上司に「うちの顧客リスト、分かりやすく整理しておいて」と頼まれて、思いついた順に「大企業」「優良顧客」「東京の会社」と並べて出したら、「ここ、さっきの項目と中身がかぶってない?」「この観点が抜けてるよ」と突き返された——。資料の整理や情報のまとめを任され始めた頃、こんな経験はありませんか。
同じ顧客リストを整理して出しても、「これで分かりやすい」と一度で通る人と、「ここダブってない?」「この観点が抜けてる」と何度も突き返される人がいます。違いは情報の量ではなく、分け方です。思いついた順に並べていると、項目同士の中身がかぶったり(ダブり)、大事な分類が抜けたり(モレ)します。その分け方を整える合言葉が MECE(モレなく・ダブりなく)です。1つの切り口を決めてモレなく・ダブりなく分けるだけで、指摘される前に自分で直せるようになります。
この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。
- MECEが「モレなく・ダブりなく」分類することだと説明できる
- 1つの切り口を決めて、身近なテーマを3〜4のグループに分類できる
- 自分の分類を見て、モレ(抜け)とダブり(重複)が無いかを点検できる
この講座は最後まで、「上司に頼まれた “自社の顧客リストの整理”(バラバラの名簿を、分かりやすいグループに分けて出す場面)」という、たった1つの題材だけで説明します。同じ整理を、切り口を決める→モレなく・ダブりなく分ける→点検する、と順に組み上げていきます。
この講座のポイント
- MECEが「モレなく・ダブりなく」分類することだと説明できる
- 分類の前に「何で分けるか(切り口)」を1つ決められる
- 決めた切り口で、身近なテーマを3〜4つのグループにモレなく・ダブりなく分類できる
- 自分の分類を見て、モレ(抜け)とダブり(重複)が無いかを点検し、あれば直せる
MECEとは何か(モレなく・ダブりなく)
まずは「整理したのに突き返される」というモヤモヤの正体を、はっきりさせるところから始めましょう。
この章のゴール
この章を読み終えると、MECEが「モレなく・ダブりなく」分類することだと説明できるようになります。
「整理したのに突き返される」の正体
あなたの整理がへたなわけではありません。多くの場合、思いついた順に項目を並べているだけ、というのが原因です。
顧客リストを「大企業」「優良顧客」「東京の会社」と頭に浮かんだ順に並べると、「大企業でかつ優良顧客」という会社が両方に入ってしまいます(ダブり)。一方で、中小企業や地方の会社はどの項目にも入らず、抜け落ちます(モレ)。だから上司は「ここダブってない?」「この観点が抜けてる」と返すのです。指摘されるのは、情報が足りないからでも、文章がへただからでもありません。分かりやすさは情報の量ではなく、分け方で決まる——これがこの講座の背骨です。
MECE=ダブり(重複)なし・モレ(抜け)なしの2点がそろった状態
その分け方の合言葉が MECE(ミーシー、またはミッシー)です。Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の頭文字をとった言葉で、日本語では「モレなく、ダブりなく」と表現されます。中身は次の2つです。
- ダブりなし(Mutually Exclusive=相互に排他的)……どの要素も、どれか1つのグループにだけ入り、複数のグループに重ならない
- モレなし(Collectively Exhaustive=全体として網羅的)……全部のグループを足すと元の全体に戻り、どこにも入らないものがない
この2つが両方そろった状態が、MECEです。なぜ両方が必要なのでしょうか。モレ(抜け)があると、本来見るべき対象が判断材料から抜け落ち、大事な点を見落とします。ダブり(重複)があると、同じものを2つのグループで二重に数えてしまい、話の筋が混乱します。「分かりやすく分かれている」とは、このダブりとモレが両方とも無い状態のことなのです。記憶に残しておきたいひと言は——「ダブらせず、こぼさず」。これがMECEの正体です。
ちなみにMECEは、マッキンゼー(McKinsey)のバーバラ・ミントが提唱し、著書『考える技術・書く技術(原題 The Minto Pyramid Principle)』を通じて広く知られるようになった、モレなく・ダブりなく分類するための考え方です。もともとは1960年代後半にマッキンゼーで生まれ、後年に著書で広まりました。由来はこれくらいにして、ここからは「モレなく・ダブりなく分けるとはどういうことか」という中身に絞っていきましょう。
