はじめてお客さん先に1人で行った日のことを、想像してみてください。緊張のあまり、席に着くなりカバンから商品パンフレットを取り出して、「弊社の複合機は、ここがこう優れていて……」と、機能を最初から最後まで一方的にしゃべってしまった。お客さんは「ふーん」とうなずくだけ。話は一歩も進まず、「では、また」と帰ってきた——そんな経験、あるいは「自分もそうなりそう」という不安はありませんか。「営業=口のうまい人が、商品をうまく説明して売り込むもの」だと思っていると、「とにかくうまく説明しなきゃ」と、ますます一方的にしゃべってしまうものです。
でも、安心してください。同じお客さんと和やかに話して、すっと受注してくる先輩がいます。あなたとその先輩の違いは、口のうまさでもセンスでもありません。違うのは、いきなり商品説明(提案)から入るか、それとも“ある順番”で動くかだけです。営業には、お客さんの困りごとを一緒に見つけて解決していく流れ(プロセス)があって、その順番を知っているかどうかの差なのです。その順番こそが、この講座で渡す1枚の地図です。
実は、営業の主役は「商品」ではなく、お客さん(顧客)の課題(困りごと)です。お客さんは、商品そのものが欲しいのではなく、「今こまっていることを、なんとかしたい」と思っています。だから営業の仕事は、商品を押し込むことではなく、お客さんの課題を一緒に見つけて、それを解決する手段として、自社の商品やサービスを届けること。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。
- 営業を「口のうまい人が商品を売り込むこと」ではなく、お客さんの課題を一緒に見つけて解決する一連のプロセス(準備→アプローチ→ヒアリング→提案→クロージング→フォロー)として、順番に説明できる
- 各段階でやるべき行動を、自分の言葉で説明でき、とくに「商品説明(提案)の前に、まずヒアリングで課題を引き出す」という順番を、いきなり商品説明から入ると刺さらない理由とともに説明できる
- ある商談について、ヒアリングで引き出した課題と、提案する解決策を結びつけて説明でき、「課題と提案がつながっているか」を自分で確認できる(断られても、どの段階でつまずいたかを振り返れる)
この講座は最後まで、「複合機(コピー機・プリンター)を売る新人のあなたが、従業員12人の町の工務店『山田工務店』に、はじめて1人で営業する」という、たった1つの商談だけで説明します。この同じ商談を、営業とは何か→準備とアプローチ→ヒアリング→提案・クロージング・フォロー、と1段階ずつ地図を埋めていきます。各章末には手を動かす演習も置いているので、書きながら読み進めてみてください。そして、この「準備→ヒアリング→提案」の地図を、自分の担当先でも使えるようにしたくなったら、無料会員登録で続きの講座(ヒアリング・提案・クロージングなど各段階の深掘り)に進めます。まずは、この1本で営業の全体像を掴みましょう。
第1章:営業とは何か(売り込みでなく、課題解決のプロセス)
まずは、「いきなり商品説明」で詰まってしまうモヤモヤの正体を、はっきりさせましょう。営業という言葉を、「口のうまい人がやる売り込み」というイメージから、自分でも使える1枚の地図に変える土台の章です。
この章のゴール
この章を読み終えると、営業を「口のうまい人が商品を売り込むこと」ではなく、お客さんの課題を一緒に見つけて解決する一連のプロセスとして、6つの段階の地図とともに、自分の言葉で説明できるようになります。
「いきなり商品説明」で詰まる正体
あなたのセンスが足りないわけではありません。多くの場合、「いきなり商品説明」で詰まるのは、営業を「口がうまい人・押しの強い人がやる売り込み」だと狭く捉えていて、動く順番(プロセス)を持っていない——これが正体です。
「うまく説明しなきゃ」と思うほど、あなたは商品の話を一方的にしてしまいます。でも、お客さんはまだ「自分が何にこまっているか」も整理できていません。そこへ機能の説明をかぶせても、「ふーん、で?」となるのは当然なのです。これは、相手がどこへ行きたいかを聞かないまま、いきなり目的地までの近道を案内し始めるようなもの。順番が、ひとつ抜けています。
ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。営業は“売り込む”ではなく“課題を解決する”こと。そして、順番を飛ばさない——とくに、ヒアリングの前に提案しない。この順番さえ持てば、口下手でも、断られても、「どの段階でつまずいたか」を振り返って、次に進めるようになります。
