予算会議で決算書を渡され、「で、この会社の調子はどうなの?」と聞かれて、「黒字なので……大丈夫だと思います」としか言えずに詰まった——そんな経験はありませんか。手元にはPL・BS・CSという3枚の表がある。数字はびっしり並んでいる。でも、どこをどう見れば会社の調子が分かるのか、手順が分からない。だから全部読もうとして、結局「黒字だから大丈夫」という以上のことが言えない。
ここで、ちょっと不思議な話をします。「黒字なのに倒産する会社」があるのです。利益(PL)はちゃんと出ているのに、現金(CS)が尽きて支払いができなくなる——これが黒字倒産と呼ばれるものの正体です。決算書を「数字の羅列」「黒字だから大丈夫」とだけ見ていると、この危うさは見えません。逆に言えば、「黒字でも現金が危ない」まで読めるようになることが、財務諸表を読めるということです。
でも安心してください。財務諸表は、むずかしい簿記の話でも、専門家だけの世界でもありません。例えるなら会社の健康診断です。健康診断で血圧・体重・血液検査を別々に診るように、財務諸表は3枚の表(PL・BS・CS)で会社を違う角度から診るだけ。1枚だけ見ても会社の調子は分からない、という点まで含めて、健康診断とよく似ています。会計の基礎(kouza-020)で学んだ「利益=売上−費用」は、このうちPLの話だった、とつなげて読み進めましょう。
この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。
- PL(損益計算書)・BS(貸借対照表)・CS(キャッシュフロー計算書)の役割の違い(もうけ/財産と借金のバランス/現金の増減)を区別して説明できる
- PLで儲かっているか・BSで財産と借金のバランス(資産=負債+純資産)・CSで現金の増減(営業/投資/財務)を、それぞれ読み取れる
- 3表をつなげて、会社の状態(もうけ・財産と借金・現金繰り)をざっくり判断できる(利益が出ていても現金が減っていれば要注意、など)
この講座は最後まで、「架空のカフェ会社『A社』の財務三表」という1社だけで説明します。コーヒーを売るA社という同じ会社を、財務諸表とは何か→PL→BS→CS→3表をつなげる、と順に組み上げていきます。kouza-020で見た「カフェ1店舗のお金の流れ」が、ここでは「会社全体の決算書」に育ちます。各章末には手を動かす演習も置いているので、書きながら読み進めてください。
なお、3表を見る順番と着眼点を整理した「財務三表 読み方チェックシート」を無料で配布しています。本文を読みながら手元に置くと、実際の決算書で迷わなくなります。「財務三表 読み方チェックシートを無料でダウンロード」から受け取って、本講座とあわせて使ってください。
この講座のポイント
- 財務諸表が「会社の成績表(健康診断)」であり、PL・BS・CSの3枚がそれぞれ違う役割を持つことを、全体像として説明できる
- PLが「1年間のもうけ」を表す表だと分かり、売上から費用を段階的に引いて利益が出る流れを読み取れる
- BSが「今この瞬間の財産と借金」を表す表だと分かり、資産=負債+純資産の関係を読み取れる
- CSが「1年間で現金が増えたか減ったか」を表す表だと分かり、営業・投資・財務の3つの区分から現金の動きを読み取れる
- PL・BS・CSをつなげて、会社の状態(もうけ・財産と借金・現金繰り)をざっくり判断でき、見る順番と着眼点を自分で持てる
財務諸表とは=会社の成績表(3つの表の全体像)
まずは、決算書が「数字の羅列」に見えてしまうモヤモヤの正体を、はっきりさせましょう。財務諸表を読む土台になる、いちばん大事な章です。
この章のゴール
この章を読み終えると、財務諸表が「会社の成績表(健康診断)」であり、PL・BS・CSの3枚がそれぞれ違う役割を持つことを、全体像として説明できるようになります。
決算書が「数字の羅列」に見える正体は、3枚の役割を分けていないから
