「新しいキャンペーン案、まず10個出して」——そう振られて、3個か4個でペンが止まった経験はありませんか。出てきた案も、よく見ればどれも似たり寄ったり。会議に持っていくと「もっと幅が欲しい」と返される。そこで対話型AIに「良いキャンペーン案を考えて」と聞いてみても、返ってくるのは“それっぽい1案”だけで、ちっとも広がらない——。
実はこの行き詰まりの正体は、あなたの発想力ではなく、AIの使い方かもしれません。AIに「良い正解を1つください」と頼んでいる限り、AIは1つのまとまった答えを返そうとします。それはアイデアを「絞り込む」動きであって、「広げる」動きではないのです。
AIブレストとは、AIに良い1案を出させることではありません。AIを相棒にして、案の量と幅を広げる——つまり発散することです。目指すのは「これ1つで決まり」という正解ではなく、「ここから選べる」幅広いたたき台。覚えておきたいひと言は、「AIには、正解を聞くな。数を聞け。」です。
この講座は「AIを発散の相棒として使う」ことだけに絞ります。アイデア出しの考え方そのもの(問題を見つけて解決策を試すまでの設計プロセス)を学びたい方はデザイン思考入門へ、対話型AIの使い始め(アカウントや基本操作)はChatGPT入門へ進んでください。本講座を終えると、AIを“量を広げる相棒”として使う違いを説明でき、視点をずらす問いかけで多くの切り口を発散でき、発散と収束(絞り込み)の境目を引いて「ここからは別工程」と判断できるようになります。題材として、「夏の新商品キャンペーン案を考えて」というお題を、AIを相棒に発散していく場面を全章で追いかけます。
この講座のポイント
- AIを“良い1案をもらう道具”ではなく“量を広げる発散の相棒”として使う、という違いを説明できる。
- 1つのお題に対し、問いかけを変えて多くの切り口のアイデアを発散できる。
- 発散と収束(絞り込み)の境目を引き、「ここからは別工程」と判断できる。
AIブレストとは何か——1案をもらうのではなく量を広げる
この章のゴール
AIを“良い1案をもらう道具”ではなく“量を広げる発散の相棒”として使う、という違いを説明できる。
ブレストは「判断を後回しにして量と幅を広げる」発散の作業
そもそもブレインストーミングとは、複数人でアイデアを自由に出し合い、創造的な解決策を見つける思考法です。1953年にアレックス・オズボーンが体系化しました(出典:JMAM「ブレインストーミングとは?」)。その肝は、批判を恐れず自由に発言し、質より量を重視して数多くのアイデアを生み出すこと。オズボーンが示した4原則も、①批判厳禁(出た案を否定しない)②自由奔放(突拍子もない案も歓迎する)③量を求む(質より量)④結合改善(出た案を組み合わせて発展させる)と、すべて「まず広げる」方向を向いています(出典:JMAM)。
ここで押さえたいのが、思考には「広げる」と「選ぶ」の2つのモードがあるという点です。可能性や選択肢を広げるのが発散思考で、このモードでは評価・判断・絞り込みは行いません。基準は「正しいか」ではなく「面白いか・多様か」です。一方、出た選択肢を基準に照らして絞り込むのが収束思考。そしてこの2つは同時には使えません(出典:Design Thinking Studio「発散思考と収束思考」)。ブレストは、このうち発散にあたる作業なのです。
「正解を1つ」ではなく「たくさん・違う角度で」とAIに頼む
ここでAIの出番です。AIは疲れず・遠慮せず・たくさん出してくれる相手なので、発散の相棒として相性が良い。ただし頼み方を間違えると、その良さは消えてしまいます。研究では、AIに特別な工夫をせず生成させたアイデア群は、人間のグループが出すアイデア群よりも多様性が低く、似通った案に偏ることが確認されています(出典:Meincke, Mollick & Terwiesch, ペンシルベニア大学ウォートン校 2024)。つまり、「良い案を1つ提案して」と頼めば、AIは1つの無難な答えに収束しようとし、発散になりません。
そこで発散の前に、2つのことを自分とAIに宣言します。1つは「お題」——何のアイデアを出すのか(例:夏の新商品キャンペーン案)。もう1つは「ここでは数と幅を優先する。良し悪しの判断は後でやる」という宣言です。そのうえで、「良い案を1つ」ではなく「思いつく限り、違う切り口でたくさん出して」と頼みます。同じお題でも、①「良い案を1つ提案して」と頼んだ場合と②「違う切り口で20個出して」と頼んだ場合とでは、返ってくる広がりがまるで変わります。
