繰りで確認すべきこと(入金日・支払日・手元の現金)を挙げられる
MB04-02 アカウンティング・ファイナンス
黒字なのに、なぜ資金が足りなくなる?
今月の利益
+40万円
現金の増減
−60万円
利益があるのに、現金が減る?
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黒字なのに、なぜ資金が足りなくなる?
ある会社は、今月40万円の利益を出しました。売上も立ち、商売はうまくいったように見えます。ところが、同じ月に、会社が持つ現金は60万円減りました。利益があるのに、お金が減る。これは数字の間違いなのでしょうか。それとも、利益という言葉の捉え方が違うのでしょうか。今日のテーマは、「黒字なのに、なぜ資金が足りなくなる?」です。会社の数字を読むために欠かせない、損益と現金の違いを、一つの取引から考えます。
できるようになること
このレッスンでは、四つのことをできるようにします。第一に、売上と入金が違う理由を説明すること。第二に、一つの取引がPL、BS、CFのどこに現れるかを追えること。第三に、利益と営業キャッシュフローの違いを、自分で計算できること。第四に、利益があっても資金繰りに注意すべき条件を考えることです。難しい仕訳を暗記するより、同じ取引を三つの視点から見ることに集中しましょう。
架空の会社「アオバ商事」
今日扱うのは、架空の会社「アオバ商事」です。4月のはじめに、株主から100万円の出資を受け、現金が100万円あります。借入金や買掛金はありません。税金、給与、家賃、設備投資も、今回は計算をシンプルにするため省きます。実際の会社はもっと複雑ですが、ここでは「利益」と「現金」の違いだけを正確につかむために条件を絞ります。数字はすべて万円で表示します。
4月の取引を時系列で
4月、アオバ商事は商品を60万円で仕入れ、仕入先に現金で支払いました。次に、その商品をすべて顧客に100万円で販売し、引き渡しました。ただし、顧客との約束は、代金を翌月の5月末に受け取るというものです。つまり、商品はもう顧客に渡っているのに、売上代金はまだ会社に入ってきません。この「販売する日」と「お金が入る日」のずれが、今日のポイントです。
4月の利益と、4月の入金は?
ここで少し考えてください。商品を100万円で販売し、売上に対応する商品の原価が60万円だったとします。4月の利益は何万円でしょうか。一方、4月に入ってきた売上代金はいくらでしょうか。この二つを同じ数字として考えていないでしょうか。答えは、利益が40万円、売上代金の入金は0円です。では、その違いはどの書類に表れるのでしょうか。
PL(損益計算書)とは何か
まずPL、損益計算書を見ます。PLは、ある期間に会社がどれだけ収益を得て、どれだけ費用を負担し、どれだけ利益を生んだかを示します。今回、売上は100万円、販売した商品の原価は60万円です。ほかの費用を省いているため、利益は40万円。顧客からまだ現金を受け取っていなくても、この条件では商品を引き渡した4月の売上として認識します。利益は入金額の別名ではありません。
仕入れた瞬間に全額費用?
もう一つ注意したい点があります。商品を仕入れて現金60万円を払った瞬間に、PLの費用が必ず60万円増えるわけではありません。商品を販売するために保有している間は、通常、在庫という資産として扱います。その商品を売ったときに、対応する売上原価がPLの費用になります。今回の商品はすべて4月に販売されたので、4月の売上原価が60万円になります。現金の支払い時点と、費用を認識する時点も、必ずしも同じではないのです。
利益は経営にとって何を教える?
