クリティカルシンキング超入門 | マナビズ

クリティカルシンキング超入門

クリティカルシンキング超入門

会議で「この施策で売上が上がるはずです」という提案が出たとき、あなたの周りには2種類の人がいます。そのまま「いいですね」と通す人と、「本当にそう言えるのかな」と一拍置いて前提や根拠を確かめにいく人です。違いは、賢さでも気の強さでもありません。主張を見たときに、点検の問いを当てる習慣があるかどうかです。

上司の指示や社内資料を鵜呑みにして動き、あとで「前提が違った」と分かって手戻りする。自分の提案を「それ本当に効果あるの?」「根拠は?」と突かれて、言葉に詰まって引っ込めてしまう。会議の結論に「なんか違う気がする」と違和感はあるのに、どこが引っかかるのか言葉にできず黙ってしまう——心当たりがあるなら、それは「一拍置く」と「3つの問い」が抜けているサインです。

クリティカルシンキングは、相手を打ち負かす技術でも、あら探しをする嫌な態度でもありません。主張を鵜呑みにせず「本当にそう言えるか」と確かめ、より良い結論にたどり着くために点検する姿勢です。鵜呑み(そのまま受け取る)と、頭ごなしの否定(あら探し)の中間に、「いったん確かめてみる」という構えがある。それを前提・根拠・視点の3つの問いで回すと、鵜呑みの手戻りが減り、自分の提案の穴も先に埋められるようになります。

この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. クリティカルシンキングが「あら探し・否定」ではなく「“本当にそう言えるか”と問い、より良い結論のために点検する姿勢」だと説明できる
  2. ある主張に、前提・根拠・視点の3つの問いを当て、引っかかる箇所を具体的に指摘できる
  3. 自分の主張に同じ3つの問いを当てて穴を見つけ、出す前に直せる

この講座は最後まで、「“この施策で売上が上がるはず”という値下げの社内提案を点検する」という、たった1つの題材だけで説明します。同じ主張に、「本当にそう言えるか」と一拍置く→前提を疑う→根拠を疑う→視点を変える、と3つの問いを1つずつ当てていきます。点検する主張を書き込める主張点検シートも無料で配布しているので、紙とペンかこのシートを用意し、各章末の演習を手で書きながら進めてみてください。

なお本講座は「主張を点検する」ことに絞っています。考え全体の組み立て方はロジカルシンキング(kouza-010)、先に仮の答えを立てて確かめる進め方は仮説思考(kouza-015)、点検した主張を原因から打ち手まで整理する段階は問題解決(kouza-014)で深められます。まずは自分のクリティカルシンキングがいまどのくらいかを知りたい方は、スキル診断へ進んでみてください。点検のクセがどこで止まっているかが見えると、この講座の読みどころもはっきりします。

この講座のポイント

  • クリティカルシンキングが「主張を鵜呑みにせず“本当にそう言えるか”と問い、より良い結論のために点検する姿勢」であり、あら探し・否定とは違うことを説明できる
  • 主張が当たり前として置いている前提を取り出し、「その前提は正しいか」と問える
  • 主張の根拠を取り出し、「事実か・十分か・飛躍はないか」の3点で点検できる
  • 主張に対し別の立場・反対意見・抜けている観点を1つ挙げ、さらに同じ3つの問いを自分の主張に当てて穴を直せる

クリティカルシンキングとは——「本当にそうか」と確かめる構え

まずは、「鵜呑みにして手戻りする」のと「頭ごなしに否定する」のとの間にある、第三の構えを手に入れましょう。

この章のゴール

この章を読み終えると、クリティカルシンキングが「主張を鵜呑みにせず“本当にそう言えるか”と問い、より良い結論のために点検する姿勢」であり、あら探し・否定とは違うことを説明できるようになります。

鵜呑みでも、頭ごなしの否定でもなく

「この施策で売上が上がるはずです」という値下げ提案が会議に出たとします。よくある反応は2つに割れます。

1つは、鵜呑みです。「上司が言うから」「他社もやっているから」と、そのまま「いいですね」と通してしまう。一見素直で前向きですが、前提や根拠を確かめていないので、あとで「客は値段で選んでいなかった」と分かって手戻りになります。