予算会議で決算書を渡されて手が止まるのは、あなたの数字の力が足りないからでも、説明が下手だからでもありません。多くの場合、PL・BS・CSという役割の違う3枚を「全部同じ数字の表」とひとまとめにして、いっぺんに読もうとしているのが正体です。
数字が多すぎて、どこから見ればいいのか分からない。だから全部の数字を追おうとして、途中で力尽きる。これは、健康診断の結果表を渡されて、血圧も体重も血液検査の値も区別せず、ずらりと並んだ数字を上から全部読もうとするのと同じです。本来は「血圧の欄」「体重の欄」と分けて、見たいところを見ればいい。
ここで覚えてほしい背骨はひとつです。財務諸表は、会社の健康診断。役割の違う3枚の表で、会社を違う角度から診るもの。だから、まず3枚の役割を分け、見たいところに着眼点を絞る——これがこの章の、そしてこの講座全体の出発点です。
財務三表=PL(もうけ)・BS(財産と借金)・CS(現金の増減)。見る角度がそれぞれ違う
では、財務諸表とは何か。財務諸表とは、会社の経営成績・財政状態・現金の状況を、株主や取引先・銀行といった関係者に分かるようにまとめた書類です。会社のお金の状態を、外から見えるようにしたもの、と思ってください。
その代表が、財務三表=損益計算書(PL/Profit and Loss Statement)・貸借対照表(BS/Balance Sheet)・キャッシュフロー計算書(CS/Cash Flow Statement、C/Fとも呼ばれます)の3枚です。それぞれ見る角度が違います。ざっくり言うと、こうです。
| 表 | 見る角度 | ひとことで言うと | いつの話か |
|---|---|---|---|
| PL(損益計算書) | もうけ | 1年間でいくら儲かったか | 1年間(期間) |
| BS(貸借対照表) | 財産と借金のバランス | 今この瞬間、何を持って・いくら借りているか | 今この瞬間(決算日) |
| CS(キャッシュフロー計算書) | 現金の増減 | 1年間で現金が増えたか減ったか | 1年間(期間) |
ここで、ひとつ見分けのコツがあります。PLとCSは「1年間(期間)」の話、BSは「今この瞬間(決算日)」を写したスナップショットだ、という点です。「この表は期間の話か、それとも今の話か」を掴むだけで、3枚の役割を区別しやすくなります。難しい用語を覚える必要はありません。「もうけ・財産と借金・現金」という3つの角度と、「期間か、今か」だけ押さえてください。
kouza-020 の「利益=売上−費用」は PL の中身。3枚はセットで見ると決める
会計の基礎(kouza-020)で学んだ利益=売上−費用を覚えているでしょうか。じつはあれは、この3枚のうちPL(損益計算書)の中身でした。売上から費用を引いて利益を出す、という話は、財務諸表でいえばPLの中だけで起きていることだったのです。財務諸表は、会計基礎の続きで「1店舗のお金の流れ」から「会社全体の数字」へ進む話、と位置づけてください。
そして、いちばん大事な心構えがこれです。1枚だけで会社を判断しない。PLで黒字だからといって、それだけで「安全な会社」とは言えません。財産と借金のバランスはBS、現金が回っているかはCSで、別途見る必要があります。健康診断で「血圧だけ正常だから健康」とは言えないのと同じです。
では、共通例のA社に初めて登場してもらいましょう。コーヒーを売る架空のカフェ会社A社です。A社について、3枚の表はこう答えてくれます。「去年1年で利益が出た?」→PL。「今いくら持っていて、いくら借りている?」→BS。「現金は増えた? 減った?」→CS。同じA社を3つの角度から見る、ということです。このA社を、これから全章で「立ち戻る原点」として使い回します。
まずは「全部読もうとせず、役割で分ける→着眼点を1つに絞る→PL→BS→CSの順で見る」と決めること。これだけで、決算書を渡されたときの手が止まらなくなります。
