「うちはいい商品です」と自社で言うほど、なぜか刺さらない——そう感じたことはありませんか。同じ「このパンはおいしい」でも、店が自分で言うのと、来店したお客さんが「並んででも食べたい」と投稿するのとでは、受け手の納得がまるで違います。違いは内容ではなく、「誰が言うか」。売り手の言葉か、利害のない第三者の言葉か、です。実際、買い物の際に多くの人が他の利用者のレビューを参考にし、それを読んで購入を決めた経験を持っています。レビューを読むときに最も重視されているのは「情報の信頼度(一定数の人が実体験に基づき評価しているか)」でした(出典:総務省「平成28年版 情報通信白書」)。
この講座は、その「第三者であるお客さんの声」を、お客さん自身に生んでもらい、許可を取って正しく集め・再利用する施策づくりだけに絞ります。企業が自分のSNSアカウントで発信していく方法はSNSマーケティング入門、自社の記事で見込み客を育てる設計はコンテンツマーケティング入門、お客さんの成果を支えて使い続けてもらう関係づくりはカスタマーサクセス入門が、それぞれの正本です。本講座はそこには踏み込みません。
この講座を終えると、次の3つができるようになります。口コミ・UGCとは何か、自社発信と何が違うのかを説明できること、お客さんが自発的に声を出したくなる「きっかけ」を設計できること、そして集めた声を許可を取り出典を尊重して正しく再利用する手順を説明できることです。覚えて帰る型は「きっかけを設計する → お客さんが語る → 許可を取って正しく再利用する」。本講座では、ある小さな店が、購入後のお客さんに体験を一言もらい、その投稿に許可を取ってLPとメルマガに引用するまでの流れを、全章で追いかけます。
この講座のポイント
- 口コミ・UGCとは何か、自社発信と何が違うのか(第三者が語る信頼性)を、自分の言葉で説明できる。
- お客さんが自発的に声を出したくなる「きっかけ」を、依頼のタイミング・声の形・動機の3点で設計できる。
- 集めた口コミ・UGCを、許可取得と出典の尊重をしたうえで再利用する手順を、3つの鉄則で説明できる。
口コミ・UGCとは何か、なぜ効くのか
この章のゴール
口コミ・UGCとは何か、自社発信と何が違うのか(第三者が語る信頼性)を、自分の言葉で説明できる。
UGCとは、お客さん自身が作った投稿・写真・レビューのこと
UGCは User Generated Content の略で、お客さん自身が作った投稿・写真・レビューを指します。口コミも、お客さん本人の体験談という点で同じ仲間です。共通例の店でいえば、来店客が撮った料理写真や「また来たい」というSNS投稿、星付きのレビューが、どれもUGCです。ポイントは、これらを作ったのが売り手ではなく、お金を払った側のお客さんだということです。
自社発信との決定的な違いは「第三者が語る信頼性」
自社発信とUGCの決定的な違いは、語り手が第三者かどうかにあります。消費者は、企業の広告にはある程度の誇張が含まれると分かったうえで受け取りますが、第三者の感想はそのまま受け取りやすい、という性質があります(出典:消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」)。だから、同じ内容でもお客さんが語ると伝わるのです。さらに、口コミがサイトに集まると、店やサービスの情報量が増えて比較しやすくなり、「想定と違うものを買ってしまう」「質に対して割高なものを買ってしまう」といった購入時のリスクが軽減されます(出典:総務省「平成28年版 情報通信白書」)。お客さんの声は、買う前の不安を減らす働きをしているわけです。
第三者の声だからこそ「やらせ・操作はNG」という制約も持つ
ただし、第三者が語るからこそ効くという性質は、裏返すと「企業が操作してはいけない」という制約になります。広告であることを隠して第三者の感想に見せかけると、消費者が自主的・合理的に選べなくなるため、令和5年10月1日からこうしたステルスマーケティングは景品表示法違反になりました(出典:消費者庁・同上)。事業者が一般のお客さんに、十分な根拠もなく他の消費者が誤認するような書き込みを依頼することも、控えるべきとされています(出典:消費者庁「口コミトラブル」)。つまり、UGCは「バズらせること」でも「自分で書いて投稿してもらうこと」でもありません。第三者が自発的に語る信頼性こそが価値で、やらせはその価値そのものを壊します。集めた声を自社のアカウントで発信に乗せていく進め方そのものは、SNSマーケティング入門が扱います。