もう1つは、頭ごなしの否定です。「どうせ無理ですよ」と頭から切り捨てる。一見鋭く見えますが、これも中身を確かめていません。理由を聞かれても「なんとなく」としか言えず、場の空気を悪くするだけです。

この2つは正反対に見えて、主張を確かめていないという点では同じです。鵜呑みは確かめずに受け入れ、頭ごなしの否定は確かめずに退ける。どちらも「本当にそう言えるか」を素通りしています。

クリティカルシンキングは、この2つの中間にあります。「上がるという見込みは、何を根拠にしていますか。確かめてから進めましょう」と、いったん立ち止まって確かめにいく構えです。受け入れるでも退けるでもなく、確かめる。これがこの講座を貫く背骨です。

クリティカルシンキング=「本当にそう言えるか」と点検する考え方

あらためて言葉にします。クリティカルシンキングとは、目の前の主張——自分の考え、上司の指示、資料の結論——をそのまま受け取らず、「本当にそう言えるか」と前提や根拠を疑い、客観的に、いろいろな角度から確かめる考え方です。日本語では「批判的思考」と訳されます。

ここで多くの人がつまずくのが、「批判」という言葉です。「批判=相手を非難する、あら探しをする」と感じて、点検そのものを「角が立つこと」だと思って避けてしまう。けれど、ここでの「批判」は、相手を非難したり欠点を探したりすることではありません。良い点・悪い点を見分けて、より良い結論に近づけるための“確かめ”です。向かう先は「相手を負かすこと」ではなく「より確かな結論にたどり着くこと」だから、攻撃にはなりません。

そして、確かめる目を向ける相手は他人の主張だけではありません。自分の主張・思い込みにこそ、同じ問いを向けます。「自分は正しい」という前提も点検の対象。むしろクリティカルシンキングの本質は、自分の考えの前提に誤りがないかを自分で振り返るところにあります。他人の主張は鋭く突けるのに、自分の提案には甘い——これでは点検の半分しか使えていません。

なお、この考え方は誰か一人が発明したものではなく、古くは哲学や論理学にさかのぼり、教育や心理学の分野で発展してきました。大事なのは出どころの名前ではなく、「主張を“本当にそう言えるか”と確かめる」という働きのほうです。

似た言葉のロジカルシンキングとの違いも押さえておきましょう。ロジカルシンキングは、筋道を立てて矛盾なく根拠を積み重ね、結論を導く考え方で、与えられた前提や問いを受け入れ、その枠の中で筋の通った答えを出すことに集中します。対してクリティカルシンキングは、その筋道や前提そのものを「本当にそう言えるか」と疑います。両者は対立せず、クリティカルシンキングで前提や問いの立て方を確かめ、ロジカルシンキングで筋道を組み立てる、という補い合いの関係です。一方が欠けると、間違った前提の上で論理だけ正しく走る——「間違ったゴールに全速力で走る」状態になりかねません。組み立て方そのものはロジカルシンキング(kouza-010)で扱うので、本講座は「前提と筋道を疑う」側に絞ります。

3つの問いの全体像を先に見せる

確かめるといっても、やみくもに疑うわけではありません。クリティカルシンキングには、当てていく問いの順番があります。この講座で身につける3つの問いは次のとおりです。

  1. 前提を疑う……その主張は、何を当たり前として置いているか。その前提は正しいか(第2章)
  2. 根拠を疑う……その主張を支える理由・データ・事例は、事実か・十分か・飛躍はないか(第3章)
  3. 視点を変える……他の見方・反対意見・別の立場はないか(第4章)

この3つを、第1章で出した「値下げで売上が上がる」という1つの主張に1つずつ順番に当て、最後に同じ3つを自分の主張に折り返します。今は地図として、「前提→根拠→視点の順に確かめるんだな」とだけ覚えておいてください。

ここで1つ、先回りで注意です。「何でもかんでも疑って、考えすぎて前に進めなくなる」のは点検の使いすぎです。点検は結論を良くするための手段で、目的ではありません。すべてを疑う必要はなく、判断の土台になる効きそうな前提・根拠に絞れば、止まらずに動けます(絞り方は第2章で見ます)。

この章の確認(演習):共通例の「この施策で売上が上がるはず」を、まず1文で取り出してください。次に、(a)鵜呑み(そのまま通す言い方)、(b)あら探しの否定(頭から切り捨てる言い方)、(c)「本当にそう言えるか」と確かめにいく点検の言い方、の3つを、それぞれ実際のセリフで書き分けてみます。書けたら、(c)が(b)と違って相手を否定していないこと——「確かめましょう」と言っているだけで、誰も非難していないこと——を声に出して確認できたら、ゴール達成です。

