ヒアリング力入門

ヒアリング力入門

「今、勤怠の管理ってどうされてますか?」「タイムカードですね」「……えーと、何かご不便とかは?」「いえ、特にないですね」——。商談で、こんなふうに会話がぴたりと止まってしまった経験はありませんか。あるいは、用意してきた質問を上から順に当てていったら、相手に「なんだか尋問されてるみたい」という顔をされた。状況(事実)は聞けるのに、肝心の「困りごと(課題)」は、ふわっとしか出てこない。結局あいまいなまま提案に進んで、刺さらない。

「営業の基礎」で「提案の前に、まずヒアリングで課題を聞く」と学んだあなたは、ちゃんと質問するようになりました。なのに、課題が深まらない。「『特にない』と言われると、そこで終わってしまう」「現場の担当者には聞けても、部長クラスには同じ質問が通じない」。そして、だんだんこう思い始めます。「結局、ヒアリングってセンスと場数なんじゃないか」と。

でも、安心してください。ヒアリングが深まる人と、浅いまま終わる人の違いは、センスでも場数でもありません。違うのは、質問を“設計して、場面ごとに準備しているか”だけです。この講座のテーマは、その先——何を・どの順で・どう聞けば、相手が自分の口で課題を話してくれるのかです。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. 良いヒアリングを「質問の才能・場数」ではなく、状況→問題→示唆→解決の4種類の質問を順に重ねて、相手自身に課題を言葉にしてもらう“設計された対話”として、自分の言葉で説明でき、ヒアリングが浅くなる正体(状況質問の連発/尋問化/「特にない」で止まる)を説明できる
  2. 顧客の課題を引き出す質問を、状況質問→問題質問→示唆質問→解決質問の4種類で組み立てられる。とくに示唆質問で「放っておくとどうなるか」を一緒に広げ、相手が「これは解決したい」と気づくところまで進められる
  3. 商談の場面(新規初回/決裁者との面談など、相手の立場とフェーズ)ごとに、引き出したい課題に合わせた質問を事前に準備でき、尋問でなく対話として機能させる聞き方まで含めて、ヒアリングシート1枚に落とせる

この講座は最後まで、「クラウド勤怠管理システム(出退勤の打刻や残業集計をクラウドで行うサービス)を売る若手営業のあなたが、従業員80名の運送会社『みなと運輸』にヒアリングする」という、たった1つの商談だけで説明します。“浅いヒアリング”のダメ例を、4種類の質問・場面ごとの準備・聞き方で深めていく——同じ商談を段階的に組み上げます。各章末には手を動かす演習も置いているので、自分の担当先を思い浮かべながら読み進めてください。そして、この講座で作る質問の型は、最後にそのまま使える「場面別ヒアリングシート」としてダウンロードできます。まずは、ヒアリングが浅くなる正体から見ていきましょう。

第1章:なぜヒアリングは浅くなるのか(聞いているのに課題が出ない正体)

まずは、「ちゃんと質問しているのに課題が深まらない」というモヤモヤの正体を、はっきりさせましょう。ヒアリングを「センスでやるもの」から「設計してやるもの」に変える、土台の章です。

この章のゴール

この章を読み終えると、良いヒアリングを「才能・場数」ではなく、状況→問題→示唆→解決を設計した対話として、自分の言葉で説明でき、ヒアリングが浅くなる3つの正体(状況質問の連発/尋問化/「特にない」放置)を説明できるようになります。

「聞いているのに課題が出ない」の正体

「提案の前に、まず聞く」は、もうあなたの中に入っている前提です。それでも課題が深まらないとしたら、足りないのは「聞く意識」ではなく、質問の設計です。

ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。ヒアリングはセンスではなく“設計”。場面を決めれば、課題を引き出す質問は事前に準備できる——状況→問題→示唆→解決の順で。深まる人は、その場のひらめきで質問しているのではなく、「この相手なら、この順番で、こう聞く」を訪問の前に組み立てています。違いは、ここだけです。

