グロースハック実践入門 | マナビズ

グロースハック実践入門

「今期はグロースハックで数字を伸ばそう」——経営会議でそう宣言したあなたの手元には、施策アイデアが山ほどあります。バナーを変える、メールの件名を変える、オンボーディング画面に説明を足す……。次々に打てるし、実際に打っている。それなのに、半年後に振り返ると、何が効いて何が効かなかったのかが積み上がっていない。上司に「その施策、何の数字をいくら動かすの?」と聞かれて、答えに詰まる。A/Bテストは回しているけれど、上がったのか誤差なのかも判別がつかない。先月やった施策も、結局どうだったか記録していない。そんな心当たり、ありませんか。

安心してください。この「詰まる」の正体は、アイデア不足でもセンス不足でもありません。「どの指標のために・何を仮説に・何をもって成功とするか」を、打つ前に決めていないだけです。グロースハックのやり方の本体は、思いつきを速く打つことではなく、事業を指標に分解して一番詰まっている所を選び、そこに「なぜ効くか」の仮説をぶつけ、成功指標と判定ラインを打つ前に置いて小さく試し、数字で判定して次に回す実験サイクルです。施策アイデアは必ず「どの指標を・なぜ・いくら動かすか」に紐づける——この型を、本講座でお渡しします。

この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. グロースハックを「思いつきを速く打つこと」ではなく、指標に分解したボトルネックへ仮説をぶつけて小さく試し、数字で判定して次に回す実験サイクルとして説明でき、普通の施策実行との違い(成功指標と判定ラインを事前に置くか)を説明できる
  2. 自社サービスをAARRRの5指標(獲得・活性化・継続・紹介・収益)に分解して現状の数字を並べ、一番効くボトルネック1指標を根拠つきで選べる
  3. 選んだ指標への施策案を「仮説/変える1変数/成功指標/判定ライン/対象・期間」を含む実験計画1枚に落とし込め、実行後に判定して学びを記録し、次の実験に回せる

この講座は最後まで、「あるBtoB SaaS(社内向けの、月額制のプロジェクト管理クラウド)のグロース担当が、AARRRで自社を分解し、一番詰まっている指標に対して1つの実験計画を作り、回す」という、たった1つの場面だけで説明します。この同じ題材を、正体を掴む→分解→ボトルネックへ施策案→実験計画1枚→回す、と1段ずつ組み上げ、最後に「AARRRの各指標に対する施策案を実験計画1枚として作れる状態」を完成させます。各章末には手を動かす演習もあります。なお、本講座に登場する数字はすべて説明のための架空の設定で、実データや業界平均ではありません。指標分解から実験計画・A/Bテスト検証まで一連で学びたくなったら、有料プランの実務講座で続けて学べます。まずはこの1本で、グロースを再現できる型を手に入れましょう。

この講座のポイント

  • グロースハックを「指標に分解した事業のボトルネックに仮説をぶつけて小さく試し、数字で判定して次に回す実験サイクル」として説明でき、普通の施策実行との違い——成功指標と判定ラインを打つ前に置くかどうか——を説明できる
  • 自社サービスをAARRRの5指標(獲得・活性化・継続・紹介・収益)に分解して現状の数字を並べ、大きな数字(MAU・売上)を手前の段階指標に割れるようになります。そして、一番大きく落ちているボトルネック1指標を根拠つきで選べる
  • 分解したAARRRから一番効くボトルネック1指標を根拠つきで選び、その指標を動かす施策案を「なぜ効くか」の仮説とセットで複数出し、影響×試しやすさで最初に試す1案を選べる
  • 選んだ施策案を「仮説/変える1変数/成功を測る指標/続ける・やめるの判定ライン/対象と分け方・期間」を含む1枚の実験計画として作成できるようになります。これが到達目標「AARRRの各指標に対する施策案を実験計画として作成できる」の達成物です。
  • 実験計画の成功指標で結果を判定ラインに照らし、採用・棄却・保留を機械的に決め、学びとセットで記録して次の実験に回す一周を実行できる

グロースハックとは何か(思いつきの施策と実験サイクルの違い)