つまずきは2つ。ついAIに「で、一番いい案は?」と聞いてしまい、発散が収束に化けてしまうこと。そして、最初に出てきた数個で満足して止めてしまうことです。広げると決めた間は、良し悪しを判断しないと自分に言い聞かせましょう。
この章の確認(演習)
自分が最近「アイデアを出して」と頼まれた場面を1つ思い出してください。それを、「数と幅を広げるお題」の形——たとえば「◯◯について、違う切り口でたくさん案を出す」——に、1文で書き直してみましょう。
AIで切り口を広げる——出てこなくなってからが本番
この章のゴール
1つのお題に対し、問いかけを変えて多くの切り口のアイデアを発散できる。
AIは放っておくと似た案に偏る——視点をずらす問いかけで壁を越える
AIは一度にいくつもの案を出せますが、放っておくと出力は似た方向に偏っていきます。とくに、お題のキーワードをそのまま使い続けると、AIの案は既存の枠の中で似通いやすくなります(出典:Wadinambiarachchi et al., ACM CHI 2024)。最初の10個が出たあとに「もっと出して」と同じ聞き方を繰り返しても、似た案が並ぶだけ。発散が本当に試されるのは、ここからです。
鍵は、視点をずらす問いかけを重ねること。研究では、お題と一見無関係な概念を持ち込んだり、AIに別の立場(ペルソナ)を与えたりすると、発想の幅が広がることが示されています(出典:Wadinambiarachchi et al. 2024/Shaer et al., ACM CHI 2024)。
数を指定する・立場をずらす・極端に振る・組み合わせるの4つの広げ方
視点をずらす問いかけは、次の4つで十分に始められます。第一に数を指定する——「あと10個」。第二に立場をずらす——「学生向けなら?」「子ども目線なら?」。第三に極端に振る——「予算ゼロなら?」「予算無制限なら?」「真冬にやるなら?」。第四に組み合わせる——「Aの案とBの案を掛け合わせると?」「コンビニとのコラボなら?」。こうした切り口の引き出しは、転用・応用・変更・拡大・縮小・代用・再配置・逆転・結合の9つの視点から発想する「オズボーンのチェックリスト」という古典技法にも通じます(出典:カオナビ人事用語集「オズボーンのチェックリスト」)。
進め方の手順はこうです。まず数を指定して出させる。似てきたら立場をずらす。それも詰まったら極端に振る、または組み合わせる。そして、出た案はこの章ではいったん全部残します。1つの聞き方より、切り口を変えた複数の問いかけを重ねたほうが、案どうしの重複が少なく、全体の幅が広がるからです(出典:Meincke, Mollick & Terwiesch 2024)。
その場で「これは無理」と削り始めて発散が止まるつまずき
つまずきも2つあります。1つは、出た案にその場で「これは無理」と削り始めること。これは発散に評価を混ぜる動きで、広げる勢いが止まります。もう1つは、AIが最初に出した完成度の高い案に固執してしまうこと。研究では、AIの出力に引っ張られて最初の例をなぞるように案を作ってしまい、AIを使わないときよりかえってアイデアの数・多様性・独自性が下がる場合があると報告されています(出典:Wadinambiarachchi et al. 2024)。最初の1画面で満足しないこと。視点をずらす問いかけを、この“視点ずらし”を毎回使える型(テンプレート)にして再利用する進め方はAIプロンプトの基本で扱います。
この章の確認(演習)
第1章で書き直したお題をAIに投げ、最初の出力のあと、視点をずらす問いかけ(数・立場・極端・組み合わせ)を3回重ねてください。合計15個以上の案を出すことを目標にします。
発散と収束の境目を引く——広げたあと、どこで止めるか
この章のゴール
発散と収束(絞り込み)の境目を引き、「ここからは別工程」と判断できる。
ブレストは「広げる(発散)」と「選ぶ(収束)」が別の作業
たくさん広げたあと、つい勢いのまま「で、どれがいい?」と進みたくなります。ですが、広げる発散と選ぶ収束は別の作業で、混ぜると両方が弱まります。発散している最中に「それは予算的に難しい」「前に失敗した」といった評価が混入すると、その後のアイデア量は急落します(出典:Design Thinking Studio)。これはデザインの世界で広く使われる「ダブルダイヤモンド」という地図でも同じで、解決策を広げる工程(Develop)と、絞り込んで実装する工程(Deliver)は、はっきり分けて扱われます(出典:Design Council「The Double Diamond」)。本講座の発散は、この「広げる工程」にあたります。広げる工程と選ぶ工程の全体設計を学びたい方はデザイン思考入門へ。