この章の確認(演習):共通例「A社」で、「儲かった?/何を持っている?/現金は増えた?」の3つの問いを、それぞれPL・BS・CSのどれで答えるか、頭の中で線で結んでみてください。次に、自社の決算書(または身近な会社のIR資料)を1つ開き、PL・BS・CSの3枚がどこにあるか探してみます。3表の役割を区別し、実物のどこにあるかを自分の手で確かめられたら、ゴール達成です。
PL(損益計算書)=1年間で儲かったか
3表の全体像が見えたら、いよいよ1枚ずつ読んでいきます。まずは、いちばんなじみのあるPL(損益計算書)から。
この章のゴール
この章を読み終えると、PLが「1年間のもうけ」を表す表だと分かり、売上から費用を段階的に引いて利益が出る流れを読み取れるようになります。
PL=1年間で、いくら売れて・いくら費用がかかって・いくら儲かったかの表
PL(損益計算書)は、企業の一会計期間(1年間など)に、いくら売れて(売上)・いくら費用がかかって・いくら儲かったか(利益)を示す表です。第1章で見たとおり、PLは「期間」の話。1年間のもうけを表します。
これは、kouza-020で学んだ「利益=売上−費用」を、カフェ1店舗ではなく会社全体でまとめたものです。やっていることは同じ引き算。会社全体で、入ってきたお金から出ていったお金を引いて、残ったもうけを見ている、というだけです。PLを見れば「この会社は本業で儲かっているのか」が分かります。
利益は1段階ではない。売上から費用を順に引いて、粗利→営業利益と残っていく
ここがPLのいちばん大事なところです。利益は一度に出すのではなく、段階的に表示されます。「何の費用まで引いたか」で、見える利益が変わるのです。kouza-020の第3章で見た「粗利と営業利益」の話を、会社全体のPLとして見直していきましょう。
まず、売上から「商品そのものにかかった費用=売上原価」を引いたものが、粗利(売上総利益)です。式で書くと、粗利=売上−売上原価。
次に、その粗利から「商売を回すためにかかる費用=販売費及び一般管理費(販管費)」を引いたものが、営業利益です。式で書くと、営業利益=粗利−販管費。販管費とは、商品そのものには直接かからないけれど、商売を回すために必要なお金のこと。家賃、人件費、光熱費、広告費などがこれにあたります。
ここで絶対に取り違えないでほしい一点があります。粗利が引くのは「売上原価」(商品そのもの)、営業利益が引くのは「販管費」(商売を回す費用)です。順番は、売上 →(売上原価を引く)→ 粗利 →(販管費を引く)→ 営業利益。この順を逆にしないでください。
A社のPLで見てみましょう。A社は1年間でコーヒーを売り、次のような数字になったとします(金額は架空の例です)。
| 段階 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 売上 | — | 4,000万円 |
| 売上原価(豆・牛乳・カップなど) | 引く | 1,600万円 |
| 粗利(売上総利益) | 売上−売上原価 | 2,400万円 |
| 販管費(家賃・人件費・光熱費など) | 引く | 2,100万円 |
| 営業利益 | 粗利−販管費 | 300万円 |
売上は4,000万円と大きく見えます。でも、原価を引いた粗利は2,400万円、さらに家賃や人件費を引いた営業利益は300万円。売上は大きいのに、費用を引いていくと、本業で残る利益は思ったより小さい——これが「段階で見る」ということです。売上の大きさだけ見て喜んでいると、この縮み方が見えません。
なお、利益にはこの先にも段階があります(経常利益、税引前当期純利益、当期純利益と続きます)が、それらは「さらに段階がある」と名前だけ知っておけば、この入門講座では十分です。深入りはしません。
見るのはまず「本業の儲け(営業利益)」がプラスかマイナスか
PLには段階がいくつもありますが、財務諸表の入門として、まず見るのは「本業の儲け=営業利益」がプラスかマイナスかです。営業利益は、その会社が本業でちゃんと稼げているかを表します。A社なら営業利益300万円のプラスなので、「本業はとりあえず黒字」と読めます。
