「今月、いくら売れば黒字になる?」——会議でそう聞かれて、売上目標の数字はすぐ言えるのに、「黒字に変わる売上のライン」のほうは答えられず、言葉に詰まってしまった。値下げや販促を「数を売れば取り返せる」と感覚で決めて、後から「思ったより利益が残らなかった」となる。売上目標は言えるのに、その売上で利益が残るのかは分からない——売上数量や値下げの判断を任され始めた頃、こんな経験はありませんか。
同じ「今月いくら売れば黒字?」という問いに、売上目標しか言えない人と、「うちは月いくら売れば赤字を抜けて黒字に変わります」と数字で即答できる人がいます。違いは、数字に強いかどうかでも、会計の専門知識があるかどうかでもありません。費用を2つに分けて、決まった割り算をしているかだけです。その割り算が、この講座の背骨になる一本の式、損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率です。
kouza-020 で「利益=売上−費用」を学びました。その自然な次の一歩が、売上がいくらになれば利益がゼロ(=赤字を抜けて黒字に変わる)かを出す損益分岐点です。費用を固定費と変動費に分けて、固定費を限界利益率で割るだけ。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。
- 費用を、固定費(売上に関係なく毎月かかる)と変動費(売れた分だけ増える)に区別できる(分け方の基準を説明できる)
- 限界利益=売上−変動費、限界利益率=限界利益÷売上(=1−変動費率) を、実際の数値で計算できる(粗利との違いも区別できる)
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率を使って、「いくら売れば黒字になるか」を計算できる
この講座は最後まで、「小さなカフェ1店舗のお金」(固定費=月180,000円、変動費率=売価の40%)という、たった1つの単純な商売だけで説明します。この同じカフェを、損益分岐点とは何か→費用を固定費と変動費に分ける→限界利益と限界利益率を計算する→損益分岐点売上高を計算する、と1段ずつ組み上げていきます。各章末には手を動かす演習も置いているので、書きながら読み進めてみてください。まずは、この一本の式を自分の数字で動かせるよう、損益分岐点計算テンプレートを無料でダウンロードしておくと、各章の計算をそのまま埋めながら進められます。
この講座のポイント
- 損益分岐点が「売上と費用がちょうど等しくなり、利益がゼロになる売上の大きさ」だと、kouza-020 の利益=売上−費用と結びつけて説明できる
- 費用を、固定費(売上に関係なく毎月かかる)と変動費(売れた分だけ増える)に区別でき、共通例で仕分けられる
- 限界利益=売上−変動費、限界利益率=限界利益÷売上 を実際の数値で計算でき、粗利との違いも区別できる
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率(=固定費÷(1−変動費率)) を使い、「いくら売れば黒字になるか」を計算できる
損益分岐点とは(売上と費用が等しく、利益がゼロになる点)
まずは「今月いくら売れば黒字?」に詰まるモヤモヤの正体を、はっきりさせましょう。損益分岐点という言葉を、自分の数字で使えるようにする土台の章です。
この章のゴール
この章を読み終えると、損益分岐点が「売上と費用がちょうど等しくなり、利益がゼロになる売上の大きさ」だと、kouza-020 の利益=売上−費用と結びつけて説明できるようになります。
「今月いくら売れば黒字?」に詰まる正体
あなたの数字の力が足りないわけではありません。多くの場合、売上目標の数字は持っているのに、「そこから費用が引かれて、どこで黒字に変わるか」というラインを、数字で持っていない——これが「いくら売れば黒字?」に詰まる正体です。
売上目標を達成したら本当に利益が残るのか、目標に届かなくてもどこまでなら赤字にならないのかは、別の計算です。このラインを数字で持っていないから、「値下げして数を売れば取り返せる」と感覚で決めてしまい、後から「思ったより残らなかった」となるのです。
ここで覚えてほしい背骨はひとつです。黒字に変わる売上ラインは、感覚ではなく、固定費÷限界利益率という決まった割り算で出せる。この一本の式を自分の手で動かせるようにするのが、この講座のゴールです。その第一歩が、「黒字に変わる売上ライン」に名前をつけること——それが損益分岐点です。
