組織開発入門 | マナビズ

組織開発入門

組織開発入門

「何か意見はある人?」——会議でそう投げかけても、シーンとして誰も口を開かない。報告は遅れ、悪い知らせほど後から出てくる。同じミスが繰り返される。チームの数字も、ここ半年ずっと低空飛行のままです。原因を考えると、いつも特定の誰かに行き着きます。「Aさんのやる気が足りない」「Bさんはまだ力不足だ」。だから個別に呼んで指導し、強めに発破をかけ、評価で締め、会議体をひとつ増やしてみる——けれど、現場は一向に変わりません。研修も評価制度も入れたのに、です。チームを任されたあなたは、こんな手詰まりを感じていませんか。

実は、変わらない最大の理由は、あなたの力不足でも、メンバーの素質でもありません。問題をいつも「個人のせい」として、人と人との“関係性”そのものに手を入れていないこと。そして、成果が欲しいあまり「とにかく結果を出せ」と数字から直接迫ると、かえって関係がぎすぎすして、もっと意見も報告も出なくなる——この悪い回り方にはまっていることです。同じ不調を前にして、「誰が悪いんだ」で止まる人と、「この人たちの“間”で何が起きているか」を見て手を打てる人がいます。違いは、問題を“個人”で見るか“関係性”で見るか、そして“結果”から迫るか“関係の質”から回すかだけです。

この切り替えこそが、組織開発です。組織開発と聞くと、「人事や経営がやる、大げさなプロジェクトでしょう」と思うかもしれません。でも本当は、現場のリーダーが日々の関わりの中で使える“ものの見方”です。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. 組織開発を「個人の能力ややる気を直すこと」ではなく、人と人との“関係性”を対象に、当事者を巻き込んで組織を良くしていく取り組みとして、人材開発(個人を伸ばすこと)や制度・ルールいじりと区別して説明できる
  2. チームの課題を「誰が悪いか(個人)」ではなく、「関係の質→思考の質→行動の質→結果の質」の循環で捉え直して説明でき、結果から迫る悪い循環と、関係の質から回す良い循環を区別できる
  3. 関係の質を上げる打ち手(安心して話せる場づくり・傾聴・1on1・フィードバック・小さな承認 など)を、チームの症状に合わせて選び、当事者を巻き込んで小さく始められる

この講座は最後まで、「あなたが率いる6人の営業チーム」という1つの場面だけで説明します。リーダーのあなたと、メンバー5人。ここ半年、数字が低迷し、会議で意見が出ず、報告が遅れ、同じミスが繰り返されている——あなたが個別に詰めても、かえって悪くなっているチームです。この同じチームを、組織開発とは何か→関係性で捉え直す→関係の質に効く打ち手を選ぶ→当事者と小さく回す、と1段ずつ立て直していきます。まずは「関係の質から回す」進め方を自社で試せるよう、法人研修の資料を無料で請求しておくと、各章の打ち手とワークをそのままチームで使えます。

この講座のポイント

  • 組織開発を「個人の能力ややる気を直すこと」ではなく、人と人との“関係性”を対象に、当事者を巻き込んで組織を良くする取り組みとして、人材開発(個人を伸ばすこと)や制度・ルールいじりと区別して説明できる
  • チームの課題を「誰が悪いか(個人)」ではなく、「関係の質→思考の質→行動の質→結果の質」の循環で捉え直して説明でき、結果から直接迫る悪い循環と、関係の質から回す良い循環を区別できる
  • 関係の質を上げる打ち手(安心して話せる場づくり・傾聴・1on1・フィードバック・小さな承認 など)を、チームの症状に合わせて選べる
  • 選んだ打ち手を、当事者(メンバー)を巻き込んで小さく始め、結果を急がず回せるようになります。そして、組織開発が「人事の大げさなもの」ではなく、現場リーダーの日々の関わりそのものだと、位置づけられる

組織開発とは何か(個人ではなく“関係性”を変える)

最初の章では、「いろいろ手を打ったのに変わらない」というモヤモヤの正体をはっきりさせます。組織開発という言葉を、自分のチームで使える道具にするための土台です。

この章のゴール

この章を読み終えると、組織開発を「個人の能力ややる気を直すこと」ではなく、人と人との“関係性”を対象に、当事者を巻き込んで組織を良くする取り組みとして、人材開発(個人を伸ばすこと)や制度・ルールいじりと区別して説明できるようになります。

