資料作成の基本講座
資料作成の基本講座
「提案資料を作るのに、いつも時間がかかる。しかも出来に自信がない」。営業に出て数ヶ月、こんな手応えのなさを感じていませんか。
スライドを開いて作り始めても、「何から手をつければいい?」と手が止まる。情報を詰め込むほど何が言いたいか消えていく。見た目を作り込んでも「中身が薄い」と言われる。でも、それはあなたがパワポが苦手だからではありません。スライドを開く前に「決めていない」だけです。
資料作成のコツは、ソフトの操作テクニックではありません。一般に、いきなりスライドを作り始めるのではなく、まず「誰に・何を・どう動いてほしいか」を決めるのが基本とされています。作る前にここを決めるだけで、迷いも作り直しも減りやすくなります。
読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。
- 資料の目的(誰に・何を・どう動いてほしいか)と伝えたい1メッセージを、作る前に決められる
- 結論から根拠へ流れる骨子(構成)を、スライドを作る前に組み立てられる
- 「1スライド1メッセージ」「見出し=主張」で各スライドを作れる
この講座は最後まで、「営業先に出す、新サービスの提案資料を作る」という、たった1つの場面だけで説明します。
第1章:作る前に決める(目的・相手・1メッセージ)
「何から作ればいい?」とスライドの前で固まる。それは、あなたの段取りが悪いからではありません。手を動かす前に決めておくべきことを、決めないまま開いているからです。まずは、すべての出発点になる「作る前の3つ」から押さえましょう。
この章のゴール
この章を読み終えると、資料の目的(誰に・何を・どう動いてほしいか)と伝えたい1メッセージを、スライドを開く前に決められるようになります。
1-1 「何から作ればいい?」で固まるのは、目的を決めていないから
新しいスライドを開いて、カーソルが点滅したまま手が止まる。1枚目に何を置けばいいか分からない。これは、目的を決めていないサインです。一般に、目的が不明瞭なまま手を動かすと方向がぶれ、当初の狙いと離れた資料になりやすいと言われます。途中で「やっぱり違う」と作り直しが増えるのも、ここが空白だからです。だから、最初にやるのはスライドを開くことではなく、作る前の3つを決めることです。
1-2 資料は手段:先に「相手・ゴール・1メッセージ」を決める
ここがこの講座の背骨です。資料は、それ自体が目的ではありません。一般に、ビジネス資料の目的は相手に何らかの行動を起こしてもらうことで、資料作成はそのための手段とされています。だから、作る前に決めるのは次の3つです。
- 相手……誰に見せるのか。相手が複数いるときは、決裁権のある人ひとりに絞る。
- ゴール……読んだ相手に、次にどう動いてほしいか(相手の次の行動)。
- 1メッセージ……いちばん伝えたい1つ。
共通の場面に入りましょう。あなたは営業先に、新サービスの提案資料を作ります。3つを置いてみます。
- 相手=営業先の担当者(決裁に関わる人)
- ゴール=試しに導入を検討してもらう
- 1メッセージ=御社の◯◯を月△削減できる
この3行が、以降の全章で立ち戻る原点になります。骨子で迷っても、スライドで迷っても、ここに戻れば「何を伝える資料だったか」が分かります。
1-3 1メッセージは1文で言い切る
3つのうち、いちばん効くのが1メッセージです。伝えたいことを短く1文に凝縮しておくと、資料全体に一貫性が出て、内容に迷ったとき常に立ち戻れます。1文には、相手の主語+どう変わるかを入れます。「新サービスのご紹介」では足りません。「御社の◯◯を月△削減できる」のように、相手にとっての変化を言い切ります。
なお、「何文字以内」という基準は媒体によって幅があり、あくまで目安です。文字数を数えるより、スライドを開く前に1文で言い切れる状態になっているかを大事にしてください。
ここでつまずきやすい