損益分岐点=利益がゼロになる売上(赤字を抜けて黒字に変わるライン)
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど等しくなって、利益がゼロになる売上の大きさのことです。kouza-020 で学んだ「利益=売上−費用」で言えば、利益=0 になる売上のこと。これより売上が多ければ利益が出て黒字、少なければ赤字になります。だから損益分岐点は、「赤字を抜けて黒字に変わる売上ライン」だと言えます。
売上目標を立てるとき、このラインを知っていれば、「最低いくら売れば赤字にならないか」がはっきりします。「今月いくら売れば黒字?」と聞かれても、「うちの損益分岐点は売上◯円なので、そこを超えれば黒字です」と答えられるわけです。
ここで取り違えてほしくない点が2つあります。ひとつは、損益分岐点は「利益が出る点」ではなく「利益がゼロになる点」だということ。その点をちょうど通るだけではまだ利益はゼロで、そこを超えて初めて黒字になります。もうひとつは、売上目標=損益分岐点ではないということ。損益分岐点は「これを下回ると赤字」という下限のラインで、売上目標は本来その上に置くものです。
なぜ「費用と同じだけ売れば黒字」にならないか
ここで素朴な疑問がわくかもしれません。「だったら、費用と同じ額を売れば、ちょうどトントンで黒字になるのでは?」と。実は、ここが損益分岐点のいちばん大事なポイントです。
単純に「費用と同じ額を売れば黒字」とはなりません。なぜなら、売上が増えると、費用の一部も一緒に増えてしまうからです。コーヒーをたくさん売れば、その分だけ豆や牛乳の費用も増えます。売上を追いかけるように費用の一部も増えるので、「費用と同じ額を売ればトントン」という単純計算にはならないのです。
だから、損益分岐点を計算するには、まず費用を「売上が増えると増えるもの」と「売上に関係なく一定でかかるもの」に分ける必要があります。この分け方が、次の第2章のテーマです。この章では計算はまだしません。
ここで、共通例の「小さなカフェ」に初めて登場してもらいましょう。このカフェでは、毎月、家賃や人件費などでお金が決まって出ていきます。コーヒーが1杯も売れなくても、この費用はかかります。つまり、月のはじまりは「赤字スタート」。そこからコーヒーが売れるほど赤字は縮んでいき、あるラインで売上と費用がちょうど等しくなって利益がゼロになる——それより上に売れば黒字、というイメージです。この「利益がゼロになる点がどこかにある」という感覚だけ、いまは掴んでください。このカフェを、これから全部の章で「立ち戻る原点」として使い回します。
この章の確認(演習):共通例「カフェ」について、「売上がゼロでもかかるお金」を1つ、「売上が増えると一緒に増えるお金」を1つ、それぞれ挙げてみてください(たとえば家賃と、コーヒーの材料費)。そのうえで、「この2つがあるから、売上が増えると赤字が縮んでいって、どこかで利益がゼロになる売上の線があるはずだ」ということを、自分の言葉で1〜2行で書いてみます。計算はまだしません。損益分岐点が「利益0になる売上ライン」だと、利益=売上−費用と結びつけて自分の手で言語化できたら、ゴール達成です。
費用を固定費と変動費に分ける
第1章で「売上が増えると費用も増える分がある」と見ました。その正体を分けるのが、この章です。損益分岐点を計算する準備として、費用を2種類に仕分けます。
この章のゴール
この章を読み終えると、費用を、固定費(売上に関係なく毎月かかる)と変動費(売れた分だけ増える)に区別でき、共通例で仕分けられるようになります。
損益分岐点を計算する準備は、費用を2種類に分けること
費用は一色ではありません。ざっくり2種類に分けて見ることができます。売れても売れなくても毎月決まってかかる費用と、売れた分だけ増える費用です。第1章で見た「売上が増えると一緒に増える費用」が、後者にあたります。
なぜ分けるのかというと、この2つは売上に対する動き方がまったく違うからです。ひとまとめにしていると「売上が増えたら費用がいくら増えるか」が読めませんが、きれいに分けておくと後の計算が一気にやさしくなります。損益分岐点を出すための、最初の下ごしらえだと思ってください。
固定費=毎月決まってかかる/変動費=売れた分だけ増える
では、2種類に名前をつけます。
ひとつめは固定費です。固定費とは、売上が増えても減っても、毎月ほぼ決まってかかる費用のこと。お店の家賃は、コーヒーが1杯も売れなかった月でも、満席の月でも、同じ金額がかかります。基本の人件費(毎月決まって払う分)やリース料なども、この仲間です。
