「新サービスのターゲットを決めて」「うちの売りを一言で、他社とどう違うのか言って」——配属されて少し経ち、こんな仕事を任され始めたあなた。ところが、「ターゲットは20〜40代の女性で…」と答えたら「それ、ほぼ全員だよね?」、「品質も価格もサポートも全部いいです」と答えたら「で、結局なにが一番なの?他とどう違うの?」と返されて、言葉に詰まってしまった。そんな経験はありませんか。
これは、あなたの能力ややる気の問題ではありません。詰まる原因は、たった一つ。「みんなに、全部いいですよ」と答えてしまっていることです。たくさんの人に、たくさんの良さを一度に伝えようとするほど、相手は「自分のことだ」とも「これが一番だ」とも思えず、誰の心にも届かなくなるのです。
この「みんなに少しずつ」を「この人に一番」へ切り替えるための道具が、STP分析です。STPは、近代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラーが体系化して広めたもので、やることは3つの手順だけ。①市場を分ける(Segmentation)→②狙う相手を選ぶ(Targeting)→③立ち位置を一文で取る(Positioning)。難しい用語を暗記するのではなく、分ける→選ぶ→言い切るを順番に1周するだけです。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。
- STP分析を「3つの用語」ではなく、市場を分ける→狙う相手を選ぶ→立ち位置を一文で取る、の一本につながった3手順として、自分の言葉で説明できる(なぜこの順番なのかを言える)
- ある事業について、市場を年齢・性別だけでなく「求めるもの(ニーズ)」で似たかたまりに分類でき、その中から「自社の強みが一番活きて、大手と正面衝突しない1つ」を、選ぶ基準に照らして選べる
- 選んだ相手について、ポジショニングマップ(2軸)で“空いている場所”を指し、立ち位置を「(誰に)にとって、(競合)と違って、(独自の価値)を届ける」の一文(ポジショニングステートメント)で表現できる
この講座は最後まで、「会社が新しく始める、駅前の小さなフィットネスジム『からだ基地』」という、たった1つの事業だけで説明します。この同じ事業を、STPとは何か→どう分けるか→誰を選ぶか→どんな立ち位置か、と1マスずつ埋めていきます。各章末には手を動かす演習も置いているので、書きながら読み進めてください。なお本講座は、マーケティングの全体像「顧客→価値→届け方」のうち、「顧客(誰に)」のマスを、分ける→選ぶ→言い切るで実際に1周させる深掘りにあたります。
この講座のポイント
- STP分析を「3つの用語」ではなく、市場を分ける→狙う相手を選ぶ→立ち位置を一文で取る、の一本につながった3手順として、自分の言葉で説明できる
- ある事業について、市場を年齢・性別だけでなく「求めるもの(ニーズ)」で似たかたまりに分類できる
- 分けたセグメントから、「自社の強みが一番活きて、大手と正面衝突しない1つ」を、選ぶ基準に照らして選べる
- 選んだ相手について、ポジショニングマップ(2軸)で“空いている場所”を指し、立ち位置を一文(ポジショニングステートメント)で表現できる
STP分析とは何か(分ける→選ぶ→言い切るの全体像)
まずは、「ターゲットは?売りは?」に詰まってしまうモヤモヤの正体をはっきりさせて、STP分析という言葉を、用語の暗記から、自分で使える3手順に変える土台を作ります。
この章のゴール
この章を読み終えると、STP分析を「3つの用語」ではなく、市場を分ける→狙う相手を選ぶ→立ち位置を一文で取る、の一本につながった3手順として、自分の言葉で説明できるようになります。
「ターゲットは?売りは?」に詰まる正体は“みんなに、全部いい”
「ターゲットは20〜40代女性」と「品質も価格もサポートも全部いい」。この2つは別々の失敗に見えて、狙う相手も、伝える売りも、広げすぎているという同じことが起きています。「20〜40代女性」は人数でいえば何千万人で、ターゲットを決めたのではなくほぼ全員を指しただけ。「全部いい」も、全部を一番だと言うのは何も一番だと言っていないのと同じで、相手の頭には何も残りません。
ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。STP分析は、“みんなに少し”を“この人に一番”へ切り替えること。順番は、分ける→選ぶ→言い切る。この3手順さえ持てば、「ターゲットは?売りは?」に、全部入りではなく「このセグメントに、この立ち位置で」と一文で答えられます。
STP分析=分ける→選ぶ→言い切るの3手順
では、STP分析とは具体的に何をするのか。やることは、次の3手順です。
| 手順 | 英語(頭文字) | 日本語でいうと | やること |
|---|---|---|---|
| ① 分ける | Segmentation(S) | 市場を分ける | 市場を“似たニーズのかたまり”に分ける |
| ② 選ぶ | Targeting(T) | 狙う相手を選ぶ | 自社の強みが一番活きる相手を1つ選ぶ |
| ③ 言い切る | Positioning(P) | 立ち位置を取る | 選んだ相手の頭の中で「○○ならここ」という独自の立ち位置を一文で取る |
この3つの頭文字をとって、STP分析と呼びます。これは戦略を考えるときの定番の型です。英語の頭文字は無理に覚えなくて大丈夫。「分ける/選ぶ/言い切る」と日本語で掴んでおけば十分です。大事なのは、この3つがバラバラの作業ではなく、一本につながっていること。市場を分けるのは狙う相手を選ぶため、選ぶのは立ち位置を取るため。だから、順番に意味があります。
肝は2つ:順番はS→T→P/全部“お客さんの頭の中”で勝負
STP分析を使いこなすうえで、最初に押さえておきたい肝が2つあります。
1つめは、順番は必ずS→T→P(分ける→選ぶ→言い切る)だということ。分けないうちは「みんな」のままで選びようがなく、選んでいないうちは誰に向けた立ち位置なのかが決まりません。順番を飛ばすと、結局「みんなに、全部いい」に逆戻りしてしまいます。
2つめは、S・T・Pは、どれも最後は“お客さんの頭の中”で勝負しているということ。市場が「どう分けられるか」も、自社が「誰に選ばれるか」も、立ち位置が「どう記憶されるか」も、決めるのは作り手ではなく、お客さんの受け取り方です。だから「安くて、高品質で、サポートも手厚くて、何でもできます」という全部入りは、情報が多すぎて、何のお店だったか思い出してもらえず、頭の中に居場所を作れません。
ここで、この講座を通して使う共通例に登場してもらいましょう。会社が駅前に新しく始める、小さなフィットネスジム「からだ基地」です。担当になったあなたは、つい「20〜40代みんなに来てほしい」「安くて、設備も良くて、サポートも手厚いジムに」と考えてしまう。これが、STPを持たない「みんなに、全部いい」の状態です。そうではなく、次の3つの問いを、この順番で考えるのがSTP分析です。
- ① どんなニーズの人たちがいる?(分ける)
- ② うちが一番役に立てるのは、誰?(選ぶ)
- ③ その人の頭の中で、うちは何のジムになる?(言い切る)
この章では、まだ答えは埋めません。3つの問いの“枠”だけを立てておきます。この枠を、第2章から1つずつ埋めていきます。
この章の確認(演習)
共通例「からだ基地」について、いきなり「20〜40代に、全部いいジム」と決めるのをやめて、次の3つの問いを、答えは空欄のまま書き出してみてください。
- ① どんなニーズの人がいる?:_____
- ② うちが一番役に立てるのは誰?:_____
- ③ その人の頭の中で、何のジムになる?:_____
そのうえで、「STP分析とは、この3つを分ける→選ぶ→言い切るの順で決めて、お客さんの頭の中に居場所を作ることだ」を、自分の言葉で1〜2行に書いてみます。用語の暗記ではなく、“枠”から考える感覚を言葉にできたら、この章はゴールです。
Segmentation(市場を“似たニーズのかたまり”に分ける)
3手順の1マス目、分ける(Segmentation)を埋めていきます。ここでつまずく人がいちばん多いので、丁寧にいきましょう。
この章のゴール
この章を読み終えると、ある事業について、市場を年齢・性別だけでなく「求めるもの(ニーズ)」で似たかたまりに分類できるようになります。
3手順の1つめは「分ける」:なぜ最初に分けるのか
STP分析が「分ける」から始まるのには、理由があります。市場を分けないうちは、お客さんは「みんな」という大きな一かたまりのままで、次の「選ぶ」ができません。だから最初に、「みんな」を似た者どうしのグループに割ります。この1つひとつをセグメントと呼び、市場をセグメントに分ける作業がセグメンテーション(市場細分化)です。