営業=お客さんの課題を一緒に見つけて解決すること
営業とは、商品を並べて「買ってください」と頭を下げる(売り込む)ことではありません。お客さん(顧客)の困りごと(課題)を一緒に見つけて、それを解決する手段として、自社の商品やサービスを届けることです。主役は「商品の良さ」ではなく、いつでも「お客さんの課題」です。
ここで、3つの営業のタイプをくらべてみると、ねらいがはっきりします。ひとつめは、言われた注文を受けるだけの御用聞き営業。受け身なので、お客さん自身も気づいていない困りごとは見つけられません。ふたつめは、課題を聞かずに「とにかくこれ、良いですよ」と押す押し売り。これは相手の困りごととズレていれば、ただ煙たがられます。そして、この講座がめざすのが、みっつめ——お客さんの困りごとを質問で引き出して、それを解決する形で商品を提案する課題解決型(ソリューション)営業です。受け身でもなく、押しつけでもなく、「一緒に困りごとを解決する」のが営業だ、と覚えてください。
だから、いちばんありがちな誤解を、ここで先に潰しておきます。「営業=口のうまい人・押しの強い人がやるもの」という思い込みです。口のうまさや押しの強さは、営業の本体ではありません。本体は、お客さんの課題を見つけて、それに合う解決策を届けること。これなら、口下手な人でも、順番どおりに動けばできるようになります。
全体像は1枚の地図:6つの段階
では、その課題解決を、どんな順番で進めればいいのか。営業の流れは、大きく次の6つの段階に分けられます。
| 順番 | 段階 | この段階でやること |
|---|---|---|
| ① | 準備 | 会う前に相手を調べ、聞きたいことを用意する |
| ② | アプローチ | 売り込まず、「話してもいい」と思ってもらう入口を作る |
| ③ | ヒアリング | 質問で、お客さんの課題を引き出す(心臓部) |
| ④ | 提案 | 引き出した課題に結びつけて、解決策を示す |
| ⑤ | クロージング | 残った不安を解消して、決めてもらう |
| ⑥ | フォロー | 買ったあとも支え、次の商談や紹介につなげる |
これが、営業の全体像=1枚の地図です。なお、この区切り方は会社や本によって少し違い、4段階や5段階でまとめることもありますが、本講座ではこの6段階で説明します。
先輩がよく口にする「ヒアリング力」「クロージング」「SPIN」といった言葉も、実はこの地図のどこかに乗っています。「ヒアリング力」は③ヒアリング、「クロージング」は⑤、「SPIN」は③で使う質問の組み立てのこと。今は名前を覚えなくて大丈夫です。「全部この地図の上に乗るんだな」とだけ掴んでください。クロージングの言い回しのようなテクニックは、各段階の中の道具で、そこから話を始めないのがコツです。
ここで、この講座を通して使う共通例に登場してもらいましょう。複合機(コピー機・プリンター)を売る新人のあなたです。あなたは、担当することになった従業員12人の町の工務店「山田工務店」に、はじめて1人で営業に行きます。さて、どう進めるか。地図を持たない状態だと、「とにかくパンフを開いて、うちの複合機の良さを説明しよう」と、いきなり商品説明(④提案)から動いてしまいます。そうではなく、①準備から⑥フォローまで、順番に動いていく——これが営業です。この章では、まだ中身は埋めません。6段階の“枠”だけを立てておきます。
この章の確認(演習)
共通例「山田工務店への複合機の商談」について、いきなり商品説明を考えるのをやめて、次の6段階を、中身は空欄のまま、見出しだけ書き出してみてください。
- ① 準備:_____
- ② アプローチ:_____
- ③ ヒアリング:_____
- ④ 提案:_____
- ⑤ クロージング:_____
- ⑥ フォロー:_____
そのうえで、「営業とは、お客さんの課題を順番に見つけて解決する、一連のプロセスだ」を、自分の言葉で1〜2行に書いてみます。売り込みからではなく“枠”から入る感覚を、自分の手で言葉にできたら、この章はゴールです。空欄は、これから第2章・第3章・第4章で1つずつ埋めていきます。
第2章:準備とアプローチ(会う前に調べ、信頼の入口を作る)
地図の最初の2マス、準備とアプローチを埋めていきます。お客さんに会う「前」と「会った直後」に何をするかで、その後の商談がぐっと進みやすくなります。
