回答はちゃんと集まった。なのに、いざ結果を前にすると「で、結局どうするの?」に答えられない——アンケートを取ったのにこうなる経験は、めずらしくありません。「どちらともいえない」ばかりで判断がつかない、自由記述は空欄だらけ、似たことを聞いた設問が微妙に違っていて比べられない。原因の多くは“集め方”ではなく、配信する前の“設問の作り方”にあります。
アンケート設計とは、答えが返ってくる設問・選択肢・並びを、配信する前に組み立てることです。たくさん聞くことが目的ではありません。目的に沿って、答えを歪めず、答えやすく集計できる設問を作る——この精度が、使えるアンケートと使えないアンケートを分けます。本講座は「設問を作る側(聞く前)」だけに絞ります。集まった回答を集計して傾向を読む手順はデータ分析入門、対面・口頭で相手の課題を引き出すやり方はヒアリングの基本が、それぞれの正本で、本講座はそこには踏み込みません。
この講座を終えると、次の3つができるようになります。アンケートの目的(何を知り・何を決めるための調査か)を1文で書けること、答えを歪める設問(誘導・二重質問・曖昧語・偏った選択肢)を見分けて直せること、そして答えやすく集計できる設問・選択肢・並びを設計できることです。覚えて帰る型は「目的を1文で決める → 答えを歪める設問を直す → 答えやすく集計できる形で設計する」。本講座では、「新サービスの価格をどう感じたか調べたい」という依頼を受け、目的を決め、設問と選択肢を作り、配信前に1問ずつ点検する、という同じ場面を全章で追いかけます。
この講座のポイント
- アンケートの目的(何を知り・何を決めるための調査か)を1文で書ける。
- 答えを歪める設問(誘導質問・二重質問・曖昧語・偏った選択肢)を見分けて直せる。
- 答えやすく集計できる設問・選択肢・並びを設計できる(=答えを得られる設問を作成できる)。
使えるアンケートは目的から決まる——何を知り、何を決めるのか
この章のゴール
アンケートの目的(何を知り・何を決めるための調査か)を1文で書ける。
アンケート設計は設問を書く前から始まっている
「アンケートを取って」と頼まれると、つい設問を並べ始めたくなります。でも、設計は設問を書く前から始まっています。アンケートは何かを決めるための手段であって、答えを集めること自体が目的ではないからです。統計の世界では、問題を明確にし(problem)、調査の計画を立て(plan)、それからデータを集めて(data)分析する(analysis)、という順番が基本とされています。無計画に調査・分析を行うと、有用なデータを収集できないばかりか、見当違いの分析をしかねません(出典:総務省統計局 Data StaRt「PPDACサイクルとは?」「P(計画)」)。つまり、最初にやるべきは設問づくりではなく、「この調査で何を知り、その結果で何を決めるのか」を決めることです。
実際、目的が曖昧なままアンケートを作ると、設問にブレが生じ、集まったデータが断片的で活用しづらくなります(出典:ロイヤリティ マーケティング「アンケートの設問設計のコツ」)。冒頭の「結局どうするの?に答えられない」は、設問の精度の前に、目的があいまいだったサインであることが多いのです。
「何を知り、その結果で何を決めるのか」を1文にする
目的は、頭の中にあるだけでは機能しません。1文に書き出します。書き方は3ステップです。まず、この調査で知りたい事実を書く。次に、その結果で下す判断(決めること)を書く。最後に、両方を「〜を知り、〜を決めるための調査」という1文にまとめます。
共通例で試します。「新サービスの価格をどう感じたか調べたい」という依頼は、このままでは漠然としています。(例)「想定価格を高いと感じる人がどれくらいいるかを知り、価格を据え置くか下げるかを決めるための調査」と言い換えると、何を聞けばよいか、どんな答えが返ればゴールかが一気にはっきりします。知りたい事実(高いと感じる人の割合)と、下す判断(据え置きか値下げか)が、1文の中でつながっているのがポイントです。
「とりあえず広く聞く」「設問数から考える」というつまずき
ここで2つのつまずきがあります。1つは「とりあえず広く意見を聞いておこう」と目的を広げてしまうこと。広げるほど設問が増え、どれも中途半端になり、結局何も決められません。もう1つは「何問にしようか」と設問の数から考え始めてしまうこと。数は目的が決まった後の結果であって、出発点ではありません。先に目的の1文があれば、必要な設問は自然に絞れます。なお、集めた回答から顧客像を組み立てて施策につなげる進め方はカスタマージャーニー入門が正本で、本講座は「聞く前の設問設計」に集中します。
この章の確認(演習)