なぜ「個人を直す・制度を足す」では変わらないのか

あなたが打ってきた手を、いちど思い出してみてください。Aさんを個別に指導した。チーム全体に発破をかけた。評価で締めた。会議体をひとつ増やし、報告ルールを足した。どれも真っ当な手です。でも、よく見ると、手を入れた先は「個人」「制度・ルール」のどちらかに偏っています。

そして、ぽっかり空いているところがあります。「会議でなぜ意見が出ないのか」「なぜ悪い報告が遅れるのか」という、人と人の“間”で起きていることです。意見が出ないのは、Aさん一人の性格の問題でしょうか。それとも、「ここで何か言うと否定される」という、メンバーとあなたの“間”の空気の問題でしょうか。報告が遅れるのは、Bさん一人の怠慢でしょうか。それとも、「悪い報告をすると詰められる」という関わり方の問題でしょうか。

個人と制度には手を入れたのに、この“間”=関係性だけが手つかずのまま。だから変わらないのです。ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。人を変えるより、関係を変える。結果を急ぐなら、まず関係の質から。これがこの講座を通しての合言葉になります。

組織開発=関係性に、当事者と一緒に働きかける

では、組織開発とは何でしょうか。一般に、組織開発(OD)とは、組織を“人と人との関係性”という単位で捉え、当事者である現場のメンバーが対話しながら、組織を健全で成果の出る状態にしていく、計画的な取り組みを指します。もともとは1950〜60年代のアメリカで、行動科学をもとに生まれた考え方です。

ここで押さえてほしいポイントは2つです。

ひとつめは、手を入れる対象が「個人」ではなく「人と人の“間”」だということ。仕事には、「何をやるか(仕事の中身)」という面と、「どう進めているか(コミュニケーションのとり方や関わり方)」という面があります。組織開発が見るのは、後者——人と人の“間”で進んでいることの方です。

ふたつめは、当事者を巻き込んで一緒に進めること。上から正解の制度を入れて押し付けるのではなく、現場の人たち自身が「自分たちの組織を、自分たちでよくしていく」のを支える。これが組織開発の進め方の核です。だからこそ、「人を入れ替える」「制度を足す」「個人を叱る」だけでは、関係性は動きません。よく耳にする1on1やフィードバック、対話の場づくりは、すべて「関係性に働きかける打ち手」として、この考え方の上に乗っています(それぞれのやり方は、後の章と関連講座で扱います)。

人材開発(個人を伸ばす)との違いを押さえる

組織開発と、よく混同されるのが人材開発(HRD)です。この2つは、対の概念として並べると、すっきり区別できます。

人材開発(HRD)組織開発(OD)
何に手を入れるか人(個人)人と人との“間”(関係性)
ねらい個人の知識・スキル・やる気を伸ばす関係性に働きかけ、組織を良くする
主な手段研修・OJT・自己啓発支援 など対話の場・1on1・フィードバック など

つまり、Aさんの提案力を伸ばす研修を受けさせるのは人材開発。「会議でAさんが安心して提案できる空気をつくる」のは組織開発です。どちらも大事ですが、別物です。ここを取り違えると、「研修さえやれば組織が変わる」と期待して、また裏切られることになります。研修(人材開発)をいくら重ねても、人と人の“間”(関係性)に手を入れなければ、チームの回り方は変わらないからです。

この章の確認(演習)

共通例「6人の営業チーム」について、あなたがこれまでに打った手を、「個人に向けた手/制度・ルールに向けた手/関係性に向けた手」の3つに仕分けてみてください。おそらく、多くが個人と制度に集まり、「関係性に向けた手」の欄がぽっかり空くはずです。そのうえで、「組織開発とは、この“関係性”の空白に手を入れて、当事者と一緒に組織を良くすることだ」を、自分の言葉で1〜2行に書いてみます。最後に、「個人を伸ばすのが人材開発、人と人の間に働きかけるのが組織開発」という違いを一言添えられたら、ゴール達成です。

組織の課題を「関係性の観点」で捉え直す(成功循環モデル)

第1章で、「関係性が空白だった」と気づきました。でも、「関係性を見ろ」と言われても、何をどう見ればいいのか、つかみどころがありません。そこでこの章では、関係性を捉えるための“ものさし”を1つ手に入れます。

この章のゴール

この章を読み終えると、チームの課題を「誰が悪いか(個人)」ではなく、「関係の質→思考の質→行動の質→結果の質」の循環で捉え直して説明でき、結果から直接迫る悪い循環と、関係の質から回す良い循環を区別できるようになります。

