「最近この商品、売れ行きが落ちてきましたね。ちょっと値引きして様子を見ましょうか」——店頭やECの会議で、こんな提案をしたこと(聞いたこと)はありませんか。売れないなら安くする。一見、当たり前の一手です。
でも、「1,000円の商品を100円値引き」は、売上が10%減るだけに見えて、手元に残るお金はそれよりずっと大きく減ることがあります。売れた金額(売上)の全部が儲けではなく、その商品にかかった原価を引いた残り=粗利こそが、本当に手元に残るお金だからです。「1,000円で売れた=1,000円の儲け」ではありません。
この講座を読み終えたあなたは、次の3つができます。
- 粗利=売上−売上原価を使って、商品1個・複数個の粗利を計算できる
- 粗利率=粗利÷売上(×100で%)を計算して、複数の商品の儲かりやすさを比べられる
- 値引きが粗利に与える影響(粗利の減り方・同じ粗利に必要な販売数の増加)を試算できる
この講座は最後まで、「1個1,000円・売上原価600円の商品を売る」という、たった1つの単純な物販の場面だけで説明します。同じ商品を、まず粗利を計算し→その粗利率を出して比べ→値引きの影響を試算する、と順に組み上げていきます。なお、利益=売上−費用という大きな枠組みや、粗利が利益の段階の一番手前にあること自体は会計の基礎(kouza-020)で扱うので、ここではその粗利を実際に計算するところに絞ります。
この講座のポイント
- 粗利=売上−売上原価を使って、商品1個・複数個の粗利を計算できる
- 粗利率=粗利÷売上(×100で%)を計算して、複数の商品の儲かりやすさを比べられる
- 値引きが粗利に与える影響(粗利の減り方・同じ粗利に必要な販売数の増加)を試算できる
粗利とは=売上−売上原価(残るお金を計算する)
まずは「売れた金額がそのまま儲けではない」という、見落としがちなところを自分の手で計算して確かめます。
この章のゴール
この章を読み終えると、粗利=売上−売上原価を使って、商品1個・複数個の粗利を計算できるようになります。
「1,000円で売れた=1,000円の儲け」ではない
商品が1個1,000円で売れても、その1,000円はまるごと儲けではありません。仕入れや材料にかかったお金を引いて、初めて「この商品でいくら残ったか」が分かります。この「売れた金額(売上)から、その商品にかかったお金(売上原価)を引いた残り」が、粗利(あらり)です。粗利は、損益計算書では売上総利益とも呼ばれます(呼び方が違うだけで同じものです)。販売数や売上目標は意識していても、「そこからいくら残るか」を計算したことがない人は少なくありません。見るべきは売上そのものではなく、原価を引いた後に残る粗利——これがこの講座を通しての背骨です。
粗利=売上−売上原価で「残るお金」を出す
式はとてもシンプルです。粗利=売上−売上原価。ここで言う売上原価とは、その商品を仕入れ・用意するのにかかったお金(売れた商品の仕入れ・材料費)のことです。家賃や人件費といった、商品そのもの以外にかかる費用はここでは引きません。原価だけを引いた、一番手前の段階の利益がこの粗利です(家賃・人件費まで引いた後の利益=営業利益とは別物で、その先は kouza-020 や kouza-023 で扱います)。
共通例で計算しましょう。1個1,000円で売る商品、仕入れ・材料にかかった売上原価が1個600円だとします。粗利は、
粗利=売上−売上原価=1,000−600=400円
です。1,000円で売れても、残るのは400円。これがこの商品1個の粗利です。「原価は自分には関係ない」と感じるかもしれませんが、原価は売る側が必ず押さえる数字。売価と原価さえ分かれば、引き算1つで残るお金が出せます。
1個分から、売れた個数の合計まで出す
粗利は、1個あたりでも、売れた個数の合計でも計算できます。この商品が10個売れたとします。1つ目は、1個分の粗利を出して個数倍する方法です。1個の粗利400円×10個=4,000円。2つ目は、売上の合計から原価の合計を引く方法です。売上は1,000×10=10,000円、原価は600×10=6,000円、粗利は10,000−6,000=4,000円。どちらの方法でも答えは4,000円で一致します。