もうひとつは変動費です。変動費とは、売れた分だけ増える費用のこと。コーヒーがたくさん売れれば、それだけ豆も牛乳もカップも使うので増えますし、売れなければほとんどかかりません。材料費・仕入れ・販売手数料・配送料などが、これにあたります。
kouza-020 でも、費用に「売れた分だけ増える費用」と「毎月決まってかかる費用」があることに軽く触れました。本講座では、この分け方そのものが、損益分岐点を計算する土台になります。
ここで先回りして潰しておきたい誤解があります。「この費目は必ず固定費」「この費目は必ず変動費」と硬く暗記しようとすることです。大事なのは費目の名前ではなく、その費用が「売上に連動して動くか/動かないか」という性質のほうです。たとえば人件費でも、毎月決まって払う固定給は固定費に近く、忙しいときだけ来てもらうアルバイトの歩合は変動費に近い、というように、同じ費目でも分かれることがあります。境界が微妙なものを無理に断定せず、「これは売れた分だけ増えるかな、それとも毎月かかるかな」と問う習慣のほうが、暗記よりずっと役に立ちます。
変動費は「売上の何%か」=変動費率でまとめる
変動費は、金額そのままでなく、売上に対する割合で捉えると、後の計算でぐっと使いやすくなります。この割合を変動費率と呼びます。式で書くと、変動費率=変動費÷売上です。
なぜ割合にするかというと、率は売上の大きさが変わっても一定だからです。コーヒー1杯の材料費が売価の40%なら、10杯売っても100杯売っても、変動費は「売上の40%」のままです。金額は売上に応じて増えますが、率は動きません。だから一度この率を掴んでおけば、どんな売上でも「変動費は売上の◯%」と一発で出せます。
ここで共通例の「カフェ」を仕分けてみましょう。家賃・基本の人件費などをまとめて、固定費=月180,000円とします。コーヒー1杯あたりの豆・牛乳・カップ代などの材料費が売価の40%、つまり変動費率40%だとします。この2つを並べると、「売れても売れなくても、毎月180,000円は出ていく」「売れた1杯ごとに、売価の40%が材料費として出ていく」と整理できます。たくさん売れた月は変動費の合計額は増えますが、固定費の180,000円は変わりません——この対比が、2種類の違いをよく表しています。この「固定費180,000円・変動費率40%」を、第3章・第4章でそのまま使っていきます。
この章の確認(演習):共通例「カフェ」の費用(家賃・材料費・人件費・水道光熱費など)を、固定費/変動費に仕分けてみてください。「売上が増えると増えるか?」と問い、増えるなら変動費、変わらないなら固定費です。そのうえで、変動費を「売価の何%か(変動費率)」でまとめます。次に、自分の仕事や身近な商売で、固定費・変動費を1つずつ挙げてみてください。費用を「売上で増えるか/増えないか」の機能で仕分け、変動費を率でまとめる感覚が手で確かめられたら、ゴール達成です。
限界利益と限界利益率を計算する(限界利益=売上−変動費)
費用を固定費と変動費に分けられたら、次は「売上から変動費を引いた残り」を計算します。ここで出てくる限界利益と限界利益率が、損益分岐点の式の分母になります。
この章のゴール
この章を読み終えると、限界利益=売上−変動費、限界利益率=限界利益÷売上 を実際の数値で計算でき、粗利との違いも区別できるようになります。
限界利益=売上−変動費(固定費の回収に使えるお金)
売上から変動費を引いた残りを、限界利益と呼びます。式で書くと、限界利益=売上−変動費です。第2章で分けた変動費を、売上から引くだけです。
この限界利益は何を表すお金でしょうか。それは「固定費の回収に使えるお金」です。コーヒーが1杯売れると、その売上から材料費(変動費)が出ていきますが、残った分は家賃や人件費といった固定費を払うために使えます。売れば売るほどこの限界利益が積み上がり、やがて固定費を全部まかなえる——その点が、第4章で出す損益分岐点です。つまり限界利益は、「固定費を回収して、最後に利益を生むための元手」だと考えてください。
引く相手は変動費です。ここを取り違えないでください(後で出てくる「粗利」とは引く相手が違います。3-3で説明します)。
限界利益率=限界利益÷売上(=1−変動費率)
限界利益が売上に占める割合を、限界利益率と呼びます。式で書くと、限界利益率=限界利益÷売上です。これは「売上1円のうち、何円を固定費の回収と利益に回せるか」を表します。
