採用の基礎 | マナビズ

採用の基礎

採用の基礎

「どんな人がほしいですか?」——人事にそう聞かれて、あなたはとっさに「えーと、即戦力で、コミュニケーション能力が高くて、いい人…」と答えました。言いながら、自分でも「これ、答えになってないな」と感じている。結局、求人票も「明るく前向きな方を歓迎します」のような、誰にでも当てはまる文面になってしまう。そして、応募が来ない。来ても、面接で「なんとなく良さそう」「なんとなく違う」と感覚で迷い、決めきれない。やっと1人採っても、しばらくすると「思っていた人と違ったな」とすれ違う——初めて自分のチームに人を採ることになったリーダーが、よくぶつかる壁です。

でも、安心してください。採用がうまくいくリーダーとの違いは、人を見る目(センス)でも人事の専門知識でもありません。「いい人がいたら」で探すか、「こういう人」と先に決めてから探すかだけです。その「こういう人」を言葉にする方法こそ、この講座で渡す道具です。

採用というと、つい「たくさんの応募者から優秀な“いい人”を見つけ出すこと」だとイメージしがちです。でも出発点はそこではなく、「自分のチームに、どんな人が必要か」をはっきり言葉にすることです。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. 採用を「いい人がいたら採る」ことではなく、何を任せるか→求める人物像→必須と歓迎で絞る→募集の軸、という“要件で選ぶ”流れとして、自分の言葉で説明できる
  2. あるポジションについて、求める人物像を「スキル要件(できること)」と「スタンス要件(大事にする姿勢・価値観)」の2階建てで言語化でき、「コミュニケーション能力が高い」のような曖昧な言葉を観察できる行動に翻訳したうえで、MUST(必須)と WANT(歓迎)に仕分けられる
  3. 言語化・仕分けした要件を、求人票の一文から面接の見極めまでを一本で貫く「募集の軸」に落とせる(「いい人がいたら」ではなく「この要件に合う人か」で判断できる)

この講座は最後まで、「5人のカスタマーサポート(CS)チームを率いる佐藤さんが、問い合わせの増加で『メンバーを1人、中途で採用していい』と初めて任される」という、たった1つの場面だけで説明します。この同じ採用を、採用とは何か→どんな人物像か→どう絞るか→どう軸にするか、と1マスずつ埋めていきます。各章末には手を動かす演習も置いているので、書きながら読み進めてみてください。そして、この「求める人物像=募集の軸」を自分のチームでも描けるようにしたくなったら、無料会員登録で続きの講座(募集・面接・定着)に進めます。まずは、この1本で土台を作りましょう。

この講座のポイント

  • 採用を「いい人がいたら採る」ことではなく、「何を任せるか→求める人物像→必須と歓迎で絞る→募集の軸」と要件で選ぶ全体像として、自分の言葉で説明できる
  • あるポジションについて、求める人物像を「スキル要件(できること)」と「スタンス要件(大事にする姿勢・価値観)」の2階建てで言語化でき、曖昧な言葉を観察できる行動に翻訳できる
  • 洗い出した要件を MUST(必須)と WANT(歓迎)に仕分け、盛りすぎを防いで現実的に絞れる
  • 言語化・仕分けした要件を、求人票の一文から面接の見極めまでを一本で貫く「募集の軸」に落とせる

採用とは「いい人探し」ではなく「要件で選ぶ」こと

まずは、「どんな人がほしい?」に詰まるモヤモヤの正体をはっきりさせましょう。採用を、ふわっとした「いい人探し」のイメージから、自分で使える道具に変える土台の章です。

この章のゴール

この章を読み終えると、採用を「いい人がいたら採る」ことではなく、「何を任せるか→求める人物像→必須と歓迎で絞る→募集の軸」と要件で選ぶ全体像として、自分の言葉で説明できるようになります。

「どんな人がほしい?」に詰まる正体

あなたのセンスが足りないわけではありません。多くの場合、「どんな人がほしい?」に詰まるのは、出発点で「どんな人がほしいか」を“言葉(要件)”にできていない——これが正体です。