この章のゴール
この章を読み終えると、営業の最初の2段階「準備」と「アプローチ」でやるべき行動を、自分の言葉で説明できるようになります(いきなり売り込まない、会う前に調べ、関係の入口を作る)。
「数を回れば当たる」の前に、準備がある
新人のころ、「とにかく訪問件数を増やせ、数を回ればそのうち当たる」と言われたことはありませんか。たしかに行動の量は大事です。でも、準備のない訪問は、空回りします。「誰に・何を聞くか」が決まっていないまま訪問しても、世間話で終わったり、いきなり商品説明をして「ふーん」で終わったりするだけだからです。
商談の前に相手の困りごとを想定しておかないと、的外れな提案になり、せっかくのチャンスを逃してしまいます。だから、回る件数を増やす前に、1件ごとの準備の質を上げる——これが、地図の1マス目です。
準備=会う前に調べ、聞きたいことを用意する
では、準備で具体的に何をするか。会う前に、相手のことを調べ、その日に「何を聞きたいか」を用意しておきます。
調べるのは、相手の業種・規模・最近の動き、そして「この相手なら、どんなことにこまっていそうか」という当たりです。そのうえで、当日に聞きたい質問を3つほどメモしておきます。ここで大事なのは、用意するのが「売るための台本」ではなく「聞くための準備」だということ。商品の説明を完璧に暗記するより、「相手の困りごとを聞き出す質問」を用意するほうが、ずっと役に立ちます。
共通例で考えてみましょう。山田工務店に行く前のあなたの準備は、こんな感じです。「工務店なら、見積りや図面をよく印刷するはず」「従業員12人くらいなら、複合機は1〜2台だろう」「印刷は、朝にまとまって発生しそうだ」と当たりをつける。そして、当日に聞きたいことを用意します。「今、複合機を何台、どんな場面でよく使っていますか?」「今のままで、こまっていることはありますか?」。この準備があるだけで、当日いきなりパンフを開かずにすみます。
アプローチ=売り込まず、「話してもいい」の入口を作る
準備ができたら、いよいよお客さんに会います。この最初の接触がアプローチです。アプローチとは、お客さんとの最初の接触で、「この人になら話してもいい」と思ってもらう関係の入口を作ることです。
ここで多くの新人がやってしまうのが、会ってすぐ商品説明を始めること。でも、アプローチの目的は「売ること」ではありません。「次のヒアリング(質問して課題を聞く段階)に進めること」です。だから、あいさつと自己紹介のあと、いきなりパンフを開くのではなく、「今日は何をしに来たのか」を、売り込みでない言葉で伝えます。
共通例なら、こうです。あなたは山田工務店の社長に会って、「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。今日は、御社で今お使いの複合機まわりで、何かこまっていることがないか、まずお聞かせいただきたくて伺いました」と切り出します。「売りに来た」ではなく「聞きに来た」と最初に伝えると、社長は身構えずに、自分のことを話してくれます。これで、次のヒアリングへの入口が開きました。
この章の確認(演習)
共通例「山田工務店」について、まず会う前の準備として、「この相手なら、こんなことにこまっていそうだ」という想定を2つ、そして訪問で最初に聞きたい質問を2つ、書き出してみてください。
次に、アプローチの第一声を1文で書いてみます。会ってすぐ何と言って場を作るか。コツは、「うちの商品が」ではなく、「御社のこまりごとを聞かせてください」という、聞きに来た姿勢が伝わる言い方にすることです。準備と入口づくりを、自分の手で形にできたら、ゴールです。
第3章:ヒアリング(質問でお客さんの課題を引き出す)=営業の心臓部
地図の3マス目、ヒアリングを埋めます。ここが、営業のいちばん大事な段階——心臓部です。この章の「提案の前にヒアリング」が腹落ちすれば、この講座の半分は身についたと言ってもいいくらいです。
この章のゴール
この章を読み終えると、営業プロセスの心臓部「ヒアリング」でやるべき行動を説明でき、「商品説明(提案)の前に、まず質問で課題を引き出す」という順番を、いきなり商品説明から入ると刺さらない理由とともに説明できるようになります。
なぜ「提案の前にヒアリング」なのか
ヒアリングとは、質問して、お客さんの困りごと(課題)を、お客さん自身の口から引き出すことです。そして、これは必ず提案(商品説明)より「先」にやります。なぜでしょうか。