では、利益は役に立たないのでしょうか。もちろん、そうではありません。利益は、事業がどれだけの経済的成果を生み出したかを考えるための重要な数字です。価格、原価、費用の関係を知ることができます。しかし、PLだけを見て、明日支払うお金があるかどうかは判断できません。利益を見る視点と、支払いに使える現金を見る視点は、補い合う関係なのです。
4月の利益と、顧客からの現金受取
ここまでを整理しましょう。4月のPLでは、売上100万円、原価60万円、利益40万円。一方、顧客からの現金受取は、まだ0円です。ひとつの取引を見ていても、何を測る数字なのかによって結果が変わります。この違いを頭に置いたまま、次はBSを見ます。
4月の利益と入金を計算しよう
ここで演習です。4月の利益と、顧客からの入金を計算してみましょう。数字を入力して、回答してください。
BS(貸借対照表)とは何か
BS、貸借対照表は、ある時点で会社がどのような資産を持ち、その資産を負債や純資産でどう支えているかを示します。ここでは資産と、負債プラス純資産が必ず一致します。4月の初めは、現金100万円が唯一の資産でした。借金はなく、株主から出資された純資産が100万円です。これから同じBSを、商品の仕入れと販売によって順番に変化させます。
仕入れた直後のBS
商品を60万円で現金仕入れすると、現金は100万円から40万円に減ります。その代わり、在庫という資産が60万円増えます。現金40万円と在庫60万円。資産の合計は100万円のままです。この段階で、まだ商品を販売していません。今回の条件ではPLに利益も損失も発生していません。「現金を払ったこと」と「損失が出たこと」は違うとわかります。
掛売りした直後のBS
それでは、商品を100万円で掛売りし、引き渡した後はどうでしょう。商品は顧客に渡ったため、在庫は0になります。一方、顧客から代金100万円を受け取る権利が生まれます。これを売掛金といいます。現金は40万円のまま、売掛金が100万円。資産の合計は140万円です。利益40万円が生じたので、純資産も100万円から140万円になります。BSの左右は140万円で一致します。
売掛金は現金ではない
ここで非常に大切な違いがあります。売掛金は資産ですが、いま手元にある現金ではありません。会社は100万円を受け取る権利を持っていても、その100万円をいま銀行から引き出して支払うことはできません。顧客が約束どおりに支払ってくれるか、いつ入金されるかも、資金繰りに影響します。BSを見ると、利益がどこへ行ったのかが少し見えてきます。利益40万円は現金40万円として増えたのではなく、資産全体の増加として表れているのです。
4月末のBS
4月末をまとめます。現金40万円、売掛金100万円、在庫0円。資産140万円に対して、負債は0円、純資産は140万円です。利益は40万円出ているのに、現金は期首の100万円から40万円へ減っています。ここまでの情報は矛盾していません。次は、現金の動きそのものを追いかけます。
4月末のBSを完成させよう
ここで演習です。4月末の現金、売掛金、純資産を求めてみましょう。
CF(キャッシュフロー計算書)は何を示す?
CF、キャッシュフロー計算書では、一定期間の現金と現金同等物の動きを見ます。現金の動きを生む活動は、大きく営業活動、投資活動、財務活動に分けられます。アオバ商事の取引は商品の仕入れと販売だけなので、今回は営業活動によるキャッシュフローだけを考えれば足ります。4月に顧客から受け取った現金は0万円。仕入先へ支払った現金は60万円。したがって、営業キャッシュフローはマイナス60万円です。
期首残高と期末残高
期首の現金が100万円で、4月の現金増減がマイナス60万円なら、期末の現金は40万円です。ここで言えるのは、「現金が60万円減った」ということまでです。「資金がショートした」とはまだ言えません。現金は40万円残っているからです。資金繰りが苦しいかどうかを判断するには、次にいくら、いつ支払う必要があるのかを見る必要があります。
間接法の橋渡し
営業キャッシュフローは、利益から考える方法でも求められます。これを間接法といいます。今回は、4月の利益40万円から出発します。しかし、売上100万円の代金はまだ入金されていません。このため、売掛金が100万円増えた分を調整します。利益40万円から売掛金の増加100万円を差し引くと、営業キャッシュフローはマイナス60万円。直接法で計算した金額と一致しました。利益の中に、まだ現金になっていない部分があることを表しています。
なぜ売掛金の増加を差し引くのか
少し直感的に考えてみましょう。PLでは100万円を売上として数えました。しかし、現金では1円も受け取っていません。ですから利益を現金の動きに近づけるには、まだ回収されていない100万円を除く必要があります。その未回収の状態が、BSにある売掛金の増加です。実務の間接法では在庫、買掛金、減価償却なども調整しますが、今日の条件では売掛金の調整だけで一致します。