頭の中には「即戦力がいい」「コミュニケーションが取れる人がいい」というイメージが、もやもやとあります。でも言葉になっていないと、求人票は「明るい方歓迎」のような当たり障りのない文になり、誰にも刺さりません。面接でも、見るべき基準が無いので「なんとなく」で判断するしかなく、面接官が複数いると評価が割れます。そして採用後に「思っていたのと違った」というすれ違い(ミスマッチ)が起きる。応募が来ない・面接でブレる・ミスマッチ——この3つは、すべて「要件が言葉になっていない」という同じ原因から枝分かれしているのです。

ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。採用は“いい人探し”ではなく、“こういう人”を決めること。そして、考える順番は、任せる仕事→人物像→絞る→軸。この順番さえ持てば、もやもやが言葉に変わります。

採用=必要な人を「要件」として決めてから選ぶこと

採用とは、たまたま現れた“いい人”を捕まえることではありません。自分のチームに必要な役割を決め、それを担える人を「要件」として言葉にし、その要件を軸に募集して選ぶことです。

この、求める人物像を言葉にしたものを、採用の世界では採用要件(人材要件とも呼びます)と言います。なぜわざわざ言葉にするのか。人選びを「感覚・主観」から「だれが見ても同じ基準」に変えるためです。要件という共通のものさしがあれば、採るかどうかを客観的に判断でき、面接官が複数いても評価がそろい、ミスマッチも減らせます。逆に、要件がないまま「いい人がいたら」で動くと、3つのつまずき(応募が来ない・面接がブレる・ミスマッチ)に必ずぶつかります。

ここで先回りして、いちばんありがちな誤解を潰します。「いい人がいたら採ればいい」という考え方です。もっともらしいのですが、「いい人」の中身が言葉になっていないと、その“いい人”はあなたの頭の中にしか存在せず、求人にも面接にも使えません。だから運に頼ることになる。採用は、運ではなく、先に「こういう人」を決める作業から始まります。

全体像は4ステップの地図:任せる仕事→人物像→絞る→軸

では、その「こういう人」を、どんな順番で決めればいいのか。順番は、この4ステップです。

ステップ考えることひとことで言うと
① 任せる仕事このポジションに何を任せたいか何を?
② 求める人物像それができるのはどんな人か(スキルと姿勢)どんな人?
③ 絞る要件を必須と歓迎に仕分けるどこまで必須?
④ 募集の軸要件を求人票・面接で使う基準にするどう使う?

これが、採用の全体像=1枚の地図です。①任せる仕事から始めて、②人物像、③絞る、④軸の順に埋めていきます。

大事なのは、いきなり手段(どの求人媒体に出すか・どんな質問をするか)から考えないことです。「とりあえず求人サイトに出そう」は、④の軸が決まった後の話。母集団の集め方、面接での見極め方、迎えたあとの定着——こうした各論は、すべて「軸が決まった先」にあります。今日はその手前、すべての土台になる①〜④に集中します。

ここで、この講座を通して使う共通例に登場してもらいましょう。5人のCSチームを率いる佐藤さんです。問い合わせが増えてきて、上司から「あなたのチームに1人、中途で採用していいよ」と言われました。地図を持たない佐藤さんは、人事に「即戦力で、いい人をお願いします」とだけ伝えて求人を出してしまいます。これが、要件を持たない状態。案の定、応募は思うように来ず、会っても「うーん、悪くないけど…」と決めきれません。この佐藤さんの採用を、これから地図の①〜④に沿って組み立てます。この章ではまだ中身は埋めず、4つの枠だけ立てておきます。

この章の確認(演習)

共通例「佐藤さんの1名採用」について、いきなり条件を並べるのをやめて、次の4つの枠を、答えは空欄のまま書き出してみてください。

  • ① 何を任せる:_____
  • ② どんな人(スキルと姿勢):_____
  • ③ 必須と歓迎で絞る:_____
  • ④ 募集の軸にする:_____

そのうえで、「採用とは、いい人を探すことではなく、必要な人を要件として決めてから選ぶことだ」を、自分の言葉で1〜2行に書いてみます。“いい人探し”から“要件で選ぶ”へ頭を切り替える感覚を言葉にできたら、この章はゴールです。空欄は、第2章以降で1つずつ埋めていきます。

求める人物像を言葉にする(スキル要件×スタンス要件の2階建て)