切り口バラバラ(NG)と1つの切り口(MECE)を並べて比べる
同じ顧客リストを、2通りの分け方で並べてみましょう。
切り口バラバラの例:「大企業/優良顧客/東京の会社…」。一見もっともらしく見えますが、「大企業でかつ優良顧客」の会社は2つのグループに入ってしまい(ダブり)、中小企業や地方の会社はどこにも入りません(モレ)。これは「会社の規模」「取引の良し悪し」「所在地」という別々の基準を1回の分類で混ぜてしまったために起きています。
1つの切り口の例:「取引額で、大口/中口/小口」。基準を「取引額」1つに絞ると、どの会社も金額で必ずどれか1つに入り、2つには重なりません。重なりも抜けも消えます。
中身(顧客の数)は同じです。変えたのは分け方だけ。「とりあえず細かく分ければいい」と思いがちですが、MECEは分ける数の細かさではなく、ダブりとモレが両方とも無いことが本体です。逆に、モレばかり気にしてダブりを見落とす(その逆も)と、片方の点検しかできません。両方を見て初めてMECEになります。
この章の確認(演習):共通例の顧客リストを、(a)切り口バラバラ版 (b)取引額の1切り口版 の2通りで実際に書き出してみてください。それぞれ、どこにダブり(2つに入る会社)とモレ(どこにも入らない会社)が出るかを指で追って確かめます。どちらが重なり・抜けなく分かれているか、自分の目で見比べられたらゴール達成です。
切り口を1つ決める(分類の出発点)
ダブり・モレが消えるかどうかは、最初の一歩でほぼ決まります。その一歩、つまり「何で分けるか」の決め方を身につけましょう。
この章のゴール
この章を読み終えると、分類の前に「何で分けるか(切り口)」を1つ決められるようになります。
MECEの成否は最初の切り口でほぼ決まる
第1章のNG例を思い出してください。切り口を混ぜたとたん、ダブりとモレが出ました。最初の切り口(分ける基準)を外すと、その後どれだけていねいにグループ分けしても、ダブり・モレは消えません。逆に切り口さえ正しく1つに絞れば、あとの作業はぐっと楽になります。だから、分け始める前の「何で分けるか」に、いちばん力を入れます。
切り口=全員を1つのものさしで測れる基準
切り口とは、全要素を同じ1つのものさしで測れる基準のことです。顧客リストなら「取引額」「地域」「業種」などがそれにあたります。「取引額」というものさしなら、どの会社も金額という1本の物差しで測れるので、必ずどこか1つに入り、2つには重なりません。
逆に、複数の基準を混ぜるとダブり・モレの元になります。「取引額」と「地域」を1回の分類で同時に使うと、「大口で首都圏」「大口で地方」と組み合わせが増え、どこに入れるか迷う会社が出てきます。だから原則は、まず切り口を1つに絞ることです。
切り口を1つ選ぶ手順
切り口は、次の順で選ぶと決めやすくなります。①この分類は何のためにやるのか、目的を確認する ②使えそうな切り口の候補を2〜3個挙げる ③目的に一番合う切り口を1つ選ぶ。
共通例でやってみましょう。今回の目的が「大口の取引先を手厚くフォローしたい」だとします。切り口の候補を挙げると、「取引額(大口・中口・小口)」「地域(首都圏・地方)」「業種(製造・小売・サービス)」の3つが出てきました。このうち目的に一番合うのはどれでしょうか。手厚くフォローする相手を見分けたいのですから、金額で見分けられる「取引額」が合います。ここで「取引額」に丸を付けます。これで切り口が1つに決まりました。
つまずきやすいのは2つ。1つは、切り口を決めずにいきなりグループ名を書き出してしまうこと。これは手順の①②③を飛ばしている状態です。もう1つは、2つの切り口を1回の分類で混ぜてしまうこと。便利そうに見えても、混ぜた瞬間にダブり・モレが生まれます。なお、世の中には時系列(準備→実行→評価)、対立する2つ(新規⇔既存)、3Cや4Pのように先人が整理済みの型を借りる、といった代表的な切り口もあります。ただし型の数や呼び方は人によって違うので、「全部で何種類」と覚える必要はありません。まずは目的に合う1つを選べれば十分です。
なお、ここで身につく「分類の切り口の決め方」は、考え全体の組み立て方を学ぶロジカルシンキング(kouza-010)や、分け方を図に広げるロジックツリー(kouza-018)の土台になります。分類の型に慣れたら、ぜひ関連講座へ進んで続けて学んでみてください。
この章の確認(演習):共通例とは別に、自分が今扱っている対象(取引先・タスク・問い合わせのどれか1つ)を選んでください。まず目的を一行で書き(例:「急ぎ対応すべき問い合わせを見分けたい」)、使えそうな切り口の候補を2〜3個書き出し、目的に一番合う1つに丸を付けます。1つに絞れたらゴール達成です。
