提案書の作り方入門

提案書の作り方入門

「で、うちの“あの締め3日問題”は、結局どう良くなるんですか?」——丸井製作所の経理課長にそう聞かれて、あなたは言葉に詰まりました。「ヒアリング力入門」で学んだとおり、ちゃんとヒアリングして「月末の経費精算が大変で…」という課題は引き出せた。意気込んで提案書を作り、自社システムの機能(OCR自動読み取り・スマホ申請・API連携・99.9%稼働…)を箇条書きでびっしり並べて持っていった。機能はぜんぶ説明できたのに、課長の知りたい「あの締め3日問題」が、結局どうなるのかが、提案書のどこにも書いていなかったのです。

課題は聞けるようになった。なのに、提案書になると刺さらない。気づくと自社サービスの機能の説明になってしまう。「枚数が多い方が一生懸命さが伝わる気がする」とつい盛ってしまう。そして、だんだんこう思い始めます。「結局、提案書ってデザインのセンスと経験なんじゃないか」と。

でも、安心してください。提案が通る人と通らないあなたの違いは、センスでも経験でも、提案書の見栄え(デザイン・枚数)でもありません。相手の課題から書き始めているか、自分が売りたいもの(機能)から書き始めているかだけです。提案書とは、「自分が売りたいものの説明書」ではなく、相手の課題が、これ(解決策)で解決して、その結果こんな良いこと(効果)が起きるを、相手の言葉と数字で示す1枚です。覚える型は、たった1つ。課題→解決策→効果。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. 提案書を「自分が売りたいものの説明書(機能カタログ)」ではなく、相手の課題が解決するストーリーとして、課題→解決策→効果の3点で組み立てる型を、自分の言葉で説明できる
  2. ある案件について、ヒアリングで握った課題を相手の言葉と数字(定量化)で書き、その課題に1対1でまっすぐ対応する解決策を、機能の羅列でなく「その課題がどう片付くか」として書ける
  3. 解決後の良いことをビフォーアフター費用対効果で数字で示し、課題→解決策→効果を A4一枚の提案書に組み上げ、タイトルを相手の課題で付けて作成できる

この講座は最後まで、「丸井製作所(従業員80人の製造業)への、クラウド経費精算システムの導入提案書を1枚作る」という、たった1つの案件だけで説明します。ヒアリングで「月末の経費精算が大変」と課題を握ったところから、この同じ案件を、提案書とは何か→課題→解決策→効果、と1ブロックずつ埋めていきます。各章末には手を動かす演習も置いているので、書きながら読み進めてみてください。そして、この「課題→解決策→効果」の1枚提案書を、自分の案件でもそのまま使えるよう、最後にテンプレートをダウンロードできます。なお、ここで例に出す会社名・数字はすべて架空のものです。まずは、この1本で型の全体像を掴みましょう。

第1章:提案書とは何か(“商品の説明書”から“課題が解決するストーリー”へ)

まずは、機能をぜんぶ説明したのに「で、結局どう良くなるの?」で詰まってしまう、あのモヤモヤの正体をはっきりさせましょう。提案書という言葉を、「自社サービスの紹介資料」というイメージから、自分で使える1枚の型に変える土台の章です。

この章のゴール

この章を読み終えると、提案書を「自分が売りたいものの説明書(機能カタログ)」ではなく、相手の課題が解決するストーリーとして、課題→解決策→効果の3点で、自分の言葉で説明できるようになります。

通らない提案書の正体:「自分が売りたいもの」から書き始めている

あなたのセンスが足りないわけではありません。提案書が通らないとき、その正体はたいてい1つです。相手の課題ではなく、自分が売りたいもの(自社の機能・実績)から書き始めている——これです。

丸井製作所への提案書を思い出してください。1枚目から「当社システムの特長」として、OCR自動読み取り、スマホ申請、API連携、99.9%稼働率…と機能が並んでいました。でも、経理課長が知りたかったのは、自社システムの稼働率ではありません。「うちの“あの締め3日問題”が、結局どうなるのか」です。相手が知りたいのは商品の機能ではなく、自分の課題がどうなるか。ここがズレていると、どんなに機能を丁寧に説明しても、「で、結局なにが良くなるの?」で止まってしまうのです。

ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。提案書は“商品の説明書”ではなく“相手の課題が解決するストーリー”。そして、書く順番は、課題→解決策→効果。この順番さえ持てば、機能カタログを「相手の課題が解決するストーリー」に書き換えられます。