この章の確認(演習)
自社の販促物(チラシ・サイト・SNS投稿など)を、「①自社が言っている」ものと「②お客さんが言っている」ものに仕分けしてください。そのうえで、お客さんの声由来のものが全体のどれくらいあるかを数えて比率を書き出し、「なぜ第三者の声のほうが伝わるのか」を自分の言葉で1文にまとめてみましょう。
口コミ・UGCを増やすきっかけを設計する
この章のゴール
お客さんが自発的に声を出したくなる「きっかけ」を、依頼のタイミング・声の形・動機の3点で設計できる。
口コミは「お願い」では増えない——理由・タイミング・入口をそろえる
口コミは、ただ「レビューを書いてください」とお願いしても、なかなか増えません。声が出てくるのは、(1)声を出す理由(体験に満足した・共感した)、(2)出しやすいタイミング(買った直後・使い終わった後)、(3)出しやすい入口(一言でいい・項目が絞られている)の3つがそろったときです。設計の手順はシンプルです。まず依頼するタイミングを、お客さんの体験の流れの中で1点に決めます。共通例の店なら、購入後のフォローメールで「使ってみていかがでしたか?一言でOKです」と聞くのが、その1点にあたります。次に、求める声の形を最小限にします(一言、写真1枚など)。最後に、出す動機を添えます(共感への感謝、お礼の言葉)。投稿しやすいハッシュタグや撮影スポットを用意するのも、入口を広げる「きっかけ」作りです。
割引や景品で促すなら、表示と上限のルールを先に確認する
「謝礼を出せば増えるのでは」と考える前に、確認すべきルールが2つあります。1つ目はステルスマーケティング規制です。口コミ投稿を条件に割引を提供すること自体は、投稿の内容を指示していなければ、通常は「事業者の表示」には当たらず問題ありません。しかし、「星5を付けること」や「好意的なコメントをすること」を条件にすると、事業者が投稿内容を決めたことになり「事業者の表示」に当たります。この場合、「広告」であることを明示しないと景品表示法違反になります(出典:消費者庁「ステルスマーケティングに関するQ&A」)。2つ目は景品のルールです。口コミのお礼として、購入者にもれなく景品を渡す場合は「総付景品」にあたり、提供できる景品の最高額は、取引価額が1,000円未満なら200円まで、1,000円以上なら取引価額の10分の2までと定められています(出典:消費者庁「景品規制の概要」「総付景品について」)。
ここでのつまずきは2つです。1つは、お客さんがまだ満足していない段階で依頼し、悪い声ばかり集めてしまうこと。声が生まれる前提となる「満足する体験」を継続して作る関係づくりはカスタマーサクセス入門が正本です。もう1つは、上の表示・上限ルールを確認しないまま謝礼や星評価の指定で釣ってしまうことです。個別の事案がルールに触れるかどうかは、消費者庁の運用基準や専門家に確認しましょう。
この章の確認(演習)
自社の顧客体験の流れ(申込→購入→使用→アフター)を1本の線で書き出してください。そのうえで、「どの瞬間に・何を・どう一言で頼むか」というきっかけを1つ設計します。もし割引や景品を添えるなら、投稿内容を指定していないか、景品の額が上限内かも合わせて確認しましょう。
集めた声を許可を取って正しく再利用する
この章のゴール
集めた口コミ・UGCを、許可取得と出典の尊重をしたうえで再利用する手順を、3つの鉄則で説明できる。
他人の投稿・写真・文章には著作権があり、無断利用はトラブルのもと
お客さんが書いたレビューや撮った写真には、著作権があります。著作権は、作品を創作した時点で自動的に発生し、登録などの手続きは要りません(出典:文化庁「よくあるご質問」)。だから「公開されている投稿だから自由に使える」という思い込みは危険です。文化庁も、ネット上の画像(いわゆる「拾い画」)について「自由に使ってもいい」は誤解であり、無断での利用は著作権侵害になりうると注意しています。多くの人がやっているからと無断利用せず、まず誰の著作物かを調べ、権利者の意思を確認することが大切だとしています(出典:文化庁「ここが知りたい著作権」)。他人の作品に手を加えて使う場合も、原則として権利者の許諾が必要です(同出典)。