ヒアリングが浅くなる3つの正体

では、設計を持たないと、ヒアリングはどう浅くなるのか。よくあるのは、次の3つです。

正体どういう状態かなぜ課題が出ないか
① 状況質問の連発「何台ですか」「何分かかりますか」と事実だけを聞く事実は集まるが、困りごと(問題)とその影響に踏み込めていない
② 尋問化用意した質問を、一方的に上から当てていく相手が「調べられている」と身構え、本音を言わなくなる
③ 「特にない」放置「お困りごとは?」と漠然と聞いて引き下がる相手はまだ自分の状況を“問題”だと認識していないだけ

①は、いちばん多い落とし穴です。事実を聞くのは大事ですが、そこで止まると「で、それの何が困るの?」が抜けたまま提案に進んでしまう。②は、質問を“消化”してしまうパターン。質問はリストではなく、相手の答えに合わせて深めていく対話です。③は、相手の「特にない」を額面どおり受け取ってしまう状態。多くの場合、相手は困っていないのではなく、それが困りごとだと、まだ気づいていないだけなのです。

まずは、この3つを名前で覚えてください。自分のヒアリングが浅いとき、たいていこのどれかに当てはまっています。

良いヒアリングは、相手に課題を言葉にしてもらう“対話”

では、良いヒアリングとは何でしょうか。それは、あなたが上手にしゃべることでも、鋭い質問をひらめくことでもありません。4種類の質問を順に重ねて、相手自身に「これが私の課題だ」と言葉にしてもらう、設計された対話です。

実は、この「課題を引き出す質問の順番」には、ちゃんと名前が付いています。ニール・ラッカムという人が、たくさんの商談を分析してまとめたSPIN話法です。難しく考える必要はありません。「課題を引き出す質問には、状況→問題→示唆→解決という順番がある」——今はそれだけ掴んでおけば十分です。中身は、次の第2章でひとつずつ見ていきます。

共通例:みなと運輸での「浅いヒアリング」

ここで、この講座を通して使う共通例に登場してもらいましょう。あなたは、クラウド勤怠管理システムを売る若手営業です。今日は、担当することになった従業員80名の運送会社「みなと運輸」に、はじめてヒアリングに行きます。応対してくれるのは、人事と総務を兼任している田中さんです。

設計を持たないと、こうなります。

  • あなた「今、勤怠の管理ってどうされてますか?」
  • 田中さん「タイムカードですね」
  • あなた「……何か、ご不便とかはありますか?」
  • 田中さん「うーん、特にないかな」

会話が、止まりました。①状況質問を1つ聞いただけで、③漠然とした問題質問を投げ、「特にない」で引き下がった——浅いヒアリングの典型です。実は田中さんは、月末の勤怠の手集計に毎回2〜3日かかっています。でも「大変だけど、まあそういうもの」と思っていて、まだ“問題”だと意識していない。だから「特にない」と答えたのです。この商談を、第2章から設計して深めていきます。

この章の確認(演習)

自分の最近のヒアリング(または、これからの商談)を1つ思い出してみてください。そして、浅くなる3つの正体——状況質問の連発/尋問化/「特にない」放置——のうち、自分はどれに当てはまりやすいかを、1〜2行で書き出してみます。

そのうえで、「良いヒアリングとは、4種類の質問を設計して、相手に課題を言葉にしてもらう対話だ」を、自分の言葉で1行に書いてみましょう。ヒアリングを“アドリブ”から“設計”に捉え直せたら、この章はゴールです。

第2章:課題を深める4つの質問(状況→問題→示唆→解決)

ここからが、この講座の中心です。第1章で見た「浅いヒアリング」を、4種類の質問で「課題が出るヒアリング」に変えていきます。

この章のゴール

この章を読み終えると、顧客の課題を引き出す質問を、状況→問題→示唆→解決の4種類で組み立てられるようになります。とくに示唆質問で問題を広げ、相手自身に課題を言葉にしてもらえるようになります。

課題を引き出す質問は、4種類ある

顧客の課題を引き出す質問は、やみくもに数を打つものではありません。大きく4種類に分けて、順に重ねていきます。これが、第1章で名前だけ紹介したSPIN話法の中身です。