最初に、「詰まる」モヤモヤの正体を消しておきましょう。グロースハックが「どういう営みなのか」を掴めば、この後の分解や実験計画がぐっと腹落ちします。

この章のゴール

この章を読み終えると、グロースハックを「指標に分解した事業のボトルネックに仮説をぶつけて小さく試し、数字で判定して次に回す実験サイクル」として説明でき、普通の施策実行との違い——成功指標と判定ラインを打つ前に置くかどうか——を説明できるようになります。

グロースハックは「奇抜な裏ワザ」でも「速い思いつき」でもない

まず誤解を外します。グロースハックという言葉は、Sean Ellis が2010年に「Find a Growth Hacker for Your Startup」という記事で広めたとされます。そこでの定義は、成長を最上位の目標に置き、データと実験で成長を伸ばす人・やり方、というものでした。広告やPRといった従来のやり方が効きにくくなるなかで、成長につながる打ち手を実験しながら探す——それが出発点です。

ここで大事なのは、原典の定義に「奇抜な裏ワザ」も「思いつきを速く数打つこと」も含まれていない、ということです。グロースハックの核は、実験サイクルです。一周を分解すると、こうなります。

  1. 事業を指標に分解して、どこが詰まっているか(ボトルネック)を1つ選ぶ
  2. そこに「なぜ効くか」の仮説を立てる
  3. 変える変数を1つに絞って、小さく試す
  4. 事前に決めた成功指標と判定ラインで、結果を判定する
  5. 採用・棄却・保留を記録して、次の実験に回す

この考え方は、Eric Ries が『リーン・スタートアップ』で示した「構築→計測→学習(build-measure-learn)」のループに近いものです。アイデアを形にし、反応を計測し、続けるか方向転換するかを学ぶ——この学びの単位を、Ries は「検証による学び(validated learning)」と呼びました。グロースハックの「回す」も、機能的にはこれと同じです。

普通の施策実行との違いは「成功指標と判定ラインを打つ前に決めているか」

では、いつもの施策実行と、実験サイクルは何が違うのか。決定的な違いはたった1つ、「この数字がこう動けば成功」という成功指標と判定ラインを、施策を打つ前に決めているかです。

事前に置いておくと、結果が出たときに「上がった気がする/下がった気がする」ではなく、「判定ラインを越えたか・越えなかったか」で機械的に判定できます。だから、上がった・下がったを誤差でなく判定でき、学びが積み上がる——つまり再現できるようになります。逆に、成功の測り方を決めずに打つと、結果をどうとでも解釈でき、次に活かせる学びが残りません。

「速く試す」は、この文脈では手段であって目的ではありません。Ries の言葉を借りれば、速く回すのは「学びのループを加速する」ため。数を打つこと自体がゴールになると、1本ずつの判定を省いてしまい、結局「たくさんやったのに積み上がらない」に逆戻りします。

同じ施策も、実験サイクルに乗せると別物になる

共通例で、この違いを体感してみましょう。あなたはBtoB SaaSの、月額制プロジェクト管理クラウドのグロース担当です(無料トライアル14日→有料転換のモデル、という架空の設定です)。

従来のあなたは、「オンボーディング画面に説明文を足す」という施策を、成功の測り方を決めないまま実行し、翌週「なんとなく良くなった気がする」で終わっていました。上がったのか誤差なのかは分からず、記録も残りません。

同じ施策を実験サイクルに乗せると、こう変わります。まず「初日にサービスを触ってもらう率を上げたい」というボトルネックを先に選びます。次に「説明文を足すより、最初から中身が入っている状態のほうが触り始められるのではないか」という仮説を立てます。そして成功指標を「登録から7日以内に主要な操作へ到達した割合」、判定ラインを「現状より明確に上回れば採用」と、打つ前に決めます。こうしておくと、結果が誤差か本物かを判定でき、たとえ棄却でも「説明文を足すだけでは動かない」という学びが1つ残ります。

施策の中身は同じでも、「打つ前に何を決めているか」で、積み上がるかどうかが変わる。これがグロースハックのやり方の第一歩です。

この章の確認(演習)

