アカウント営業入門|既存顧客を1社=面で深耕する考え方と進め方 | マナビズ

アカウント営業入門|既存顧客を1社=面で深耕する考え方と進め方

アカウント営業入門|既存顧客を1社=面で深耕する考え方と進め方

担当している顧客、今期も去年とだいたい同じ取引額で終わりそう——そんな手応えのなさを感じることはありませんか。新規を追う時間がなくて、結局はいつもの顧客を回るだけになる。けれど、その「いつもの顧客」の中で自社が取引できているのは、窓口の担当者ひとり・ひとつの部署・ひとつの商材だけかもしれません。会社という大きな建物の、玄関のドア1枚しか開けていない状態です。

アカウント営業とは、担当する顧客を「目の前の1案件」ではなく「1社という面」で中長期に捉え、社内に取引を広げ・上げて深耕していく営業の考え方です。新しい顧客を追う前に、いまの顧客の中に眠っている伸びしろを掘る。本講座は、この「すでに取引のある1社をどう広げるか」だけに絞ります。初回の引き合いから受注までの法人営業の流れ全体は法人営業入門、契約後の利用定着・解約防止はカスタマーサクセス入門、顧客情報の管理手法はCRM入門が、それぞれの正本です。本講座はそこには踏み込みません。

この講座を終えると、次の3つができるようになります。アカウント営業とは何かを単発の案件営業との違いとともに説明できること、担当する1社の関係者と取引範囲を書き出して深耕の余地がどこにあるかを見立てられること、そして取引を広げる・上げる次の一手と会うべき相手を盛り込んだ簡単なアカウントプランを作成できることです。覚えて帰る型は「1社を面で見る → 関係者と取引範囲を地図にする → 空白を『広げる/上げる』で攻める → 1枚のアカウントプランにする」。本講座では、以前から付き合いのある取引先1社(例:中堅メーカーA社)を、窓口担当者との1案件の付き合いから他部署・他商材へ広げる対象として見直す、という場面を全章で追いかけます。

この講座のポイント

  • アカウント営業とは何かを、単発の案件営業との違いとともに、自分の言葉で説明できる。
  • 担当する1社の関係者と取引範囲を書き出し、深耕の余地がどこにあるかを見立てられる。
  • 見立てた余地から、取引を「広げる」「上げる」どちらの方向で攻めるかを選べる。
  • 取引を広げる・上げる次の一手と会うべき相手を盛り込んだ、簡単なアカウントプランを作成できる。

アカウント営業とは何か——既存1社を「面」で捉える

この章のゴール

アカウント営業とは何かを、単発の案件営業との違いとともに、自分の言葉で説明できる。

アカウント営業は「1案件」ではなく「1社という面」を育てる営業

まず、法人どうしの取引がどういう性質を持つかを押さえます。法人は、営利目的の経営活動の一環として購買を行うため、商品力や取引条件など収益に影響する要素を最も重視します。そして、安定した供給を受けるという観点から長期的な取引関係を志向し、会社間・担当者間の良好な関係を重視します(出典:J-Net21「企業(法人)向け販売と、消費者(個人)向け販売では…」)。つまり法人取引は、本来「1回売って終わり」ではなく、中長期で続いていく前提のものです。

ここに、アカウント営業の発想が生まれます。担当する顧客を「先月の発注1件」という点で見るのをやめ、「A社という会社全体との取引(どの部署と・どの商材で・年間どのくらい)」という面で見る。すると、いま自社が触れているのは会社全体のごく一部だと気づきます。発想を「案件を1つ取る」から「この1社との取引総額をどう育てるか」へ切り替える——これがアカウント営業の出発点です。

単発の案件営業との違いは「時間軸」と「単位」

単発の案件営業との違いは、2つに整理できます。1つは時間軸です。案件営業は1つの商談が決まれば一区切りですが、アカウント営業は受注後もその1社を中長期で見続けます。もう1つは単位です。案件営業が見るのは「この案件」、アカウント営業が見るのは「この1社」。同じ顧客に向き合っていても、点で見るか面で見るかで、次にやることがまるで変わります。

注意したいのは、これは初回受注までのプロセスを否定するものではないという点です。引き合いから受注までをどう進めるかは法人営業の本筋で、その流れ全体は法人営業入門が扱います。本講座は、その先——すでに受注して取引が始まっている1社を、どう社内に広げて深耕するか——に絞ります。