問い1 — 前提を疑う(その前提は正しいか)

3つの問いの最初は「前提を疑う」です。ここがいちばん見落とされやすく、いちばん効きます。

この章のゴール

この章を読み終えると、主張が当たり前として置いている前提を取り出し、「その前提は正しいか」と問えるようになります。

どんな主張にも、口に出していない前提がある

どんな主張にも、口に出していない前提があります。前提とは、その主張が「当たり前」として置いている条件や思い込みのこと。やっかいなのは、当たり前すぎて本人も気づいていないことが多い点です。だから聞いている側も、結論だけを見て賛成か反対かを決めてしまいがちです。

前提が大事なのは、前提が崩れると、その上に乗った主張ごと崩れるからです。前提が間違っていれば、そこから先の理屈がどれだけ筋が通っていても結論は的を外します。筋道を整えるロジカルシンキングは前提の枠の中で考えるので、前提そのものの誤りは見つけられません。だからこそ、点検の第一歩は「この主張は、何を当たり前として置いているか」を取り出すことなのです。

「値下げで売上が上がるはず」という提案を例にとります。この一文の下には、口に出されていない前提が隠れています。たとえば、こうです。

  • 客は、値段の安さで選んでいる
  • 値下げをしても、客数は減らない
  • 売上が増えるなら、利益が減ってもよい

提案した本人は、ここまで意識していないかもしれません。でも、この前提のどれか1つでも崩れると、「値下げで売上が上がる」は怪しくなります。前提を取り出すだけで、「あ、ここを確かめていなかった」と引っかかりが見えてきます。

前提を取り出し、「もし違ったら?」と裏返す

前提を取り出すコツは、「もし違ったら?」と裏返してみることです。隠れた前提は、そのままだと見えにくい。けれど反対をぶつけると、輪郭がくっきりします。

さきほどの3つの前提を裏返してみましょう。

  • 「客は値段で選んでいる」→もし客が、値段ではなく品質やサポートで選んでいたら? 値下げしても売上は伸びないかもしれません。
  • 「値下げしても客数は減らない」→もし値下げで“安っぽい”と見られて、かえって客が離れたら? 売上は逆に落ちるかもしれません。
  • 「売上が増えれば利益が減ってもよい」→もし売上は増えても利益が大きく削れたら? その施策は「成功」と言えるのでしょうか。

裏返してみると、どの前提も「まだ確かめられていない」と分かります。確かめないまま値下げに踏み切れば、あとで「前提が違った」と手戻りになる——導入で触れた、あの手戻りの正体がこれです。確かめる前に進めるか、確かめてから進めるか。この一拍の差が、手戻りの差になります。

ただし、注意があります。何でもかんでも疑う必要はありません。前提を1つずつ全部裏返していたら、いつまでも前に進めなくなります。すべてを疑うのではなく、「この前提が崩れたら、主張ごと崩れる」という効きそうな前提を1〜2個に絞って確かめれば十分です。たとえば「客は値段で選んでいる」は、この提案の土台中の土台ですから、まずここを確かめる。点検は結論を良くするための手段なので、確かめる前提を絞って、止まらずに進めるのがコツです。

もう1つ。前提を疑うことと、相手の人格を疑うことは別物です。「あなたの前提は確かめられていますか」と問うのは、提案者を責めることではありません。「この前提をいっしょに確かめませんか」という、より良い結論への誘いです。なお、確かめた前提をもとに打ち手を組み立てたり、仮の答えを立てて検証したりする進め方は、それぞれ問題解決(kouza-014)仮説思考(kouza-015)の領域です。この章は「前提を取り出して疑う」ところまでを身につけます。

この章の確認(演習):共通例「値下げすれば売上が上がる」が置いている前提を2つ書き出してください。次に、それぞれを「もし違ったら?」と裏返して、反対の可能性を一文で書きます。書けたら、2つのうち「これが崩れたら主張ごと崩れる」という効きそうな前提に印を付け、それを確かめる必要があると言葉にできたら、ゴール達成です。

問い2 — 根拠を疑う(事実か・十分か・飛躍はないか)