“年齢・性別”でなく“求めるもの(ニーズ)”で分ける
ここで、いちばんありがちなつまずきを先回りで潰しておきます。それは、「市場を分ける=年齢・性別で切ること」という思い込みです。
たしかに年齢や性別は手がかりになりますが、それ“だけ”で切ると肝心のことを見落とします。たとえば同じ「30代女性」でも、ジムに「とにかく安く済ませたい」人と、「多少高くても、続けられるなら通いたい」人がいます。年齢も性別も同じなのに求めているものがまるで違い、同じグループに入れると、どちらにも刺さらないメッセージになってしまいます。
だから本当に分けたいのは、年齢・性別という属性ではなく、「その人が何を求めているか(ニーズ=求める価値)」のかたまりです。年齢・性別は、あくまでニーズを見つける手がかりの一つ。属性で切る前に、求めるもので分ける——これが、分けるときの一番大事なコツです。
分ける引き出し(4つの切り口)と、良いセグメントの条件
いきなり「ニーズで分けろ」と言われても難しいので、分けるときの“引き出し”を知っておくと便利です。コトラーは、市場を分ける切り口(変数)を、大きく4つに整理しました。
| 切り口 | 何で分けるか | 例 |
|---|---|---|
| 地理的 | どこに住む・どこで使うか | 地域・都市の規模・気候・生活習慣 |
| 人口動態的 | その人の属性 | 年齢・性別・所得・職業・家族構成 |
| 心理的 | 価値観・ライフスタイル | 健康志向、自分の時間を大事にする、など |
| 行動的 | 使い方・求めるもの | 利用シーン・頻度・その人が求めるベネフィット |
注意したいのは、よく使う「人口動態的(年齢・性別)」は4つのうちの1つにすぎないこと。属性で止めず、心理的・行動的な切り口(=その人が何を大事にし、何を求めているか)まで踏み込むと、ニーズで分けられます。そして分けたセグメントが“使えるもの”か、3つの条件で確かめます。①中の人どうしは似て、別のセグメントとは違うか②狙えるだけの大きさがあるか③その人たちがどこにいて、どう届けられるか分かるか——これを満たさないと、分けても狙えません。
共通例の「からだ基地」で分けてみましょう。ジムを使いたい人を、年齢で「20代/30代/40代」と切るのではなく、求めるもの(ニーズ)で分けると、たとえばこうなります。
- (A)とにかく安く、好きな時間に自由に通いたい人
- (B)本格的に体を追い込みたい、上級者・アスリート志向の人
- (C)一人だと続かない・運動が苦手だけど、健康診断で引っかかって何とかしたい人
- (D)産後やケガ明けで、無理なく体力を取り戻したい人
こう分けると、おもしろいことが見えてきます。同じ「40代女性」でも、(A)の人と(C)の人がいる。年齢・性別だけでひとくくりにしていたら、この違いは見えませんでした。求めるものが違えば、刺さるジムも、響く言葉も違う——それが、ニーズで分けるということです。
この章の確認(演習)
共通例「からだ基地」のお客さんを、年齢・性別ではなく、「求めるもの(ニーズ)」で3〜4つのセグメントに分けてみてください。上のA〜Dを使っても、自分で考えてもかまいません。そして、各セグメントに「ひとことで言うと、何を求めている人か」という名前をつけます。たとえば「安く自由に派」「本格追い込み派」「一人だと続かない派」のように。年齢・性別ではなく、求めるもので分けて、名前までつけられたら、ゴールです。次の章では、この中から狙う相手を1つ選びます。
Targeting(自社の強みが一番活きる相手を1つ選ぶ)
3手順の2マス目、選ぶ(Targeting)を埋めます。「絞ると客が減りそうで怖い」という気持ちを、ここで乗り越えます。
この章のゴール
この章を読み終えると、分けたセグメントから、「自社の強みが一番活きて、大手と正面衝突しない1つ」を、選ぶ基準に照らして選べるようになります。
3手順の2つめは「選ぶ」:絞るほど選ばれる
第2章で市場を分けたら、次は、その中から狙う相手(ターゲット)を選びます。この作業がターゲティングです。