順番質問の種類聞くこと例(みなと運輸)
状況質問今どうなっているか(事実)。事前に調べて最小限に「集計は、月末にどなたが、どんなふうに?」
問題質問何に困っているか(不満・問題)「その手集計で、困ることはありますか?」
示唆質問その問題を放っておくと、どうなるか「集計ミスで残業代に過不足が出たら、どんな影響が?」
解決質問解決したら、どんな良いことがあるか「その手集計がゼロになったら、その時間は何に使えますか?」

①の状況質問は、相手の現状を知るための事実確認です。ただし、ここに時間をかけすぎないのがコツ。会社の規模や業種など、事前に調べれば分かることは調べておき、当日は最小限にします。②の問題質問で「困っていること」を引き出す。ここまでは、あなたもやっているはずです。

いちばんの肝は「示唆質問」

第1章で会話が止まったのは、②問題質問の手前までしか行けなかったからでした。課題を深めるかどうかを分けるのが、③の示唆質問です。

示唆質問とは、ひとことで言えば「その問題を放っておくと、どうなりますか?」を聞く質問です。問題質問で出てきた不満を、「それが続くと、どんな影響が出ますか」「ほかの仕事に、どう響いていますか」と一緒に広げていく。すると、相手の中で小さかった問題が、だんだん「これは、なんとかしないとまずいな」という大きさに育っていきます。

第1章の「特にない」も、ここで破れます。相手が「特にない」と言うのは、たいてい困っていないからではなく、それが困りごとだと、まだ気づいていないから。状況質問で事実を出し、示唆質問で「放っておくとどうなるか」を一緒に考えると、相手は自分で「あ、これって問題だったんだ」と気づきます。だから、状況質問は手短にして、この示唆質問に時間を割く——これが、課題を深めるいちばんの鍵です。相手自身に課題を育ててもらうこの聞き方は、検討に時間のかかる法人の商談で、とくに効いてきます。

ひとつ注意があります。示唆質問は、「それ、困りますよね?」と決めつけて同意を迫る誘導とは違います。それをやると、相手は「いや、別に」と引いてしまう。あくまで「放っておくと、どうなりそうですか?」と、一緒に考える問いかけにするのがポイントです。

解決質問で、相手にメリットを語ってもらう

問題が十分に大きくなったら、最後は④の解決質問です。「もし、それが解決したら、どうなりますか?」「どんな良いことがありそうですか?」と聞きます。

ここで大事なのは、メリットをあなたが語るのではなく、相手に語ってもらうこと。あなたが「導入すれば便利です」と言うより、相手自身が「解決したら月末がすごくラクになるな」と口にしたほうが、ずっと前向きになります。あなたが「買ってください」と言わなくても、相手のほうが「解決したい」と思ってくれる。それが、解決質問のねらいです。

そして、ひととおり聞けたら、最後に課題を一言で確認します。「つまり、〇〇でお困り、ということですね」と返すのです。こうすると、課題があなたと相手の間でぴったり揃い、このあとの提案がブレなくなります。

共通例:みなと運輸を、4種類でやり直す

では、第1章で止まってしまった田中さんとの会話を、4種類の質問でやり直してみましょう。

  • ①状況「勤怠の集計は、月末にどなたが、どんなふうにされてますか?」→田中さん「総務が、タイムカードを見ながら電卓で計算して、手で転記してるよ」
  • ②問題「その手集計で、困ることはありますか?」→田中さん「正直、月末は2〜3日つきっきりでね。計算ミスも、たまに出るんだ」
  • ③示唆「もし集計ミスで残業代に過不足が出たら、どんな影響がありそうですか?」→田中さん「未払いなんてことになったら、是正の対応が大変だよ。正直こわいね。それに、その2〜3日は総務が他の仕事に手をつけられないんだ」
  • ④解決「その月末の手集計が、もしゼロになったら、その2〜3日は何に使えそうですか?」→田中さん「採用の対応とか、問い合わせ対応に回せるなあ。それは大きいよ」

最後に、こう確認します。「つまり、月末の手集計に2〜3日とられて、ミスのリスクもあって、本当はやりたい採用や問い合わせの仕事が止まってしまう——これが一番のお困りごと、ということで合ってますか?」。田中さんは「そうそう、まさにそれ」とうなずきます。