直近で自分が打った施策を1つ思い出してください。そのうえで、「その施策は何の指標を、なぜ動かすはずだったか」「成功をどう測る予定だったか」「続ける・やめるの判定ラインはあったか」の3つを書き出します。もし判定ラインが無かったなら、後付けで「どうなっていれば成功と言えたか」を1文で書いてみましょう。ここが書ければ、あなたの過去の施策と実験サイクルの差分が言葉になり、次章からの「打つ前に決める」が自分ごとになります。

AARRRで自社を指標に分解する(獲得・活性化・継続・紹介・収益)

実験サイクルの入口は「事業を指標に分解すること」でした。では、何をどう分解すればいいのか。この章で、その物差しを手に入れます。

この章のゴール

この章を読み終えると、自社サービスをAARRRの5指標(獲得・活性化・継続・紹介・収益)に分解して現状の数字を並べ、大きな数字(MAU・売上)を手前の段階指標に割れるようになります。そして、一番大きく落ちているボトルネック1指標を根拠つきで選べるようになります。

大きな数字(MAU・売上)は結果でしかない

グロースの土台は、事業を段階の指標に割ることです。ここで多くの人がつまずくのが、「MAUと売上を見ていれば十分」という思い込みです。

MAUや売上は、いわば結果の数字です。プロダクト分析の世界では、こうした「見栄えは良いが、顧客が本当は何に価値を感じているかを教えてくれない指標」を虚栄の指標(vanity metrics)と呼び、これだけを見て順調と判断する危うさが指摘されています。MAUが横ばいだからといって、その手前のどの段階で人が落ちているかを見ないと、打つべき場所は決まりません。結果の数字は、原因を教えてくれないのです。

AARRRは事業を5段階で見る枠——獲得・活性化・継続・紹介・収益

そこで使うのが、AARRRという枠です。これは、投資家であり500 Startupsの創設者でもある Dave McClure が2000年代後半に提唱した、事業を5段階で見るフレームで、その語呂から通称「Pirate Metrics(海賊指標)」とも呼ばれます。5段階は次のとおりです。

段階英語何を見るか観察できる行動での定義例(プロジェクト管理クラウド)
獲得Acquisitionどう発見され、登録・訪問するか月の新規登録
活性化Activation初回に価値を体験できたか登録後7日以内にタスクを3件作成
継続Retention使い続け、戻ってくるか30日後も週1回以上ログイン
紹介Referral人に薦め、招待するか招待から新規登録が生まれた数
収益Revenueお金を払うかトライアルから有料へ転換

ここで押さえたいのが、活性化(Activation)です。これは「登録した」ではありません。登録は獲得です。活性化とは、そのサービスの価値を初めて体験する段階——「これは便利だ」とユーザーが中核価値を掴む瞬間(俗に「アハ体験」と呼ばれます)を、観察できる行動で定義したものです。アハ体験はユーザー側の主観的な価値発見で、活性化はそれを測れるアクションに落とし込んだ指標、という関係にあります。だからこそ、活性化は「7日以内にタスク3件作成」のように、誰が見ても数えられる行動で定義します。

なお、「どの指標を事業の主役に据えるか」という発想は、ノーススターメトリック(North Star Metric=製品が顧客に届ける中核価値を最もよく表す単一指標)として知られています。ただし本講座では、まず全段階を並べて落差を見るのが先です。主役指標の選び方に深入りする前に、どこが詰まっているかを数字で掴みましょう。

隣り合う段階の進み率で「一番大きく落ちている所」を出す

5段階に人数を並べたら、次は隣り合う段階の進み率(次段階÷前段階)を出します。すると、一番大きく落ちている段階=ボトルネックが浮かびます。

段階人数(架空)前段階からの進み率
獲得(新規登録)1,000
活性化(7日以内タスク3件作成)400400÷1,000=40%
継続(30日後も週1ログイン)150150÷400=37.5%
紹介(招待経由の新規)30
収益(トライアル→有料)50

この数字はすべて、説明のための架空の設定です。獲得→活性化が1,000→400(40%へ)、活性化→継続が400→150(37.5%へ)。ここから、一番大きく人が落ちているのは獲得→活性化=ボトルネックは活性化だと分かります。