ただし——ここが大事です——PLが黒字だからといって、それだけで「この会社は安全」とは判断しません。営業利益がプラスでも、借金が膨らんでいるかもしれないし(それはBSで見る)、現金が回っていないかもしれない(それはCSで見る)。導入で触れた「黒字なのに倒産する会社」は、まさにPLの黒字だけを見て、現金を見落とした結果です。PLは「もうけ」の角度から会社を診た1枚にすぎない、と覚えておいてください。財産と借金はBS、現金はCSで、このあと続けて見ていきます。
この章の確認(演習):共通例「A社」のPLで、売上・売上原価・販管費を仮に置き、粗利(売上−売上原価)と営業利益(さらに販管費を引いた残り)の2段階を、それぞれ出してみてください。引く順番を間違えないのがコツです。次に、自社や担当事業の「売上」と「主な費用」を思い浮かべ、本業で残る利益がどれくらいか3行で書いてみます。利益を段階で読む感覚が手で確かめられたら、ゴール達成です。
BS(貸借対照表)=財産と借金のバランス
PLで「もうけ」を読んだら、次はBS(貸借対照表)です。多くの人が「左右がなぜ一致するのか分からない」とつまずく表ですが、理屈が分かればすっきりします。
この章のゴール
この章を読み終えると、BSが「今この瞬間の財産と借金」を表す表だと分かり、資産=負債+純資産の関係を読み取れるようになります。
BS=ある一時点(決算日)で、何を持って・いくら借りて・自分のお金がいくらかの表
BS(貸借対照表)は、ある一時点(決算日)で、会社が何を持っていて(資産)・いくら借りていて(負債)・自分のお金がいくらか(純資産)を表す表です。
PLが「1年間」の話だったのに対し、BSは「今この瞬間(決算日)」を写したスナップショットです。1年間でいくら動いたかではなく、ある瞬間に会社がどんな財産と借金を抱えているか、を切り取った1枚。記載されるのは、資産・負債・純資産の3つです。ざっくり言えば、資産=持ち物、負債=借金、純資産=自分のお金、です。
右=お金をどこから集めたか/左=集めたお金を何に使っているか。だから資産=負債+純資産
ここがBSの肝であり、多くの人がつまずくところです。「BSの左右がなぜぴったり一致するのか分からない」——その答えは、丸暗記ではなく、意味で押さえられます。
BSは左右に分かれています。右側=お金をどうやって集めたか(資金の集め方)。集め方は2通りで、人から借りたお金が負債、自分のお金が純資産です。一方、左側=集めたお金を何に使っているか(使い道)。現金で持っているか、設備に変えたか、在庫になっているか——それが資産です。
会社が持っている資産は、必ず負債か純資産のどちらかで調達されています。つまり、左側の資産と、右側の負債+純資産は、同じお金を「使い道」と「集め方」の両面から見ているだけ。だから左右は必ず一致し、資産=負債+純資産が成り立ちます。だからこそ「バランスシート」と呼ばれるのです。左右が一致するのは不思議な偶然ではなく、同じお金を裏表から見ているから当然、というわけです。
A社のBSで見てみましょう(金額は架空の例です)。
| 左側:資産(使い道) | 金額 | 右側:負債+純資産(集め方) | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 200万円 | 負債:銀行借入 | 1,400万円 |
| 在庫(コーヒー豆など) | 300万円 | 純資産:元手+ためた利益 | 600万円 |
| 店舗設備 | 1,500万円 | ||
| 資産 合計 | 2,000万円 | 負債+純資産 合計 | 2,000万円 |
A社は、銀行から1,400万円借り(負債)、自分のお金600万円(純資産)とあわせて、合計2,000万円を集めました。そのお金を、現金200万円・在庫300万円・店舗設備1,500万円として持っています(資産)。集めた2,000万円と、使い道の2,000万円は、当然ぴったり一致します。これがBSの左右一致です。