提案書=相手の課題を起点にした“解決のストーリー”

では、提案書とは何を書く書類なのでしょうか。提案書とは、自社の商品やサービスを紹介する書類ではなく、相手の課題を起点にして、それに効く解決策と、解決したあとの効果を示す“ストーリー”です。実際、提案書の最もオーソドックスな型は「課題解決型」と呼ばれ、現状→課題→解決策→期待効果、という流れでできています。どんな型でも共通しているのは、まず課題を明確にすることが出発点だということ。課題があいまいだと、解決策も効果もぼやけてしまうのです。

ちなみに、似た書類に「企画書」があります。提案書(Proposal)が「先に相手の課題を示して、その解決策を提案する」ものなのに対し、企画書は必ずしも課題が前提ではなく、新しい商品やサービスのアイデアを示すもの、という違いがあります。今回あなたが作るのは、相手の課題から始まる「提案書」です。だから、自社の話ではなく、相手の課題から書き始めます。

なぜ課題を先に置くのか。コンサルティングの世界に、「空・雨・傘」という有名な考え方があります(マッキンゼーが生んだと言われています)。空を見て「曇っている」(事実)、だから「雨が降りそうだ」(解釈)、だから「傘を持っていこう」(打ち手)、という3ステップで考える、というものです。大事なのは順番で、いきなり「傘を持て」(打ち手)とだけ言われても、人はなかなか納得しません。「曇っている、降りそうだ」という事実と解釈があって初めて、「傘」という打ち手が腑に落ちる。提案書もまったく同じです。いきなり解決策(自社商品=傘)から出すのではなく、課題(空・雨)を先に置く。だから順番は、課題→解決策→効果なのです。

全体像は1枚の地図:課題→解決策→効果

その“解決のストーリー”を、どんな順番で書けばいいのか。順番は、この3つです。

順番書くことひとことで言うと
① 課題相手が困っていること(相手の言葉と数字で)何に困っている?
② 解決策その課題に、何がどう効くかどう片付く?
③ 効果解決すると、どんな良いことが起きるかだから、どうなる?

これが、提案書の全体像=1枚の地図です。①課題から始めて、②解決策、③効果の順に埋めていきます。そして、この3つはA4一枚に収めるのが基本です。提案書を見る相手、とくに決裁する立場の人は忙しく、ぱっと見て要点(課題・解決策・効果)が分かるほうが判断しやすい。1枚に絞ると、決裁者が一目で「これは“あの困りごと”の話だ」とつかめます。機能の説明や自社の実績は、いちばん最後(効果の根拠)に少しだけ。そこから書き始めないのがコツです。

なお、よく聞くFABE話法(特徴→優位性→便益→証拠の順で提案を組む、営業で知られる言い方)も、本講座の「解決策→効果」を相手目線で組む地図のひとつです。今は名前を覚えなくて大丈夫。「課題→解決策→効果の3点で書く」とだけ掴んでください。ちなみにこの型は、お客さまへの提案書だけでなく、上司や他部署への社内提案でも、まったく同じように使えます。

ここで、この講座を通して使う共通例を、あらためて置きます。あなたは、クラウド経費精算システムを売る若手営業。ヒアリングで、丸井製作所の経理課長から「月末の経費精算が大変で…」という課題を握りました。地図を持たない状態だと、つい「当社システムの特長は…」と機能から書き始めてしまいます。そうではなく、「①どんな課題が ②何で解決して ③どんな良いことが起きる?」の順で書く——これが提案書です。この章では、まだ中身は埋めません。3つの枠だけを立てておきます。

この章の確認(演習)

共通例「丸井製作所への提案」について、いきなり機能を書くのをやめて、次の3つの枠を、中身は空欄のまま書き出してみてください。

  • ① 課題(相手が困っていること):_____
  • ② 解決策(その課題に何がどう効くか):_____
  • ③ 効果(解決すると、どんな良いことが起きるか):_____

そのうえで、「提案書とは、相手の課題が解決するストーリーを、課題から順に示す1枚だ」を、自分の言葉で1〜2行に書いてみます。機能からではなく“枠”から入る感覚を、自分の手で言葉にできたら、この章はゴールです。空欄は、これから第2章・第3章・第4章で1つずつ埋めていきます。

第2章:課題(相手の困りごとを、相手の言葉と数字で書く)