3〜4のグループに分ける(モレなく・ダブりなく)
切り口が決まったら、いよいよ実際にグループへ分けます。ここで「どれか1つに必ず入り、2つには入らない」状態をつくります。
この章のゴール
この章を読み終えると、決めた切り口で、身近なテーマを3〜4つのグループにモレなく・ダブりなく分類できるようになります。
切り口を決めたら3〜4のグループに分ける
第2章で切り口を「取引額」に決めました。次は、その切り口で全体を3〜4のグループに分けます。よいグループ分けの条件は、第1章の2点と同じです。どの要素もどれか1つに必ず入り(モレなし)、2つには入らない(ダブりなし)。
なお、グループは細かく分ければ分けるほど良い、というものではありません。取引額を「1万円ごと」のように刻んで10個も20個もに分けると、自分でも覚えきれず、見る相手も使えません。重要性の低いところまで細かく刻むと、かえって分かりにくくなります。今回の目的は「大口を手厚くフォローしたい」でしたから、見分けたいのは「手厚くフォローする会社/しない会社」の大まかな段階です。それなら3つくらいの段階で十分です。初級のうちは、覚えきれない数に分けないこと——だいたい3〜4グループを目安にまとめると扱いやすくなります。もっと細かく分解して図に広げたい場合は、ロジックツリー(kouza-018)で深められます。
グループの境目(基準)を決めて、全要素を1つに割り当てる
3〜4のグループに分けるとき、肝になるのが境目(基準)を数字や条件ではっきり決めることです。共通例の「取引額」なら、「大口=年間◯◯円以上/中口=◯◯円以上◯◯円未満/小口=◯◯円未満」のように、金額で線を引きます(金額はあなたの会社の実態に合わせて決める架空の目安です)。境目を数字で決めると、どの会社も金額を見れば必ずどこか1つに入り、2つに重なることもありません。
境目を決めずに分けると、人によって振り分けが変わってしまいます。「これは大口かな、中口かな」と迷う会社が出たら、それは境目が決まっていない合図です。また、迷った会社を「その他」に放り込むのも要注意です。「その他」に何でも入れると、中身が曖昧になり、結局「この観点が抜けてる」と言われる原因になります。できる限り境目で割り切り、どうしても残る場合だけ、定義をはっきりさせた「その他」にします。
共通例では、こうして「大口/中口/小口」の3グループに線を引き、名簿のすべての会社を金額順にどれか1つへ割り当てていきます。これで、取引額という1つの切り口で、モレなく・ダブりなく3グループに分かれました。
この章の確認(演習):第2章で選んだ自分の対象を、決めた切り口で実際に分けてみてください。手順は3つです。①グループ名を3〜4個書く ②グループの境目(数字や条件)を決める ③全要素をどれか1つに割り当てる。迷う要素が出たら、「その他」に逃げず、境目をはっきりさせて割り当てます。全部を割り当てきれたらゴール達成です。
モレ・ダブりを点検して直す
分け終わったら、それで完成ではありません。出す前にもうひと手間——自分でモレとダブりを点検します。この点検こそ、突き返されないための最後の関門です。
この章のゴール
この章を読み終えると、自分の分類を見て、モレ(抜け)とダブり(重複)が無いかを点検し、あれば直せるようになります。
出す前に2点を点検する:ダブり点検とモレ点検
点検することは2つだけです。これはMECEの中身そのものを、そのまま確認作業に落としたものです。
- ダブり点検……同じ要素が2つのグループに入っていないか。グループ同士の意味がかぶっていないか。「ダブらせず」の確認です。
- モレ点検……どのグループにも入らない要素がないか。言い換えると、全部のグループを足したら、元の全体(名簿全体)に戻るか。「こぼさず」の確認です。
共通例で実際にやってみましょう。「大口/中口/小口」に分けたあと、さらに親切のつもりで「優良顧客」というグループを足したとします。ここでダブり点検をかけると、「優良顧客」の会社はすでに大口や中口にも入っているはずだと気づきます。これは「取引額」とは別の基準(取引の良し悪し)を混ぜてしまったダブりです。気づいたら「優良顧客」のグループは削除します。
次にモレ点検です。「大口・中口・小口」を全部足して、元の名簿に戻るか確かめます。すると、まだ取引のない見込み客が、どのグループにも入っていないことに気づきました。これはモレです。見込み客も対象に含めるなら「取引なし」というグループを足し、含めないなら「今回は取引のある会社だけが対象」と一言そえます。これで、ダブりもモレも無い状態に直りました。