ここで便利な関係があります。限界利益率=1−変動費率です。売上を1(=100%)としたとき、変動費率の分(たとえば40%)が変動費に出ていくので、残りの「1−変動費率」が限界利益率になります。だから変動費率が40%なら、限界利益率は1−0.4=0.6(60%)。金額から割り算しなくても、変動費率から一発で出せます。
注意したいのは、割合は小数で扱うことです。60%は計算では0.6として使います。「60」のまま後の割り算に持ち込むと桁を間違えます(第4章でもう一度念を押します)。また、限界利益(金額)と限界利益率(割合)は別物です。金額なのか率なのかを、毎回はっきり意識してください。
限界利益(売上−変動費)と粗利(売上−原価)は別物
ここで、よく混同される言葉を整理します。限界利益と「粗利」は、似ているようで別物です。
限界利益は、売上から変動費を引いたもの(限界利益=売上−変動費)。一方、粗利(売上総利益)は、売上から売上原価を引いたもの(粗利=売上−売上原価)です。引く対象が、変動費なのか、売上原価なのか——ここが違うので、別物になります。
なぜこの区別が大事かというと、損益分岐点の計算で使うのは、限界利益(売上−変動費)のほうだからです。粗利と混同して、変動費を引くべきところで原価を引いてしまうと、損益分岐点の計算がずれてしまいます。「損益分岐点で使うのは、売上から変動費を引いた限界利益」と覚えてください。
なお、粗利率の計算など粗利そのものを詳しく扱う各論には、この講座では踏み込みません(粗利については kouza-022 でくわしく学べます)。ここでは「限界利益は変動費を引く、粗利は売上原価を引く、引く相手が違う別物」という区別だけ押さえておけば十分です。
ここまで来たら、共通例の「カフェ」で実際に計算してみましょう。月の売上が仮に300,000円だったとします。変動費率は40%なので、変動費=300,000×0.4=120,000円。すると、限界利益=売上−変動費=300,000−120,000=180,000円です。そして限界利益率=限界利益÷売上=180,000÷300,000=0.6(60%)。第2章の変動費率40%から、1−0.4=0.6 と出した値と、ぴったり一致します。金額から出しても、率から出しても、同じ0.6になることを確かめてください。
この章の確認(演習):共通例「カフェ」で、売上を変えて計算してみてください。たとえば売上を250,000円にすると、変動費=250,000×0.4=100,000円、限界利益=250,000−100,000=150,000円、限界利益率=150,000÷250,000=0.6(60%)です。売上の大きさを変えても、変動費率が40%のままなら、限界利益率は0.6で一定になることを確かめてみましょう。限界利益=売上−変動費、限界利益率=1−変動費率を、別の売上でも手で計算して定着できたら、ゴール達成です。
損益分岐点売上高を計算する(固定費÷限界利益率)
いよいよ仕上げです。第1〜3章で組み立てた材料——損益分岐点の意味、固定費、限界利益率——を1本の式に結びつけて、「いくら売れば黒字になるか」を計算します。
この章のゴール
この章を読み終えると、損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率(=固定費÷(1−変動費率)) を使い、「いくら売れば黒字になるか」を計算できるようになります。
損益分岐点=限界利益がちょうど固定費と等しくなる売上
第3章で、限界利益は「固定費の回収に使えるお金」だと見ました。売れば売るほど限界利益が積み上がり、やがて固定費を全部まかなえます。
その「固定費を全部まかなえた点」こそが、損益分岐点です。損益分岐点(利益ゼロ)とは、限界利益がちょうど固定費と等しくなる売上のこと。限界利益で固定費を回収しきった瞬間に、利益がゼロになります。式で言えば「限界利益−固定費=0」になる点。これより売上が多ければ限界利益が固定費を上回って黒字、少なければ赤字です。第1章で「利益がゼロになる売上ライン」と言ったものを、限界利益と固定費の言葉で言い直しただけです。
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率(本講座の背骨の式)
では、この関係から、損益分岐点の売上を計算する式を導きます。
