コーチング入門 | マナビズ

コーチング入門

コーチング入門

「この案件、どう進めればいいですか」——若手の鈴木さんにそう相談されたあなたは、話を最後まで聞かないうちに「ああ、それはこうやるんだよ」と、自分のやり方を答えていました。教えれば、その場は片付きます。でも次の週、似た場面でまた鈴木さんがやってきて、また「どうすればいいですか」と聞く。気づけば、チームの相談はぜんぶあなたに集中し、「自分でやった方が早い」と仕事を抱え込んで、あなたばかりが忙しい——プレイヤーとして成果を出してきたあなたほど、こうなりがちではないでしょうか。

でも、ひとつ考えてみてください。鈴木さんが自分で動き出さないのは、本当に能力ややる気の問題でしょうか。もしかすると、原因はもっと単純で——あなたが「答えを渡しすぎている」だけかもしれません。考える前に正解をもらえる環境では、人は考えなくなります。指示待ちは、部下の性格ではなく、関わり方が作っているのです。

ここで登場するのが、コーチングです。コーチングというと「傾聴」「質問」といった言葉のイメージが先に立ちますが、その本質は、答えを上手に教える技術ではありません。むしろ逆で、答えを“引き出す”関わり方です。国際コーチング連盟(ICF)は、コーチングを「思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通じて、相手が自身の可能性を最大化できるよう、パートナーとして関わること」と定義しています。その根っこにあるのが、「答えは相手の中にある」という考え方。コーチの仕事は、正解を授けることではなく、相手が自分の中の答えに気づき、自分で決めた一歩を踏み出せるように、聴いて・問いかけて・認めることなのです。

この講座を読み終えたとき、あなたは次の3つができるようになります。

  1. コーチングを「答えを教えること」ではなく「答えを引き出すこと」と捉え、ティーチング(教える)との違いと使い分け(いつ教え、いつ引き出すか)を、自分の言葉で説明できる
  2. 部下の相談に、すぐ答えを言わずまず最後まで聴き(傾聴)、はい/いいえで終わるのではなくオープンな質問で、相手の考え・現状・選択肢を引き出せる
  3. GROWモデル(目標→現状→選択肢→意志)の流れで1回の1on1や相談対応を組み立て、相手自身の口から次の具体的な行動を引き出して会話を締められる(+承認で支える)

この講座は最後まで、「あなた(課長・田中さん)のところへ、入社3年目の鈴木さんが『担当しているA社の提案が行き詰まってしまって、どうすればいいですか』と相談に来る」という、たった1つの場面だけで進めます。同じ1つの相談を、即答をこらえる→最後まで聴く→オープンに問う→GROWで組み立てる、と1ステップずつ積み上げ、最後に鈴木さんが「明日、先方の課長にヒアリングのアポを取ります」と、あなたが答えを1つも渡していないのに、自分で決めた一歩を持って帰るところまでを、一緒に体験します。各章末には、自分の部下を思い浮かべて手を動かす演習も置いています。そして、ここで使うGROWの質問や、1on1でそのまま使えるオープンな質問は、テンプレートとしてダウンロードできるので、明日の面談の手元に置いてください。

この講座のポイント

  • コーチングを「答えを教えること」ではなく、答えを引き出すことと捉え、ティーチング(教える)との違いと使い分けを、自分の言葉で説明できる
  • 部下の相談に、すぐ答えを言わずまず最後まで聴き、相手が自分で考え始める“間”を作れる
  • はい/いいえで終わる質問ではなく、オープンな質問で、相手の考え・現状・選択肢を引き出せるようになります。しかも、“尋問”にせずに。
  • GROW(目標→現状→選択肢→意志)の流れで1回の対話を組み立て、相手の口から次の具体的な行動を引き出して締められる

コーチングとは何か(答えを「教える」から「引き出す」へ)

まずは、「教えた方が早い」と即答してしまうあなたの習慣が、なぜ部下を指示待ちにしてしまうのか、その正体をはっきりさせましょう。そのうえで、コーチングという関わり方を、ふわっとしたイメージから、自分で使い分けられる道具に変えます。

この章のゴール

この章を読み終えると、コーチングを「答えを教えること」ではなく、答えを引き出すことと捉え、ティーチング(教える)との違いと使い分けを、自分の言葉で説明できるようになります。