もし「MAUが伸びない」という大きな悩みだけを見ていたら、あなたは広告を足して獲得を増やそうとしたはずです。でも分解してみると、増やした登録者もまた活性化で6割落ちる。つまり、穴の開いたバケツに水を足すようなもので、獲得を増やすほど無駄が増えます。だから打つべきは獲得ではなく、活性化なのです。分解しなければ、この判断は出てきません。

AARRRは上から下へ一方通行のファネルとして描かれがちですが、実際には紹介から新しい獲得が生まれるように、ループとして回る面もあります。ただし本講座では、まず段階の落差でボトルネックを見つけることに集中します。ファネルを段階別に図示して離脱箇所の改善仮説を作る手順そのものは、この先のファネル設計の講座で深く扱います。

この章の確認(演習)

自社(または身近な有料サービス)をAARRRの5段階に分けてください。各段階を観察できる行動で定義し、活性化は「◯日以内に◯◯した」の形で書きます。次に、直近の人数を並べ(分からなければ仮の値で構いません)、隣接する段階の進み率(次段階÷前段階)を出します。最後に、一番大きく落ちている段階を1つ選び、「なぜここを主役に選んだか」を1文で書きましょう。ここで選んだ1指標が、第3章以降で施策と実験計画を作る対象になります。

ボトルネック指標に施策案を出す(一番効く1指標を選び、なぜ効くかの仮説を立てる)

ボトルネックが見えたら、次はそこを動かす施策を出します。ただし、ここで「思いつきを並べる」に戻ってはいけません。施策は必ず仮説とセットで出します。

この章のゴール

この章を読み終えると、分解したAARRRから一番効くボトルネック1指標を根拠つきで選び、その指標を動かす施策案を「なぜ効くか」の仮説とセットで複数出し、影響×試しやすさで最初に試す1案を選べるようになります。

ボトルネックを1つに絞る根拠は「落差」と「下流への波及」の2点

まず、どの指標を狙うかを1つに絞ります。全部を一度に上げようとすると焦点がぼやけ、どれも中途半端になります。絞る根拠は2点です。

1つ目は落差。第2章で見たとおり、獲得→活性化が最も大きく落ちています。2つ目は下流への波及。活性化しなければ、その先の継続も収益も生まれません。つまり活性化を開けると、継続・収益という下流まで効く見込みがあります。

ここで気をつけたいのが、「上げやすい指標」ではなく「一番効く指標」を選ぶこと。手をつけやすいからという理由で紹介や収益から着手しても、上流の活性化が詰まったままでは、そもそも下流に流れてくる人が少ないままです。落差と下流波及の2点で、選定理由を1〜2文で言えるようにしておきましょう。

施策アイデアは必ず「仮説」とセットで出す

ボトルネックが決まったら、施策アイデアを出します。ここが分かれ道です。仮説の無いアイデアは「やってみた」に過ぎず、外れても学びが残りません。「施策はブレストでアイデアをたくさん出せば十分」という誤解を、ここで潰します。

良い仮説は、次の形をとります。

〔観察された事実〕だから、〔変える施策〕をすれば、〔対象の人〕の〔成功指標〕が上がるはず

この形にしておくと、施策が外れても「この事実の見立てが違った」と、どこが崩れたかが分かります。仮説がないと、外れたときに何も残りません。グロースハックもリーン・スタートアップも、根っこは「仮説を立てて実験で検証する」営みだ、という点でつながっています。

複数出して「影響の大きさ×実行のしやすさ」で並べ、1案を選ぶ

施策は1つに決め打ちせず、複数出します。そして「影響の大きさ×実行のしやすさ」で並べ、すぐ試せて効きそうな順に優先順位を付けます。ここで変えるのは、基本的に1変数です。1つの施策で複数の要素を同時に変えると、上がっても下がっても何が効いたのか特定できず、学びになりません(この「1変数」の考え方は、次章の実験計画に直結します)。

共通例で3案を仮説つきに出す——サンプル入り初期状態を選ぶ

共通例で、活性化(7日以内タスク3件作成率=40%、架空)を選んだ根拠は、①獲得→活性化の落差が最大、②活性化しないと継続も収益も生まれない(下流に効く)、の2点でした。この活性化を上げる施策案を、仮説つきで3つ出してみます。