ここでもうひとつ、混同しないでほしいことがあります。負債は将来返さなければならないお金(他人資本)、純資産は返さなくていい自分のお金(自己資本)です。この2つを逆にしないでください。
純資産(自分のお金)の厚みで、財務の安定度をざっくり掴む
BSを読むとき、つい「資産が多い=良い会社」と思いがちです。でも、それは早合点です。資産が多くても、その大半が借金で買ったものかもしれないからです。A社の店舗設備1,500万円も、その裏には銀行借入1,400万円がある。資産の大きさだけでは、会社の安定度は分かりません。
見るべきは、右側のバランスです。借りたお金(負債)と自分のお金(純資産)の、どちらで多くを賄っているか。純資産が厚い=自分のお金で回せている=財務が安定、とざっくり読めます。A社は資産2,000万円のうち、純資産は600万円。借入1,400万円に対して自分のお金が薄め、と読めます。これは「借金に頼って回している状態」で、後ほど第5章で「現金繰りに注意」とつながる伏線になります。
なお、純資産が資産全体のどれくらいなら安定か、といった比率の数値基準(自己資本比率など)には、この入門講座では踏み込みません。「純資産が厚いほど安定、薄いと借金頼み」という方向感まで掴めれば十分です。くわしい比率の読み方は、決算書の講座(kouza-102)で学べます。
この章の確認(演習):共通例「A社」のBSで、資産・負債・純資産を仮に置き、資産=負債+純資産が成り立つことを確かめてみてください。次に、家計に置き換えて「持ち物(資産)・住宅ローン(負債)・自分の貯金(純資産)」で左右が一致する例を1つ書いてみます。例えば「家2,000万円(資産)=住宅ローン1,500万円(負債)+自分の頭金500万円(純資産)」のように。左右が一致する意味を、身近な家計で手を動かして確かめられたら、ゴール達成です。
CS(キャッシュフロー計算書)=現金の増減
PLで「もうけ」、BSで「財産と借金のバランス」を読みました。3枚目のCS(キャッシュフロー計算書)は、3表のなかでいちばん影が薄いのに、いちばん大事な「現金」を見る表です。
この章のゴール
この章を読み終えると、CSが「1年間で現金が増えたか減ったか」を表す表だと分かり、営業・投資・財務の3つの区分から現金の動きを読み取れるようになります。
CS=1年間で、現金が実際にいくら増えて・いくら減ったかの表(利益と現金は別物)
CS(キャッシュフロー計算書)は、1年間で、現金(現金及び現金同等物)が実際にいくら増えて・いくら減ったかを表す表です。PLと同じく「期間」の話ですが、見ているのは利益ではなく、実際の現金の出入りです。
ここで、kouza-020でも触れた大事な区別を思い出してください。計算上の利益と、手元にある現金は、必ずしも一致しません。PLの利益(もうけ)は、「商品を売ったけれど、入金はまだ先」という場合でも計上されます。つまり、帳簿の上では儲かっていても、現金はまだ入ってきていない、ということが起こりうるのです。だから、利益とは別に、現金そのものの動きを見る必要がある——その役目を担うのがCSです。
現金の動きを営業・投資・財務の3区分で見る。要は本業(営業)の現金
CSは、現金の動きを3つの区分に分けて表します。これは取り違えてはいけない大事な区分です。
| 区分 | 正式名称 | 何の現金の動きか |
|---|---|---|
| 営業 | 営業活動によるキャッシュフロー | 本業で稼いだ現金(コーヒーを売って入ってきた現金など) |
| 投資 | 投資活動によるキャッシュフロー | 設備などへの支出・回収(コーヒーマシンの購入など) |
| 財務 | 財務活動によるキャッシュフロー | 借入・返済・資金調達による現金の動き |
このうち、まず見るのは「営業」(本業)の現金です。営業の現金がプラスなら、本業がちゃんと現金を稼げている証拠。ここがマイナスだと、本業で現金が出ていっている危ない状態です。投資(設備への支出)や財務(借入・返済)は、本業の現金が回ったうえでの動き、と位置づけて見ます。