「教えた方が早い」が、指示待ちを作っている

あなたが部下の相談に即答するのは、横着しているからではありません。むしろ逆で、「早く解決してあげたい」「自分が教えれば確実だ」という、まじめさと責任感からです。実際、その場はそれで片付きます。

問題は、その先です。鈴木さんは、考える前に答えをもらえます。すると、次に似た場面に出くわしても、自分で考えるより先に「課長に聞こう」となる。あなたが答えを渡すたびに、鈴木さんが自分で考える機会は、1回ずつ奪われていきます。これが続くと、鈴木さんは「自分で考えて動く人」ではなく「指示を待つ人」になっていく。そして相談はすべてあなたに集まり、あなたは自分の仕事に加えてチーム全員の判断まで抱え込む——という悪循環です。

ここで、この講座を通して覚えておいてほしい背骨を、先にお渡しします。答えは、相手の中にある。だから、教えるより、引き出す。答えを渡すのではなく、問いを渡す。この一言を、これからの全部の章で、何度も思い出してもらいます。

コーチングは「答えを引き出す」関わり方

では、コーチングとは具体的に何をすることなのでしょうか。ひとことで言えば、相手に正解を教えて従わせることではなく、問いかけや対話を通じて、相手の中から考えや気づき、答えを引き出し、自分で決めた行動に向かわせる関わり方です。

冒頭で紹介した「答えは相手の中にある」を、もう一度かみくだきます。これは、「部下は何も分かっていないから、私が教えてあげなければ」という前提を、いったん手放すということです。鈴木さんは入社3年目。A社を担当しているのは、あなたではなく鈴木さんです。日々の細かいやりとりも、先方の空気も、いちばん肌で感じているのは鈴木さん本人です。つまり、A社の提案をどう動かすかの「答えの種」は、あなたの頭の中ではなく、鈴木さんの中にある可能性が高いのです。コーチングは、その種を、問いかけによって本人に掘り出してもらう関わり方だ、と考えてください。

ティーチングとの使い分け:いつ教え、いつ引き出すか

ここで大事な注意があります。「これからは何でもコーチングだ、もう教えてはいけない」と思い込まないでください。それは逆効果です。教える(ティーチング)と引き出す(コーチング)は、どちらが上ということではなく、場面で使い分けるものです。

ティーチングは、知識や正解を持っている側が、持っていない側に教えるやり方です。新人に業務の手順を教える、安全に関わるルールを伝える——こういう場面では、引き出している場合ではありません。さっと教えるのが、いちばん誠実です。一方コーチングは、相手の中に経験や答えの種があり、それを引き出して育てたい場面で効きます。下の表で、ざっくり見分けてください。

こんな場面は関わり方理由
緊急・今すぐ動く必要がある教える(ティーチング)考えてもらう時間がない
相手にまだ知識・経験がゼロ教える(ティーチング)引き出す中身がまだない
決まった正解が1つある教える(ティーチング)自己流より型を渡す方が早い
相手に経験・答えの種がある引き出す(コーチング)本人の中の答えを掘り出せる
自分で考える力・主体性を育てたい引き出す(コーチング)答えを渡すと考えなくなる
正解が1つでない・本人が決めること引き出す(コーチング)本人が決めるから動く

リーダーがやりがちなのは、この全部を「教える」で処理してしまうことです。緊急でもなく、鈴木さんに3年分の経験があり、A社の進め方に唯一の正解があるわけでもない——本来なら「引き出す」場面なのに、つい即答してしまう。ここを見分けられるようになるだけで、関わり方は大きく変わります。

共通例:鈴木さんの相談は、どっちの場面か

では、共通例で考えましょう。鈴木さんが「A社の提案が行き詰まっていて、どうすればいいですか」と相談に来ました。いつものあなたなら、最後まで聞かずに「じゃあ、いったん値引きを提案してみたら」と、自分の正解を即答していたところです。

でも、いったん立ち止まって、さっきの表に当てはめてみてください。これは、今すぐ動かないと火を噴く緊急事態でしょうか。違います。鈴木さんは、A社を3年近く担当してきて、考える種を持っているでしょうか。持っています。A社の提案に、世界でただ1つの正解があるでしょうか。ありません。——つまり、これは「引き出す」場面です。だから今回は、答えを渡すのをこらえる。これが、コーチングの最初の一歩です。