理由はシンプルです。課題が分からないまま商品説明をしても、相手にとって「自分ごと」にならないからです。たとえば、あなたが複合機の「1分間に40枚印刷できます」という機能を熱心に説明しても、社長が印刷スピードに困っていなければ、「ふーん、すごいね」で終わります。でも、もし社長が「朝の印刷待ちにイライラしている」と分かっていれば、同じ「40枚印刷できます」が「あの待ち時間がなくなる」という、社長にとっての意味を持ちます。
だから、良い営業ほど「しゃべる」より「聞く・質問する」のです。第1章で詰まった「いきなり商品説明」は、このヒアリングを飛ばしていたから刺さらなかった、というわけです。
質問には順番がある:状況→問題→影響→解決後
では、どう質問すればお客さんの課題を引き出せるのか。やみくもに聞くのではなく、質問にも順番があります。次の4ステップで進めます。
| 順番 | 質問の種類 | 聞くこと |
|---|---|---|
| ① 状況 | 今どうなっているか | 「今、どんなふうに使っていますか?」 |
| ② 問題 | 何にこまっているか | 「その中で、こまっていることはありますか?」 |
| ③ 影響 | 放っておくとどうなるか | 「それが続くと、どれくらい響いていますか?」 |
| ④ 解決後 | 解決したらどううれしいか | 「もし解決したら、どう変わりそうですか?」 |
①でまず今の状況を聞き、②でこまりごとを引き出し、③でその問題を放っておくとどうなるかを一緒に考え、④で解決できたらどううれしいかを想像してもらう。この順で進めると、お客さん自身が「これは、なんとかしたいな」と気づいてくれます。あなたが「買ってください」と言わなくても、相手のほうが解決したくなる——ここがポイントです。
ちなみに、こうした質問の組み立ては、ニール・ラッカムという人が提唱したSPIN話法として知られています。SPIN話法とは、ひとことで言えば「お客さんの課題を引き出すための、質問の順番」のこと。名前や細かいやり方は、今は覚えなくて大丈夫です。「状況→問題→影響→解決後の順で聞くんだな」とだけ掴んでおけば十分です(詳しいやり方は、この講座の先で扱います)。
沈黙を怖がらない・課題を一言で確認する
ヒアリングでつまずく新人のいちばんの原因は、沈黙が怖くて、自分でしゃべってしまうことです。質問を投げたあと、相手が少し考えて黙ると、間が持たなくて、つい自分で答えを言ったり商品説明を始めたりしてしまう。でも、その沈黙は、相手が考えている大事な時間です。ぐっとこらえて、相手に話してもらいましょう。
そして、ひととおり聞けたら、最後に引き出した課題を一言で確認します。「つまり、〇〇でお困りなんですね」と返すのです。こうすると、課題があなたとお客さんの間でぴったり揃い、次の提案がブレなくなります。
共通例で、実際の流れを見てみましょう。あなたは山田工務店の社長に、こう質問していきます。
- ①状況「今、複合機は何台で、どんな場面でよくお使いですか?」→社長「2台あって、朝に見積りと図面をまとめて印刷するね」
- ②問題「その朝の印刷で、こまっていることはありますか?」→社長「印刷が遅くて、出力待ちで手が止まるんだよ。古い機械だから紙詰まりも多くてね」
- ③影響「その待ち時間が続くと、朝の動き出しにどれくらい響いていますか?」→社長「毎朝けっこう待ってる。地味に効くんだよなあ」
- ④解決後「もし、その待ち時間がなくなったら、朝はどう変わりそうですか?」→社長「すぐ現場に出られて助かるよ」
ここまで来ると、社長自身が「朝の出力待ちを、なんとかしたい」と、自分の口で言っています。そして大事なのは、あなたはまだ、商品を一言も売り込んでいないこと。最後に、「つまり、朝の出力待ちで手が止まるのが、いちばんのお困りごと、ということですね」と確認します。これで、課題がはっきり揃いました。
この章の確認(演習)
共通例「山田工務店」へのヒアリングの質問を、①状況→②問題→③影響→④解決後 の順に、1つずつ(計4つ)書き出してみてください。
最後に、引き出したい課題を「つまり〇〇でお困り、を引き出したい」と1文で書きます。このとき、商品説明は書かないのがルールです。この段階では売り込まない、ということを、自分の手を動かして体に入れましょう。質問だけで課題にたどり着けたら、ゴールです。
第4章:提案・クロージング・フォロー(課題に結びつけて示し、決めてもらい、次へつなぐ)