地図の1ブロック目、課題を埋めていきます。提案書は、自分の話からではなく、相手の困りごとから書き始める——その第一歩です。

この章のゴール

この章を読み終えると、提案書の冒頭に、相手が「そう、それが困っている」と言う課題を、相手の言葉と数字(定量化)書けるようになります。

地図の1ブロック目は「課題」:相手の話から始める

提案書のいちばん上に、何を書くか。答えは、相手の課題です。自分が売りたい理由(「ぜひ当社システムを」)でも、自社の紹介でもありません。ヒアリングで握った相手の困りごとを、まっさきに置きます。

なぜなら、相手は提案書の最初の数行で「これは自分に関係ある話か」を判断するからです。1枚目に相手の課題が書いてあれば、「そう、それで困ってるんだよ」と、自分ごととして読み始めてくれます。逆に1枚目が自社の会社紹介だと、「で、それがうちと何の関係が?」となって、その先を読んでもらえません。「ヒアリング力入門」で課題を引き出せたのは、まさにこの1ブロック目を書くためだった、というわけです。

課題は「数字」で書く(定量化)

ここで、課題の書き方に大事なコツが2つあります。1つめは、課題を数字で書くことです。

たとえば「経費精算が大変です」。これだと、読む人によって「大変」の大きさがバラバラに伝わります。月に1回ちょっと面倒なのか、毎月何日も潰れているのか、分かりません。そこで、こう書き直します。「経費精算の締めに、毎月3日かかっています」「記入ミスの差し戻しが、月に15件出ています」。数字(3日・15件)が入った瞬間に、課題の大きさが、相手にも、その上司である決裁者にも、同じ大きさで伝わります。

提案書では、「ミスが多い」ではなく「ミスが月15件」、「時間がかかる」ではなく「締めに3日」と、課題を具体的な数値にするのが基本です。そして、ここで課題を数字にしておくと、もう1ついいことがあります。あとで「効果」を書くとき、「締め3日が0.5日に」というふうに、効果も同じ数字で示せるのです。課題(ビフォー)を数字で決めておくと、効果(アフター)が数字で決まる。だから、課題はできるかぎり数字で書きます。

課題は「相手の言葉」で書く(自分都合にしない)

2つめのコツは、課題を相手の言葉で書くことです。

やってしまいがちなのが、課題のつもりで「御社はDX化が必要です」「ペーパーレス化が遅れています」と書いてしまうこと。これは、相手の困りごとではなく、自分が売りたい理由(自分都合)です。相手は「DX化したい」と思って困っているのではなく、「月末の精算で経理も現場も残業になっているのがつらい」と困っているのです。だから、ヒアリングで相手が口にした言葉を、そのまま使います。「DX化が必要」ではなく「月末の締めが大変で、経理も現場も残業になっている」。

書いた課題が、相手に見せたときに「そうそう、それが困ってるんだよ」と返ってくるかどうか。これが、課題が正しく書けているかの目印です。作り手が決めつけた課題ではなく、相手と握った課題か。ここを必ず確認します。

共通例:丸井製作所の課題を書く

では、丸井製作所の課題を書いてみましょう。ヒアリングのメモには「経費精算が大変そう」とあります。これをそのまま書くのはNGです。「経費精算を効率化すべき」も、抽象的なうえに自分都合なのでNG。

相手の言葉と数字で書き直すと、こうなります。「月末の経費精算が紙とエクセルで行われており、経理の締めに毎月3日かかっている。記入ミスによる差し戻しが月15件あり、経理3名と現場が毎月残業している」。どうでしょう。「経費精算が大変」のままだと、聞き流されてしまいそうですが、「締め3日」「差し戻し月15件」「経理3名が残業」と数字が入ると、課題の重さがずしりと伝わりますよね。これが、提案書の1ブロック目になります。

この章の確認(演習)

共通例「丸井製作所」の課題を、数字を1つ以上入れて、2〜3行で書いてみてください。「〜が大変」という書き方を、「〜が月◯回」「〜に◯時間」「〜が◯件」という、数えられる形に直すのがコツです。

書けたら、最後に1つチェックします。それは、作り手目線(自分が売りたい理由)ではなく、相手の困りごとになっているか。「DX化が必要」のような自分都合の言葉が混ざっていたら、相手がヒアリングで実際に言った言葉に置き換えます。相手の言葉と数字で課題を書けたら、ゴールです。

第3章:解決策(課題にまっすぐ対応させる・機能でなく「課題がどう片付くか」)