この章では、その入口に立つところまで。「即答をこらえて、引き出すと決める」だけで十分です。では具体的に、何をどうやって引き出すのか。次の章から、1ステップずつ見ていきます。

この章の確認(演習)

直近1週間で、部下から受けた相談を1つ思い出してください。そして、それが「教える場面」だったか「引き出す場面」だったかを、この章の表で判定してみます。緊急・知識ゼロ・正解が1つなら、教える場面。本人に経験があり、育てたくて、正解が1つでないなら、引き出す場面です。

もし、引き出す場面だったのに即答していたとしたら——その時に、答える代わりにかけられたはずの“引き出す問い”を、1つだけ書いてみてください。たとえば「鈴木さんは、どう進めるのがいいと思う?」のように。「答えを渡す」から「問いを渡す」への切り替えを、自分の実例で言葉にできたら、この章はゴールです。

引き出す土台は「聴く」(傾聴)

引き出すと決めました。では、いきなり質問を浴びせればいいのでしょうか。いいえ。その前に、どうしても必要な土台があります。それが「聴く」——傾聴です。

この章のゴール

この章を読み終えると、部下の相談に、すぐ答えを言わずまず最後まで聴き、相手が自分で考え始める“間”を作れるようになります。

引き出す第一歩は、質問より先に「聴く」

コーチングと聞くと、気の利いた質問を思い浮かべるかもしれません。たしかに質問は大事です。でも、質問は2番目。1番目は、相手に最後まで話してもらうことです。

なぜなら、相手がまだ十分に話せていないうちに質問を重ねると、それは「引き出す」ではなく「問い詰める」になってしまうからです。鈴木さんがやっと「A社の提案が行き詰まっていて……」と口を開いたところに、すかさず「で、原因は何なの?」「いつまでに出すの?」と質問を被せたら、鈴木さんは身構えて口を閉じます。まずは、土台として、相手の話をまるごと受け止める。これが傾聴です。

傾聴とは、評価・正解を挟まず、最後まで受け止めること

傾聴とは、ただ黙って聞くことではありません。相手が話し切るまで、自分の評価や正解を挟まず、言葉だけでなく、表情や声のトーン、沈黙の背景まで含めて受け止める聴き方のことです。

あなたが思わず即答してしまうのは、相手が話している途中で「ああ、それはこうだ」と自分の中に答えが浮かび、口を挟みたくなるからです。その気持ちは、よく分かります。でも、ここで思い出してください。人は、話しているうちに、自分の中で考えが整理されていくものです。鈴木さんも、声に出して状況を説明するうちに、「あれ、自分はここでつまずいているのかも」と、自分で気づいていきます。あなたが先に答えを言ってしまうと、その「自分で気づく」プロセスを、横から奪ってしまうのです。だからこそ——リーダーが口を閉じて、相手の口を開く。これが傾聴の合言葉です。

沈黙は、相手が考えている時間。さえぎらず待つ

傾聴でいちばん難しいのが、沈黙です。鈴木さんが「うーん……」と黙り込むと、気まずくて、つい「たとえばこういう手もあるよ」と助け舟を出したくなります。でも、その沈黙は、気まずさではありません。相手が考えている時間です。ここで口を挟むと、せっかく動き始めた思考を止めてしまいます。数秒の沈黙は、こわがらずに待ちましょう。

聴くときに意識することを、整理しておきます。

  • 相談されたら、まず「最後まで聴く」と心の中で決める
  • 相手が話し切るまで、自分の正解・評価を挟まない(さえぎらない)
  • うなずき、あいづち、「もう少し聞かせて」で、話しやすくする
  • 沈黙は、考えている時間。先に答えを言わず、待つ
  • ひと区切りついたら、相手の言葉を要約して返し、「ちゃんと受け取ったよ」を示す

なお、傾聴は「同意」とは違います。相手の話を最後まで受け止めることと、その意見に賛成することは、別です。「なるほど、そう感じているんだね」と受け止めても、後で「ただ、ここは違う見方もあると思う」と伝えてかまいません。まず受け止める。賛否はその後で十分です。

共通例:田中さんが即答をこらえて聴くと、鈴木さんが自分で気づく

共通例に戻りましょう。前の章で、あなたは「これは引き出す場面だ」と見極め、即答をこらえると決めました。鈴木さんが「A社の提案が行き詰まっていて……」と言いかけます。以前のあなたなら、ここで「じゃあ値引きを提案しろ」と即答していました。でも今回は、ぐっとこらえて、こう言います。「なるほど。もう少し、聞かせてくれる?」