自分が任された、または身近なアンケートを1つ選んでください。そのうえで「①知りたい事実」と「②その結果で下す判断」を別々に書き出し、両方を「〜を知り、〜を決めるための調査」という1文にまとめてみましょう。1文にまとめてみて、知りたい事実と決めることがうまくつながらないなら、目的がまだ絞れていないサインです。
答えを歪める設問を見分けて直す——誘導・二重質問・曖昧語・偏った選択肢
この章のゴール
答えを歪める設問(誘導質問・二重質問・曖昧語・偏った選択肢)を見分けて直せる。
設問の作りそのものが、答えを偏らせる
目的が決まったら、設問を書きます。ここで気をつけたいのは、設問の言い回しや選択肢の作り方そのものが、回答を歪めてしまうことです。意識調査では、質問文での言葉の使い方や聞き方によって調査結果に歪みが生じやすい、と公的な解説でも繰り返し注意されています(出典:総務省統計局 Data StaRt「質問文の作成」)。歪んだ設問は、配信して集めてしまってからでは直せません。配信前に、代表的な4つの型を1問ずつチェックします。
歪みの4つの型——誘導・二重質問・曖昧語・偏った選択肢
1つ目は誘導質問です。賛成や特定の方向へ寄せる言い回しのことで、たとえば社会的権威や「世間一般ではこう」という前置きで回答が影響される「威光暗示効果」や、どんな質問にも肯定的に答えやすい人の傾向(黙従傾向)を強める聞き方が当たります(出典:Data StaRt「質問文の作成」)。共通例なら、(例)「この魅力的な価格についてどう思いますか」は「魅力的な」が誘導です。「この価格についてどう感じますか」と中立に直します。賛成・反対どちらの立場もありうることが伝わる聞き方にするのが基本です。
2つ目は二重質問(ダブルバーレル質問)です。1つの質問文に2つ以上の論点を含むもので、一方に賛成・もう一方に反対という人が答えられなくなります(出典:Data StaRt「質問文の作成」)。共通例なら、(例)「価格と品質に満足ですか」は価格と品質の2つを同時に聞いています。価格について、品質について、と2問に分けます。1つの質問では論点を1つに絞る、が原則です。
3つ目は曖昧語です。あいまいな言葉は人によって解釈が変わり、結果に歪みが生じます(出典:Data StaRt「質問文の作成」)。(例)「この価格をよく感じますか」の「よく」は、人によって基準がバラバラです。難しい言葉やステレオタイプな言葉も同様に避け、誰が読んでも同じ意味になる言葉に置き換えます。
4つ目は偏った選択肢です。選択肢のつくり方次第で、回答の分布がまったく変わることがあります(出典:総務省統計局 Data StaRt「選択肢の作成」)。たとえば「大変賛成・強く賛成・賛成・やや賛成・反対」のように肯定側ばかり厚い選択肢は、答えを肯定へ寄せます。左右対称にするか、「非常に」などの極端な言葉を使うかを意識して、賛成側と反対側のバランスを整えます。
自分の期待に合う言い回しを、無意識に選んでしまう
つまずきは、作る側が期待する答えに合う言い回しを無意識に選んでしまうことです。値下げしたくない気持ちがあると、つい「魅力的な価格」と書いてしまう。これを防ぐには、設問を書いた後で「賛成・反対どちらかに引っ張る語はないか」「1問で2つ聞いていないか」「人で基準が違う語はないか」「選択肢が一方に偏っていないか」の4点を、1問ずつ声に出して確認することです。集まった後の回答をどう数えて傾向を読むかはデータ分析入門、割合や平均など数値の扱いは統計の基礎入門へ。本章はあくまで「聞く前に歪みを取る」工程です。
この章の確認(演習)
手元にある(または共通例の)設問を3〜4問用意し、その中から歪みのある設問を1つ見つけてください。それが誘導・二重質問・曖昧語・偏った選択肢のどの型かを示し、歪みを取り除いた文に書き換えてみましょう。書き換えた後、もう一度4つの型でチェックして、別の歪みが残っていないか確認します。
答えやすく集計できる設問・選択肢・並びを設計する
この章のゴール
答えやすく集計できる設問・選択肢・並びを設計できる(=答えを得られる設問を作成できる)。
回答者が答えやすく、かつ集計しやすい形を選ぶ
良いアンケートは、回答者にとって答えやすく、作る側にとって集計しやすい形をしています。この両立を、設問の形式・選択肢・並びの3点で組み立てます。土台にするのは、第1章で書いた目的の1文です。目的に直結しない設問は、ここで思いきって落とします。
形式は「数えたい=選択式/理由を知りたい=自由記述」で選ぶ