地図の2ブロック目、解決策を埋めます。ここが、提案書がいちばん「機能カタログ」に戻りやすい場所です。

この章のゴール

この章を読み終えると、第2章の課題に1対1でまっすぐ対応する解決策を、機能の羅列でなく「その課題がどう片付くか」として書けるようになります。

地図の2ブロック目は「解決策」:課題に効く部分だけ書く

課題を書いたら、次は解決策です。ここで多くの人が、つい自社商品の全機能を書いてしまいます。OCR、スマホ申請、API連携、多言語対応、外部会計ソフト連携…と、持っている機能をぜんぶ並べてしまう。これが「機能カタログ」の正体です。

そうではありません。解決策に書くのは、第2章で書いた課題に効く部分だけです。課題と解決策は、1本の線でつながっていなければいけません。課題が「締めに3日かかる」なら、解決策は「締めが3日から短くなる仕組み」でなければならない。課題と関係のない機能は、どんなに自慢の機能でも、今回の提案書には書きません。提案書は、自社の機能を全部見せる場ではなく、相手の課題を片付ける道筋を示す場だからです。

機能を「課題がどう片付くか」に翻訳する(相手主語で)

では、課題に効く機能を、どう書けばいいか。ここでのコツは、機能をそのまま書かず、「だから、その課題がどう片付くか」に翻訳することです。

たとえば「OCRで自動読み取りができます」。これは機能(モノの説明)です。これに「だから、丸井製作所にとって何が片付くの?」を1つ足します。すると、「だから、手入力がなくなり、入力ミスによる差し戻しもなくなります」となります。後者が、相手の課題が片付く書き方です。提案書に書くのは、こちらです。「OCR搭載」ではなく「手入力と差し戻しがなくなる」。

この「機能(特徴)ではなく、相手にとっての便益(その課題がどう片付くか)を、相手を主語にして書く」やり方は、営業や提案で知られるFABE話法でいう「B(ベネフィット=顧客便益)」に当たります。FABEという名前は覚えなくて大丈夫です。「機能のままでなく、相手の課題がどう片付くかに言い換える」とだけ掴んでください。

「なぜ効くか」の根拠を1つ添える(やりすぎない)

もう1つ、解決策には「なぜ効くか」の根拠を1つだけ添えると、ぐっと信じてもらいやすくなります。FABE話法でいう「E(エビデンス=証拠)」です。仕組みの説明でも、似た事例でもかまいません。「同じくらいの規模の製造業でも、紙の精算をやめてから、締めの日数が短くなった例があります」といった一言です。

ただし、ここで気をつけたいのが、根拠を盛りすぎないこと。「導入企業の99%が満足」「平均で残業が半分に」といった、確かめていない数字を並べると、かえって疑われます。根拠は、自分が責任を持って言える範囲で、1つだけ。証拠で固めるより、課題に1対1で効いていることのほうが、ずっと大事です。

共通例:丸井製作所の課題に1対1で対応させる

丸井製作所の課題は3つでした。締めに3日、差し戻し月15件、経理3名と現場の残業。これに、解決策を1対1で対応させます。

丸井の課題効く解決策(機能)だから、こう片付く
締めに毎月3日かかる入力時の自動チェック確認・修正の往復が減り、締めが3日から0.5日に
差し戻しが月15件スマホ申請+自動読み取り手入力のミスがなくなり、差し戻しがほぼなくなる
経理3名と現場が残業上記2つの結果締めと差し戻しが減り、残業が減る

ここで大事なのは、丸井の課題に効かない機能(API連携、多言語対応など)は、自慢の機能でも書かないことです。書くのは、この3つの課題に効く分だけ。これで、解決策が「機能カタログ」ではなく「丸井の課題が片付く道筋」になりました。

この章の確認(演習)

共通例「丸井製作所」の課題3つ(締め3日/差し戻し月15件/残業)に、それぞれ「効く解決策」を1対1で対応させ、「この機能→だから、この課題がこう片付く」の形で、1行ずつ書いてみてください。

さらに、自社商品の機能のうち、丸井の課題には効かない機能を1つ挙げて、「これは今回は載せない」と判断してみます。載せない機能を自分で選べたら、「機能カタログ」から抜け出せた証拠です。機能を課題に対応させ、片付き方に翻訳する感覚を、自分の手で定着させましょう。