鈴木さんは、ぽつぽつと話し始めます。「提案書は作ったんですけど、先方の反応がいまいちで……。何回か出し直してるんですけど、刺さってる感じがしなくて。……実は、」——ここで鈴木さんは少し黙り込みます。あなたは、待ちます。数秒後、鈴木さんが続けます。「実は、先方が本当のところ何に困っているのか、ちゃんと聞けていない気がするんです」。

どうでしょう。あなたは、答えを1つも言っていません。「もう少し聞かせて」と促し、沈黙を待っただけです。それなのに、鈴木さんは自分で問題の核心——「困りごとを聞けていない」——にたどり着きました。これが、聴くことの力です。あなたが口を閉じたぶん、鈴木さんの頭が動き出したのです。

この章の確認(演習)

次に部下の相談を受ける場面を想像してください。そして、自分がつい口を挟みたくなる瞬間——どんな相談の、どんな一言で、即答したくなるか——を、1つ書き出してみます。たとえば「『どうすればいいですか』と聞かれた瞬間」「相手の話に明らかな穴が見えた瞬間」など。

そのうえで、答えを言う代わりにかける“促しの一言”を、1つ準備しておきます。「もう少し聞かせて」「それで、どう感じたの?」など、短いもので十分です。「答えを言いたくなったら、この一言に置き換える」と決めて手元に持てたら、この章はゴールです。

引き出す質問(オープン・クエスチョンで考えを広げる)

聴くことで土台ができました。ここからが、いよいよ質問です。ただし、質問なら何でもいいわけではありません。「引き出す質問」と「問い詰める質問」は、まったく別物です。

この章のゴール

この章を読み終えると、はい/いいえで終わる質問ではなく、オープンな質問で、相手の考え・現状・選択肢を引き出せるようになります。しかも、“尋問”にせずに。

質問には2種類ある:クローズドとオープン

質問は、大きく2種類に分けられます。

種類どんな質問か
クローズド・クエスチョン「はい/いいえ」や一語で答えが終わる質問「ヒアリング、した?」
オープン・クエスチョン相手が自分の言葉で自由に答える質問「ヒアリングで、何が分かった?」

クローズド・クエスチョンは、事実をすばやく確認するのに便利です。でも、相手は「はい」「いいえ」「まだです」で会話を終えられてしまうので、考えは広がりません。一方、オープン・クエスチョンは、相手が自分の言葉で考えないと答えられません。だから、引き出すときの主役は、こちらです。会話が、相手の中身を伴って前に進んでいきます。

オープンに開くコツ:5W1Hと、「なぜ」より「どうすれば」

「オープンに聞こう」と言われても、最初はコツがいります。手がかりになるのが、5W1H——What(何)・When(いつ)・Where(どこ)・Who(誰)・Why(なぜ)・How(どうやって)です。これを頭の片隅に置いておくと、「はい/いいえ」で終わらない問いを作りやすくなります。「やった?」を「どこまで進んだ?」に、「分かった?」を「どう理解した?」に開くわけです。

ただし、5W1Hの中で1つだけ、扱いに注意がいるものがあります。それが「なぜ(Why)」です。「なぜできなかったの?」という問いは、本人には詰問に聞こえやすく、答えが「言い訳探し」に流れてしまいます。鈴木さんは「すみません、時間がなくて……」と、うつむいて終わってしまうでしょう。同じことを聞きたいなら、未来と行動に顔を向けた「どうすれば(How)」「何が(What)」に言い換えます。「なぜ進まなかった?」ではなく、「どうすれば進められそう?」。これだけで、相手は過去の弁明ではなく、前向きな打ち手を考え始めます。

質問は「尋問」ではなく、気づきを起こす投げかけ

ここで、質問の目的を、はっきりさせておきましょう。コーチングの質問は、こちらが情報を集めるためのもの(尋問)ではなく、相手に気づきを起こすための投げかけです。目的が違えば、聞き方も変わります。