損益分岐点では、限界利益=固定費でした。そして、限界利益は「売上×限界利益率」でも表せます(限界利益率は売上に占める限界利益の割合なので、売上に率を掛ければ限界利益の金額になります)。この2つを並べると、売上×限界利益率=固定費。両辺を限界利益率で割れば、損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率——これが本講座の背骨の式です。限界利益率=1−変動費率なので、=固定費÷(1−変動費率) とも書けます。
この式さえあれば、「黒字に必要な最低売上」が一発で出ます。ここで絶対に取り違えないでほしい点が3つあります。
第一に、割るのは限界利益率(または1−変動費率)です。「固定費÷変動費率」と取り違えないでください。回収に使えるお金の割合(限界利益率)で割るのであって、出ていくお金の割合(変動費率)で割るのではありません。
第二に、限界利益率は小数で割ることです。180,000÷0.6 のように計算します。「÷60」とすると桁が大きくずれます。
第三に、損益分岐点売上高は「固定費と同じ額」ではないことです。固定費180,000円だから180,000円売ればいい、ではありません。売れば変動費も出ていくので、固定費を回収しきるには固定費より多く売る必要があります。
検算と感度:固定費が増える/限界利益率が下がると黒字ラインは上がる
計算したら、必ず検算しましょう。出した損益分岐点売上高で、本当に「限界利益=固定費・利益0」になっているかを確かめます。検算をすると、式の取り違えや桁ミスにその場で気づけます。
さらに、この式からは「黒字ラインがどう動くか」も読めます。固定費が増えると、損益分岐点売上高は上がります(割られる数が大きくなるため)。また、変動費率が上がる=限界利益率が下がると、損益分岐点売上高は上がります(割る数が小さくなるため)。ここが、第1章で触れた「値下げして数を売れば取り返せる」という感覚判断を、計算で検証できるポイントです。値下げをすると1杯あたりの限界利益率が下がり、黒字に必要な売上は増えるので、「思ったより売らないと黒字にならない」ことが数字で見えます。値下げや価格をどう決めるかという戦略そのものは kouza-024 でくわしく扱いますが、ここでは「値下げは黒字ラインを押し上げる」と計算で言えることを押さえてください。
それでは、共通例の「カフェ」で実際に出してみましょう。固定費は180,000円、限界利益率は0.6(変動費率40%)でした。すると、損益分岐点売上高=180,000÷0.6=300,000円。つまり、月に300,000円売れば利益はちょうどゼロ、それを超えれば黒字です。
検算してみます。売上が300,000円のとき、変動費=300,000×0.4=120,000円、限界利益=300,000−120,000=180,000円。これは固定費180,000円とぴったり同じです。利益=限界利益−固定費=180,000−180,000=0。きれいに利益ゼロになり、1円もズレていません。これで「300,000円が黒字に変わるライン」だと確かめられました。固定費の180,000円ではなく、変動費がある分、300,000円必要だった——という点も、ここで実感できます。
応用も見ておきましょう。もし値下げをして変動費率が上がり、限界利益率が0.6から0.5に下がったとします。すると、損益分岐点売上高=180,000÷0.5=360,000円。黒字に必要な売上が300,000円から360,000円へと増えました。「数を売れば取り返せる」と感覚で決めるのではなく、「値下げすると黒字ラインが300,000円から360,000円に上がるから、それ以上売れる見込みがあるか」と、数字で判断できるわけです。
この章の確認(演習):共通例「カフェ」で、固定費を変えて損益分岐点売上高を計算してみてください。たとえば固定費を210,000円(変動費率40%、限界利益率0.6のまま)にすると、損益分岐点売上高=210,000÷0.6=350,000円。検算は、売上350,000円のとき変動費=140,000円、限界利益=350,000−140,000=210,000円=固定費、利益=0で合っています。次に、自分の関わる商売・チームの固定費(毎月決まって出るお金)と変動費率(売上に対して何%出ていくか)を仮に置いて、損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率を1つ計算し、検算で利益ゼロを確かめてみてください。自分の数字で損益分岐点売上高を出し、検算まで手で確かめられたら、ゴール達成です。
まとめ:黒字ラインは、固定費÷限界利益率で出せる