関係性を捉える“ものさし”=成功循環モデル

その“ものさし”が、組織の成功循環モデルです。これは、MIT(マサチューセッツ工科大学)のダニエル・キムが提唱したもので、組織が回っていく順番を、次の4つの「質」のつながりで描いたものです。

①関係の質 → ②思考の質 → ③行動の質 → ④結果の質

そして、④結果の質が、また①関係の質に戻ってきます。ぐるりと一周する輪、というわけです。順番に意味があります。関係の質(メンバーどうしが安心して話せるか)が、思考の質(前向きに考えられるか)に影響し、それが行動の質(自分から動き、協力するか)に影響し、その結果として結果の質(成果)が出る。そして良い結果がまた関係を良くする、という順序です。

グッドサイクルとバッドサイクル(結果から迫ると逆回りする)

このモデルがおもしろいのは、同じ4つの質が、回り方によって良い循環(グッドサイクル)にも、悪い循環(バッドサイクル)にもなるところです。

グッドサイクルは、関係の質を起点に上向きに回ります。安心して話せる関係がある(関係の質)→だから前向きに考えられる(思考の質)→だから自分から動き、助け合う(行動の質)→だから成果が出る(結果の質)→成果が出るとさらに関係が良くなる。こうして、ぐるぐると良い方に回っていきます。

バッドサイクルは、逆です。多くのリーダーが、成果が欲しいあまり、いちばん最後の結果(数字)から直接迫ってしまいます。「なぜ取れない」「とにかく数字を出せ」と。すると、関係がぎすぎすして不信感が生まれ(関係の質が下がる)→「どうせ言っても否定される」「余計なことは言うまい」と後ろ向きになり(思考の質が下がる)→言われたことしかやらず、悪い報告も上げなくなり(行動の質が下がる)→成果はますます出なくなり(結果の質が下がる)→リーダーはもっと詰める。こうして、下向きにぐるぐる回ってしまうのです。

グッドサイクルバッドサイクル
起点関係の質から始める結果(数字)から迫る
関係の質安心して話せるぎすぎす・不信感
思考の質前向きに考える後ろ向き・受け身
行動の質自分から動く・助け合う言われたことだけ・報告しない
結果の質成果が出る成果が出ない

肝は、結果を直接変えようとするほど、かえって悪い方に回ってしまうということ。だから組織開発では、出発点を、結果ではなく①関係の質に置き換えます。

チームの不調を循環で診断する

では、共通例「6人の営業チーム」を、この成功循環で診断し直してみましょう。

あなたが数字を見て「なぜ取れないんだ」と詰める。するとメンバーは「言っても否定される」と感じます(関係の質が下がる)。すると「どうせ無理だ」「余計なことは言わないでおこう」と考えるようになります(思考の質が下がる)。だから会議では黙り、悪い報告は後回しにします(行動の質が下がる)。結果、ミスの発覚が遅れ、取れたはずの案件も逃します(結果の質が下がる)。そしてあなたは、もっと厳しく詰める——。

どうでしょう。きれいにバッドサイクルが回っています。「Aさん個人のやる気の問題」に見えていたものが、実はチームの“回り方”(関係性)の問題だった、と捉え直せます。そして大事なのは、逆もまた可能だということ。出発点を関係の質に変えれば、この同じ6人を、グッドサイクルに乗せ替えられます。その具体的な打ち手を、次の章で選んでいきます。

この章の確認(演習)

共通例「6人の営業チーム」の症状を3つ挙げ(たとえば「会議で意見が出ない」「報告が遅い」「同じミスが続く」)、それぞれが成功循環の4つの質(関係/思考/行動/結果)のどこの不調かに当てはめてみてください。次に、その悪循環が「どこから始まっているか」を一言で書いてみます(多くの場合、「結果から迫っている」ことが起点です)。最後に、「出発点を関係の質に変えると、どう変わりそうか」を1〜2行で書けたら、ゴール達成です。

関係の質に効く打ち手を選ぶ

第2章で、「出発点を関係の質に置く」と決めました。では、関係の質を上げるとは、具体的に何をすることなのでしょう。この章では、打ち手を選べるようになります。

この章のゴール

この章を読み終えると、関係の質を上げる打ち手(安心して話せる場づくり・傾聴・1on1・フィードバック・小さな承認 など)を、チームの症状に合わせて選べるようになります。

関係の質の中身=心理的安全性(仲良しではなく、率直に言い合える安心)