既存顧客の深耕は新規開拓より割のいい打ち手になりやすい

なぜ既存深耕から始めるのか。理由はコストです。新規顧客を集めるには、既存顧客の維持に比べて数倍のコストが掛かります(出典:J-Net21「既存顧客数をアップする(事例7回目)」)。同じ売上をつくるなら、まだ取引のある1社の中を広げるほうが、ゼロから新しい顧客を探すより手間も費用も小さく済むことが多いのです。だからこそ、新規を追う前に、いまの顧客の伸びしろを先に見る価値があります。

ここで、よく出回る「新規は既存の5倍」「解約を5%改善すれば利益が25%」といった具体的な数字には注意してください。これらは出どころがはっきりせず、倍率にも諸説あります。本講座では具体倍率は使わず、公的機関が示す「数倍のコストがかかる」という事実だけを根拠にします。数字を盛らなくても、「既存深耕は割がいい」という結論は十分に立ちます。

「もう関係ができているから営業はいらない」というつまずき

つまずきは2つあります。1つは「既存顧客はもう関係ができているから、営業しなくていい相手」と捉えること。実際には、関係ができているのは窓口担当者ひとりとの間だけで、その上の決裁者や別部署とは未接点、ということが珍しくありません。もう1つは「窓口担当者の注文をさばくこと」を深耕だと思い込むこと。注文を受けるのは現状維持であって、取引を広げる・上げる仕事ではありません。深耕とは、まだ開いていないドアを開けにいく仕事です。

この章の確認(演習)

自分の担当顧客を1社選び、「いま自社がその会社と取引している範囲」を一文で書き出してください。どの部署と・どの商材で・おおよそ年間どのくらい取引しているか(数値が不確かなら「(例)」と明示し、断定しない)。書き終えたら、「これは会社全体のうちどのくらいか」を自問してみましょう。多くの場合、思っていたより一部だけのはずです。

1社を見立てる——関係者マップと取引範囲の棚卸し

この章のゴール

担当する1社の関係者と取引範囲を書き出し、深耕の余地がどこにあるかを見立てられる。

深耕の前に「現状の地図」を1枚描く

伸びしろを掘るといっても、いきなり提案を増やすのは早計です。まず描くべきは「現状の地図」。自社の地位を上げ取引を改善するには、自社の現状をしっかり把握し、取引先が今どんな経営をしてどんな悩みを持っているか、常にアンテナを張る必要があります(出典:J-Net21「自社にとって有利な取引条件に改善するには」)。誰と・どこで・何を・どのくらい取引しているのか、相手は何に困っているのか。これを頭の中ではなく1枚の紙に書き出すところから始めます。

関係者マップは窓口・決裁者・利用部署・未接点を並べる

地図の1枚目は関係者マップです。やることはシンプルで、その会社の中で取引に関わる人を「会えている人」と「まだ会えていない人」に分けて並べます。会えている人は窓口担当者。その上で発注を決める決裁者、実際に商材を使う利用部署、そしてまだ一度も会えていない人。A社(例)なら、「窓口は購買のBさん、その上の決裁はC部長、製造部とは取引があるが開発部とは接点ゼロ」というふうに書き出します。

ここで気をつけたいのは、窓口担当者だけを見て「この会社のことは分かっている」と錯覚することです。窓口のBさんと親しくても、発注を最終的に決めるC部長や、まだ会えていない開発部の存在を地図に入れ忘れれば、深耕の余地は見えてきません。1社の取引を1人の窓口に依存するのは、機会であると同時にリスクでもあります。取引先を少数に限定すると、相手の都合に左右されたり、取引上強く出られなくなったりするからです(出典:J-Net21「自社にとって有利な取引条件に改善するには」)。同じ1社の中でも、複数の関係者という面で捉えておくことが大切です。

取引範囲の棚卸しは「どの部署に・どの商材を・どのくらい」

地図の2枚目は取引範囲の棚卸しです。いまどの部署に・どの商材を・どのくらい納めているかを書き出します。A社(例)なら「扱っているのは商材Xだけで、商材Yは未提案」「製造部とは取引があるが開発部とは取引ゼロ」。こうして書き出すと、地図の「空白」——未接点の人・未取引の部署・未提案の商材——が浮かび上がります。この空白こそが、深耕の余地です。

