ミスは「気をつけ」では減らない——仕組みで防ぐ発想 | マナビズ

ミスは「気をつけ」では減らない——仕組みで防ぐ発想

請求書の宛先を間違えて送ってしまった。提出書類の一項目が抜けていた。同じ転記ミスをまたやってしまった。そのたびに「次は気をつけます」と頭を下げ、上司も「気をつけてね」と返す。けれど、しばらくするとまた似たミスが起きる。あなたにも、こんな心当たりはありませんか。

ミスが減らない原因は、あなたの注意力が足りないからではありません。「気をつける」という対策そのものが、いちばん効かないやり方だからです。この講座でお伝えしたいのは、たった1つ。ミスは気合でなく仕組みで減らす、ということです。

この講座を読み終えると、あなたは次のことができるようになります。ミスを根性論でなく仕組みの問題として説明できる。対策には効きめの強さに順番(階層)があると説明できる。そして、繰り返している自分のミスを1つ選び、仕組みに変える視点を使い分けられるようになります。

ここでは「毎月の請求書発行」という、若手の進行管理担当が抱えがちな場面を最後まで使い回します。宛先の取り違え、添付忘れ、金額の転記ミス。この身近なミスを題材に、考え方を組み立てていきましょう。

この講座のポイント

  • ミスは個人の不注意ではなく、複数の要因が連鎖した結果として起こると説明できる
  • ミス対策の有効性には階層があり、上位の「仕組み」ほど強く、下位の「注意・教育」ほど弱いと説明できる
  • 繰り返している自分のミスを1つ選び、それを仕組みに変える最初の一歩を作成できる

「気をつけます」がミスを減らさない理由

「次は気をつけます」と言ったのに、また同じミスをした。これはあなただけの問題ではありません。「気をつける」という言葉の中身を分解すると、なぜ効かないのかが見えてきます。

この章のゴール

この章を読み終えると、ミスは個人の不注意ではなく、複数の要因が連鎖した結果として起こると説明できるようになります。

ミスは「最後のドミノ」にすぎない

請求書の宛先を間違えたとき、私たちはつい「自分の確認不足だ」と結論づけます。でも実際には、その手前にいくつもの要因が並んでいます。似た会社名が取引先に2社あった。締め日が重なって急いでいた。宛先を選ぶ画面が紛らわしかった。引き継いだやり方に確認の手順が入っていなかった。

ヒューマンエラーは、こうした複数の変数が連鎖した結果の「最後のドミノ」にすぎない、という考え方があります。最後に倒れたドミノ(あなたの操作)だけを責めても、手前のドミノは残るので、また倒れます。ここが仕組みで防ぐ発想の出発点です。

大事なのは、誰もわざとミスをしようとして仕事に来ているわけではない、という事実です。だからこそ、本人の「気持ち」や「性格」といった会社が制御できないものに焦点を当てても改善は機能しません。焦点を当てるべきは、制御できる要因です。手順、使う道具、画面のレイアウト、フォーマット。これらは変えられます。

「気をつける」は、対策の中でいちばん弱い

ミスのメカニズムを知るために、エラーが起きる型を見ておきましょう。ミスは大きく次の5つに分けられます。覚えるためではなく、「気持ちでは止められない」と実感するためです。

  • 記憶エラー……手順を覚えられない、思い出せない(請求書の送付前チェック項目をうっかり飛ばす)
  • 認知エラー……見間違い・聞き違い(似た会社名を取り違える)
  • 判断エラー……似た選択肢の選び間違い(宛先リストで隣の行を選ぶ)
  • 行動エラー……慌てて手順を誤る(添付前に送信ボタンを押す)
  • ルール違反……忙しさや慣れで確認を省く(急いでいてダブルチェックを飛ばす)

どれも「気をつけよう」という気持ちの強さとは無関係に起こります。記憶は薄れ、目は錯覚し、手は急ぐ。人間とはそういうものです。だから、「気をつける」=注意や心がけは、対策の中でいちばん弱いのです。ある専門家は、教育や注意喚起だけに頼る対策を「予測どおりがっかりする」と評したほどです。