地図の残り3マス、提案・クロージング・フォローを埋めます。第3章で引き出した課題を、いよいよ解決策につなげ、決めてもらい、その先の関係まで作っていく段階です。
この章のゴール
この章を読み終えると、残る3段階「提案・クロージング・フォロー」でやるべき行動を説明でき、ヒアリングで引き出した課題と提案を結びつけて説明できるようになります。
提案=課題に「結びつけて」解決策を示す
地図の4マス目が提案です。提案とは、ヒアリングで引き出した課題に結びつけて、解決策(商品・サービス)を示すことです。
ここでいちばんやってはいけないのが、商品の機能を、上から下まで全部並べることです。「両面印刷ができて、スキャンも速くて、クラウド連携もできて……」と全部言っても、相手の頭には残りません。そうではなく、「その課題を、この商品がどう解決するか」だけを、お客さんが言った課題の言葉で語ります。
共通例で見てみましょう。あなたは社長に、こう提案します。「先ほどの“朝の出力待ちで手が止まる”を解決するのが、この高速印刷の機種です。朝の見積りもまとめてすぐ出るので、あの待ち時間がなくなります」。両面印刷もクラウド連携も、今は言いません。社長が口にした「朝の出力待ち」という課題に、まっすぐ結びつけて、答えだけを返す。これが、ヒアリングを活かした提案です。第3章でちゃんと課題を引き出していたからこそ、提案がこんなにシンプルで、刺さるものになるのです。
クロージング=押し売りでなく、不安を一つずつ解消する
地図の5マス目がクロージングです。クロージングとは、お客さんに決めてもらう、最後のひと押しのこと。「クロージング」と聞くと、強引に契約を迫るイメージがあるかもしれませんが、それは違います。クロージングの本体は、残っている不安や疑問を、一つずつ解消して、決断を後押しすることです。
人が「買う」と決める前には、たいてい最後の不安が残っています。「価格は高くないか」「導入の手間はどれくらいか」「本当に効果があるのか」。この不安を放っておいて「どうですか、決めませんか」と急かすと、相手は引いてしまいます。逆に、不安を一つずつ丁寧に解消してあげると、相手は安心して前に進めます。
共通例で見てみましょう。社長が「でも、今のより高いよね?」と言いました。これは断りではなく、残っている不安です。あなたはこう返します。「たしかに本体は今より上がります。ただ、朝の待ち時間が毎日減る分と、紙詰まりやインク代が減る分を合わせて考えると、トータルでは見合ってくるかと思います」。こうして不安を一つずつ解消したうえで、「では、今月中の導入で進めましょうか」と、そっと背中を押します。これがクロージングです。
フォロー=買ったあとも支え、次や紹介につなげる
地図の最後、6マス目がフォローです。多くの新人は、契約が取れたら「終わった!」と気がゆるんでしまいます。でも、営業は契約して終わりではありません。フォローとは、買ってもらったあと、納品や導入のあとに「ちゃんと役に立っているか」を確認し、お客さんを支えることです。
なぜフォローが大事かというと、フォローが次の商談や、お客さんからの紹介を生むからです。営業は一回で終わる一本道ではなく、ぐるっと次につながる輪なのです。
共通例なら、こうです。複合機を納品したあと、あなたは山田工務店にもう一度顔を出して、「朝の印刷、速くなりましたか?」と確認します。社長が「おかげで朝がラクになったよ」と満足してくれれば、その信頼が次につながります。「そういえば、知り合いの工務店も同じことで困ってたな。紹介しようか」——フォローが、こうして新しい商談の「準備」(地図の①)に戻っていくのです。
そして、もし断られたときも、この地図が役に立ちます。「課題の引き出しが浅かったかな(③ヒアリング)」「不安を解消しきれなかったかな(⑤クロージング)」と、どの段階でつまずいたかを振り返れるからです。断られて「自分はセンスがない」で止まらず、段階ごとに次の改善点が見えるようになります。
この章の確認(演習)
共通例「山田工務店」について、第3章で引き出した課題(朝の出力待ち)に結びつけた提案を、1文で書いてみてください。機能を全部並べるのではなく、「その課題を、この商品がどう解決するか」という答えの形で書くのがコツです。
さらに、社長が言いそうな不安を1つ想像し、それをどう解消するかを、1〜2行で書いてみます。提案を課題に結びつけ、不安を解消して背中を押す——この感覚を、自分の手で形にできたら、ゴールです。