「関係の質」の中身を、もう少し言葉にしてみましょう。いちばん近いのが、心理的安全性という考え方です。これは、ハーバードのエイミー・エドモンドソンが1990年代末に提唱したもので、「率直に意見を言ったり、ミスや分からないことを認めたりしても、罰せられたり、馬鹿にされたりしない、と思える状態」を指します。

ここで、ひとつ誤解を先回りで潰しておきます。心理的安全性は、「仲良し」や「ぬるい職場」のことではありません。むしろ正反対です。なれ合いの職場は、波風を立てたくないから、言いにくいことを誰も言いません。心理的安全性が高い職場は、安心して“率直に”言い合えるから、難しい指摘も、耳の痛いフィードバックも、テーブルに乗せられます。「関係の質を上げる」とは、メンバーを甘やかすことではなく、本音と事実が安心して行き交う状態をつくることなのです。

関係の質に効く打ち手のカタログ

関係の質(心理的安全性)を上げる打ち手には、たとえば次のようなものがあります。どれも、特別な道具はいりません。

打ち手何をするかどんな症状に効くか
場づくり(チェックイン)会議の冒頭に、全員が一言ずつ近況や調子を話す会議で意見が出ない
傾聴(まず受ける)意見が出たら、良し悪しを即断せず、最後まで聴いて一度受け止める発言がすぐ止まる
1on1定期的に一対一で、困りごとを先に聞く(やり方は kouza-058)相談が上がらない
フィードバック人格でなく、事実と次の一歩を返す(やり方は kouza-060)指摘が責めに聞こえる
承認・感謝できたこと・助けてくれたことに、その場で小さく礼を言う貢献が見えず沈む
悪い報告を歓迎する悪い知らせほど「早く言ってくれて助かった」と返す報告が遅れる

関係の質は、実は、挨拶や軽い声かけ、近況のひと言といった小さな場づくりから上がっていきます。いきなり大きな仕掛けはいりません。1on1やフィードバックの細かいやり方は、それぞれ専門の講座にゆずりますが、ここで大事なのは、これらがすべて「関係の質に効くかどうか」で並んでいるということです。

症状に合わせて1〜2個に絞る(全部やらない)

打ち手の一覧を見ると、つい「全部やろう」と思いたくなります。でも、それは禁物です。一度に全部入れると、現場は疲れ、たいてい続きません。コツは、チームの症状(どの“質”が落ちているか)に合わせて、1〜2個に絞ることです。

もうひとつ、選ぶときに必ず確認してほしいことがあります。その打ち手が、「関係の質を上げる方向」なのか、「結果を直接迫って、関係の質を下げる方向」なのかです。たとえば「評価をもっと厳しくする」「会議をさらに増やす」は、一見すると改善策ですが、向きとしては関係の質を下げ、バッドサイクルを強めてしまいます。打ち手を選んだら、向きを点検する。これを忘れないでください。

共通例「6人の営業チーム」で、実際に選んでみましょう。症状は「会議で意見が出ない」「報告が遅れる」。どちらも関係の質(安心して話せるか)が落ちているサインです。だから、ここに効く打ち手を絞ります。

ひとつめ、会議の冒頭に、全員が一言ずつ話すチェックインを入れる。いきなり「意見は?」ではなく、まず全員が声を出すことで、発言のハードルが下がります。ふたつめ、意見が出たら、良し悪しを即断せず、まず受ける。「否定されない」と分かれば、次も話せます。みっつめ、悪い報告ほど「早く言ってくれて助かった」と返す。報告を責めないと分かれば、悪い知らせも早く上がってきます。逆に、ここで「評価を厳しく」「会議を増やす」を選んでいたら、関係の質はさらに下がっていたはずです。打ち手は、症状=落ちている関係の質にひもづけて選ぶ——この感覚をつかんでください。

この章の確認(演習)

共通例「6人の営業チーム」の症状(意見が出ない/報告が遅い)それぞれに対し、関係の質に効く打ち手を1つずつ選び、「誰が・いつ・どんな行動を取るか」まで具体的に書いてみてください。次に、自分の実際のチームで、今いちばん落ちている関係の質の症状を1つ挙げ、それに効く打ち手を1つ選んで、具体的な行動に落としてみます。選んだら、その打ち手が「関係の質を上げる向き」かどうかも点検します。症状と打ち手をひもづけられたら、ゴール達成です。

当事者を巻き込んで小さく始める(組織開発の進め方)

打ち手は選べました。でも、選んだだけでは組織は変わりません。最後の章では、その打ち手をどう進めるかを扱います。ここに、組織開発が効くか効かないかの分かれ目があります。