地図の1マス目と2マス目、任せる仕事求める人物像を埋めます。「即戦力でコミュ力が高い人」というもやもやを、具体的な言葉に変えていきましょう。

この章のゴール

この章を読み終えると、あるポジションについて、求める人物像を「スキル要件(できること)」と「スタンス要件(大事にする姿勢・価値観)」の2階建てで言語化でき、曖昧な言葉を観察できる行動に翻訳できるようになります。

「どんな人」より先に「何を任せるか」を決める

人物像を考えるとき、多くの人がいきなり「どんな人がほしいか」から考え始めて、詰まります。順番が逆なのです。先に決めるべきは、「このポジションで、何を任せたいか(任せる仕事)」です。

理由はシンプルで、任せる仕事が決まって初めて「それができる人」を定義できるからです。「どんな人がほしい?」に答えられないのは、その手前の「何を任せるのか」がはっきりしていないから。だから人物像づくりは「任せる仕事を1〜2行で書く」ことから始めます。

佐藤さんが増員する1人に任せたい仕事は、こうです。「お客さまからの問い合わせ(メールやチャット)に対応すること。そして、その内容や気づいたことを、チームに共有すること」。これだけでも、書き出すと「では、それができる人ってどんな人だろう」が考えやすくなります。

人物像は「2階建て」で書く:スキル要件とスタンス要件

任せる仕事が決まったら、求める人物像を書きます。コツは、2階建てで書くことです。

名前中身佐藤さんの例
1階スキル要件できること(経験・知識・スキル)基本的なPC操作/分かりやすいメール文章が書ける
2階スタンス要件大事にする姿勢・価値観・行動の特徴相手の話を最後まで聞ける/気づきをチームに共有できる

スキル要件は「できること」——経験・知識・スキルなど、仕事の道具をどれだけ持っているか。スタンス要件は「仕事で大事にする姿勢・価値観」——どんな向き合い方で仕事をする人か、という部分です。

ここで、2つ目のありがちな誤解を潰します。「スキルや経験さえ合っていればいい」という思い込みです。経験年数や資格はわかりやすいので、つい人物像をスキルだけで埋めがちです。でも、入社後のすれ違いや早期の「思っていたのと違う」は、スキル不足よりスタンス(仕事への向き合い方)のズレで起きることが多い。スキルは十分でも「お客さまの話を途中でさえぎる」人だと、CSチームでは苦労します。だから人物像は必ず2階建てで書く。スタンスを言葉にすることが、ミスマッチを防ぐ鍵です。

曖昧な言葉は「観察できる行動」に翻訳する

ここがこの章の山場です。佐藤さんの「コミュニケーション能力が高い人」を思い出してください。一見よさそうですが、そのままでは面接で測れません。人によって意味がバラバラだからです。よくしゃべる人だと思う面接官もいれば、よく聞く人だと思う面接官もいる。これでは評価がそろいません。

そこで、曖昧な言葉には「具体的に、どんな行動?」と一度問いかけて、観察できる行動に翻訳します。面接で「できているか・いないか」が見える形に言い換える、ということです。

翻訳してみましょう。佐藤さんがCSで本当に大事にしたいのは、「お客さまの困りごとを、さえぎらず最後まで聞けること」「聞いた気づきを、抱え込まずチームに共有できること」でした。これなら、面接でエピソードを聞けば確かめられます。ぼんやりした「コミュニケーション能力が高い」が、「最後まで聞ける」「チームに共有できる」という観察できる行動に変わりました。

ちなみに、こうした「成果につながる観察できる行動の特徴」を、専門用語ではコンピテンシー(行動特性)と呼びます。言葉は覚えなくて大丈夫。「曖昧な資質は、観察できる行動に翻訳する」とだけ掴んでください。なお、言葉にした人物像を、年齢・経歴・価値観まで作り込んで“架空の一人”に具体化したものを採用ペルソナと呼びますが、それはこの先の応用編。まずは2階建てで言葉にできれば十分です。

この章の確認(演習)

共通例「佐藤さんの採用」で、次の3つをやってみてください。

  1. 任せる仕事を1〜2行で書く
  2. 求める人物像を、スキル要件3つ・スタンス要件2つに分けて書き出す
  3. そのうち、曖昧な言葉(例:「コミュニケーション能力」「主体性」)が混じっていたら、観察できる行動に1つ書き直す