第4章:効果(ビフォーアフター・費用対効果)+1枚に組み上げる

地図の3ブロック目、効果を埋めて、いよいよ課題→解決策→効果を1枚に組み上げます。提案書が「通る」か「通らない」かは、ここで決まります。

この章のゴール

この章を読み終えると、解決後の良いことをビフォーアフター費用対効果で数字で示し、課題→解決策→効果を A4一枚の提案書に組み上げ作成できるようになります。

地図の3ブロック目は「効果」:課題(ビフォー)と対で数字で書く

効果とは、「解決策を入れたら、相手にどんな良いことが起きるか」です。ここでやってはいけないのが、「業務が効率化して、便利になります」という書き方。これでは、決裁者は動きません。「便利」がどれくらいの「便利」なのか、伝わらないからです。

ここで、第2章で課題を数字にしておいたことが効いてきます。効果は、課題(ビフォー)と同じ数字の軸で、対にして書くのです。これを「ビフォーアフター」と言います。

ビフォー(今の課題)アフター(解決後)
締めの日数毎月3日0.5日
差し戻し月15件数件
残業経理3名と現場が毎月残業残業がほぼなくなる

このように、課題で使った数字(3日・15件)を、そのまま効果の数字(0.5日・数件)に対応させます。「便利になります」ではなく「締め3日が0.5日に」。これが、効果を数字で示すということです。

効果はコストと対で書く=費用対効果

効果を数字で書けたら、もう1つ、必ずセットで書くものがあります。費用(コスト)です。

決裁者が最後に見るのは、「いくらかけて、いくら返ってくるか」です。これを費用対効果と言います。「ROI(費用対効果)の基本」で学んだ考え方を、提案書に1行乗せるだけです。効果(削減できる時間・コスト)だけを書いて費用を隠すと、決裁者は「で、いくらかかるの?」と身構えます。むしろ、かかる費用(導入費・月額)を正直に書いて、それを上回る効果(残業◯時間×経理3名分の削減、締め2.5日分の短縮)を並べたほうが、「これは投資する価値がある」と判断してもらえます。

なお、効果の数字は、確定値でなくてもかまいません。「導入すれば、おそらく締めは1日以内になる見込み」というように、根拠のある仮説で大丈夫です。大事なのは、効果とコストを、両方とも数字で、対にして見せることです。

課題→解決策→効果を A4一枚に組み上げる

最後に、ここまでの課題→解決策→効果を、1枚に組み上げます。順番は地図のとおり、上から課題→解決策→効果。これをA4一枚に収めます。

提案書の構成丸井製作所への提案書(1枚)
タイトル「月末の締め3日」をなくす経費精算見直しのご提案
冒頭サマリ(結論先出し)締め3日→0.5日、差し戻し月15件→数件。残業を削減します
① 課題締めに毎月3日/差し戻し月15件/経理3名と現場が残業
② 解決策スマホ申請+自動読み取りと入力時の自動チェックで、手入力と差し戻しをなくす
③ 効果ビフォーアフター(上記)+費用(月額・導入費)と削減効果の対比

ポイントは2つあります。1つは、タイトルを商品名にしないこと。「クラウド経費精算システムのご提案」ではなく、「『月末の締め3日』をなくす経費精算見直しのご提案」。相手の課題をタイトルにすると、決裁者は表紙を見た瞬間に「これは“あの困りごと”の話だ」と分かります。もう1つは、冒頭に効果の要点を先出しすること。忙しい決裁者は、最初の数行で全体を判断します。だから「締め3日→0.5日」という結論を、いちばん上に置きます。

なぜ1枚に絞るのか。決裁する人は忙しく、分厚い資料をじっくり読む時間はありません。A4一枚なら、ぱっと見て課題・解決策・効果が一目で分かり、判断しやすい。「枚数が多い方が一生懸命さが伝わる」と盛りたくなりますが、決裁者が見るのは熱量ではなく、中身が自分の課題の話になっているかです。承認をもらう、という目的に必要な分だけに絞る。それが、いちばん通りやすい1枚です。

この章の確認(演習)

共通例「丸井製作所」の効果を、ビフォーアフターの対で書いてみてください。第2章で書いた課題の数字(締め3日・差し戻し月15件)を使い、解決後の数字(0.5日・数件)と並べます。そこに、費用を1つ添えます(月額や導入費を仮の数字で置いてかまいません)。

