締切前日の夜、まだ終わらない仕事を前に「とりあえず徹夜で間に合わせよう」と覚悟したことはありませんか。なんとか提出はしたものの、急いだせいで数字を1つ転記し間違えていた——。月次の請求書発行を任され始めた頃に、多くの人が一度は通る道です。
このとき私たちは「自分の段取りが下手だから」と能力のせいにしがちです。でも、徹夜は努力の証ではなく、段取りの失敗のサインです。前の講座(kouza-1180)で「ミスは気をつけでは減らない。仕組みで防ぐ」とお伝えしました。段取りは、その「最初の仕組み」です。仕事の始め方を決めておけば、終盤で慌てる場面そのものを減らせます。
この講座を読み終えると、あなたは次の3つができるようになります。1つ目は、目の前の作業から着手する「前詰め」のやり方が、なぜ終盤で破綻するのかを説明できること。2つ目は、提出期限から逆算して、工程・所要時間・余裕(バッファ)を置く手順を使い分けられること。3つ目は、自分の仕事について、ゴールから逆算した段取り表を1枚作成できることです。
この講座は最後まで、「月末の請求書発行を期限までに正確に終わらせる」という、たった1つの場面で説明します。覚えて帰ってほしいのはこのひと言です。段取りは、終わりから書く。
この講座のポイント
- 目の前の作業から着手する「前詰め」の段取りが、なぜ終盤で破綻するのかを、自分の言葉で説明できる
- 提出期限(ゴール)から逆算して、工程・所要時間・余裕(バッファ)を置く手順を、前詰めと使い分けられる
- ゴールから逆算した段取り表を1枚作成できる
着手が早いほど安心、が終盤で破綻する
まずは、いちばんやりがちな段取りの落とし穴から見ていきましょう。
この章のゴール
この章を読み終えると、目の前の作業から着手する「前詰め」の段取りが、なぜ終盤で破綻するのかを、自分の言葉で説明できるようになります。
「段取りはセンスや経験」という思い込みを外す
「段取り上手な先輩は、もともと要領がいい人だ」「経験を積めば自然にできるようになる」。こう思っていませんか。これは、この講座で最初に外してほしい思い込みです。段取りは生まれ持ったセンスでも、年数で勝手に身につくものでもありません。ゴールから逆算するという「型」であり、型なので今日から誰でも使えます。要領がよく見える人は、頭の中で逆算をしているだけです。
もう1つ、外したい思い込みがあります。「とにかく早く、目の前のものから手をつければ安心」という考え方です。一見まじめで正しそうですが、実はこれが終盤で破綻する元になります。
手が空くのが不安で前倒しすると、待ち工程が終盤に集中する
目についた順に着手していくやり方を、ここでは「前詰め(フォワード)」と呼びます。今できることから前倒しで埋めるので、最初は順調に進む感覚があります。手が空くと不安なので、できるところから進めたくなる——この気持ち自体は自然です。
問題は、自分一人で完結しない工程を見落とすことです。請求書発行には、自分が手を動かす作業(金額の入力、体裁を整える)だけでなく、自分では進められない工程が必ず混ざっています。上長のレビューを待つ時間、取引先に金額を確認して返事を待つ時間、経理の承認を待つ時間。これらは「自分が頑張れば縮む工程」ではなく、相手の都合で時間がかかる工程です。
前詰めでは、自分が動かせる作業を先に片づけてしまい、こうした「待ち工程」を工程として数えません。その結果、レビュー待ちや確認待ちが、すべて締切間際に押し寄せます。上長が出張中だった、取引先の返事が翌営業日になった——そこで初めて時間が足りないと気づき、慌てて確認を飛ばし、転記ミスや宛先間違いが出るのです。ミスの正体は不注意ではなく、待ち時間を見積もっていなかった段取りにあります。
この章の確認(演習)
直近で「終盤に慌てた」仕事を1つ思い出して、紙に書き出してください。そのうえで、「自分が手を動かす作業」と「誰か・何かを待つ工程(レビュー・確認・承認)」を分けて書き出します。待ち工程をいくつ見落としていたかが見えれば、この章は理解できています。