3つの数字を並べる
ここまでを一枚に並べます。PLは4月の利益40万円を示しています。BSは4月末の現金40万円と売掛金100万円を示しています。CFは4月中に現金が60万円減ったことを示しています。どれが正しいのか、と選ぶ必要はありません。三つとも正しいのです。同じ会社の、違う側面を見ています。では、代金が翌月に入金されたら、数字はどう変わるのでしょうか。
直接法と間接法で営業CFを照合しよう
ここで演習です。4月の営業キャッシュフローを、直接法と間接法の二つの方法で求めてみましょう。
5月の入金
5月末、顧客から約束どおり100万円が振り込まれました。会社の現金は40万円から140万円に増えます。一方、売掛金は100万円から0円になります。受け取る権利が、実際の現金に変わりました。ここで新たに100万円の売上が生まれたわけではありません。売上はすでに4月に認識しているからです。5月は、4月の売上代金を回収した月なのです。
5月のPL・BS・CF
この2か月目の数字を確認しましょう。5月には新しい売上も費用もないので、5月のPLは利益0円です。BSでは現金が140万円、売掛金が0円。資産合計は140万円で、純資産も140万円のままです。そして5月の営業キャッシュフローは、代金回収によるプラス100万円。間接法で見ても、利益0円に売掛金の減少100万円を加えれば、同じプラス100万円になります。
2か月合計では一致
4月と5月を合計すると、利益は40万円、営業キャッシュフローもプラス40万円です。現金は当初の100万円から140万円になりました。今回のように、代金がすべて回収され、ほかの費用や支払いを省いた場合には、期間を十分に長く見ると利益と現金の増加が一致します。しかし、毎月の途中経過では、大きくずれることがあります。経営の現場では、その途中に支払い期限が来ることが重要です。
5月の数字を求めよう
ここで演習です。5月の売上、利益、営業キャッシュフロー、5月末の現金を求めてみましょう。
では、いつ資金不足になる?
別の条件を加えて考えます。4月末の現金は40万円です。5月31日には100万円の入金予定があります。でも、5月10日に家賃や給与などで50万円の支払いが必要だとしたら、どうでしょう。その時点では現金が10万円足りません。これが資金繰り上の不足です。会社は利益が出ていても、支払期日と入金期日が合わなければ困ります。なお、この50万円はここまでのPL・BS・CF計算には含まれていない、資金不足を説明するためだけの追加条件です。
売上を増やせば解決する?
では、資金繰りが苦しい会社は、もっと売上を増やせばよいのでしょうか。場合によっては、逆に資金が必要になることがあります。商品を増やして仕入れるには、先に現金が必要かもしれません。売上が増えても、代金の回収が遅ければ、売掛金だけが増えるかもしれません。成長している会社でも、現金が必要になる理由がここにあります。売上、利益、運転資金、現金の動きを、つなげて考える必要があります。
3つの実務確認
会社のお金を見るときには、少なくとも三つの質問をしてみてください。一つ目は、売上代金がいつ入金されるか。二つ目は、仕入れ、給与、家賃、税金、借入返済などをいつ支払うか。三つ目は、その支払日までに使える現金がいくらあるかです。現金の入出金を時間軸で並べるのが資金繰り表の考え方です。利益だけでは見えないリスクを、期日という情報で補います。
5月10日までに、何を確認する?
ここで演習です。さきほどの別シナリオで、5月10日までに確認すべきことを書き出してみましょう。正解は一つではありません。期日、不足額、対応手段、その実現性の観点で考えてみてください。
誤解しやすい3点
最後に、今日の誤解しやすい点を整理します。「黒字なら会社のお金は十分ある」。これは誤りです。利益と入金の時期は違います。「現金が減ったら赤字だ」。これも必ずしも正しくありません。在庫を仕入れたり、設備に投資したりして現金が減ることもあります。「売掛金があれば、すぐ支払いに使える」。これも違います。回収するまでは現金ではありません。ただし、現金が減ること自体が常に悪いわけではなく、その理由と今後の支払能力を見ることが重要です。
利益 ≠ 現金。資金繰りは金額 × 期日
今日は、一つの商売をPL、BS、CFという三つの視点で追いかけました。4月の利益は40万円。4月の営業キャッシュフローはマイナス60万円。翌月に100万円を回収すると、現金が増えます。利益と現金のずれを理解するには、売上と入金、費用と支払いの時期を分けて考えることが出発点です。財務三表は別々の暗記科目ではありません。同じ会社の活動を、異なる角度から表す道具です。次のレッスンでは、この理解を使って、利益率や安全性の指標から企業を比べていきます。