いちばん多いのが、3行が埋まる前にスライドを開いて手を動かし始めることです。資料は手段なので、手段から先に作ると迷子になります。「相手・ゴール・1メッセージ」の3行が書けるまでは、スライドを開かない。 これを力の入れどころにしてください。
この章の確認(演習)
お題:共通例(または手元の資料)の「相手・ゴール・1メッセージ」を、3行で書き出してみてください。
例:相手=営業先の担当/ゴール=導入を検討してもらう/1メッセージ=御社の◯◯を月△削減できる。3行が埋まったら、ゴール達成です。
第2章:骨子を作る(結論→根拠の構成)
作る前の3行が決まったら、次はその3行を「どんな順番で見せるか」です。ここでもまだスライドは開きません。紙かメモに、目次(論点の並び)を先に書きます。
この章のゴール
この章を読み終えると、結論から根拠へ流れる骨子(目次)を、スライドを作る前に組み立てられるようになります。
2-1 話したい順で並べると、結論が最後に埋もれる
つい、自分が話したい順に並べてしまいます。市場の背景から入り、調査の経緯を説明し、最後にようやく提案にたどり着く。でもこの順だと、忙しい相手は結論が出てくる前に「で、何が言いたいの?」となります。話したい順は、聞きたい順ではありません。
2-2 結論ファースト:提案=結論/なぜ=根拠/どうやって=具体
一般に、資料や提案書は結論を先に提示し、その後に根拠・詳細を続けるのが基本とされています。読み手は最初に結論を知ることで、その後の情報を受け取りやすくなります。型にすると、こうです。
- 提案(結論)……いちばん伝えたい1つ。第1章の1メッセージがそのまま乗ります。
- なぜ(根拠)……その提案を支える理由。
- どうやって(具体)……根拠を裏づける具体や数字。
この「結論→理由→具体」を1セットにした型として、PREP法(結論→理由→具体例→結論)やSDS法(要点→詳細→要点)が知られています。名前は覚えなくても大丈夫です。「結論を先に、理由と具体で支える」と握っておけば十分です。
なお、「その根拠で本当に結論が支えられているか」という論理の組み立て自体は、別の講座の領域です。本講座は「結論を先に置く骨子の形」までを扱い、論理の深掘りは末尾の kouza-010「ロジカルシンキング超入門」 にお任せします。
2-3 目次は1枚=1論点で組む
骨子は、論点をスライド1枚単位に割り当てます。1枚に複数の論点を詰め込みません。共通例の提案資料なら、目次はこう組めます。
- 結論(提案)……御社の◯◯を月△削減できる
- 課題……いまの◯◯にこういう負担がある
- 解決策……新サービスでこう解決する
- 効果・費用……削減できる量と、かかる費用
- 次のステップ……まず試しに導入を検討してもらう
第1章で決めた1メッセージが①結論にそのまま乗り、②課題→③解決策が根拠に当たります。最後の⑤で、相手にしてほしい次の行動を必ず置きます。枚数は5枚を目安にしていますが、これは詰め込みすぎを防ぐための目安です。会社のテンプレや案件の規模に合わせて調整してください。
ここでつまずきやすい
経緯や背景から話し始めて、結論が最後になってしまう。これがいちばん多い失敗です。相手は結論を最初に知りたがっています。1枚目に結論を置けば、残りはその根拠を整理するだけになります。背景説明は、結論を支える根拠として後ろに回しましょう。
この章の確認(演習)
お題:共通例(または手元の資料)の目次を、5枚以内で書いてみてください。
「①結論 ②課題 ③……」の形で並べ、1枚=1論点になっているか確認します。1枚に2つの論点が入っていたら、分けてください。
第3章:1スライド1メッセージ
目次ができたら、いよいよ各スライドを作ります。ここで効くのが、この講座のもう一つの背骨「1スライド1メッセージ」です。
この章のゴール
この章を読み終えると、「1スライド1メッセージ」「見出し=主張」で各スライドを作れるようになります。
3-1 1枚に詰め込むほど、何が言いたいか消える