まず回答形式を選びます。選択肢を用意する選択式は集計しやすく、自由に書いてもらう自由回答は詳しい中身がわかる代わりに集計に手間がかかります。公的な解説では、自由回答は「どんな意見が出るか事前に想像しにくいとき」「複雑で詳細な情報をとりたいとき」「少数派でも意外な情報を得たいとき」に使うとよい、とされています(出典:総務省統計局 Data StaRt「選択肢の作成」)。逆に、数えて割合を出したいことは選択式にします。共通例なら、(例)「価格をどう感じたか」は高い〜安いの段階の選択式で聞き、「そう感じた理由」だけを自由記述にする、という組み合わせが集計と深掘りを両立させます。何でも自由記述にすると集計できず、自由記述は負担が大きく離脱率も上がりやすいので、最小限にとどめます(出典:ロイヤリティ マーケティング「アンケートの設問設計のコツ」)。
選択肢は重なりなく・漏れなく、段階はバランスよく
選択肢には原則があります。単項選択(1つだけ選ぶ形式)の選択肢は、網羅的に、かつ相互排他的に作ります。網羅的とは、ありうる回答がすべて含まれること。相互排他的とは、回答すべき選択肢が1つに絞られることです(出典:総務省統計局 Data StaRt「選択肢の作成」)。「1か月以内/2か月以内」のように範囲が重なると、どちらを選べばよいか定まりません。それでも当てはまらない人のために、「該当なし」「あてはまるものがない」といった受け皿も用意します(出典:ロイヤリティ マーケティング「アンケートの設問設計のコツ」)。段階で聞く場合は、選択肢の数と言葉(ラベル)を検討し、順序が明確に伝わる言葉を選びます。このとき、左右対称にするか・極端な言葉を使うかに気を配り、片側に偏らせないことが大切です(出典:Data StaRt「選択肢の作成」「データと変数の尺度」)。
並びは答えやすい順に、配信前に1問ずつ点検する
最後に並びです。原則は「答えやすい順」。広く漠然とした質問から始めて、徐々に狭く具体的な質問へ進む並べ方(ロート型)が基本で、冒頭には答えやすい質問を置きます。収入や年代などの属性質問は抵抗を感じやすいので、最後にまとめて聞きます(出典:総務省統計局 Data StaRt「調査票の作り方」)。また、先の質問の答えが後の質問の答えを引きずる「キャリーオーバー効果」にも注意し、影響しそうな設問は離して配置します(出典:同)。全員に聞けない設問は、先に条件をたずねるスクリーニング質問で行き先を分けます(出典:同)。ここまで組んだら、配信前に1問ずつ「この設問で意図した答えが返るか」を点検します。共通例なら、(例)価格の感じ方を段階の選択式で、理由を自由記述で、年代を最後に置き、第2章の4つの型を最終チェックして送り出します。集まった回答を顧客像へ組み立てて施策に活かす進め方はカスタマージャーニー入門へどうぞ。
この章の確認(演習)
第1章で書いた目的の1文に沿って、設問を3問だけ設計してください。各設問について、①選択式か自由記述か(数えたいか・理由を知りたいか)、②選択肢は重なりなく漏れなく作れているか、③並びは答えやすい順か、を決めます。そのうえで、配信したつもりで1問ずつ「この設問で意図した答えが返るか」を点検し、直したい点を1つ書き出してみましょう。
まとめ
使えるアンケートは、配信して集める前の設問の作り方で決まります。たくさん聞くことではなく、目的に沿って、答えを歪めず、答えやすく集計できる設問を作ること。覚えて帰る型は「目的を1文で決める → 答えを歪める設問を直す → 答えやすく集計できる形で設計する」の3ステップです。誘導・二重質問・曖昧語・偏った選択肢の4つの歪みは、配信前なら1問ずつ取り除けます。答えは、聞いてからでは直せません。設問で決まります。
明日の一歩として、次に任されたアンケートで、設問を書き始める前に「何を知り、何を決めるための調査か」を1文だけ書いてみてください。それが、使えるアンケートの起点です。集まった回答を集計・分析して結論につなげる手順を学びたくなったら、データ分析入門が次のステップです。
本講座の特典として、「目的の1文・4つの歪みの点検・形式と並びの確認」を1枚でチェックできる「アンケート設計チェックシート」をご用意しています。配信前にこの1枚を通すだけで、答えが返ってくる設問かどうかを自分で確かめられます。入手のご案内は、無料会員登録からどうぞ。
よくある質問
アンケート設計で最初にやるべきことは何ですか
設問を書くことではなく、目的を1文で決めることです。「何を知り、その結果で何を決めるのか」を先に固めると、必要な設問が自然に絞れます。
二重質問(ダブルバーレル質問)とは何ですか
1つの質問文に2つ以上の論点を含む設問です。「価格と品質に満足か」のように、片方は満足・片方は不満な人が答えられません。論点ごとに分けます。
選択肢を作るときの基本ルールは何ですか
重なりなく(相互排他的)・漏れなく(網羅的)作ることです。当てはまらない人のために「該当なし」を用意し、片側に偏った選択肢は避けます。
設問はどんな順番に並べればよいですか
答えやすい質問から始め、収入や年代などの属性質問は最後にまとめます。前の答えが後の答えを引きずらないよう、影響しそうな設問は離して置きます。