まとめ:営業は“売り込む”ではなく“課題を解決する”こと
おつかれさまでした。「複合機を売る新人のあなたが、山田工務店に営業する」という、たった1つの商談を、営業とは何か→準備とアプローチ→ヒアリング→提案・クロージング・フォロー、と1マスずつ地図に埋めてきました。第1章で空欄だった6段階を、ここで振り返ります。
- 準備……会う前に相手を調べ、聞きたいことを用意する。山田工務店なら「印刷は朝に集中しそう」と当たりをつけ、聞く質問を用意した(第2章)。
- アプローチ……売り込まず、「聞きに来た」と伝えて、話してもらう入口を作る。「複合機でこまっていることを聞かせてください」と切り出した(第2章)。
- ヒアリング……提案の前に、質問で課題を引き出す(心臓部)。状況→問題→影響→解決後の順で聞き、「朝の出力待ち」という課題を社長の口から引き出した(第3章)。
- 提案……機能を全部並べず、引き出した課題に結びつけて解決策を示す。「朝の出力待ちを解決するのが、この高速機です」と返した(第4章)。
- クロージング……押し売りでなく、残った不安を一つずつ解消して決めてもらう。「高いのでは」という不安に答えて背中を押した(第4章)。
- フォロー……買ったあとも支え、次の商談や紹介につなげる。納品後に「速くなりましたか?」と確認した(第4章)。
この6つは、すべて1つの問いに戻ります。「いきなり商品説明から入らず、課題を聞いてから、それに結びつけて提案できているか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——営業は“売り込む”ではなく“課題を解決する”こと。順番を飛ばさない、とくに、ヒアリングの前に提案しない。これが身につくと、断られても「自分にはセンスがない」で止まらず、「どの段階を直せばいいか」が見えるようになります。口下手でも、順番どおりに動けば、ちゃんと前に進めるのです。
明日の最初の一歩:自分の担当先(または、これから同行する商談)を1つ思い浮かべて、紙に3つ書き出してみてください。①会う前に調べておくこと ②最初に聞きたい質問を、状況→問題→影響→解決後 の順で3〜4つ ③その課題に結びつけられそうな、自社の解決策。きれいにまとめる必要はありません。「いきなり商品説明」をやめて「課題を聞いてから」に変えられたら、それが第一歩です。
そして、この「準備→アプローチ→ヒアリング→提案→クロージング→フォロー」の地図を、もっと深く使えるようになりたくなったら、その先の道も用意されています。課題を引き出す質問の組み立て(SPIN話法など)、課題に刺さる提案・プレゼンの作り方、不安を解消するクロージング・反論対応——これらは、今日描いた地図の各マスを、ひとつずつ深掘りするものです。ちなみに、「そもそも、どんなお客さんに・どんな価値を届けるか」を考えるのがマーケティングで、「知ってもらったあと、実際に会って課題を解決する」のが、今日学んだ営業です。続きは、無料会員登録で次の講座に進めます。まずはこの営業プロセスの地図を、自分の手で1枚描けるようにしておきましょう。それが、すべての商談の土台になります。
よくある質問
営業とはそもそも何ですか?
お客さんの困りごと(課題)を一緒に見つけて、それを解決する手段として自社の商品やサービスを届けることです。「口のうまい人が商品を売り込む」ことではなく、課題解決が本体です。
ヒアリングの前に商品説明をしてはいけないのですか?
課題が分からないまま商品説明をしても、お客さんにとって「自分ごと」になりません。まず質問で課題を引き出してから提案することで、説明が相手の困りごとに結びついて初めて意味を持ちます。
口下手でも営業はできますか?
できます。営業の本体は「口のうまさ」ではなく、順番どおりに動くことです。準備→アプローチ→ヒアリング→提案→クロージング→フォローの順番を守れば、口下手でも着実に進められます。
断られたときはどうすればよいですか?
この講座で学ぶ6段階の地図を使って、「どの段階でつまずいたか」を振り返ります。ヒアリングで課題を引き出せていたか、不安を解消できていたかなど、段階ごとに改善点を見つけられます。
ヒアリングで何を質問すればよいですか?
状況→問題→影響→解決後の順で聞くと、お客さん自身が課題に気づいてくれます。「今どんなふうに使っていますか」から始め、こまりごと・その影響・解決後のイメージへと順番に進めます。