なお、こうした顧客情報を自分の頭の中だけに置くと、「情報を持っているのに活用できていない」「どの顧客に何をしたか担当者にしか分からない」という状態に陥りがちです(出典:J-Net21「CRMの導入について…」)。だからこそ1枚に書き出して見える化する意味があります。情報を組織で一元管理し次の一手の判断に使う仕組み化まで踏み込みたい場合はCRM入門へ進んでください。本講座は、まず自分の手で1社の地図を描くところに絞ります。

この章の確認(演習)

第1章で選んだ1社について、関係者マップ(会えている人/まだ会えていない人)と取引範囲(どの部署に・どの商材を)を1枚に書き出してください。そのうえで、地図の空白——未接点の人・未取引の部署・未提案の商材——を探し、3つに印をつけます。印がついた3つが、次の章で攻める候補になります。

深耕の方向を決める——「広げる」と「上げる」

この章のゴール

見立てた余地から、取引を「広げる」「上げる」どちらの方向で攻めるかを選べる。

深耕の方向は「広げる」と「上げる」の2つ

地図の空白が見えたら、次はどう攻めるかです。深耕の方向は大きく2つに整理できます。この整理の土台になるのが、取引額の分解です。取引の大きさは「単価×数量(取扱品目)」に分けられ、これは小売でいう「客単価=商品単価×買上点数」と同じ構造です(出典:J-Net21「顧客単価をアップする(事例8回目)」)。この2つの要素のどちらを動かすかが、そのまま深耕の2方向になります。

「広げる」は、取引する部署・商材・拠点を横に増やすことです。買い上げる品目を増やす努力をすると、顧客の愛顧が高まり、来店頻度が高まり、結果として取引全体が育つ——という好循環が生まれます(出典:J-Net21「顧客単価をアップする(事例8回目)」)。関連する商材を組み合わせて提案できれば、1社あたりの取引点数は増えていきます(出典:J-Net21「客単価を向上させるには」)。A社(例)なら、「製造部としか取引がない状態から、開発部に商材Yを提案する」のが広げる打ち手です。

「上げる」は単価・頻度・継続性を縦に高める

「上げる」は、いま取引している範囲の単価・頻度・継続性を縦に高めることです。ただし、単に値段を上げるのは禁物です。付加価値を付けずに単価だけ上げると、かえって取引数量が落ち、顧客は競合に流れてしまいます(出典:J-Net21「顧客単価をアップする(事例8回目)」)。逆に、しっかり信頼関係のある相手は、価格の安さだけでなく付加価値のある提案を受け入れてくれます(出典:J-Net21「客単価を向上させるには」)。A社(例)なら、「製造部の単発発注を、付加サービスをつけて年間契約に切り替える」のが上げる打ち手です。

なお、相手の課題を一緒に定義して解決そのものを売る、という営業スタンスの転換はソリューション営業入門が扱います。本講座は、その構えを「既存1社をどう広げる・上げるか」という単位に当てはめるところに絞ります。

会いやすい窓口にだけ提案を足すつまずき

ここでのつまずきは2つです。1つは「広げる」と「上げる」を混同して打ち手がぼやけること。横に増やすのか縦に高めるのかをはっきりさせると、次の行動が定まります。もう1つは、会いやすい窓口担当者にだけ提案を足してしまうこと。Bさんに新商材を勧めるのは楽ですが、本当に広げたい開発部やC部長という本丸を避けていては、取引は面に広がりません。会いにくい相手こそ、空白の中心にいます。

この章の確認(演習)

第2章で印をつけた空白3つそれぞれに、「広げる」「上げる」のどちらの方向が当てはまるかを書いてください。そのうえで、半年のうちに実際に動かす1つを選びます。選んだ理由(なぜそれが今いちばん効きそうか)を一言添えておくと、次の章でプランに落とすときに迷いません。

アカウントプランを作成する——次の一手と会うべき相手

この章のゴール

取引を広げる・上げる次の一手と会うべき相手を盛り込んだ、簡単なアカウントプランを作成できる。

アカウントプランは「1社を半年〜1年でどう深耕するか」の1枚

最後に、ここまで描いた地図と選んだ方向を、1枚のアカウントプランにまとめます。アカウントプランとは、この1社を半年から1年でどう深耕するかを1枚に落としたものです。盛り込む要素は最低限4つ。①現状(関係者マップと取引範囲)、②狙い(広げる/上げる先)、③そのために会うべき相手、④次の一手(最初の一歩)。