第1章では「特にない」で終わった同じ田中さんが、今度は自分の口で課題をはっきり語ってくれました。違いは、あなたの話術ではありません。状況で止めず、示唆質問まで進めた——その設計だけです。

この章の確認(演習)

共通例「みなと運輸」について、状況→問題→示唆→解決の4種類の質問を、1つずつ(計4つ)書き出してみてください。とくに示唆質問は、「その問題を放っておくと、どうなるか」の形で書きます。

このとき、商品説明は書かないのがルールです。この段階は、課題を深めることだけに集中します。書けたら、第1章で書いた「自分のダメ例」と並べて、どこが変わったかを1行添えてみましょう。

第3章:場面ごとにヒアリングを準備する(同じ商品でも、誰に・いつ聞くかで質問は変わる)

第2章で、4種類の質問という“型”を手に入れました。この章では、その型を使って商談の前に質問を準備するところまでいきます。ここが、この講座のいちばん大事なところです。

この章のゴール

この章を読み終えると、商談の場面(相手の立場・商談フェーズ)ごとに、引き出したい課題に合わせた質問を事前に準備でき、「同じ商品でも、場面が変われば聞くべき質問が変わる」を説明できるようになります。

4種類は「型」、中身は「場面」で変わる

ここで、よくある勘違いを先に潰します。「4種類を覚えたから、もうどの商談でも同じ質問でいける」——これは違います。

第2章の4種類は、あくまで質問の骨(型)です。実際に聞く中身は、商談の場面によって変わります。同じ「みなと運輸」が相手でも、誰に・どのタイミングで聞くかで、効く質問はまるで違う。だからこそ、ヒアリングはアドリブではなく、場面ごとに事前に準備できるのです。背骨をもう一度——場面を決めれば、課題を引き出す質問は事前に準備できる。これが、この章の核心です。

場面を決める3つの要素

では、「場面」とは何で決まるのか。次の3つです。

  1. 相手は誰か——現場の担当者なのか、決裁する立場の人なのか。現場の担当者は「自分の手間・自分の業務」に反応し、決裁者(部長・経営層)は「コスト・リスク・全体の最適」に反応します。同じ困りごとでも、刺さるポイントが違うのです。
  2. 商談のフェーズ——新規の初回なのか、2回目以降の深掘りなのか、既存のお客さんへの追加提案なのか。初回でいきなり踏み込みすぎると引かれますし、2回目なら一歩深く聞けます。
  3. この場面で、何を引き出したいか——その商談のゴールです。

この3つが決まると、状況・問題・示唆・解決の4種類それぞれの“中身”が決まります。だから、優秀な営業は、訪問の前に「この場面なら、この質問」を組み立てておけるのです。これを書き留めたものが、ヒアリングシートです。

共通例:担当者と決裁者では、質問が変わる

「みなと運輸」で、2つの場面を見比べてみましょう。

場面Aは、第2章でやった初回・人事/総務担当の田中さんとの商談です。引き出したいのは、現場の手間。だから質問の中身は、第2章のとおりです。

場面Bは、2回目・決裁する人事部長との商談だとします。部長は、田中さんとは関心がちがいます。月末の手集計の「手間」そのものより、「残業時間を正確に把握できていない=労務上のリスク」や、「80人分の勤怠管理にかかる総務の人件費=コスト」に反応します。同じ4種類でも、中身を組み替える必要があるのです。

4種類場面A:担当の田中さん(手間)場面B:決裁の人事部長(リスク・コスト)
状況「集計は月末にどなたが、どう?」「勤怠の集計体制と、人にかかっている工数は?」
問題「その手集計で困ることは?」「正確な残業時間の把握で、不安な点はありますか?」
示唆「その2〜3日、他の仕事は止まりますよね?」「もし労務監査で勤怠記録の不備を指摘されたら、どんな影響が?」
解決「集計がゼロになったら何に使える?」「正確な勤怠が自動で残るようになると、経営として何が安心ですか?」