この章のゴール

この章を読み終えると、選んだ打ち手を、当事者(メンバー)を巻き込んで小さく始め、結果を急がず回せるようになります。そして、組織開発が「人事の大げさなもの」ではなく、現場リーダーの日々の関わりそのものだと、位置づけられるようになります。

当事者を巻き込む(押し付けた施策は続かない)

進め方の第一原則は、当事者を巻き込むことです。組織開発の核は、「現場の人たちが、自分たちの組織を、自分たちでよくしていく」ところにあります。だから、リーダーが正解を決めて「来週からチェックインをやる」と通達するのでは、半分しか効きません。

そうではなく、問いかけるところから始めます。「最近、会議でみんな意見を出しにくそうに見えるんだけど、どうしたら話しやすくなると思う?」と。そうやってメンバー自身に考えてもらい、「自分たちで決めたこと」にする。人は、上から押し付けられた施策はやらされ仕事になって続きませんが、自分たちで決めたことは続けます。打ち手の中身が同じでも、決め方ひとつで、定着がまるで変わります。

小さく始める・結果を急がない(まず見るのは数字でなく関係・行動の変化)

第二に、小さく始めること。いきなりチーム全部を変えようとせず、1〜2個の打ち手を、短い期間——たとえば2週間——だけ試します。小さく試せば、合わなければすぐ手を変えられますし、現場も身構えずに済みます。

第三に、いちばん大事なことです。結果を急がない。成功循環を思い出してください。関係の質→思考→行動→結果、の順に、時間差で効いていきます。つまり、関係の質に手を打っても、数字(結果)が動くのは、いちばん最後なのです。だから、2週間で最初に見るべきは、数字ではありません。発言した人数が増えたか。悪い報告が、前より早く上がってくるようになったか。こうした関係と行動の変化が先に来て、数字はその後からついてきます。ここで「2週間やっても数字が戻らない、効果なしだ」と切り捨ててしまうのが、いちばんもったいない失敗です。

現場リーダーの日常の関わりがそのまま組織開発

第四に、続けて見直す。やってみて、効いていれば続ける。手応えが薄ければ、別の打ち手に変える。これを繰り返すだけです。

ここまで来ると、最初の誤解——「組織開発は、人事や経営がやる大げさなものだ」——が、すっかり外れていることに気づくはずです。問いかけて一緒に決め、小さく試し、関係と行動の変化を見て、続けるか変えるかを判断する。これは特別なプロジェクトではなく、現場リーダーが日々の関わりの中でやれること、そのものです。組織開発は、あなたの手の中にあります。

共通例「6人の営業チーム」で、最後まで進めてみましょう。あなたは独断で決めず、まずメンバーに「最近、会議で意見が出にくい気がするんだけど、どうしたら話しやすい?」と問いかけ、一緒に「会議の冒頭にチェックインを2週間試そう」と決めます(当事者を巻き込む・小さく始める)。この2週間は、数字を問い詰めるのを一旦やめます。見るのは「発言した人数」と「悪い報告が早く上がったか」だけ。実際に発言が増え、報告が早くなってきたら続け、足りなければ1on1を足します。数字が戻ってくるのは、その先です。こうして、あなたは6人を、自分たちの手でグッドサイクルに乗せ替えていきます。

この章の確認(演習)

共通例「6人の営業チーム」で、第3章で選んだ打ち手を、「メンバーにどう問いかけて一緒に決めるか」のセリフを1つ書いてみてください。次に、2週間の“小さな実験”として、見る指標(数字ではなく、関係・発言・報告のどれを見るか)を1つ決めてみます。最後に、自分の実際のチームで、明日できる小さな一歩(問いかけ1つ・打ち手1つ・見る指標1つ)を書き出してみましょう。当事者を巻き込んで小さく回す進め方を、自分の手で確かめられたら、ゴール達成です。

まとめ:人を変えるより、関係を変える。結果を急ぐなら、まず関係の質から

おつかれさまでした。「あなたが率いる6人の営業チーム」という1つの場面を、組織開発とは何か→関係性で捉え直す→関係の質に効く打ち手を選ぶ→当事者と小さく回す、と1段ずつ立て直してきました。歩いてきた道を振り返ります。