ここで大事なのは、「10,000円売れた=10,000円儲かった」ではないことです。10,000円売れても、残るのは粗利4,000円。売れた額ではなく残った額で見る——この感覚が身につくと、数字の見え方が変わります。つまずきやすいのは、売上をまるごと儲けと思って原価を引き忘れることです。売上の数字を見たら、必ず「で、原価はいくら?」とセットで確認する癖をつけましょう。
この章の確認(演習):共通例で、同じ商品が5個売れたときの粗利を計算してみてください(売上1,000×5=5,000円、原価600×5=3,000円、粗利は5,000−3,000=2,000円)。次に、自分の身近な商品(仕入れて売るもの、フリマ出品など)で売価と原価を仮に置き、粗利=売上−売上原価を1つ計算してみましょう。「売れた額」ではなく「残った額」を自分の手で出せたらゴール達成です。
粗利率=粗利÷売上(儲かりやすさを比べる)
第1章で出した粗利は「金額」でした。次は、その粗利を「割合」にして、売価のちがう商品同士を比べられるようにします。
この章のゴール
この章を読み終えると、粗利率=粗利÷売上(×100で%)を計算して、複数の商品の儲かりやすさを比べられるようになります。
金額だけでは、売価がちがう商品を比べにくい
粗利の金額だけでは、売価のちがう商品同士を比べるのは難しいものです。売価がまるで違う商品が並ぶと、「どちらが効率よく儲かるか」は金額だけでは見えません。そこで使うのが、売上に対して粗利がどれくらいの割合かを見る考え方、粗利率です。
粗利率=粗利÷売上(×100で%)。高いほど1円あたり多く残る
その割合が粗利率です。式は粗利率=粗利÷売上。これに100をかけて%にします。粗利率が高いほど、「1円売れたときに手元に多く残る=儲かりやすい」商品です。
共通例で出してみましょう。1個1,000円・原価600円・粗利400円の商品の粗利率は、
粗利率=粗利÷売上=400÷1,000=0.4=40%
です。1,000円売れるうち、400円が手元に残る割合、という意味です。注意してほしいのは割り算の向きで、必ず粗利÷売上、「売上÷粗利」と逆にしないこと。「残ったお金(粗利)が、売れたお金(売上)のうちどれくらいか」と考えれば、粗利÷売上の向きが自然に出てきます。
粗利(金額)と粗利率(割合)は別物。両方を見る
ここで誤解しやすいのが、粗利(金額)と粗利率(割合)の混同です。粗利は金額(円)、粗利率は割合(%)で別物。商品を比べるときは、片方だけでなく両方を見ます。
| 商品 | 売価 | 原価 | 粗利(金額) | 粗利率(割合) |
|---|---|---|---|---|
| 共通例の商品 | 1,000円 | 600円 | 400円 | 40% |
| 安い商品 | 500円 | 400円 | 100円 | 20% |
| 高い商品 | 3,000円 | 2,550円 | 450円 | 15% |
「安い商品」は粗利率=100÷500=20%。共通例の商品と比べると、金額(400円>100円)も率(40%>20%)も共通例が上です。
ところが「高い商品」を見てください。粗利率=450÷3,000=15%。粗利の金額は450円で、共通例の400円より大きいのに、率は15%と共通例の40%よりずっと低いのです。売価が高いと、金額が大きくても率は低いことが起こります。だから、金額だけ・率だけで判断せず、両方を見る必要があります。「率」がつくものは割合、つかないものは金額、と覚えておくと混同しません。
ここで一度、関連講座への寄り道です。粗利率を商品ごとに出せるようになると、「では実際にいくらで売るのが良いか」という値決めの話につながります。値決め・価格設定そのものは kouza-024(値決め・価格設定) で扱います。この講座ではまず、粗利と粗利率を自分で計算できることに集中しましょう。