見てのとおり、同じ「みなと運輸」・同じ商品でも、聞く相手が変わると、聞くべき質問が変わります。田中さんに「労務監査が…」と聞いてもピンと来ないし、部長に「電卓で大変ですよね」と聞いても響きません。場面を読み違えると、せっかくの4種類が空振りします。

この章の確認(演習)

共通例「みなと運輸」の場面B(決裁する人事部長)向けに、状況→問題→示唆→解決の4種類の質問を、場面A(担当の田中さん)とは変えて準備してみてください。とくに、示唆質問と解決質問を「労務リスク・コスト」に寄せるのがポイントです。

最後に、場面Aと、どこが・なぜ変わったかを1行添えます。同じ商品でも場面で質問が変わる、という感覚を、自分の手で形にできたら、ゴールです。

第4章:質問を活かす聞き方(尋問にしない・沈黙・深掘り・「特にない」突破)

質問を準備できるようになりました。最後の章では、その質問を“尋問”でなく“対話”として機能させる聞き方を身につけます。良い質問も、聞き方しだいで台無しになるからです。

この章のゴール

この章を読み終えると、準備した質問を対話として機能させる聞き方(沈黙を待つ/オウム返しで深掘り/「特にない」を示唆質問で破る/課題を要約合意)を、説明・実践できるようになります。

良い質問も、聞き方しだいで「尋問」になる

第1章で挙げた「尋問化」を、ここで回収します。どんなに良い4種類の質問を準備しても、台本のように一方的に当てていけば、相手にとっては尋問です。準備した質問を、相手の答えに合わせて深めていく——そのための聞き方の技が、4つあります。

沈黙を待つ/オウム返しで深掘りする

ひとつめは、沈黙を待つことです。質問を投げたあと、相手が少し考えて黙る——その数秒が、怖くなりませんか。間が持たなくて、つい自分で答えを言ってしまう。でも、その沈黙は、相手が考えている大事な時間です。ここで自分がしゃべると、相手は考えるのをやめてしまいます。ぐっとこらえて、待ちましょう。

ふたつめは、オウム返しです。相手が答えてくれたら、その言葉をそのまま繰り返して、「それは、具体的には?」と一段深めます。これは、カウンセリングの世界で使われてきたバックトラッキングという技法で、「ちゃんと聞いていますよ」というサインになり、相手はもっと話してくれます。コツは、相手の言葉を自分の言葉に言い換えないこと。言い換えると誘導になるので、相手が言ったとおりの言葉で返します。

「特にない」を突破し、課題を要約合意する

みっつめが、「特にない」の突破です。第1章の田中さんを、もう一度思い出してください。もし最初に「特にないですね」と言われても、もう引き下がる必要はありません。漠然と聞くのをやめて、状況質問で事実を出してから、示唆質問で問題に気づいてもらうのです。

  • あなた「月末の集計、何日くらいかかっていますか?」(状況)→田中さん「2〜3日かな」
  • あなた「その2〜3日、本当はやりたい仕事は、止まってしまいますよね?」(示唆)→田中さん「まあ……採用が後回しになるね」
  • あなた「採用が後回しに、なるほど。具体的には、どんなことが?」(オウム返し+深掘り)→田中さん「応募者への連絡が遅れて、たまに辞退されることも……」

「特にない」と言っていた田中さんが、自分から「採用が後回しになる」と問題を口にしました。あなたは決めつけず、沈黙を埋めずに、状況→示唆と進めただけです。

よっつめが、課題の要約合意です。最後に「つまり、月末の手集計のせいで採用が後回しになって、辞退まで出てしまうのが、一番の痛みということですね」と返して、相手と握ります。ここで相手が「そうそう」とうなずけば、課題が確定します。この一言があると、このあとの提案がブレません。

質問の準備(第2章・第3章)と、この聞き方(第4章)。この2つがそろって、ヒアリングは“尋問”から、相手と一緒に課題を育てる“対話”に変わります。

この章の確認(演習)

共通例で、田中さんに「特にないですね」と言われたところから始めてみてください。そこから課題を引き出す質問の流れ(状況質問→示唆質問→オウム返しの深掘り→要約合意)を、3〜4手書き出します。