ここでつまずきやすい
「結局は本人の意識の問題でしょう」と考えてしまうこと。意識を高く保てる日もありますが、忙しい日・疲れた日には必ず下がります。意識に頼る対策は、いちばん下がりやすいところに全体重を乗せている状態です。

この章の確認(演習)

最近やってしまったミスを1つ思い出してください。そのうえで、「最後のドミノ」の手前に並んでいた要因を3つ書き出します。急いでいた、画面が紛らわしかった、手順に確認が入っていなかった——あなたの操作以外の要因を3つ挙げられれば、ミスを連鎖として捉えられています。

対策には効きめの順番がある——仕組み優先で考える

ミスが連鎖の結果だと分かれば、次の問いは「では、どこを変えれば連鎖が止まるのか」です。対策には、効きめの強さに順番があります。

この章のゴール

この章を読み終えると、ミス対策の有効性には階層があり、上位の「仕組み」ほど強く、下位の「注意・教育」ほど弱いと説明できるようになります。

強い対策から弱い対策へ:有効性の階層

医療安全の分野には、対策の有効性を強い順に並べた「階層」という考え方があります。強い順に並べると、次のようになります。

  • そもそも間違えられない仕組み・制約(いちばん強い)
  • 自動化・システムによる処理
  • 簡素化・標準化
  • リマインダー・チェックリスト
  • ダブルチェック
  • ルール・方針
  • 教育・注意喚起(いちばん弱い)

上にいくほど「仕組みの信頼性」に頼り、下にいくほど「人の注意力・記憶」に頼ります。「気をつける」はこの一番下です。つまり私たちは普段、いちばん効かない対策から手をつけているのです。

請求書の宛先ミスで考えましょう。「気をつける」(最下位)の代わりに、上位の対策を当ててみます。宛先を毎回手入力するのをやめ、取引先を選択式のリストから選ぶ形にする(選択式=間違えにくくする)。さらに、似た会社名には社名の後ろに部署や番号を付けて区別できないようにする(そもそも取り違えられない制約)。同じミスでも、当てる対策の「高さ」を1段上げるだけで、再発のしやすさはまるで変わります。

オフィスでの仕組み化:「気をつける」を「間違えられない形」に変える

製造の現場には「ポカヨケ」(フールプルーフとも言います)という考え方があります。人の作業ミスを未然に防ぐ仕組みのことで、トヨタ生産方式から生まれ、今は世界共通の概念になっています。たとえば、向きを間違えると物理的にはまらない部品の形にする、といった工夫です。これをオフィスの仕事に翻訳すると、こうなります。

  • 入力フォームの必須項目を空欄のままでは送信できなくする(提出物の項目抜けを防ぐ)
  • 自由入力をやめて選択式にする(転記ミス・表記ゆれを防ぐ)
  • テンプレートで項目を固定する(記載漏れを防ぐ)
  • 送信前に宛先や添付ファイルの有無を自動で警告させる(誤送信・添付忘れを防ぐ)

共通しているのは、「気をつける」を「間違えられない形」に置き換えている点です。注意して防ぐのではなく、そもそも間違いが起きない・起きても気づける形にする。これが仕組みで防ぐということです。

ここでつまずきやすい
いきなり最上位の「完璧な仕組み」を目指して、手が止まってしまうこと。最初は1段上げるだけで十分です。「手入力→選択式」「記憶→チェックリスト」のように、いま注意で頑張っている部分を1つ、仕組みに置き換えるところから始めます。

この章の確認(演習)

第1章で書き出したミスについて、いま自分が取っている対策がこの階層のどこにあるかを確かめてください。多くの場合、いちばん下の「気をつける」のはずです。そのうえで、1段でも上の対策を1つ書き出します。「選択式にする」「テンプレートにする」など、具体的な形で書ければ合格です。

繰り返すミスを1つ、仕組みに変える

考え方は分かっても、全部を一度に仕組み化しようとすると挫折します。最後は、どれから手をつけるかを絞り込みます。

この章のゴール

この章を読み終えると、繰り返している自分のミスを1つ選び、それを仕組みに変える最初の一歩を作成できるようになります。

全部やろうとしない:被害の大きい1つに絞る

対策は、多ければよいわけではありません。あれもこれもチェック項目を増やすと、1つひとつが薄まり、結局どれも形だけになります。だから、まず絞ります。基準は「間違えたときの被害がいちばん大きいもの」を1つだけ選ぶことです。