最後に、課題→解決策→効果をA4一枚に上から並べ、タイトルを「相手の課題」で1本つけてみましょう。「◯◯システムのご提案」ではなく、「『◯◯』をなくす(減らす)ご提案」の形です。冒頭に効果の要点を先出しできたら、提案書の1枚が完成です。

まとめ:提案書は“商品の説明書”ではなく“相手の課題が解決するストーリー”

おつかれさまでした。「丸井製作所への経費精算システムの提案書」という、たった1つの案件を、提案書とは何か→課題→解決策→効果、と1ブロックずつ組み上げてきました。第1章で空欄だった3つの枠を、ここで振り返ります。

  1. 提案書とは……自分が売りたいものの説明書(機能カタログ)ではなく、相手の課題が、解決策で解決して、その結果こんな良いことが起きる、というストーリー。書く順番は、課題→解決策→効果。いきなり解決策(自社商品)から書かない(第1章)。
  2. 課題……相手の言葉と数字で書く。「経費精算が大変」ではなく「締め3日・差し戻し月15件」。自分が売りたい理由(「DX化が必要」)ではなく、相手と握った困りごとを書く(第2章)。
  3. 解決策……課題に1対1でまっすぐ対応させる。機能の羅列ではなく「その課題がどう片付くか」に翻訳する。課題に効かない機能は載せない(第3章)。
  4. 効果……解決後の良いことを、ビフォーアフター(締め3日→0.5日)と費用対効果(かかる費用と削減効果を対で)で、数字で示す。課題→解決策→効果をA4一枚に組み上げ、タイトルは相手の課題で(第4章)。

この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「『で、結局なにが良くなるの?』に、機能ではなく“課題がこう解決して、こんな良いことが起きます”と、数字で答えられているか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——提案書は“商品の説明書”ではなく“相手の課題が解決するストーリー”。順番は、課題→解決策→効果。これが身につくと、もう「で、うちの締め3日問題はどう良くなるの?」と返されることはありません。提案書の1枚目が、その答えそのものになっているからです。

明日の最初の一歩:自分が今抱えている案件(または、社内で出したい提案)を1つ選び、①課題(相手の言葉と数字で)②解決策(課題に効く分だけ・課題がどう片付くか)③効果(ビフォーアフター+費用)を、A4一枚に、課題から順に書いてみてください。きれいにまとめる必要はありません。機能からではなく「相手の課題」から書き始められたら、それが第一歩です。

そして、この「課題→解決策→効果」の型を、毎回ゼロから考えなくてすむように、課題→解決策→効果の1枚提案書テンプレートをダウンロードできます。次の案件から、白紙ではなく、このテンプレートの3つの枠を埋めるところから始めてみてください。なお、ここで作った提案書を、相手の前で「見せて話す」プレゼン・資料作成の技術や、決断のひと押しをするクロージング・反論対応は、提案書の次の段階——別の講座で深めていきます。まずは、この「課題→解決策→効果で、相手の課題が解決する1枚を書く」を、自分のものにしましょう。それが、通る提案のすべての土台になります。

よくある質問

提案書と企画書の違いは何ですか

提案書は相手の課題を先に示してその解決策を提案するものです。企画書は必ずしも課題を前提とせず、新しいアイデアを示す書類です。この講座で扱うのは、相手の課題から書き始める「提案書」です。

提案書の枚数は多い方が伝わりますか

多い枚数は必ずしも効果的ではありません。決裁者は忙しく、A4一枚に課題・解決策・効果が一目でまとまっている方が判断しやすいです。枚数より「相手の課題の話になっているか」が通るかどうかの鍵です。

解決策に盛り込む根拠はどのくらい必要ですか

根拠は自分が責任を持って言える範囲で一つだけ添えれば十分です。確かめていない数字を並べるとかえって信頼を損なうため、証拠を固めるより課題に一対一で効いていることを示す方が大切です。

課題を数字で書けない場合はどうすればよいですか

ヒアリングで相手が口にした具体的な言葉をそのまま使うことが出発点です。「大変」という言葉があれば「月に何回」「何時間」「何件」という形に置き換えられないかを確認します。数字が出てこない場合は、相手に「どのくらいの頻度で起きていますか」と聞き直すことが有効です。

この型は経験が浅い若手でも使えますか

はい、使えます。この講座の「課題→解決策→効果」は、センスや経験ではなく書く順番の問題です。ヒアリングで課題を握り、相手の言葉と数字で書き始めれば、キャリアに関わらず同じ型で組み立てられます。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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