「○○できる」「○○の経験がある」と、面接で確かめられる形になっていればOKです。人物像を2階建て+観察できる行動に落とす感覚を、自分の手で定着させましょう。

要件を MUST(必須)と WANT(歓迎)に仕分けて絞る

地図の3マス目、絞るを埋めます。第2章で書き出した人物像を、現実に応募が来る形に整えていきましょう。

この章のゴール

この章を読み終えると、洗い出した要件を MUST(必須)と WANT(歓迎)に仕分け、盛りすぎを防いで現実的に絞れるようになります。

全部「必須」にすると“スーパーマン”を探すことになる

人物像を書き出すと、たいていこうなります。「PC操作もできて、メールも上手で、業界経験もあって、リーダー経験もあって、明るくて、ストレスにも強くて…」。気づくと条件がどんどん増えていく。気持ちはよく分かります。理想を語るのは楽しいですから。

でも、ここに落とし穴があります。書き出した条件を全部「必須」にすると、そのすべてを満たす“スーパーマン”を探すことになり、該当する人がいなくなるのです。条件を増やすほど、当てはまる人の数(応募が見込める母数)は急速に減ります。「条件は多いほど良い人が採れる」という3つ目の誤解は、実は逆。盛りすぎると、誰も応募できない求人になるのです。佐藤さんが「即戦力で、いい人で、あれもこれも」と考えていたら、応募ゼロまっしぐらでした。

MUST(必須)と WANT(歓迎)に仕分ける

ではどうするか。書き出した要件に、優先順位をつけて仕分けます。基本の枠は、この2つです。

区分意味
MUST(必須要件)これが無いと、任せた仕事が回らない条件
WANT(歓迎要件)あればなお良い条件(無くても採れる)

MUSTは絶対に外せない条件、WANTはあれば嬉しいが無くても大丈夫な条件です。英語の頭文字は覚えなくてかまいません。「無いと困るのが MUST、あれば嬉しいのが WANT」と掴んでください。

ここで意識したいのが、MUST を減らすほど応募できる人が増え、増やすほど狭まるというトレードオフです。だから、MUST は「これだけは絶対」という少数に絞り、迷ったものは思い切って WANT に回す。これが、スーパーマン要件を防ぐ具体的なやり方です。

仕分けの目印:「今すぐ要るか」と「入ってから育てられるか」

とはいえ、「これは必須? 歓迎?」と迷いますよね。仕分けに使える2つの問いがあります。

1つ目は、「その仕事が今すぐ回るために、絶対に必要か?」。無いと初日から困るなら MUST、後から身につけば間に合うなら WANT です。

2つ目は、「それは、入ってから育てられる能力か、変えにくいものか?」。スキル(ツール操作や業務知識)は入社後の研修やOJTで身につくことが多いので、無理に MUST にせず WANT に回せます。一方、スタンス(人の話を聞く姿勢や価値観)は入社後に変えにくい。だから、その仕事に本当に大事なスタンスは MUST に置くのが安全です。「人柄を重視して採る」と言われるのは、こういう理由ですね。

佐藤さんの要件を、この2つの問いで仕分けてみましょう。

要件区分理由
基本的なPC操作(スキル)MUST初日から問い合わせ対応に最低限必要
分かりやすいメール文章(スキル)WANT大事だが、入社後の指導で伸ばせる
自社の問い合わせ管理ツールの経験(スキル)WANT入ってから覚えられる
相手の話を最後まで聞ける(スタンス)MUSTCSの根幹で、変えにくい
気づきをチームに共有できる(スタンス)MUST寄り重要。習慣づけでも育つので状況で判断

「経験5年以上、◯◯資格、△△ツール経験…」と盛りそうだった条件が、MUST少数+WANT複数に整理され、現実に応募が見込める形になりました。なお、すぐ戦力が必要な欠員補充か、長く育てる増員かで MUST の重みは変わります。急ぐなら即戦力スキル寄り、育てるならスタンス寄り、と状況に合わせて調整してください。

この章の確認(演習)

第2章で書いた佐藤さんの要件(スキル3つ+スタンス2つ)を、MUST と WANT に仕分けてみてください。仕分けるときは、「無いと仕事が回らないか?」「入ってから育てられるか?」の2つを自分に問います。

そして最後に、もしMUST が4つ以上になっていたら、本当に全部が必須か見直して、1つを WANT に動かせないか考えてみてください。盛りすぎを自分の手でほどく感覚が、ここでのゴールです。