やってしまいがちな失敗が、3つあります。1つ目は、質問のふりをした誘導です。「ふつう、先に値引きするより、ヒアリングが先だと思わない?」——これは質問の形をしていますが、中身は「ヒアリングしろ」という答えの押しつけです。2つ目は、さっきの「なぜ」の連発。3つ目は、質問を畳みかけることです。1つ聞いてすぐ次、また次、とたたみかけると、相手は答える間もなく追い詰められます。質問は1つ投げたら、口を閉じて、相手の答えを最後まで聴く——第2章に戻るのです。1問、そして傾聴。このリズムを守ってください。

共通例:田中さんの問いを、クローズドからオープンに変える

共通例で、あなたの問いを作り変えてみましょう。鈴木さんが「先方の困りごとを、ちゃんと聞けていない気がする」と気づいたところからの続きです。

つい出てしまう、よくない問いはこうです。「で、ヒアリングはしたの?」(クローズドで会話が止まる)、「なんで今まで聞けてなかったの?」(なぜの詰問で、鈴木さんは「すみません」と縮こまる)。これでは、せっかく動き始めた鈴木さんの思考が止まってしまいます。

代わりに、オープンで、未来・行動に開いた問いに変えます。「A社の提案、どうなったら“成功”だと思う?」(理想を引き出す)。「いま、何が引っかかってる?」(現状を引き出す)。「先方の困りごとを確かめるとして、打ち手の候補は何が浮かぶ?」(選択肢を引き出す)。すると鈴木さんは、「成功は……先方の課長が、本当に困っていることに刺さる提案ができることです」「引っかかってるのは、要望を表面的にしか聞けてないことで」「だから、課長に直接ヒアリングするか、現場の担当の方に聞くか……」と、自分の言葉でどんどん答え始めます。あなたは、Whyで責めず、What/Howで広げているだけ。それなのに、答えは鈴木さんの中からあふれ出してきます。

この章の確認(演習)

共通例「鈴木さんのA社相談」で、あなたなら投げたい質問を、3つ書いてみてください。書けたら、その3つを点検します。まず、クローズド(はい/いいえで終わる)になっているものや、誘導(「○○した方がいいと思わない?」のような答えの押しつけ)になっているものを見つけ、オープンで、What/How・未来志向の問いに書き換えます。

最後に、3つそれぞれを、この問いで点検してください。「これは、鈴木さんを問い詰める尋問ではなく、鈴木さんの気づきを促す投げかけになっているか?」。自分の質問を、答えの押しつけから“引き出す問い”に変えられたら、ゴールです。

GROWモデルで対話を組み立て、行動を引き出す(+承認)

聴く、問う。この2つができれば、もう引き出せます。でも、思いつくままに聴いて問うていると、話があちこちに飛んで、「いい話はできたけど、で、結局どうするんだっけ?」と、行動につながらないまま終わりがちです。そこで、対話を1本の流れに組み立てる地図を使います。それが、GROWモデルです。

この章のゴール

この章を読み終えると、GROW(目標→現状→選択肢→意志)の流れで1回の対話を組み立て、相手の口から次の具体的な行動を引き出して締められるようになります。

聴く・問うを1本にする地図=GROWモデル

GROWモデルは、コーチングの第一人者ジョン・ウィットモアらが開発し、彼の著書(邦題『はじめのコーチング』、原題 Coaching for Performance、1992年)で紹介されて世界に広まった、定番のフレームワークです。もともとはスポーツのコーチングから生まれ、複数のコーチによって育てられてきました。難しいものではありません。対話を、次の4つの順番で進めるだけです。

段階英語引き出すこと代表的な問い
目標Goalどうなったら成功か「どうなったら成功だと思う?」
現状Realityいま何が起きているか「いま、どこまで分かってる?」
選択肢Options打ち手の候補は何か「どんな手が考えられる?」
意志Willで、まず何をやるか「まず、何から始める?」

頭文字をつなげてGROW(グロウ)。英語は覚えなくてかまいません。「目標→現状→選択肢→意志」の順だ、と掴んでおけば十分です。そして、それぞれの段は、第3章で練習したオープンな質問で進めます。GROWは、聴く・問うを、行き当たりばったりではなく、ゴールに向かう1本の道に並べてくれる地図なのです。

いちばんの肝は、最後のW(意志)

GROWで、絶対に外してはいけないのが、最後のW(意志)です。ここで、相手自身の口から「まず、明日これをやります」という具体的な一歩を言ってもらう——これがコーチングの仕上げです。