この章の確認(演習):共通例の商品(粗利率40%)と、1個500円・原価400円(粗利率20%)の商品を粗利率で比べ、どちらが「1個あたり儲かりやすい」か答えてみてください(答え:40%の共通例)。次に、自分の扱う(または身近な)商品を2つ選び、それぞれの粗利率を計算して、高い順に並べてみましょう。金額の大小と率の高低の両方を確かめられたらゴール達成です。
値引きの影響=粗利は売上以上に減る(試算する)
最後は、いよいよ値引きです。第1章・第2章で扱った同じ商品を値引きすると、粗利がどう動くかを試算します。ここが講座の山場です。
この章のゴール
この章を読み終えると、値引きが粗利に与える影響(粗利の減り方・同じ粗利に必要な販売数の増加)を試算できるようになります。
値引きしても原価は変わらない=値引き分はそのまま粗利から引かれる
値引きの落とし穴は、売価を下げても原価は変わらないことにあります。仕入れ条件が変わらなければ、いくら売価を下げても原価600円は600円のまま。だから下げた分(値引き分)は、そっくりそのまま粗利から引かれます。「100円くらいの値引きなら大したことない」と感じてしまうと、粗利がどれだけ削れているかに気づけません。「売上が少し下がるだけ」に見える値引きが、粗利では何倍もの割合で効くことがあります。
値引き後の粗利を出す:この商品では売上10%減でも粗利は25%減
共通例の商品(1個1,000円・原価600円・粗利400円)を、100円値引きして売価900円にします。
手順は、①値引き後の売価(売価−値引き額)②値引き後の粗利(値引き後の売価−原価。原価は据え置き)③粗利の減り方、の3つです。
- 値引き後の売価=1,000−100=900円
- 値引き後の粗利=900−600=300円(原価600円は変わりません)
- 粗利の減少=400−300=100円減
ここで売上と粗利を比べます。売価は1,000円→900円で、10%の減少です(100÷1,000=10%)。ところが粗利は400円→300円で、減少額は100円ですが、元の400円に対して25%の減少です(100÷400=25%)。売上は10%しか下がっていないのに、粗利は25%も減っている——これが「値引きは売上以上に粗利を削る」という現象です。
注意したいのは、この「売上10%減でも粗利は25%減」という数字は、この商品(粗利率40%・100円値引き)の場合だということです。値引きで粗利が何%減るかは、もともとの粗利率や値引き額によって変わり、「○割引なら粗利が必ず○割減る」とは決まっていません。言えるのは、同じ金額の値引きでも、もともとの粗利率が低い商品ほど粗利への打撃は大きくなる、という方向性だけです。だからこそ、値引きを考えるときは、その商品で実際に計算することが大切です。
同じ粗利を稼ぐには、より多く売らないといけない
値引きでもう一つ見落とせないのが、同じ粗利の合計を稼ぐには、より多く売らないといけなくなることです。1個あたりの粗利が減るのですから、当然です。値引き前は1個の粗利が400円なので、10個売れば粗利は4,000円でした。値引き後は1個の粗利が300円に減ります。では、同じ粗利4,000円を稼ぐには何個売ればいいでしょうか。
必要な販売数=これまでの粗利合計÷値引き後の1個あたり粗利=4,000÷300=13.3…
割り切れません。13個では粗利が300×13=3,900円で4,000円に届きません。なので端数は切り上げて、14個必要、と出します(300×14=4,200円で4,000円を超えます)。これまで10個で稼げた粗利を、値引き後は14個売らないと出せないのです。「100円くらい安くするだけ」が、これだけ負担を増やします。
値引きを提案する前に、この3つ——値引き後の売価・値引き後の粗利・同じ粗利に必要な販売数——を試算する。それだけで、「安くすれば売れる」が本当に得かを数字で判断できます。