ズレは切り口・境目の修正で直す(完璧を目指して止まらない)
点検でズレが見つかったら、直し方は決まっています。ダブりが出たなら「基準を混ぜていないか」を見て切り口を1つに戻す。モレが出たなら「全部足して全体に戻るか」を見てグループや境目を補う。直す場所は、たいてい切り口かグループの境目のどちらかです。
ここで大事な注意があります。完璧なMECEを目指して、いつまでも直し続けないでください。MECEは、相手に分かりやすく伝えるための手段であって、分類そのものを完璧にすることが目的ではありません。細かいズレを延々と探し続けると、いつまでも提出できなくなります。世の中には、境界が曖昧で完全には分けきれない対象もあります。それでも「モレなく・ダブりなく分けようとする」だけで、整理は十分に進みます。点検は1〜2回かければ十分。直すべき1点が直ったら、出すことを優先しましょう。
繰り返しになりますが、分類の型を考え全体の組み立てに広げたいならロジカルシンキング(kouza-010)、分け方を図に展開したいならロジックツリー(kouza-018)で、この続きを学べます。本講座はあくまで「モレなく・ダブりなく分類する技法」に絞っています。
この章の確認(演習):第3章で作った自分の分類に、点検を2回かけてみてください。①ダブり点検——同じ要素が2グループに入っていないか、基準を混ぜていないかを探す ②モレ点検——全部足して元の全体に戻るかを確かめる。見つかったズレを1点だけ、切り口か境目の修正で直します。1点直せたらゴール達成です。
まとめ:ダブらせず、こぼさず
おつかれさまでした。「上司に頼まれた顧客リストの整理」という、たった1つの題材を、切り口を決める→モレなく・ダブりなく分ける→点検する、と1工程ずつ組み上げてきました。最後に、歩いてきた道を1枚にまとめます。
- MECEとは……モレ(抜け)もダブり(重複)も無い状態。分かりやすさは情報の量ではなく分け方で決まる(第1章)。
- 切り口を1つ決める……全員を1つのものさしで測れる基準を、目的に合わせて1つに絞る。複数の基準を混ぜない(第2章)。
- 3〜4のグループに分ける……境目を数字や条件で決めて、全要素をどれか1つに割り当てる。分けすぎず、初級は3〜4が目安(第3章)。
- モレ・ダブりを点検して直す……ダブり点検と、全部足して全体に戻るかのモレ点検。完璧を目指して止まらない(第4章)。
この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「ダブり(重複)とモレ(抜け)が、両方とも無いか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——ダブらせず、こぼさず。
明日の最初の一歩:明日の最初の整理作業(顧客・タスク・問い合わせのどれか1つ)を、いきなり並べ始める前に、まず「何で分けるか(切り口)」を1つ書いてから始めてみてください。思いついた順に並べる前に切り口を1つ決めるだけで、ダブり・モレが出にくくなり、「ここダブってる」「観点が抜けてる」と突き返されにくくなります。
分類の「型」が身についたら、次はその使い道を広げる番です。考え全体の組み立て方はロジカルシンキング(kouza-010)で、モレなく・ダブりなく分けたものを図に展開する方法はロジックツリー(kouza-018)で深められます。関連講座へ進んで、分類の型を「考えの組み立て」と「図への展開」につなげていきましょう。
よくある質問
MECEとは何ですか?
MECEとは「モレなく・ダブりなく」分類することです。どの要素も必ず1つのグループに入り(モレなし)、複数のグループに重ならない(ダブりなし)状態を指します。
モレとダブりはどう違いますか?
モレはどのグループにも入らない要素が生じること、ダブりは同じ要素が複数のグループに重複して入ることです。MECEではこの2つを両方なくす必要があります。
切り口は何個選べばいいですか?
1回の分類では切り口を必ず1つに絞ります。複数の基準を同時に混ぜると、ダブりやモレが生まれる原因になります。目的に合う1つを選んでから分類を始めましょう。
グループの数はいくつが適切ですか?
初級の段階では3〜4グループを目安にすると扱いやすくなります。細かく刻みすぎると全体が見えにくくなるため、目的に応じた大まかな段階に分けることが大切です。
初心者でもMECEは使えますか?
はい、使えます。身近な題材(顧客リスト・タスク・問い合わせなど)を使って、切り口を1つ決めてグループに分け、ダブり・モレを点検する手順を繰り返すことで、誰でも身につけられます。