おつかれさまでした。「小さなカフェ1店舗のお金」という、たった1軒のお店を、損益分岐点とは何か→費用を固定費と変動費に分ける→限界利益と限界利益率を計算する→損益分岐点売上高を計算する、と1段ずつ組み上げてきました。歩いてきた道を振り返ります。
- 損益分岐点とは……売上と費用がちょうど等しく、利益がゼロになる売上=赤字を抜けて黒字に変わるライン。kouza-020 の「利益=売上−費用」で言えば、利益=0 になる売上のこと。利益が出る点ではなく、そこを超えて初めて黒字になる点(第1章)。
- 費用を固定費と変動費に分ける……固定費=売上に関係なく毎月決まってかかる費用、変動費=売れた分だけ増える費用。変動費は売上に対する割合=変動費率(変動費÷売上)でまとめる。分け方は「売上に連動するか/しないか」で判断(第2章)。
- 限界利益と限界利益率を計算する……限界利益=売上−変動費(固定費の回収に使えるお金)。限界利益率=限界利益÷売上(=1−変動費率)。粗利(売上−売上原価)とは引く対象が違う別物で、損益分岐点で使うのは限界利益のほう(第3章)。
- 損益分岐点売上高を計算する……損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率(=固定費÷(1−変動費率))。カフェなら180,000÷0.6=300,000円。必ず検算し、固定費が増える/限界利益率が下がると黒字ラインは上がる(第4章)。
この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「黒字に変わる売上ラインを、感覚でなく、固定費÷限界利益率で出せているか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——黒字ラインは、固定費÷限界利益率で出せる。これが身につくと、「今月いくら売れば黒字?」に数字で即答でき、値下げや数量目標も計算で判断できるようになります。
明日の最初の一歩:自分の関わる商売・チームの固定費(毎月決まって出るお金)と変動費率(売上に対して何%出ていくか)を、ざっくりでいいので置いてみてください。そして、損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率を、1回だけ計算してみます。きれいな数字でなくてかまいません。「うちは月いくら売れば黒字に変わるのか」を、自分の数字で1つ出すこと——それが、感覚判断から抜け出す第一歩です。損益分岐点計算テンプレートを無料でダウンロードすれば、固定費・変動費率を入れるだけで、限界利益率から損益分岐点売上高、検算まで一通り埋められます。
もっと深めたくなったら、その先の道も用意されています。費用・利益の基本(利益=売上−費用)をもう一度押さえたいなら kouza-020(会計の基礎)、粗利(売上総利益)の計算をくわしく知りたいなら kouza-022、値下げや価格の決め方(価格戦略)は kouza-024 で深められます。本講座はあくまで「損益分岐点の計算=固定費・変動費・限界利益から”いくら売れば黒字になるか”を出すこと」に絞っています。まずはこの一本の式を、自分の数字で動かせるようにしておきましょう。
よくある質問
損益分岐点とは何ですか?
売上と費用がちょうど等しくなり、利益がゼロになる売上の大きさのことです。この点を超えて売れれば黒字になり、下回れば赤字になります。
固定費と変動費はどう見分ければよいですか?
「売上が増えると一緒に増えるかどうか」で判断します。売れても売れなくても毎月決まってかかるもの(家賃・基本の人件費など)が固定費、売れた分だけ増えるもの(材料費・仕入れなど)が変動費です。
限界利益と粗利はどう違いますか?
引く対象が異なります。限界利益は売上から変動費を引いたもの、粗利(売上総利益)は売上から売上原価を引いたものです。損益分岐点の計算で使うのは限界利益のほうです。
損益分岐点売上高はどう計算しますか?
「固定費÷限界利益率」で求められます。限界利益率は「1−変動費率」で出せるため、「固定費÷(1−変動費率)」とも表せます。計算後は、その売上で限界利益が固定費と等しくなることを検算で確かめましょう。
値下げをすると損益分岐点はどう変わりますか?
値下げをすると1件あたりの限界利益率が下がるため、損益分岐点売上高は上がります。つまり黒字にするために必要な売上が増えるので、値下げで数を売って取り返せるかどうかは計算で確認することが大切です。