施策案狙う指標仮説(なぜ効くか)影響試しやすさ
(A) サンプル入り初期状態活性化率最初の画面が空だと何をすればいいか分からず離脱する。だからサンプルのプロジェクトとタスクが入った初期状態にすれば、触り始めて活性化率が上がるはず
(B) 最初の一手を促すガイド活性化率登録直後にやることが多すぎる。だから最初の一手を1つだけ促すガイドにすれば、到達率が上がるはず
(C) 活用イメージのメール活性化率価値が伝わる前に離脱する。だから登録直後に活用イメージのメールを送れば、戻ってきて活性化するはず

3案とも「なぜ効くか」が言語化されているので、どれが外れても仮説が1つ潰れて学びになります。この3案を「効きそうさ×試しやすさ」で並べ、影響が大きく試しやすい(A) サンプル入り初期状態を最初に試すと決めます。この案で変える1変数は「登録直後の初期状態(空 vs サンプル入り)」の1点だけ、とここで確定させます。

この章の確認(演習)

第2章で選んだ自社のボトルネック指標に対し、施策案を3つ書いてください。各案には「なぜ効くか(〔事実〕だから〔施策〕で〔対象〕の〔指標〕が上がるはず)」の仮説を必ず添えます。次に、3案を「影響×試しやすさ」で並べ、最初に試す1案を選びます。最後に、その案で「変える1変数」が1つに絞れているかを確認し、明示しましょう。ここで選んだ1案と1変数が、第4章の実験計画の入力になります。

施策を実験計画に落とす(仮説・変える1変数・成功指標・判定ライン)

ここが、この講座の中核です。第3章で選んだ1案を、「やってみる」から「実験する」に変えます。その道具が、実験計画1枚です。

この章のゴール

この章を読み終えると、選んだ施策案を「仮説/変える1変数/成功を測る指標/続ける・やめるの判定ライン/対象と分け方・期間」を含む1枚の実験計画として作成できるようになります。これが到達目標「AARRRの各指標に対する施策案を実験計画として作成できる」の達成物です。

「やってみる」を「実験する」に変える5要素

実験計画1枚に必要な要素は、次の5つです。

要素中身書き方の注意
① 仮説第3章で言語化した「なぜ効くか」〔事実〕だから〔施策〕で〔対象〕の〔指標〕が上がるはず、の形
② 変える1変数何を1つだけ変えるか他は揃える。変える変数を明記し、揃える条件も書く
③ 成功を測る指標第2章のボトルネック指標そのもの観察できる行動で(MAU・売上のような大きな数字にしない)
④ 判定ラインどうなれば採用/棄却/即停止か打つ前に数字で置く
⑤ 対象と分け方・期間誰を、どう2群に分け、いつ判定するか偏りなく分ける。判定する時点を決めておく

この5つが揃うと、施策は「実験」になります。1つでも欠けると、打った後に結果を判定できなくなります。

判定ラインは打つ前に置く(後付け解釈を防ぐ)

5要素の中でも、特に効くのが④判定ラインです。判定ラインを実行後に後付けすると、結果を都合よく解釈できてしまいます。「思ったより悪くないから採用」「たぶん誤差だから様子見」——こうした後付けが、学びの積み上げを止めます。

「上がった気がするから成功」という判断を防ぐには、事前に数字で「この指標がこうなれば採用/こうなら棄却/悪化したら即停止」と置いておく。これが、結果を誤差か本物かで揺れずに判定するための最短ルートです。第1章で見た「成功指標と判定ラインを打つ前に決めているか」の違いは、ここで具体的な数字になります。

本講座の範囲は「判定ラインを1つ置く」まで

ここで範囲を1つ明確にします。判定ラインをどこまで統計的に厳密に引くか——有意水準や必要サンプル数といった検証設計——は、本講座では扱いません。本講座は「判定ラインを1つ置いて、続ける・やめるを自分で決められる」粒度までです。統計的な検証設計や有意判定まで踏み込みたくなったら、この先のA/Bテスト検証設計の講座で深められます。まずは1本、判定ラインを置いて前に進みましょう。