再利用の3鉄則——許可を取る/原文を尊重する/表示ルールに沿う
集めた声を正しく再利用する手順は、3つの鉄則に整理できます。第1に、本人に許可を取ること。再利用したい声を選んだら、「LPとメルマガで紹介してよいですか」と用途を伝えて許可を取り、やり取りの記録を残します。許可が取れない声は使わない、という線引きを持ちます。第2に、原文と出典を尊重すること。都合よく切り貼りしたり、本人の意図を変える改変をしてはいけません。ここは景品表示法とも関わります。お客様の声を引用する際、無作為に選んだ回答を原文どおりそのまま載せるなら「事業者の表示」には当たりませんが、好意的な評価だけを選んで載せたり、「良い点」だけを抜き出して載せると「事業者の表示」に当たり、広告であることを明示しなければ違反になります(出典:消費者庁「ステルスマーケティングに関するQ&A」)。第3に、表示ルールに沿うこと。提供や依頼など事業者の関与があって「事業者の表示」に当たる場合は、「広告」「PR」と記載するか、「提供を受けて投稿しています」といった文章で、それと分かるように示します(同出典)。
なお、写真に人物が写っている場合は、写っている本人の意向も尊重して扱います。また、個別の投稿が著作物に当たるか、利用が侵害になるかといった成否の判断は専門的です。文化庁も個別の侵害判断はしないとしているため、迷ったら権利者の意思を確認し、必要に応じて専門家に相談しましょう。許可を取った声を自社のSNSアカウントで発信に乗せていく進め方は、SNSマーケティング入門へ進んでください。
この章の確認(演習)
第2章で集める想定の声を1つ取り上げ、「許可の取り方(誰に・何の用途で・どう記録するか)」「載せる場所(LP・メルマガなど)」「出典の書き方(本人名義・原文のまま)」の3点セットで書き出してください。あわせて、その引用が好意的なものだけの抜き出しになっていないか、表示ルールに沿っているかも確認しましょう。
まとめ
口コミ・UGCの強みは「第三者であるお客さんが語る信頼性」にあります。だから企業がやるべきは、自社で上手く言うことでも、やらせで声を作ることでもありません。お客さんが語りたくなるきっかけを設計し、出た声は必ず許可を取り、原文を尊重して再利用することです。覚えて帰る型は「きっかけを設計する → お客さんが語る → 許可を取って正しく再利用する」。声は作るものではなく、生まれる場を整えるものです。
明日の一歩として、購入後フォローの1か所に「一言レビューをお願いします」の一文を足し、最初の声を1件、許可付きで集めてみてください。それが、口コミ・UGC活用の最初の実務です。集めた声を自社発信に乗せていくならSNSマーケティング入門、声が生まれる前提=お客さんの成果を支える関係づくりはカスタマーサクセス入門へ進むのが次のステップです。
本講座の特典として、お客さんに一言レビューを頼むときの「依頼文」と、再利用前に確認する「許可確認チェックリスト」をセットにした口コミ収集テンプレをご用意しています。テンプレの入手案内と、口コミ・UGC活用に役立つ実務情報のお届けは、メルマガ登録からどうぞ。
よくある質問
口コミ・UGCと自社の広告は何が違うのですか
語り手が違います。広告は売り手の言葉、UGCは利害のない第三者であるお客さんの言葉です。だから第三者の声はそのまま受け取られやすく、信頼につながります。
口コミを増やすのに謝礼や割引を付けてもよいですか
投稿を促すだけなら問題ありませんが、星5や好意的コメントを条件にすると「事業者の表示」となり広告表記が必要です。景品にも上限額があるため、付ける前にルールを確認します。
お客さんの投稿を自社のLPやメルマガに使ってよいですか
まず本人に用途を伝えて許可を取り、記録を残します。著作権は創作時に自動で発生するため、公開投稿でも無断転載は避け、原文を尊重して掲載するのが基本です。
お客様の声は好きなものを選んで載せてよいですか
好意的なものだけ、良い点だけを選んで載せると「事業者の表示」に当たり、広告表記がなければ違反になります。無作為に選び、原文のまま載せるのが安全です。