前提を確かめたら、次は「根拠」です。主張を「だから正しい」と支えている部分を、3点で点検します。

この章のゴール

この章を読み終えると、主張の根拠を取り出し、「事実か・十分か・飛躍はないか」の3点で点検できるようになります。

主張を支える根拠を取り出す

主張には、たいてい「だから正しい」と支える根拠があります。理由、データ、事例などです。根拠が弱ければ、主張も信用できません。だから根拠の点検も、まず「この主張は、何を根拠にしているか」を取り出すことから始めます。

「値下げで売上が上がるはず」という提案に根拠を尋ねたところ、こう返ってきたとします——「去年セールをした月に、売上が伸びたからです」。根拠が1つ出てきました。では、この根拠をそのまま信じてよいでしょうか。ここで3つの点検を順に当てます。

根拠を3点で点検する(事実か/十分か/飛躍はないか)

(1) 事実か——まず、それは事実でしょうか。事実とは裏付けをもって確かめられること、意見は人によって変わる主観的な見方です。「セール月に売上が伸びた」は、伝聞や印象ではなく数字で確かめられる事実でしょうか。社内の売上データを見れば、本当に伸びていたのか「伸びた気がする」という印象だったのかが分かります。「データがあるから事実だ」と早合点せず、その数字が何を測ったものかも見ます。

(2) 十分か——次に、その根拠は十分でしょうか。たとえ「セール月に伸びた」が事実でも、それが一度きりなら、主張全体を支えるには足りません。その月はボーナス時期や季節の需要でもともと売れやすかったのかもしれず、同じ月に別のキャンペーンや新商品が重なっていたのかもしれない。1つの事例、一部の声だけで全体を語っていないか——ここを確かめます。

(3) 飛躍はないか——最後に、根拠から主張へのつながりに飛びはないでしょうか。ここがいちばん見逃されます。「セール月に売上が伸びた」という事実と、「値下げが原因で売上が上がった」という主張の間には、実は飛びがあります。一緒に起きたこと(相関)と、それが起こしたこと(因果)は別物だからです。セール月に伸びたのは、たまたま同じ時期に起きた別の理由——季節要因、広告、新商品——が本当の原因かもしれない。「Aと一緒にBが起きた」だけで「AがBの原因だ」と決めつけると、論理が飛びます。「間に別の原因が隠れていないか」を確かめます。

どこで弱いかを切り分けて建設的に言う

3点を当てると、根拠がどこで弱いかが切り分けられます。「事実だが、1回だけで不十分」「事実で十分だが、原因の取り違え(飛躍)がある」——このように弱点の場所を特定できると、相手を否定せずに伝えられます。

たとえば、「去年のセールは確かに伸びていますね(事実は認める)。ただ、その1回だけだと、季節要因と区別がつきません(十分性を指摘)。値下げが原因だったのか、別の理由かを、もう少し確かめませんか(飛躍を指摘)」。これは「あなたの根拠はダメだ」という否定ではなく、「ここを補えば、もっと確かになりますね」という建設的な確認です。根拠の点検は、相手を黙らせるためではなく、提案を一緒に強くするために使う——これが、第1章で見た「確かめる構え」の具体的な形です。

この章の確認(演習):共通例の根拠「去年セールをした月に売上が伸びた」を、(1)事実か (2)十分か (3)飛躍はないか の3点で点検してみてください。それぞれについて「これは確かめられそうか/怪しいか」を一言で書きます。書けたら、3つのうち一番弱い点を1つ選び、「事実か怪しい/1回だけで不十分/別の原因かもしれない(飛躍)」のどれかで言葉にできたら、ゴール達成です。

問い3 — 視点を変える(他の見方・反対意見)/自分の主張に折り返す

最後の問いは「視点を変える」です。そして、ここで3つの問いを自分の主張へ折り返し、型を仕上げます。

この章のゴール

この章を読み終えると、主張に対し別の立場・反対意見・抜けている観点を1つ挙げ、さらに同じ3つの問いを自分の主張に当てて穴を直せるようになります。

一つの視点だけでは見落とす——視点を変える

前提と根拠を点検しても、自分一人の立場だけで見ていると、抜けが残ります。立っている場所から見えるものには、限りがあるからです。そこで最後に、「他の見方、反対意見、別の立場はないか」と、視点を動かします。具体的な動かし方は3つです。反対意見をわざと立ててみる。別の立場(顧客、現場、経理など)になって見る。「逆に、悪くなる可能性はないか」と裏を考える。