ゴールから逆算して着手順と時間を決める
破綻の原因が「待ち工程の見落とし」だと分かりました。これを防ぐのが、向きを逆にする段取りです。
この章のゴール
この章を読み終えると、提出期限(ゴール)から逆算して、工程・所要時間・余裕(バッファ)を置く手順を、前詰めと使い分けられるようになります。
逆算スケジューリング=終わりから工程を並べる
前詰めが「始まり」から前に積んでいくのに対し、ゴール(納期)から後ろ向きに工程を並べていくやり方を、逆算スケジューリング(バックワードスケジューリング)と呼びます。生産管理の分野では、納期から逆算してちょうど間に合うように計画を立てる方法として知られ、抱える仕掛かりを最小にできる優れた計画とされています。事務仕事に置き換えると、提出期限を起点に「では、その前に何が終わっていなければならないか」を順にさかのぼっていく、ということです。
逆算は、次の5つの手順で進めます。
- 手順1:ゴールと納期を1文で確定する……「○月○日17時までに、全取引先の請求書を経理に提出する」のように、いつ・何が・どの状態になっていれば完了かを言い切ります。
- 手順2:工程を洗い出す……ゴールから手前へ、必要な工程を全部挙げます。ここでレビュー・確認・承認などの「待ち工程」も必ず工程として書くのがコツです。第1章で見落としたものを、ここで取り戻します。
- 手順3:各工程の所要時間を見積もる……自分の作業は「何分かかるか」、待ち工程は「相手に何日見ておくか」を置きます。待ち工程は相手の都合で延びるので、長めに見ます。
- 手順4:納期から後ろ向きに置いていく……いちばん後ろの工程(提出)を納期に置き、その手前に1つずつ工程を積んでいきます。すると各工程の「締切」が自動的に決まります。
- 手順5:安全時間(バッファ)を置く……差し戻しや想定外に備え、最後にまとめて余裕の時間を1コマ確保します。
ここで大事なのは、待ち時間やレビューの時間も「工程」として時間に数えることです。自分が手を動かす時間だけで計画すると、第1章の前詰めと同じ失敗に戻ってしまいます。
手が空いても前倒ししない。間に合わない時だけ前詰めに切り替える
逆算で計画すると、序盤に「やることがない時間」が生まれることがあります。たとえば、提出が月末で、上長レビューに3日見ておけばよいなら、月初に全部前倒しで作る必要はありません。この空き時間は異常ではなく、正常な状態です。ところが、手が空くと不安になり、つい前倒しで着手したくなります。これこそが、人が前詰めに逆戻りしてしまう理由です。空き時間は「サボり」ではなく「計画どおり」だと理解してください。
ただし、逆算してみたら「どう詰めても納期に間に合わない」と分かることがあります。そのときだけは、できるところから前倒しで進める前詰めに切り替えます。逆算は計画の基本形、前詰めは間に合わない時の緊急手段、と使い分けます。
この章の確認(演習)
請求書発行を、ゴール(提出)から手前へ工程に分解してください。自分の作業と待ち工程の両方を挙げ、それぞれにかかる時間(自分の作業は分、待ちは日数)を書き添えます。待ち工程に時間が割り当てられていれば、逆算の準備ができています。
段取り表を1枚作る
最後に、逆算した工程を、そのまま使える1枚の表に落とし込みます。
この章のゴール
この章を読み終えると、ゴールから逆算した段取り表を1枚作成できるようになります。
段取り表は5つの列で作る
段取り表は、次の5列の表にするだけです。難しい道具はいりません。紙でも表計算ソフトでも作れます。
- 工程……やること(待ち工程も1行として書く)
- 所要時間……その工程にかかる時間
- 締切(逆算)……納期から逆算して、いつまでに終わっていればよいか
- 着手日……いつ始めるか
- 依存・待ち……何が終われば着手できるか/誰の返事を待つか
請求書発行を例に、ゴール(「月末17時に経理へ提出」)から逆算して埋めると、こうなります。所要時間や日付は、あなたが自分の業務に合わせて入れる見本の数字です。