なぜ、ここが肝なのでしょうか。もし、選択肢が出そろったところで、あなたが「じゃあ、まず課長にヒアリングしてきて」と言ってしまったら、どうなるでしょう。それは、もう質問ではなく指示です。せっかくGROWで引き出してきたのに、最後の最後で、第1章の「即答」に逆戻りしてしまうのです。人は、他人から言われた行動より、自分で決めた行動の方が、はるかに動きます。だから、最後のひと押しは、ぐっとこらえて、こう問う。「その中で、まず明日できそうなのは、どれ?」。決めるのは、本人です。

承認で支える:できている点・決めた一歩を、具体的に認める

GROWで一歩が決まったら、最後にもうひとつ。承認です。承認とは、相手のできている点や、決めた一歩を、具体的に認めて言葉で伝えることです。これは、相手のやる気と、次も自分で考えようとする主体性を支えます。

ポイントは、「すごいね」「いいね」で終わらせないことです。それでは、何が良かったのかが伝わりません。何が良かったのかを、具体的に言う。「自分で“まず困りごとを確かめよう”と決めたところ、いい着眼だと思う」。こう言われた鈴木さんは、「自分の考えのどこが評価されたか」が分かり、次もそこを伸ばそうとします。承認は、お世辞ではなく、相手の行動を観察した結果を返すことなのです。

ここまでを、流れとして整理します。

  • G(目標):「どうなったら成功?」で、目指す姿を引き出す
  • R(現状):「いま、どこまで分かってる?」で、現在地を引き出す
  • O(選択肢):「どんな手が考えられる? 他には?」で、打ち手を広げる(この段では良し悪しを評価しない)
  • W(意志):「まず、何を、いつやる?」で、本人に一歩を決めてもらう
  • 承認:できている点・決めた一歩を、具体的に認めて締める

共通例:鈴木さんの相談を、GROWで1本に通す

いよいよ総仕上げです。共通例の相談を、GROWで最初から最後まで通してみましょう。

あなたは、まず目標(G)を引き出します。「A社の提案、どうなったら“成功”だと思う?」。鈴木さんは答えます。「先方の課長が、本当に困っていることに刺さる提案にしたいです」。次に、現状(R)。「いま、どこまで分かってる?」。鈴木さん、「正直、表面的な要望しか聞けていなくて、本音はつかめていません」。続いて、選択肢(O)。「その本音を確かめるとしたら、どんな手が考えられる?」。鈴木さん、「課長に直接ヒアリングのアポを取るか……あとは、現場の担当の方に聞いてみる手もあります」。あなたは「いいね、他には?」と少し広げ、評価はしません。そして、意志(W)。「その中で、まず明日できそうなのは、どれ?」。鈴木さんは、少し考えて、こう言います。「明日、先方の課長にヒアリングのアポを取ります」。

ここで、思い出してください。この対話の中で、あなたは答えを1つも渡していません。「値引きしろ」も「ヒアリングしろ」も言っていない。ただ、目標→現状→選択肢→意志の順に、オープンに問いかけただけです。それなのに、鈴木さんは、自分で見つけた一歩を持って帰っていきます。最後に、承認を添えます。「自分で“まず困りごとを確かめよう”って決めたの、いい着眼だね。やってみて、また聞かせて」。鈴木さんは、来たときより明らかに前を向いて、席に戻っていきました。

この章の確認(演習)

共通例でもよいですし、自分の部下を1人思い浮かべてもかまいません。その人との次の1on1で使う、GROWの質問を4つ——G・R・O・Wに1つずつ——書いてみてください。Wの質問は、必ず「相手が自分で決める」形にします。「これをやって」(指示)ではなく、「まず、何から始める?」(本人が決める)です。

最後に、その相手に伝える承認の言葉を、1つ用意します。「すごい」ではなく、できている点を具体的に挙げてください。自分の部下用のGROWの質問が4つそろい、承認の言葉が用意できたら、ゴールです。この質問の型は、このあとのテンプレートで、そのままダウンロードして使えます。

まとめ:答えを渡すな、問いを渡せ

おつかれさまでした。「鈴木さんのA社相談」という、たった1つの場面を、即答をこらえる→最後まで聴く→オープンに問う→GROWで組み立てる、と1ステップずつ積み上げてきました。最後に、全体を振り返ります。