A社のCSで見てみましょう(金額は架空の例です)。
| 区分 | A社の中身 | 金額 |
|---|---|---|
| 営業 | コーヒーを売ったが、入金が遅れている | −150万円 |
| 投資 | 新しいコーヒーマシンを買った | −400万円 |
| 財務 | 銀行から借りた分が、返した分を上回った | +300万円 |
| 現金の増減 合計 | 営業+投資+財務 | −250万円 |
3区分を足し合わせると、A社の現金はこの1年で250万円減った(−250万円)と分かります。注目してほしいのは、営業の現金がマイナス(−150万円)だという点です。第2章で見たとおり、A社のPLは営業利益300万円の黒字でした。利益は出ているのに、本業の現金はマイナス——これがまさに「利益と現金は別物」の正体です。コーヒーは売れて利益は立っているのに、入金が遅れていて、手元の現金は出ていっているのです。
「利益は出ているのに営業の現金がマイナス」=黒字でも現金が尽きうる(黒字倒産の入口)
A社の状態を、もう一度はっきりさせます。PLは黒字(営業利益300万円)。なのにCSでは営業の現金がマイナス。この食い違いこそ、黒字倒産の入口です。
利益(PL)が出ていても、営業の現金(CS)がマイナスなら、現金が尽きて支払いができなくなることがあります。これが黒字倒産です。導入で「黒字なのに倒産する会社がある」と言ったのは、このことでした。帳簿の上では儲かっているのに、手元の現金が足りなくなって、仕入れ代金や給料が払えなくなる——利益だけ見ていると、この危うさが見えないのです。
もうひとつ、誤読しやすい落とし穴があります。「現金が増えた=good」とは限らない、という点です。例えば、本業(営業)の現金はマイナスなのに、銀行からたくさん借りて(財務がプラス)、トータルでは現金が増えている、という会社があったとします。これは「本業で稼いだのではなく、借金で現金を膨らませているだけ」かもしれません。だから、現金の増減を見るときは、まず営業(本業)の現金を見るのです。「現金が増えた/減った」だけでなく、「どの区分で増えた・減ったのか」まで見てください。
この章の確認(演習):共通例「A社」のCSで、営業・投資・財務の現金の増減を仮に置き、現金が最終的に増えたか減ったかを出してみてください。次に、「利益は出ているのに現金が減る」のはどんな時か(入金が遅い・在庫を買いすぎた、など)を1つ、自分の言葉で書いてみます。利益と現金がズレる場面を、自分の言葉で手を動かして確かめられたら、ゴール達成です。
3表をつなげて会社の状態を読む
PL・BS・CSを1枚ずつ読めるようになりました。最後は、3枚をつなげて、会社の状態をざっくり判断します。財務諸表を読む目的が、ここで完成します。
この章のゴール
この章を読み終えると、PL・BS・CSをつなげて、会社の状態(もうけ・財産と借金・現金繰り)をざっくり判断でき、見る順番と着眼点を自分で持てるようになります。
3表は別々ではなく、つながっている
ここまで3枚を別々に読んできましたが、じつは3表はつながっています。同じ1社のお金を、別の角度から写しているからです。
つながりを大枠で言うと、こうです。PLで出た利益(当期純利益)は、BSの純資産(ためた利益)に積み上がります。1年間で稼いだもうけが、会社の自分のお金として蓄積されていく、ということです。そして、その儲けが現金として残ったかどうかは、CSで分かります(BSの現金残高と、CSの現金は対応しています)。
だから、1枚だけでは会社は語れません。健康診断で、血圧・体重・血液検査をそれぞれ単独で見るのではなく、複数の検査値を合わせて総合判断するのと同じです。3枚をつなげて、初めて会社の調子が立体的に見えてきます。
見る順番は PL(もうけ)→ BS(財産と借金のバランス)→ CS(現金の増減)