「値下げで売上が上がる」を、視点を変えて見てみましょう。

  • 別の立場(経理)から見ると……「売上は増えても、値下げした分だけ利益は減るのでは? 売上が増えたのに儲けが減る、ということはないか」
  • 反対意見を立てると……「値下げは“安売り”の印象を残す。一度下げた値段は、あとで戻しにくくなるのでは」
  • 抜けている観点を探すと……「そもそも、売上を上げる手は値下げ以外にもあるのでは。なぜ値下げありきなのか」

どれも、前提や根拠の点検だけでは出てこなかった抜けです。視点を変えると、「売上」という一点しか見ていなかった提案に、「利益」「ブランドの印象」「他の選択肢」という見落としが浮かび上がります。

そして、伝えるときが肝心です。「その提案、利益が減るからダメですよ」と否定で出すと、相手は身構え、議論は止まります。反対意見を「敵の意見」として却下せず、視点の1つとして場に乗せる。「あなたは間違っている」ではなく、「私は利益への影響が気になるのですが、どう思いますか?」と問いの形で出す。こうすると、対立ではなく対話が生まれます。欠点を指摘して終わる「批判家・評論家」ではなく、「ここを補えば、もっと良い提案になりますね」と、より良い結論に向けた確認として出すのが、クリティカルシンキングのゴールです。

点検は自分の主張にこそ向ける(折り返し)

ここまでは、他人が出した「値下げで売上が上がる」という主張を点検してきました。でも、クリティカルシンキングのいちばん大事な使い方はここからです。点検は、自分の主張にこそ折り返します

立場を入れ替えてみましょう。今度は、あなた自身が「値下げで売上を上げましょう」と提案する側だとします。会議に出す前に、自分の提案に前提・根拠・視点の3つを当ててみるのです。

  • 前提……自分は「客は値段で選ぶ」と当たり前に置いていないか。本当にそうか。
  • 根拠……「去年伸びた」の1回だけを根拠にしていないか。それは事実か、十分か、飛躍はないか。
  • 視点……利益やブランドの印象という観点が、抜けていないか。

この3つを自分に当てると、「客が値段で選ぶ前提は確かめられていない」「根拠が1回だけで弱い」「利益の観点が抜けている」と、突かれそうな穴が先に見えてきます。会議で突かれてから慌てるのではなく、出す前に自分で穴を埋めておく。そうすれば「客が値段で選んでいるかは過去の解約理由から確かめました。利益への影響も試算済みです」と、確かな提案として出せます。導入で困っていた「穴を突かれると引っ込めてしまう」が、起きにくくなります。

なぜ自分への点検が要るのか。人は自分の考えが正しいと思いたいので、自分の考えを支持する情報だけを集めてしまうクセがあります(確証バイアスと呼ばれます)。「値下げは効く」と思い込むと、効きそうなデータばかり目につき、不利なデータは見ないふりをする。この偏りを打ち消すのが、「自分の主張にこそ3つの問いを向ける」折り返しです。あえて「自分の提案に都合の悪い事実は何か」を探しにいくくらいでちょうどよいでしょう。なお、点検して残った主張を原因から打ち手まで整理する段階は問題解決(kouza-014)、点検の前に先に仮の答えを立てて確かめる進め方は仮説思考(kouza-015)で扱います。この講座は「点検して穴を埋める」ところまでです。

この章の確認(演習):まず共通例「値下げで売上が上がる」に、別の立場(経理など)か反対意見を1つ挙げて、抜けている観点を書いてください。次に、あなたが最近出した、またはこれから出す提案を1つ選び、前提・根拠・視点の3つを当てて、突かれそうな穴を1つ見つけます。最後に、その穴を「出す前にどう埋めるか」を一文で書けたら、ゴール達成です。

まとめ:鵜呑みにも、頭ごなしにも、しない——“本当にそう言えるか”と確かめる

おつかれさまでした。「“この施策で売上が上がるはず”という値下げの社内提案を点検する」という、たった1つの題材を、確かめにいく構え→前提→根拠→視点+自分への折り返し、と1つずつ歩いてきました。道のりを振り返ります。