| 工程 | 所要時間 | 締切(逆算) | 着手日 | 依存・待ち |
|---|---|---|---|---|
| 経理へ提出 | 10分 | 月末17:00 | 月末 | 上長承認後 |
| 上長の最終承認(待ち) | 1日 | 月末午前 | 前日 | 自分の修正完了後 |
| 指摘箇所の修正 | 30分 | 前日 | 前日 | レビュー結果待ち |
| 上長レビュー(待ち) | 2日 | 3営業日前 | 4営業日前 | 取引先確認後 |
| 取引先へ金額確認(待ち) | 2日 | 5営業日前 | 7営業日前 | 下書き完成後 |
| 請求書の作成・体裁チェック | 90分 | 7営業日前 | 8営業日前 | 元データ確定後 |
| 安全時間(バッファ) | 半日 | — | — | 全工程に分散 |
この表を作ると、「いちばん手前にある『請求書の作成』は、月初すぐではなく8営業日前に着手すればよい」と分かります。前倒ししすぎず、遅れもしない着手日が、表の上で決まるわけです。待ち工程(レビュー・確認・承認)にきちんと日数が割り振られているので、第1章のように終盤へ集中することもありません。
手が空いても前倒ししない。バッファは最後まで取っておく
段取り表を作るときの、つまずきポイントを2つ挙げます。1つ目は、第2章で触れたとおり、着手日より前に手が空くと不安になり前倒ししてしまうことです。表で決めた着手日まで、その仕事は「待ち」が正常だと割り切ってください。2つ目は、安全時間(バッファ)を序盤で使い切ってしまうことです。バッファは差し戻しや想定外のために最後まで温存します。早く進んだからとバッファを前倒しで埋めると、本当に必要な終盤で余裕がなくなります。
この章の確認(演習)
あなたの次の仕事を1つ選び、この5列(工程/所要時間/締切(逆算)/着手日/依存・待ち)で段取り表を1枚作ってください。ゴールと納期を1文で書いてから、後ろ向きに工程を並べます。待ち工程に時間が入っていて、いちばん手前の工程の着手日が決まっていれば、段取り表は完成です。
まとめ
おつかれさまでした。「月末の請求書発行を期限までに正確に終わらせる」という1つの場面を通して、段取りの基本を組み立ててきました。歩いてきた道を1枚に整理します。
- 破綻の正体(第1章)……目の前から着手する「前詰め」は、レビュー・確認・承認といった待ち工程を見落とし、それが終盤に集中して時間切れと慌てたミスを生む。段取りはセンスでなく型。
- 向きを逆にする(第2章)……ゴール(納期)から逆算し、工程を洗い出し、所要時間を見積もり、後ろ向きに置き、安全時間を確保する。待ち工程も時間に数える。手が空いても前倒ししない。
- 1枚にする(第3章)……工程/所要時間/締切(逆算)/着手日/依存・待ち の5列で段取り表を作る。表の上で着手日が決まり、待ち工程が終盤に集中しなくなる。
覚えて帰るひと言は、段取りは、終わりから書くです。
明日の最初の一歩:明日いちばん近い締切の仕事を1つ選び、まず「いつ・何が・どの状態で完了か」をゴールとして1文で書いてみてください。それから手前へ工程をさかのぼる。たった1行のゴールから、段取りは始まります。
段取り表で工程を並べられたら、次は「各工程で何を確認すれば抜け漏れを止められるか」です。続きは次の講座(kouza-1182)「チェックリスト設計」でお渡しします。
よくある質問
段取り表は紙と表計算ソフトのどちらで作るべきですか?
どちらでも構いません。大事なのは道具ではなく、ゴールから逆算し待ち工程も時間に数えることです。まずは紙の5列でも十分始められます。
逆算してみたら納期に間に合いません。どうすればいいですか?
逆算で間に合わないと分かったときだけ、できるところから前倒しで進める「前詰め」に切り替えます。早い段階で気づけたこと自体が、逆算の成果です。
着手日まで手が空くと不安です。前倒ししてはだめですか?
逆算した計画では、序盤に空き時間が出るのは正常です。前倒しは前詰めへの逆戻りなので、着手日まではその仕事を「待ち」と割り切ってください。