  1. コーチングとは……答えを上手に教える技術ではなく、答えを引き出す関わり方。前提は「答えは相手の中にある」。教える(ティーチング)と引き出す(コーチング)は使い分けで、緊急・知識ゼロ・正解が1つなら教える、本人に種があり育てたいなら引き出す。引き出すと決めたら、即答をこらえる(第1章)。
  2. 聴く(傾聴)……質問より先に、まず最後まで聴く。評価や正解を挟まず、沈黙は考えている時間として待つ。リーダーが口を閉じると、相手の頭が動き出す(第2章)。
  3. 問う(オープン・クエスチョン)……はい/いいえで終わるクローズドではなく、相手が自分の言葉で考えるオープンな問いで引き出す。「なぜ」の詰問ではなく「どうすれば」で前を向かせる。質問は尋問ではなく、気づきの投げかけ。1問投げたら、聴く(第3章)。
  4. 組み立てる(GROW)+承認……目標→現状→選択肢→意志の順に問いを並べ、最後のW(意志)で、相手の口から次の一歩を言ってもらう。リーダーが決めたら指示に逆戻り。最後は、できている点を具体的に認める承認で締める(第4章)。

この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「私はいま、答えを渡しているか。それとも、問いを渡しているか」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、この一言です——リーダーの口を閉じて、相手の口を開く。答えを渡すな、問いを渡せ。答えは、相手の中にある。これが身につくと、「どうすればいいですか」と相談されたとき、あなたは反射的に答えるのではなく、「どうなったら成功だと思う?」と問い返せるようになります。そして部下は、あなたに答えをもらいに来る人ではなく、あなたと話すと自分の答えが見つかる、と感じる人へと変わっていきます。

明日の最初の一歩:次に部下から相談されたら、「最後まで聴く→『どうなったら成功?』とオープンに問う→『まず明日できることは?』で本人に一歩を決めてもらう」を、1回だけやってみてください。正解を渡したくなったら、ぐっとこらえて、問いに変える。完璧でなくてかまいません。1回できたら、それがコーチングの確かな第一歩です。

そして、今日ここで使ったGROWの質問の型と、1on1でそのまま使えるオープンな質問リストは、テンプレートとしてダウンロードできます。次の面談の前に手元に開いて、問いの形をなぞるところから始めてください。慣れてきたら、引き出す対話を毎週の定例にする1on1、伝える側の技術であるフィードバック、GROWの「目標(Goal)」をさらに精緻にする目標設定へと、この関わり方を広げていけます。どれも、今日の背骨——答えを渡すな、問いを渡せ——の地続きです。まずは、テンプレートを手に、明日の1回から始めましょう。

よくある質問

コーチングとティーチングは、どう使い分ければよいですか

結論は「場面で使い分ける」です。緊急対応・知識がまだない・正解が1つと決まっている場面はティーチング(教える)、部下に経験の種があり主体性を育てたい・正解が1つでない場面はコーチング(引き出す)が適しています。

コーチングをしようとすると、つい答えを言ってしまいます。どうすればこらえられますか

まず「これは引き出す場面か」と1秒問いかける習慣を持つことが第一歩です。答えを言いたくなったら、代わりに「もう少し聞かせて」という一言に置き換えるだけで、相手が自分で話を掘り下げ始めます。

GROWモデルの4段階を、1回の相談でぜんぶ使わないといけませんか

毎回4段階を厳密に通す必要はありません。大切なのは「目標→現状→選択肢→意志」の流れを意識して、最後に相手自身が次の一歩を口にして終わること。短い立ち話でも、Wの「まず明日できることは?」だけでも、主体的な行動を引き出せます。

部下が沈黙してしまったとき、すぐ助け舟を出してもよいですか

沈黙は相手が考えている時間なので、すぐ口を挟まず数秒待ちましょう。この講座では「沈黙はこわがらずに待つ」と繰り返し述べています。待ったうえで本当に行き詰まっているようであれば、「何が引っかかってる?」とオープンな問いで再び口を開くきっかけを作ってください。

承認は「すごいね」と言えばよいですか

「すごいね」だけでは何が良かったかが伝わらず、承認の効果が薄れます。「自分で"まず困りごとを確かめよう"と決めたところ、いい着眼だ」のように、できている点や決めた行動を具体的に言葉にして伝えることで、相手は次も同じ行動を取ろうとします。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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