親切のつもりで、1枚に情報を盛り込んでしまう。データも、補足も、注意書きも全部のせる。でも、人は1枚で複数のことを伝えられても、受け取りきれません。情報が多いほど、どこが大事か分からなくなり、結局何も残らない。詰め込むことと、伝わることは別です。
3-2 1枚=1メッセージ:見出しは「内容」ではなく「主張」にする
基本は、1枚のスライドには主張を1つだけ載せることです。ここでの「1メッセージ」は、文字数が少ないという意味ではありません。そのスライドで言いたい主張(結論)が1つ、という意味です。1枚に主張が2つあると気づいたら、迷わずスライドを分けます。
そして、その主張は見出しに書きます。よくあるのが、見出しを事実のラベルにしてしまうことです。
- 事実のラベル:「市場が拡大中」
- 伝えたい主張:「だから今が導入の好機です」
「市場が拡大中」は、ただの事実です。相手はそれを見て「で?」となります。「だから今が導入の好機です」と書けば、あなたが何を言いたいかが見出しだけで伝わります。事実で終わらせず、そこから言いたい1文を見出しに置いてください。
補足として、見出し(タイトル)には客観的な言葉(例「市場規模の推移」)を置き、その下に別欄で主張を1文書く、という流儀もあります。どちらでもかまいません。共通するのは、スライドのどこかに主張を1文、必ず置くことです。本講座では分かりやすく「見出し=主張」で進めます。
3-3 図・数字は要点だけ:主張を裏づける一点に絞る
見出しに主張を置いたら、本文・図・数字は、その主張を支える最小限に絞ります。「だから今が導入の好機です」を支えるなら、拡大を示すグラフ1つで十分です。関連しそうな数字を並べると、かえって主張がぼやけます。資料は読ませるものではなく、見出しだけで主張が伝わる状態を目指します。迷ったら、「この図は見出しの主張を支えているか?」と問い、支えていない要素は削ってください。
ここでつまずきやすい
1枚に文章を詰め込んで「読ませる資料」にしてしまう。これは、相手に読む負担を丸投げしている状態です。資料は、見出しを追うだけで筋が通る状態がゴールです。文章を足したくなったら、それは口頭で話す内容かもしれません。スライドには主張と、それを支える一点だけ残しましょう。
この章の確認(演習)
お題:共通例(または手元の資料)の1枚を、「見出し=主張」に書き換えてみてください。
事実のラベル(例「市場が拡大中」)を、相手に伝えたい主張の1文(例「だから今が導入の好機です」)に直します。見出しだけ読んで言いたいことが分かれば、合格です。
第4章:仕上げと見直し
各スライドができたら、最後の仕上げです。ここで装飾に時間を溶かさないことが大事です。最小限を整えたら、第1章で決めたゴールに戻って点検します。
この章のゴール
この章を読み終えると、見た目の最低限を整え、声に出して通して直せるようになります。
4-1 装飾に時間をかけても、中身が薄ければ伝わらない
色を変え、影をつけ、アニメーションを足す。見た目をいじり始めると、いくらでも時間が使えます。でも、見た目を作り込んでも、中身が薄ければ「で、結局何が言いたいの」と言われます。仕上げは、凝るためではなく、中身を伝わりやすくするためにやります。最小限で十分です。
4-2 最低限の見た目:そろえる・余白・色を絞る
入門でいちばん効くのは、装飾を足すことではなくそろえることです。
- そろえる……要素の位置(左端・上端)と文字サイズをそろえる。ばらばらの位置にある文字や図を、見えない一本の線に沿わせるだけで、ぐっと見やすくなります。
- 余白を残す……詰め込まず、関連する要素は近づけ、違うグループとは余白を空ける。余白は埋めるべき無駄ではなく、グループの区切りをつくる役割があります。
- 色を絞る……一般に、色は3色程度(ベース・メイン・アクセント)に絞ると見やすいとされます。ただし「3色まで」は絶対の決まりではなく、あくまで目安です。色が足りないと感じたら新しい色を足さず、同系色の濃淡で調整します。背景は白、文字は黒〜濃いグレーが無難です。