  1. クリティカルシンキングとは何か……主張を鵜呑みにせず「本当にそう言えるか」と確かめる、より良い結論のための姿勢。鵜呑みと頭ごなしの否定の中間にある「確かめる構え」で、あら探しではなく、自分の主張にも向ける(第1章)。
  2. 前提を疑う……口に出していない前提を取り出し、「もし違ったら?」と裏返す。前提が崩れれば主張も崩れる。ただし何でも疑わず、効きそうな前提に絞る(第2章)。
  3. 根拠を疑う……(1)事実か (2)十分か(1回・少数で言い切っていないか)(3)飛躍はないか(一緒に起きたことと、それが起こしたことの取り違え)の3点で点検し、どこで弱いか切り分けて建設的に言う(第3章)。
  4. 視点を変える/自分に折り返す……別の立場・反対意見・抜けた観点を1つ立てて多面的に見る。そして同じ3つを自分の主張に折り返し、出す前に穴を埋める(第4章)。

この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「鵜呑みや否定で済ませていないか。“本当にそう言えるか”と確かめているか」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——鵜呑みにも、頭ごなしにも、しない。“本当にそう言えるか”と確かめる。3つの問いを習慣にすれば、鵜呑みの手戻りが減り、自分の提案の穴を先に埋められ、会議の違和感も「ここの前提が確かめられていない」「この根拠だけでは弱い」と具体的に言葉にできます。

明日の最初の一歩:明日いちばん「そのまま受け取りそうな主張」——上司の指示、社内資料の結論、あるいは自分の提案——を1つ選んでください。動く前に「本当にそう言えるか」と一拍置いて、前提・根拠・視点の3つの問いを当ててみます。それだけで、引っかかる箇所が「ここの前提が確かめられていない/この根拠だけでは弱い」と言葉になります。あわせて、導入で触れた主張点検シート(点検する主張を1文で書く欄→問い1 前提+「もし違ったら?」→問い2 根拠の3チェック→問い3 視点・反対意見→引っかかった点と確認アクション)に、明日点検する主張を流し込んでみてください。

3つの問いで「点検する」型が身についたら、次は学びを広げる番です。考え全体の組み立て方はロジカルシンキング(kouza-010)、先に仮の答えを立てて確かめる進め方は仮説思考(kouza-015)、点検した主張を原因から打ち手まで整理する段階は問題解決(kouza-014)で深められます。隣り合う型へとつなげていきましょう。

最後に、いまのあなたのクリティカルシンキングがどのくらい身についているかを測ってみませんか。スキル診断へ進んでみてください。3つの問いのどこで止まりやすいか——前提を取り出せていないのか、根拠の飛躍を見逃しがちなのか、自分の主張への折り返しが甘いのか——が分かれば、今日学んだ型を、明日どこから使えばいいかがはっきりします。

よくある質問

クリティカルシンキングとは何ですか

目の前の主張をそのまま受け取らず、「本当にそう言えるか」と前提・根拠・視点の3つを確かめる考え方です。鵜呑みでも頭ごなしの否定でもなく、いったん立ち止まって確かめにいく姿勢が核心です。

あら探しや批判とは何が違うのですか

あら探しは相手の欠点を見つけて終わりますが、クリティカルシンキングは「より良い結論にたどり着くため」に主張を確かめます。向かう先は相手を負かすことではなく、提案を一緒に強くすることです。

前提・根拠・視点の3つは、どの順番で当てればよいですか

まず「前提を疑う」(主張が何を当たり前として置いているか)、次に「根拠を疑う」(事実か・十分か・飛躍はないか)、最後に「視点を変える」(別の立場・反対意見はないか)の順に当てます。前提が崩れると主張ごと崩れるため、最初に確かめるのが効果的です。

根拠を点検するとき、どの点を確かめればよいですか

「事実か」「十分か」「飛躍はないか」の3点です。1回の事例だけで全体を語っていないか、一緒に起きた出来事を原因と取り違えていないかを確認することで、根拠のどこが弱いかを切り分けられます。

ロジカルシンキングとはどう違いますか

ロジカルシンキングは与えられた前提の枠内で筋道を組み立てる考え方です。クリティカルシンキングはその前提や筋道そのものを「本当にそう言えるか」と疑います。両者は補い合う関係で、前提を確かめてから筋道を組むのが本来の使い方です。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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