最後に、握った課題を「つまり、〇〇ですね」の形で、1文にまとめます。「特にない」を聞き方で突破する感覚を、自分の手で再現できたら、ゴールです。

まとめ:ヒアリングはセンスではなく“設計”

おつかれさまでした。「みなと運輸へのヒアリング」という1つの商談を、浅いダメ例から課題合意までたどってきました。第1章で「特にない」と止まった会話が、最後には相手の口から課題が出るまで来ました。やったことを振り返ります。

  1. 浅くなる正体を知る……ヒアリングが浅くなるのは、状況質問の連発・尋問化・「特にない」放置のどれか。良いヒアリングは才能でなく、設計された対話だと捉え直した(第1章)。
  2. 4種類の質問で深める……状況→問題→示唆→解決の順に重ねる。とくに示唆質問で「放っておくとどうなるか」を広げ、相手自身に課題を語ってもらう(第2章)。
  3. 場面ごとに質問を準備する……4種類は型、中身は場面(誰に・どのフェーズ・何を引き出すか)で変わる。担当の田中さんと決裁の部長では、聞くべき質問が違った(第3章)。
  4. 質問を活かす聞き方……沈黙を待ち、オウム返しで深掘りし、「特にない」は状況→示唆で突破し、「つまり〇〇ですね」で課題を握る(第4章)。

この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「この場面で、相手自身が課題を言葉にできる質問を、準備できているか?」。そして、この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——ヒアリングはセンスではなく“設計”。場面を決めれば、課題を引き出す質問は事前に準備できる。状況→問題→示唆→解決の順で。これが身につけば、「特にない」と言われても、決裁者に会っても、もう固まりません。

明日の最初の一歩:次の商談を1件決めて、その場面(相手の立場・フェーズ・引き出したい課題)に合わせて、状況→問題→示唆→解決の4種類の質問を、1枚のヒアリングシートに書き出してみてください。白紙で臨むのをやめて、準備した質問を持っていく。きれいにまとめる必要はありません。「特にない」と言われても示唆質問で返せる準備が1枚あれば、それが第一歩です。

そして、この講座で作った場面別ヒアリングシート(4種類の質問×場面の中身)は、すぐ使えるテンプレートとしてダウンロードできます。次の商談から、白紙ではなく、このシートを1枚埋めてから臨んでみてください。なお、ここで引き出した課題に刺さる提案書の作り方や、決断を後押しするクロージング・反論対応は、ヒアリングの次の段階——別の講座で深めていきます。まずは、この「場面を決めて、質問を準備してから聞く」を自分のものにしましょう。それが、すべての商談の土台になります。

よくある質問

ヒアリング力を上げるにはセンスや場数が必要ですか?

結論からいえば、センスや場数は必須ではありません。深まるヒアリングと浅いヒアリングの違いは、質問を「設計して場面ごとに準備しているか」だけです。状況→問題→示唆→解決の4種類の順番を理解し、商談前に質問を用意する習慣を持てば、初心者でも再現できます。

示唆質問とはどういう質問ですか?

「その問題を放っておくと、どうなりますか?」という形で、課題の影響や広がりを一緒に考えてもらう質問です。問題質問で出た不満を、「ほかの仕事にどう響いていますか」と掘り下げることで、相手が「これは解決しなければ」と自分で気づけるようになります。

お客さまに「特にない」と言われたら、どうすればよいですか?

そこで引き下がらず、まず状況質問で具体的な事実を引き出し、そのあと示唆質問で「それが続くと、どんな影響が出ますか?」と進みます。相手が「特にない」と答えるのは困っていないからではなく、まだそれを問題だと認識していないためです。状況→示唆の順で進めると、相手が自分で課題に気づいてくれます。

担当者と決裁者では、同じ質問で大丈夫ですか?

同じ4種類の型を使っても、質問の中身は相手の立場に合わせて変える必要があります。現場の担当者は自分の業務の手間に反応しますが、決裁者はコストや労務リスクなど全体への影響に反応します。場面(誰に・どのフェーズ・何を引き出したいか)を決めてから質問を組み立てることが大切です。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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