ちなみに、要素をそろえる・近くに置く・ルールを繰り返す・強弱をつける、という考え方は「デザインの4原則(近接・整列・反復・対比)」として知られています。難しく考えず、まず「位置と文字サイズをそろえる」から始めれば大丈夫です。配色や体裁のルールは会社のテンプレで決まっていることも多いので、お勤め先のルールがあればそれに合わせてください。
4-3 最後に声に出して通す:結論が最初に伝わるか・次の行動が分かるか
仕上げの最後は、1枚目から通して読み返すことです。できれば声に出して読みます。声に出すと、冗長な部分や分かりにくい言い回しに気づきやすくなります。読みながら点検するのは、第1章で決めたゴールに着地しているか、この2点です。
- 1枚目で結論(月△削減できる)が伝わるか
- 最後に、営業先が次に何をすればいいか分かるか
この2点でつまずいたら、第1章の3行に戻って直します。ここで、作る前→骨子→1枚ずつ→仕上げ、と歩いてきた制作の流れが、最初のゴールにぐるりと一周して戻ってきます。
ここでつまずきやすい
見た目の装飾に時間をかけて、中身の点検を飛ばしてしまう。これでは順番が逆です。仕上げは「そろえる・色を絞る・声に出して通す」の最小3手で十分です。装飾より先に、結論が最初に伝わるかを確認してください。
この章の確認(演習)
お題:自分の資料1枚を「そろえる・色を絞る」で直し、最後に声に出して通して読み、結論が最初に伝わるか確認してみてください。
位置と文字サイズをそろえ、色を3色程度に絞る。そのうえで1枚目から声に出して読み、結論が最初に届くと感じられたら、ゴール達成です。
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この講座の「①結論②課題③解決策④効果・費用⑤次のステップ」の骨子をそのまま形にした提案資料テンプレを、無料会員登録でダウンロードできます。次の提案資料から、白紙ではなく型から始められます。
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まとめ:資料は「作る前に決める」
おつかれさまでした。「営業先に出す、新サービスの提案資料を作る」という、たった1つの場面を、作る前から仕上げまで歩いてきました。最後に、その道を1枚の地図にまとめます。
- 作る前に決める……相手・ゴール・1メッセージの3行を、スライドを開く前に決める(第1章)。
- 骨子を作る……結論ファーストで、①結論②課題③解決策④効果・費用⑤次のステップの目次を組む(第2章)。
- 1スライド1メッセージ……1枚=1主張。見出しは「市場が拡大中」ではなく「だから今が導入の好機です」と主張で書く(第3章)。
- 仕上げと見直し……そろえる・色を絞る・声に出して通す。結論が最初に伝わるかを点検する(第4章)。
この4つは、バラバラの作業ではありません。すべてたった1つの問いに戻ります。
相手に伝えたい1つが、伝わるか?
覚えて帰る型は、相手→ゴール→1メッセージ→骨子→1スライド1メッセージです。この講座でいちばん覚えてほしいひと言は、これです。
スライドを開く前に、伝えたい1つを決める。
明日の最初の一歩:次に資料を作るとき、スライドを開く前に「相手・ゴール・1メッセージ」を3行書いてみてください。作る前に決めれば、残りの工程は迷いません。第1章の演習を、実際の仕事で1回やってみる。それが、資料作成を自分のものにする最初の一歩です。
次の講座へ:伝わる資料の骨子を掴んだ今、次に効いてくるのは、その土台=論理の組み立てです。「結論を、根拠でどう支えるか」を深めると、骨子はもっと強くなります。続きは、次の講座 kouza-010「ロジカルシンキング超入門」 でお渡しします。
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