共通例を実験計画1枚に落とす

第3章で選んだ施策(A)「サンプル入り初期状態」を、実験計画1枚に落とします。

項目内容(架空の設定)
① 仮説空画面だと何をすればいいか分からず離脱する。サンプルが入っていれば触り始め、活性化率が上がる
② 変える1変数登録直後の初期状態(空 vs サンプル入り)の1点だけ。メール・画面文言など他は揃える
③ 成功指標登録から7日以内にタスク3件作成した割合(活性化率)
④ 判定ライン現状40%に対し、実験群が明確に上回れば採用/変わらなければ棄却/実験群のほうが悪ければ即停止
⑤ 対象・分け方・期間これからの新規登録者を2群にランダムに分け、各群が十分たまった時点+7日後に判定

これが1枚あると、会議で聞かれても一息で答えられます——「活性化を上げるために、登録直後の初期状態をサンプル入りにします。成功指標は7日以内タスク3件作成率、現状40%を明確に上回れば採用、新規を2群に分けて7日後に判定します」。「その施策、何の数字をいくら動かすの?」に、詰まらず返せる状態です。

この章の確認(演習)

第3章で選んだ自社の施策1案を、①仮説②変える1変数(と揃える条件)③成功指標(観察できる行動で)④判定ライン(採用/棄却/即停止)⑤対象・分け方・判定時点、の5項目を埋めた実験計画1枚として作成してください。これが到達目標の達成物です。書けたら、「この計画を会議で1行で説明する文」を1つ作ってみましょう。1行で言い切れれば、その計画は判定できる形になっています。

実験を回して学びを積む(結果を判定し、記録して次の実験へ)

実験計画は、作って終わりではありません。回してこそ、学びが積み上がります。この章で、判定→記録→次の実験、という一周を実行できるようにします。

この章のゴール

この章を読み終えると、実験計画の成功指標で結果を判定ラインに照らし、採用・棄却・保留を機械的に決め、学びとセットで記録して次の実験に回す一周を実行できるようになります。

実験は作って終わりでなく「回す」もの——一周の4ステップ

回す一周は、次の4ステップです。

  1. 計画どおり実行し、判定の時点まで追加の変更を入れずに待つ(途中でいじると判定できなくなる)
  2. 成功指標を判定ラインと突き合わせて、採用・棄却・保留を決める
  3. 結果と“学び”を記録する(採用でも棄却でも「何が分かったか」を1〜2文で)
  4. その学びから、次のボトルネックor次の仮説を選び、また実験計画を作る

ここで大切なのが、棄却も立派な学びだということ。棄却は「この仮説は外れた」という事実が1つ確定したということで、次に同じ仮説を試す無駄を消してくれます。リーン・スタートアップで進捗の単位を「検証による学び」と呼んだのは、まさにこのためです。採用か棄却かではなく、「1つ学べたか」で進んでいるかを測ります。

判定は生の数字でなく「打つ前に決めた判定ライン」で機械的に

判定のときにやりがちなのが、「実験群のほうが少し高いから、たぶん採用でいいだろう」という生の数字での判断です。これをやると、第4章で置いた判定ラインの意味が消えます。

判定は、打つ前に決めた判定ラインに照らして機械的に行います。「現状40%を明確に上回ったか」——越えていれば採用、越えていなければ棄却、悪化していれば即停止。ここで「上がった気がするから採用」に戻らないことが、学びを積み上げられるかどうかの分かれ目です。

記録を残して積み上げる(棄却も学び・1本で全部を解決しない)

回す仕組みのもう1つの柱が、記録です。記録が無いと、半年後に同じ施策を再発明したり、過去に棄却した仮説を忘れて繰り返したりします。実験ログとして、次の型で1行ずつ残していきましょう。

施策狙う指標仮説判定(採用/棄却/保留)学び次の実験
サンプル入り初期状態活性化率空画面だと離脱、サンプルで触り始める(判定後に記入)(1〜2文)(次のボトルネックor次の仮説)

そしてもう1つ。1本の実験で事業全部を解決しようとしないこと。1つの実験は、1つの仮説を確かめるものです。活性化が開いたら次は継続、その次は収益、と1段ずつボトルネックを開けていく——この積み重ねが、グロースを再現できる状態です。