要件を「募集の軸」に落とす(求人票〜面接まで一貫させる)

地図の最後のマス、募集の軸を埋めます。せっかく言葉にした要件を、実際の採用で働かせるところまで仕上げましょう。

この章のゴール

この章を読み終えると、言語化・仕分けした要件を、求人票の一文から面接の見極めまでを一本で貫く「募集の軸」に落とせるようになります。

要件は「作って終わり」ではなく、募集と選考で使う「軸」にする

ここまでで、佐藤さんは求める人物像を MUST/WANT まで整理できました。でも、その紙を引き出しにしまってしまうと、せっかくの要件は宙に浮きます。

要件は、募集と選考のすべての場面で使う“1本の軸”にして初めて働きます。求人票を書くときも、面接で見極めるときも、その軸に立ち戻る。逆に、作っただけで反映しないと、求人票はまた「明るい方歓迎」に逆戻りし、面接も「なんとなく」に戻ってしまいます。

軸を求人票に落とす:誰に向けた募集かが伝わる一文に

まず、軸を求人票に落とします。ポイントは、MUST/WANT と「任せる仕事」から、誰に向けた募集かが伝わる一文を作ることです。

第1章の「明るく前向きな方を歓迎」は誰にでも当てはまるので、誰の心にも刺さりませんでした。これを、要件——とくに大事にしたいスタンス MUST——が伝わる言葉に変えます。

佐藤さんの求人票の一文は、たとえばこうなります。「お客さまの『困った』に、さえぎらず最後まで向き合い、その気づきをチームに持ち帰れる方へ」。「最後まで聞ける」「チームに共有できる」というスタンス MUST が、そのまま呼びかけになっていますね。これを読んだ人は「自分のことだ」あるいは「合わなそう」と判断できる。当たり障りのない文より、ずっと“合う人”に届きます。

軸を面接に落とす:MUST を「過去の行動」で確かめる

次に、軸を面接に落とします。やることは、MUST を満たしているかを確かめる質問を、あらかじめ用意しておくこと。準備しておけば、面接官が複数いても同じ軸で評価でき、評価が割れるのを防げます。

ここで第2章の「観察できる行動」が効きます。スタンスのような測りにくい要件は、その場で「協調性ありますか?」と聞いても本当のことは分かりません。代わりに「過去に、実際どう行動したか」を聞きます。佐藤さんなら、スタンス MUST「最後まで聞ける」は「お客さま対応で、相手の話を最後まで聞けたと感じたエピソードを教えてください」、スキル MUST「基本的なPC操作」は「PCでの定型的な事務作業の経験を教えてください」。WANT(メール文章・ツール経験)は満たしていれば加点、という扱いです。

こうすると、面接後の判断が「なんとなく良さそう」ではなく、「MUST を満たしているか/WANT がいくつあるか」という軸に変わります。面接官が増えても、軸はブレません。

最後に、2つ注意を添えます。1つは、完璧な人を求めすぎないこと。全要件を100点で満たす人は、まず現れません。MUST を満たし、あとは近ければ思い切って決める——これも軸を使いこなす姿勢です。もう1つは、公正に選ぶこと。選考で見るのは「仕事を遂行できる適性・能力があるか」だけ。本籍・家族・住まいといった「本人に責任のない事項」や、宗教・支持政党などの「思想・信条にかかわること」は、仕事の適性と関係がなく、採用基準にしたり面接でたずねたりしてはいけません(厚生労働省「公正な採用選考の基本」)。軸は、あくまで業務に必要な要件で作ると覚えておいてください。

この章の確認(演習)

佐藤さんの要件(MUST/WANT に仕分けたもの)をもとに、次の2つを作ってみてください。

  1. 求人票の“ひとこと”——誰に向けた募集かが伝わる1文を書く
  2. 面接質問——MUST を1つ選び、それを「過去にどう行動したか」で確かめる質問を1つ作る

そして最後に、「いい人がいたら、ではなく、この軸に合う人か、で選ぶ」を、自分の言葉で1行に書いてみましょう。要件を募集・選考で使う軸に落とす感覚が、自分のものになっているはずです。

まとめ:採用は“いい人探し”ではなく“こういう人”を決めること

おつかれさまでした。「佐藤さんが増員1名を採用する」というたった1つの場面を、採用とは何か→どんな人物像か→どう絞るか→どう軸にするか、と1マスずつ地図に埋めてきました。第1章で空欄だった4つの枠を、ここで振り返ります。