この章の確認(演習):共通例の商品で、100円ではなく200円値引き(売価800円)した場合の粗利を計算してみてください(800−600=200円。400円→200円で半減です)。さらに、同じ粗利4,000円を稼ぐのに必要な販売数を出してみましょう(4,000÷200=20個。割り切れます)。次に、自分の身近な商品で「100円値引きしたら粗利はいくらになるか」「同じ粗利に何個必要か」を1つ試算してみてください。安くする前に自分の手で確かめられたらゴール達成です。
まとめ:売上でなく粗利を見る。値引き分は、まるごと粗利から消える
おつかれさまでした。「1個1,000円・売上原価600円の商品」という1つの場面を、粗利→粗利率→値引きの影響と順に組み上げてきました。歩いてきた道を1枚にまとめます。
- 粗利=売上−売上原価……売れた金額はまるごと儲けではなく、原価を引いた残りが本当に残るお金(共通例:1,000−600=400円、10個で4,000円)。
- 粗利率=粗利÷売上(×100で%)……割合にすると、売価のちがう商品の儲かりやすさを比べられる(共通例:400÷1,000=40%)。粗利(金額)と粗利率(割合)は別物なので両方を見る。
- 値引きの影響を試算する……値引きしても原価は変わらないので、値引き分はそのまま粗利から引かれる(共通例:100円値引きで粗利400円→300円・25%減、同じ粗利4,000円に必要な販売数は10個→14個)。
この3つは、すべて1つの問いに戻ります。「売上をまるごと儲けと思わず、原価を引いた粗利で見て、値引きが粗利をどれだけ削るか試算できているか」。いちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言——売上でなく粗利を見る。値引き分は、まるごと粗利から消える。
明日の最初の一歩:自分が扱う(または身近な)商品を1つ選び、粗利=売上−売上原価と粗利率=粗利÷売上を計算してみてください。そして値引きを考えるときは、値引き後の粗利と「同じ粗利を稼ぐのに何個必要か」を、安くする前に先に試算する。難しい会計知識は要りません。売価と原価さえ分かれば、引き算と割り算で出せます。
関連講座へ:粗利の計算と値引きの影響がつかめたら、次は数字でビジネスを見る力を一歩深めましょう。利益全体の関係をおさらいするなら kouza-020(会計の基礎)、いくらで売るか(値決め・価格設定)は kouza-024(値決め・価格設定)、いくつ売れば黒字になるか(損益分岐点)は kouza-023(損益分岐点) で続けて学べます。
よくある質問
粗利と利益はどう違うのですか?
粗利は売上から売上原価だけを引いた最初の段階の利益です。家賃や人件費などの費用をさらに引いた後に残るのが営業利益などの「利益」で、粗利はその手前の数字になります。
粗利率はどう計算するのですか?
粗利率は「粗利÷売上×100」で求めます。たとえば売価1,000円・原価600円の商品なら、粗利400円÷売上1,000円×100=40%です。粗利率が高いほど、1円売れたときに手元に多く残る商品といえます。
値引きすると粗利がなぜ大きく減るのですか?
売価を下げても原価は変わらないため、値引きした金額がそのまま粗利から引かれるからです。この講座の例では、100円値引きすると売上は10%減にとどまるのに、粗利は400円→300円で25%も減ります。
値引き後に同じ粗利を稼ぐには何個売ればよいか、どう計算しますか?
「目標とする粗利合計÷値引き後の1個あたり粗利」で必要販売数が出ます。例として粗利4,000円を稼ぐ場合、値引き後1個あたり粗利が300円なら4,000÷300≒14個(端数は切り上げ)が必要な販売数です。
この講座の内容を実際の業務で使うには何から始めればよいですか?
自分が扱う商品の売価と原価を1つ確認し、粗利=売上−売上原価を計算するところから始めてください。次に粗利率を出して他の商品と比べ、値引きを検討する前に値引き後の粗利と必要販売数を試算する習慣をつけるのがおすすめです。