広げた案を“たたき台のリスト”に整えるまでが発散の仕上げ
発散は、案を出しっぱなしにして終わりではありません。出したアイデアは分類・整理して、次の評価・選択の段階に渡せる状態にします(出典:JMAM)。具体的には、似たものをグループにまとめる「親和図(KJ法)」のような整理です。実際のワークショップでも、個人やAIと出した案を集め、似たものをグループ化して各グループの代表を立てる、という手順が踏まれます(出典:Rapid AIdeation, 2024)。
共通例なら、ここでAIに「重複をまとめて、似た方向ごとにグループ分けして」と頼み、(例)20個超の案を“幅のあるたたき台リスト”に整えます。ポイントは、この段階で評価まではさせないこと。手順は、①発散を止める合図を決める(数が十分・新しい角度が出なくなった)②AIには重複の統合とグループ分けだけ頼む③「ここまでが発散、選ぶのは別工程」と一言添えて次へ渡す、の3つです。
勢いのまま「で、どれがいい?」とAIに優劣を決めさせるつまずき
最大のつまずきは、発散の勢いのままAIに「どれが一番いい?」と優劣を決めさせてしまうことです。AIによる優劣の評価は、人間の専門家の評価と平均してズレることがあり、学習データ由来のバイアスを引き継ぐ危険もあって、AIを自動評価者として使う妥当性はまだ試験段階にあります(出典:Shaer et al. 2024/Rapid AIdeation 2024)。ですから、整理や下ごしらえはAIに任せても、どの案を採るかという最終判断は人が行います。逆に、いつまでも広げ続けて締まらないのも問題です。収束に移るときは、「選ばなかった案は捨てるのではなく、今は保留にしているだけ」と捉えると、踏ん切りがつきます(出典:Design Thinking Studio)。そして、どの案を採るかを決める判断の軸そのものは意思決定入門で扱います。
この章の確認(演習)
第2章で出した15個以上の案を、AIに「重複をまとめてグループ分けして」と頼み、“たたき台リスト”に整えてください。最後に、「ここからは収束(絞り込み)」と1行で線を引きましょう。
まとめ
AIブレストとは、AIに“良い正解を1つ”もらうことではなく、AIを相棒にして案の量と幅を広げる(発散する)ことでした。目指すのは「良い1案」ではなく「広いたたき台」です。覚えて帰る型は、お題を「数と幅優先」で投げる → 視点をずらして広げる(数・立場・極端・組み合わせ) → 発散と収束の境目で線を引く。そして、「AIには、正解を聞くな。数を聞け。」
明日の一歩として、次にアイデア出しを頼まれたら、AIに「思いつく限り違う切り口で出して」と投げ、似てきたら視点を3回ずらしてみてください。そのうえで、出た案をグループ分けして“たたき台”に整え、選ぶのは別工程と線を引く。この問いかけを毎回使える型にして再利用するコツはAIプロンプトの基本へ進むのが次のステップです。
本講座の特典として、数を指定する・立場をずらす・極端に振る・組み合わせるの4つを手元で確認できる「AIブレスト用“視点ずらし問いかけ”チェックシート」をご用意しています。入手は無料会員登録からどうぞ。
よくある質問
AIブレストと、AIに質問するのは何が違うのですか
質問は「良い正解を1つ」もらう収束、AIブレストは「数と幅」を広げる発散です。頼み方を「たくさん・違う角度で」に変えるのが出発点です。
AIに「たくさん出して」と頼んでも似た案ばかりになります
AIは放っておくと出力が偏ります。数の指定・立場ずらし・極端化・組み合わせなど、視点をずらす問いかけを重ねると、似た案の壁を越えて広がります。
出たアイデアの中からどれを選べばよいですか
選ぶのは発散の次の工程です。本講座は広げるところまで。採否を決める判断の軸は意思決定入門で扱うので、まずはグループ分けでたたき台に整えましょう。
AIに「どれが一番いい?」と決めてもらってもよいですか
最終判断は人が行います。AIの優劣評価は人の評価とズレたりバイアスを含んだりするため、整理や下ごしらえの補助にとどめるのが安全です。