とはいえ、3枚すべての数字を端から読もうとすると、また手が止まります。第1章で「全部読もうとしない」と決めたのを思い出してください。おすすめは、各表の着眼点を1つに絞って、順に見ることです。
やさしい入口はこの順番です。PL→BS→CS。
- PLで、まず本業の儲け(営業利益)がプラスかマイナスか
- BSで、純資産の厚み(自分のお金で回せているか、借金頼みか)
- CSで、営業(本業)の現金がプラスかマイナスか
この3点だけを見て、最後に突き合わせれば十分です。「PL→BS→CSが唯一の正解の順番」というわけではありませんが、もうけ→財産と借金→現金、と見ていくのが、いちばん迷いにくい入口です。全部の数字ではなく、各表の着眼点を1つずつ——これが「数字が多くて読めない」を抜ける道です。
「PLは黒字/BSは借金が多い/CSは営業の現金がマイナス」なら“利益は出ているが現金繰りが危ない”
では、これまで組み上げてきたA社の3表を、1枚にまとめて総合判断してみましょう。
| 表 | A社の所見 | 読み |
|---|---|---|
| PL | 営業利益300万円のプラス | 本業は黒字 |
| BS | 借入1,400万円に対し純資産600万円(薄め) | 借金に頼って回している |
| CS | 営業の現金が−150万円、現金は1年で250万円減 | 本業の現金が出ていっている |
3つの所見を一言ずつ並べると、「PLは黒字/BSは借金が多め/CSは営業の現金がマイナス」。ここから導ける総合判断は、「利益は出ているが、現金繰りが危ない」です。A社は、コーヒーは売れて帳簿上は黒字。でも入金が遅れて本業の現金はマイナスで、しかも借金が多く自分のお金は薄い。このまま現金の流出が続けば、黒字なのに支払いが詰まる——黒字倒産の入口にいる、と読めるわけです。
逆のパターンも見ておきましょう。「PLは黒字/BSは純資産が厚い/CSは営業の現金がプラス」なら、本業で稼ぎ、自分のお金で回せていて、現金もちゃんと増えている、という健全な状態です。同じ「黒字」でも、BSとCSまで見ると、安全な黒字なのか、危うい黒字なのかが分かれます。
これが、財務諸表を読む目的です。1枚だけ見て「黒字だから大丈夫」と言うのではなく、3表をつなげて「黒字だけど、現金繰りは要注意です」とまで言える。予算会議で「PLは黒字ですが、BSで借入が増えていて、CSの営業の現金がマイナスなので、利益は出ていても現金繰りは要注意です」と発言できたら、もうあなたは数字で会社の状態を語れています。なお、同業他社との比較や、もっと細かい比率分析は、この入門講座では扱いません。決算書のさらに詳しい読み方は、kouza-102で深められます。
この章の確認(演習):共通例「A社」の3表の所見(PL・BS・CSを各1文)から、会社の状態を1〜2文で総合判断してみてください。次に、自社または身近な会社で「まずPLのどこ・次にBSのどこ・最後にCSのどこを見るか」、着眼点を3つ書いてみます。3表をつなげて会社の状態を読む手順を、自分の対象で手を動かして確かめられたら、ゴール達成です。
まとめ:財務諸表は会社の健康診断。もうけ(PL)・財産と借金(BS)・現金(CS)の3点で会社が見える
おつかれさまでした。「架空のカフェ会社A社の財務三表」という、たった1社の決算書を、財務諸表とは何か→PL→BS→CS→3表をつなげる、と1枚ずつ組み上げてきました。歩いてきた道を振り返ります。
- 財務諸表とは=会社の成績表(健康診断)……財務諸表は会社のお金の状態をまとめた書類で、代表が財務三表=PL・BS・CSの3枚。役割の違う3枚で会社を違う角度から診る。1枚では会社は語れない(第1章)。
- PL=1年間で儲かったか……売上から費用を上から順に引いて、粗利(売上−売上原価)→営業利益(粗利−販管費)と段階で残る。まず本業の儲け=営業利益を見る。ただしPLの黒字だけで安全とは決めない(第2章)。