この4要素は、取引先に価値ある存在になるための流れと一致しています。自社の現状を把握し、相手の経営状況や悩みをつかみ、その悩みをもとに積極的な提案を行って密なコミュニケーションを図る(出典:J-Net21「自社にとって有利な取引条件に改善するには」)。現状を出発点に、相手のメリットになる狙いを立て、それを届けるべき相手を名指しして、最初の一手を決める。プランの4要素は、この流れを1枚に圧縮したものです。

「会うべき相手」を窓口で済ませないことが肝

プランの肝は③の「会うべき相手」です。ここを窓口担当者で済ませてしまうと、第3章のつまずきに逆戻りします。狙いが「開発部に商材Yを広げる」なら、会うべき相手は開発部の担当者であり、その決裁をするC部長です。まだ会えていない相手をプランに名指しで書くことで、次の訪問で誰に会いにいくのかが具体的になります。A社(例)のプランなら、「現状:購買Bさん経由・商材Xのみ/狙い:開発部に商材Yを広げる/会うべき相手:開発部の担当とC部長/次の一手:Bさんに開発部への紹介を依頼する」という1枚になります。

壮大な計画より「最初の一歩」を1つ決める

つまずきは、壮大な計画を立てて最初の一歩が動かないことです。半年分の打ち手を全部書き込むより、「今週から今月のうちにやる最初の一歩」を1つだけ決めるほうが、確実に前へ進みます。そして、プランは書いて終わりにしません。情報を貯めるだけで終わらせず、立てた計画を実行し、結果を見て見直す——この回し続けることにこそ意味があります(出典:J-Net21「CRMの導入について…」)。取引を広げた後、その取引を使い続けてもらう働きかけ(契約後の定着・継続利用)はカスタマーサクセス入門が扱います。本講座のゴールは、まず1枚のプランを書き、最初の一歩を動かすところまでです。

この章の確認(演習)

選んだ1社について、現状・狙い・会うべき相手・次の一手の4点を1枚のアカウントプラン(例)にまとめてください。書けたら、上司に説明する想定で声に出して読み上げます。「この会社の、ここに余地があって、だから次は誰に会いにいきます」と1分で言えれば、プランは機能しています。

まとめ

アカウント営業とは、担当する顧客を「目の前の1案件」ではなく「1社という面」で中長期に捉え、社内に取引を広げ・上げて深耕する営業です。守るべきは目先の1件ではなく、その1社との取引をどう育てるか。覚えて帰る型は「1社を面で見る → 関係者と取引範囲を地図にする → 空白を『広げる/上げる』で攻める → 1枚のアカウントプランにする」。新規を追う前に、いまの顧客の中に眠っている伸びしろを掘る——これが本講座の背骨です。

明日の一歩として、担当顧客を1社選び、関係者マップと取引範囲を1枚に書き出して、空白に印をつけてみてください。それが、アカウント営業の最初の実務です。さらに進んで、広げる先の決裁者や他部署に踏み込む法人営業の流れを学びたい方は法人営業入門へ、取引を広げた後の利用定着を学びたい方はカスタマーサクセス入門へ進むのが次のステップです。

本講座の特典として、関係者マップ・取引範囲・狙い・会うべき相手・次の一手を埋めるだけで1社の深耕計画が描ける「アカウントプラン1枚テンプレート」をご用意しています。テンプレートの入手案内と、既存顧客の深耕や法人営業に役立つ実務Tipsのお届けは、メルマガ登録からどうぞ。

よくある質問

アカウント営業と普通の営業は何が違うのですか

見る単位と時間軸が違います。普通の案件営業は1つの案件を点で追いますが、アカウント営業は1社全体を面で捉え、受注後も中長期で取引を広げ・上げて深耕します。

なぜ新規開拓より既存顧客の深耕を先にやるのですか

公的機関の解説でも、新規顧客の獲得は既存顧客の維持に比べ数倍のコストがかかるとされています。同じ売上なら、すでに取引のある1社の中を広げるほうが割のいいことが多いからです。

「広げる」と「上げる」はどう使い分けますか

広げるは取引する部署・商材・拠点を横に増やすこと、上げるは同じ取引の単価・頻度・継続性を縦に高めることです。地図の空白に対し、どちらの方向で攻めるかを選びます。

アカウントプランには何を書けばよいですか

最低限、現状・狙い・会うべき相手・次の一手の4点です。特に会うべき相手を窓口担当者で済ませず、まだ会えていない決裁者や利用部署を名指しで書くのが肝になります。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

上部へスクロール