  1. 採用とは……運任せの“いい人探し”ではなく、必要な人を「要件」として言葉にし、その要件を軸に募集・選考すること。順番は任せる仕事→人物像→絞る→軸。目的は、人選びを感覚から「だれが見ても同じ基準」に変えること(第1章)。
  2. 求める人物像……まず「何を任せるか」を決め、人物像をスキル要件(できること)とスタンス要件(大事にする姿勢)の2階建てで書く。「コミュニケーション能力が高い」のような曖昧な言葉は観察できる行動に翻訳する(第2章)。
  3. 絞る……全部を必須にすると“スーパーマン”探しになって応募が来ない。MUST(必須)と WANT(歓迎)に仕分け、「今すぐ要るか」「入ってから育てられるか」で判断する。育てられるスキルは WANT、変えにくい大事なスタンスは MUST(第3章)。
  4. 募集の軸……要件は作って終わりではなく、求人票の一文と面接の見極めまでを一本で貫く軸にする。スタンスは「過去の行動」で確かめ、完璧を求めすぎず、公正に選ぶ(第4章)。

この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「『どんな人がほしい?』に、思いつきや“いい人”ではなく、要件で筋道立てて答えられているか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——採用は“いい人探し”ではなく“こういう人”を決めること。順番は、任せる仕事→人物像→絞る→軸。これが身につくと、人事に「どんな人がほしい?」と聞かれたとき、「任せたいのはお客さま対応とチーム共有なので、必須は“最後まで聞ける姿勢”と“基本的なPC操作”、メール文章やツール経験は歓迎です」と、要件で筋道立てて答えられるようになります。

明日の最初の一歩:自分のチームで採るとしたら(または今ある欠員・増員枠で)、①何を任せるか②求める人物像(スキル要件3つ・スタンス要件2つ/曖昧な言葉は観察できる行動に翻訳)③MUST/WANT に仕分け④求人票のひとことを、任せる仕事から順に書いてみてください。きれいにまとめる必要はありません。「どんな人がほしい?」に、“こういう人”と要件で答えられたら、それが第一歩です。

そして、この「求める人物像=募集の軸」ができたら、その先の道も用意されています。要件をどこで・どう届けて応募を集めるか(母集団形成・求人媒体・スカウト文)、要件で見極める面接の質問設計、迎えた人がチームに定着するためのオンボーディング——これらは、今日描いた軸を、ひとつずつ実践につなげるものです。続きは、無料会員登録で次の講座に進めます。まずはこの「任せる仕事→人物像→絞る→軸」の地図を、自分のチームで1枚描けるようにしておきましょう。それが、すべての採用の土台になります。

よくある質問

採用要件(人材要件)とは何ですか?

求める人物像を言葉にしたものを採用要件(人材要件)と言います。要件を言語化することで、人選びを感覚・主観から「だれが見ても同じ基準」に変え、面接官が複数いても評価をそろえ、ミスマッチを減らすことができます。

スキル要件とスタンス要件はどう違いますか?

スキル要件は「できること」(経験・知識・スキル)で、スタンス要件は「仕事で大事にする姿勢・価値観」です。入社後のミスマッチはスキル不足よりスタンスのズレで起きやすいため、人物像は必ずこの2階建てで書くことが大切です。

MUSTとWANTはどう仕分ければよいですか?

「無いと初日から仕事が回らないか?」「入ってから育てられる能力か?」の2つで判断します。スキルは入社後の研修で伸ばしやすいのでWANTに回せますが、スタンス(姿勢・価値観)は変えにくいためMUSTに置くのが安全です。

MUST要件が多くなりすぎる場合はどうすればよいですか?

MUSTが多いほど該当する応募者は急減します。迷った要件は思い切ってWANTに回し、「これだけは絶対に必要」という少数に絞るのがポイントです。MUSTが4つ以上になったら1つWANTに移せないか見直してください。

面接でスタンス要件を確かめる方法はありますか?

「協調性がありますか?」のような直接質問では本当のことが分かりにくいため、「過去に実際どう行動したか」を問うエピソード質問が有効です。「最後まで聞けた場面を教えてください」のように、観察できる行動を軸にして確かめます。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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