- BS=財産と借金のバランス……今この瞬間の、持ち物(資産)・借金(負債)・自分のお金(純資産)。右=集め方/左=使い道だから資産=負債+純資産で左右は必ず一致する。純資産が厚いほど安定(第3章)。
- CS=現金の増減……1年間で現金が増えたか減ったかを、営業・投資・財務の3区分で見る。要は営業(本業)の現金。利益と現金は別物で、黒字でも営業の現金がマイナスなら現金が尽きうる(第4章)。
- 3表をつなげて会社の状態を読む……PL→BS→CSの順で各表の着眼点を1つに絞り、所見を並べて1〜2文で総合判断する。「PL黒字・BS借金多め・CS営業マイナス」なら現金繰りが危ない(第5章)。
この5つは、すべて1つの問いに戻ります。「利益(PL)が出ていても現金(CS)が減っていれば要注意。1枚でなく、3表をつなげて見られているか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——財務諸表は会社の健康診断。もうけ(PL)・財産と借金(BS)・現金(CS)の3点で会社が見える。
明日の最初の一歩:自社か身近な会社(取引先・気になる上場企業のIR)の決算書を1つ開き、「PLは黒字か」「BSは純資産が厚いか」「CSは営業の現金がプラスか」の3点だけをチェックして、会社の調子を1〜2文で書いてみてください。全部の数字を読む必要はありません。3表の着眼点を1つずつに絞って、会社の調子を言葉にする——それが財務諸表を読む第一歩です。
その3点チェックを、迷わず手元でできるように、「財務三表 読み方チェックシート」を無料で配布しています。PL→BS→CSの順番と、各表の着眼点を1枚にまとめたテンプレートです。「財務三表 読み方チェックシートを無料でダウンロード」から受け取り、実際の決算書を開いて手を動かしてみてください。
もっと深めたくなったら、その先の道も用意されています。粗利の計算(粗利率など)をくわしく知りたいなら kouza-022 で、売上がいくらになれば黒字になるか(損益分岐点)は kouza-023 で、決算書のさらに詳しい読み方は kouza-102 で深められます(会計の基礎=売上・費用・利益は、出発点の kouza-020 で学べます)。本講座はあくまで「財務三表(PL・BS・CS)の役割と、3表をつなげて会社の状態をざっくり読む全体像」に絞り、個別科目の細目や経営分析比率の深掘りはしていません。まずはこの3点の着眼点を、身近な1社で試すところから始めましょう。
よくある質問
財務諸表と決算書は何が違いますか?
決算書とは財務諸表を含む書類一式の総称として使われることが多く、この講座では実質的に同じ意味で扱っています。PL・BS・CSという財務三表は、決算書の中心を成す3枚の表です。
PL・BS・CSのうち、どれを最初に見ればよいですか?
この講座では「PL(本業の儲け)→BS(財産と借金のバランス)→CS(本業の現金)」の順を推奨しています。各表の着眼点を1つに絞って順に見ることで、手が止まりにくくなります。
黒字倒産とはどういう意味ですか?
PL(損益計算書)上は利益が出ていても、CS(キャッシュフロー計算書)の営業活動の現金がマイナスになり、実際の手元現金が尽きて支払いができなくなる状態を指します。利益と現金は必ずしも一致しないため、CSで現金の動きを別途確認する必要があります。
貸借対照表(BS)の左右がいつも一致するのはなぜですか?
右側は「お金をどうやって集めたか(負債+純資産)」、左側は「集めたお金を何に使っているか(資産)」を示しています。同じお金を集め方と使い道の両面から見ているだけなので、資産=負債+純資産は必ず成り立ち、左右は常に一致します。
初心者でも財務諸表を読めるようになりますか?
はい。この講座では簿記の知識を前提とせず、架空のカフェ会社A社1社を例に、「もうけ・財産と借金・現金」の3つの角度から順に読む手順を説明しています。各章末の演習で手を動かすことで、実際の決算書で3表の着眼点を確かめられる状態を目指しています。