共通例を回す——採否と学びから次の実験へ

共通例の実験(A)を回してみます。7日待って判定した結果は、次のように分岐します(いずれも架空の想定です)。

判定結果判定ラインとの比較打ち手学び次の実験
採用実験群の活性化率が現状40%を明確に上回ったサンプル入りを標準化する初期状態を埋めると触り始める次のボトルネック(継続)へ
棄却実験群が現状40%と変わらなかったサンプル入りは見送る初期状態の見た目より、最初の一手のガイドが効くのかもしれない施策(B)ガイドを実験計画に落とす

大事なのは、この判定を「なんとなく上がった気」ではなく、事前の判定ライン(40%を明確に上回るか)で機械的に行っていることです。だから、結果が誤差か本物かで揺れません。棄却の場合も、次の一手(施策B)が自然に見えてきます。こうして「活性化→継続→……」とボトルネックを順に開けていくのが、実験を回すやり方の実体です。なお、この判定をどこまで統計的に厳密にするか(有意判定)は、A/Bテスト検証設計の講座で深められます。

この章の確認(演習)

第4章で作った実験計画に、次の3つの欄を足してください。「判定(採用/棄却/保留の3択と、そう決めた根拠=判定ラインとの比較)」「学び(1〜2文)」「次にやる実験(次のボトルネックor次の仮説)」。これで、実験を回す1周の記録テンプレートが完成します。最後に、このログを毎回積み上げる置き場所(スプレッドシートなど)を1つ決めましょう。置き場所が決まれば、学びが流れずに残る仕組みができます。

まとめ:グロースハックのやり方は“速く打つ”ことでなく“どの指標を・なぜ・いくら動かすか”を決めて回すこと

おつかれさまでした。「プロジェクト管理クラウドの活性化を上げる」という1つの場面を、正体を掴む→分解→ボトルネックへ施策案→実験計画1枚→回す、と1段ずつ組み上げてきました。最後に、グロースの実験サイクル5ステップを1枚に振り返ります。

  1. 分解……AARRR(獲得→活性化→継続→紹介→収益)で並べ、隣接段階の進み率で落差を見る(第2章)
  2. 選定……一番落ちているボトルネック1指標を「落差+下流への波及」で選ぶ(第2〜3章)
  3. 仮説……その指標を動かす施策案を「なぜ効くか」つきで複数出し、影響×試しやすさで1案を選ぶ(第3章)
  4. 実験計画1枚……仮説/変える1変数/成功指標/判定ライン/対象・期間に落とす(第4章)
  5. 回す……判定ラインで採用/棄却/保留を機械的に決め、学びを記録して次の実験へ(第5章)

この5つは、すべて1つの合言葉に戻ります——「どの指標を、なぜ、いくら動かすか」。施策アイデア(変数)は必ずこれに紐づける。土台にあるのは第1章の「成功指標と判定ラインを打つ前に置く実験サイクル」です。グロースハックは“速く打つ”ことでなく、この型で試し、判定して回すこと。アイデアの多さではなく、指標に紐づけた学びの積み上げで、グロースは再現できます。

明日の最初の一歩:自社サービスを1つ選び、①AARRRの5段階を観察できる行動で定義して現状の数字を並べ ②一番落ちているボトルネック1指標を選び ③その指標を上げる施策案を仮説つきで3つ出し ④最初の1案を『仮説/変える1変数/成功指標/判定ライン/対象・期間』の実験計画1枚に落とす、までを紙1枚に書き出してみてください。書き終えたとき、到達目標「AARRRの各指標に対する施策案を実験計画として作成できる」の達成物が、1枚できあがっています。

今日つかんだこの型を、実際のサービスで回して数字で伸ばせるようになりたくなったら、その先の道も用意されています。ファネルを段階別に図示して離脱箇所の改善仮説を作るファネル設計、プロダクト内で獲得を回すPLG(プロダクト主導のグロース)、メッセージとターゲットを整えるプロダクトマーケティング、そして実験の統計的な検証設計と有意判定に踏み込むA/Bテスト検証設計——これらは、今日組み上げた実験サイクルの各マスを深める講座として、この先で続けて学べます。指標分解から実験計画・A/Bテスト検証まで一連で身につけたくなったら、続きは有料プランで。まずは今日の5ステップで、あなたのサービスのグロースを、実験1本から回し始めてください。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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