請求書の例なら、項目の表記ゆれより、宛先や金額の間違いのほうが被害は大きい。だとすれば、最初に仕組み化すべきは宛先と金額です。被害の大きい1点に資源を集中させ、そこを確実に止める。これが、形だけにしないコツです。

「人の二重化」より「システムの照合」が強い

繰り返すミスにありがちな対策が、ダブルチェックです。ただし、ただ2人で見れば安心、ではありません。効くダブルチェックには条件があります。

人は「これで合っている」と思って手にしたものを、自分では客観的に見直せません。脳が「期待するもの」を見せるため、本人が何度見直しても同じ見落としをします。だから、2人目が1人目の結果を知らずに、ゼロから独立して確認することが決定的に重要です。一緒に読み上げる確認では2人の盲点が重なり、ネットは1枚しかないのと同じ。形だけになります。

そして、可能ならダブルチェックそのものを超えるのが理想です。人の注意を二重にするより、システムで機械的に照合するほうが強いからです。医療現場の研究では、バーコードで患者と薬を機械照合した病院で、害につながる投薬エラーが約60%減ったと報告されています。これは医療の数値ですが、教訓はオフィスにも効きます。請求金額を目で二度見るより、システムが元データと自動で突き合わせて差異を警告する形のほうが確実だ、ということです。

ここでつまずきやすい
ミスが起きるたびに「チェック項目を1つ増やす」対応を重ねてしまうこと。項目が増えるほど確認は薄まり、形骸化します。増やすより、被害の大きい1点に絞り、可能なら人のチェックをシステムの照合に置き換える方向で考えます。

この章の確認(演習)

繰り返している自分のミスを1つ選び、次の3つを1行ずつ書いてください。①どのミスか、②間違えたときの被害の大きさ、③1段上の仕組み(選択式・テンプレ・自動警告・独立した確認など)。この3行が、明日から始める仕組み化の設計図になります。

まとめ

おつかれさまでした。「毎月の請求書発行」という1つの場面を通して、ミスを気合でなく仕組みで減らす考え方を組み立ててきました。要点を振り返ります。

  • ミスは個人の不注意ではなく、複数の要因が連鎖した「最後のドミノ」。だから本人を責めても再発する(第1章)。
  • 対策には効きめの階層があり、「仕組み・制約」がいちばん強く、「気をつける(注意・教育)」がいちばん弱い。普段はいちばん弱い対策から手をつけてしまっている(第2章)。
  • 全部を一度にやらず、被害の大きい1つに絞り、「人の注意」を「間違えられない形」や「システムの照合」に置き換える(第3章)。

覚えて帰ってほしいひと言は、これです。ミスは「気をつけ」では減らない。仕組みで防ぐ。

明日からの最初の一歩。あなたが繰り返しているミスを1つ思い浮かべ、いま「気をつける」で対応している部分を1か所だけ、間違えられない形に変えてみてください。手入力を選択式にする、チェック項目をテンプレートに固定する、送信前に確認が出る設定にする——どれか1つで十分です。注意に頼るのをやめて、仕組みに任せる。その1歩が、同じミスを繰り返さない自分への入り口になります。

よくある質問

ミスをした人を責めてはいけないのですか?

責めても再発防止にはつながりません。ミスは複数の要因が連鎖した結果なので、本人の気持ちではなく、手順や道具など制御できる要因を変えるほうが効果があります。

ダブルチェックをすればミスは防げますか?

条件付きです。2人目が1人目の結果を知らずに独立して確認しないと、盲点が重なり形だけになります。可能なら人の二重確認よりシステムでの自動照合が強い対策です。

まず何から仕組み化すればよいですか?

間違えたときの被害がいちばん大きいミスを1つ選び、そこだけを仕組みに変えます。あれもこれもと増やすと薄まって形骸化するため、対象は1点に絞ります。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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