  1. 組織開発とは……個人の能力ややる気を直すことではなく、人と人との“関係性”に、当事者と一緒に働きかけて組織を良くする取り組み。個人を伸ばす人材開発とは対の概念で、制度を足すだけでも変わらない(第1章)。
  2. 関係性の観点で捉え直す……課題を「誰が悪いか」でなく、関係の質→思考の質→行動の質→結果の質の循環で見る。結果から直接迫るとバッドサイクルが回る。出発点を関係の質に置き換える(第2章)。
  3. 関係の質に効く打ち手を選ぶ……関係の質の中身は心理的安全性(ぬるま湯ではなく、率直に言い合える安心)。場づくり・傾聴・1on1・フィードバック・承認などを、症状に合わせて1〜2個に絞り、向きを点検する(第3章)。
  4. 当事者を巻き込んで小さく始める……問いかけて一緒に決め、1〜2個を2週間だけ試し、数字でなく発言・報告の変化を見て、続けるか変えるかを判断する。これは現場リーダーの日々の関わりそのもの(第4章)。

この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「『成果が出ない』を、個人でなく関係性で捉え、結果でなく関係の質から打ち手を選び、当事者と回せているか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——人を変えるより、関係を変える。結果を急ぐなら、まず関係の質から。これが身につくと、成果不振を問われても「Aさん個人の問題ではなく、チームの関係の悪循環です。だからまず関係の質から立て直します」と、捉え直しから打ち手、進め方まで筋道で示せるようになります。

明日の最初の一歩:自分のチームで、今いちばん気になる症状(意見が出ない/報告が遅い/ミスが続く など)を1つ選んでみてください。それを成功循環の「どの質の不調か」に当てはめ、関係の質に効く打ち手を1つだけ選びます。そして、メンバーに問いかけて一緒に決め、2週間だけ試す。見るのは、数字ではなく、発言と報告の変化です。「誰が悪い」ではなく「関係をどう変えるか」で動けたら、それが第一歩です。

もっと深めたくなったら、その先の道も用意されています。管理者の役割の全体像をつかみ直すなら kouza-057(マネジメント基礎)、関係の質に効く打ち手のやり方は kouza-058(1on1)・kouza-060(フィードバック)、個人を伸ばす人材開発は kouza-061(部下育成)・kouza-068(若手育成)、チームの目標共有と役割分担の設計は kouza-063(チームビルディング)で深められます。本講座はあくまで「組織開発=関係性の観点で課題を捉え、関係の質に効く打ち手を症状別に選び、当事者を巻き込んで回すこと」という“ものの見方”に絞っています。

そして、これをあなた一人のチームだけでなく、組織ぐるみで本格的に進めたいなら——法人研修の資料を無料で請求してください。自社のチームで「関係の質から回す」組織開発を、症状別の打ち手カタログとワーク、そして現場への伴走つきで実践できます。まずはこの「関係性で捉え、関係の質から回す」見方を、自分のチームで試すところから始めましょう。

よくある質問

組織開発と人材開発はどう違いますか

人材開発は個人の知識・スキル・やる気を伸ばすことを目的とし、研修やOJTが主な手段です。一方、組織開発は人と人との「間」=関係性に働きかけ、当事者を巻き込みながら組織を良い状態にしていく取り組みです。どちらも大切ですが、別物として使い分ける必要があります。

成功循環モデルとは何ですか

関係の質→思考の質→行動の質→結果の質という4つのつながりで組織の回り方を示したモデルです。結果(数字)から直接迫るとバッドサイクルが回り、関係の質を起点にするとグッドサイクルに乗ります。チームの課題をどの「質」の不調かで診断するための「ものさし」として使えます。

心理的安全性はぬるい職場のことですか

違います。心理的安全性とは、率直に意見を言ったりミスを認めたりしても罰せられない安心感を指します。なれ合いや馴れ馴れしさではなく、本音と事実が安心して行き交える状態のことです。難しい指摘や耳の痛いフィードバックをテーブルに乗せられる職場が、心理的安全性の高い状態です。

組織開発はまず何から始めればよいですか

チームの症状(意見が出ない・報告が遅い・ミスが続くなど)を1つ選び、それが成功循環の「どの質の不調か」に当てはめます。次に関係の質に効く打ち手(場づくり・傾聴・承認など)を1〜2個に絞り、メンバーに問いかけて一緒に決め、2週間だけ小さく試すことがすすめられています。

組織開発の効果はいつ数字に現れますか

成功循環モデルの通り、関係の質→思考→行動→結果の順に時間差で効いていきます。打ち手を始めてまず現れるのは発言数の変化や報告のスピードといった行動・関係の変化で、数字はその後からついてきます。2週間で最初に見るべきは数字ではなく発言と報告の変化です。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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