ここで多くの人が、「絞ると客が減りそうで怖い」と感じて、つい全部のセグメントを狙おうとします。でも、これは逆効果です。分けた全部を狙うと、結局また「みんなに少しずつ」になって誰の心にも刺さらない。一方、狙いを1つに絞ると、その人に「自分のためのジムだ」と感じてもらえて、第一候補に選ばれる。つまり、絞るから減るのではなく、絞るから選ばれるのです。
マーケティングでは、狙い方を大きく3つの型に分けて考えます。市場全体に同じ売り方をする無差別型、複数のセグメントにそれぞれ違う売り方をする差別化型、特定の1つ(かごく少数)に資源を集中する集中型です。差別化型は複数を相手にするぶんコストがかさみ、体力のある大企業向き。だから、人もお金も限られる小さな事業がとるべきは、集中型——狙いを1つに絞って、そこに力を集中するやり方です。
勘でなく“5つの問い”で選ぶ
では、どのセグメントを選べばいいのか。勘で決めると、たいてい「自分が好きなセグメント」を選んで失敗します。選ぶときは、次の5つの問いで、各セグメントをざっと採点してみてください。
| 問い | 見るところ |
|---|---|
| ① 大きさ | 狙うだけの人数・売上があるか |
| ② 伸び | これから増えていく市場か |
| ③ 競合 | 大手や強い競合が、そこを押さえていないか |
| ④ 自社の強みとの相性 | うちの強みが、一番活きる相手か |
| ⑤ 届くか | その人に、どうやって知ってもらえるか |
この5つを見比べると、勘ではなく理由で選べます。なお、日本のマーケティングでは、こうした観点を「6R」という枠で整理することもありますが、名前は覚えなくて大丈夫。大きさ・伸び・競合・自社の強みとの相性・届くか、を見て選ぶという考え方が大事です。
勝ち筋は「大手が手薄 × 自社の強みが活きる」
5つの問いの中でも、小さな事業がとくに重視したいのが、③競合 と ④自社の強みとの相性の掛け合わせです。狙いどころは、「大手が手薄で、かつ、自社の強みが一番活きる」セグメント。ここが勝ち筋です。
共通例「からだ基地」で選んでみましょう。「からだ基地」の強みは、コーチが顔の見える距離で、一人ひとりに伴走できること。弱みは、24時間営業や最安値では大手チェーンに勝てないこと。これを持って、第2章のA〜Dを5つの問いで採点すると、こうなります。
| セグメント | 競合(大手は?) | 自社の強みは活きる? | 判定 |
|---|---|---|---|
| (A)安く自由に派 | 大手格安ジムの本丸。価格で負ける | 活きない(伴走より安さ重視) | 避ける |
| (B)本格追い込み派 | 高級パーソナル・専門ジムの領域 | 活きにくい(上級者には物足りない) | 避ける |
| (C)一人だと続かない・健診で焦る40代 | 大手が手薄(安さでも本格さでもない) | 一番活きる(伴走して続けさせられる) | 狙う |
| (D)体力を取り戻したい派 | やや空いている | 活きる(が、まずはCに集中) | 後回し |
答えははっきりしています。狙うのは(C)一人だと続かない・運動が苦手だけど、健康診断で引っかかって焦っている40代。この人たちは、安さでも本格さでもなく「続けさせてくれること」を求めていて、そこは大手が手薄。しかも、からだ基地の「伴走できる」強みが一番活きる相手です。「Cに絞ったら他の客を逃す」のではなく、「Cの人にとって唯一無二のジムになることで、Cの人に選ばれる」のです。
この章の確認(演習)
第2章で分けた「からだ基地」のセグメントを、5つの問い(大きさ・伸び・競合・自社の強みとの相性・届くか)でざっと採点してみてください。点数は「◎・◯・△」くらいのざっくりで大丈夫です。
そのうえで、「大手が手薄」かつ「うちの強みが一番活きる」セグメントを1つ選びます。そして、なぜそこを選んだのかを、決め手になった2つの問い(とくに③競合 と ④自社の強みとの相性)で説明してみましょう。狙いを1つに絞れて、その理由を言えたら、ゴールです。
Positioning(お客さんの頭の中に独自の立ち位置を一文で取る)
3手順の3マス目、言い切る(Positioning)を埋めます。ここで、第3章までに決めた「誰に」を、お客さんの記憶に残る一文に仕上げます。
この章のゴール
この章を読み終えると、選んだ相手について、ポジショニングマップ(2軸)で“空いている場所”を指し、立ち位置を一文(ポジショニングステートメント)で表現できるようになります。
3手順の3つめは「言い切る」:立ち位置は“お客さんの頭の中”
最後の手順が、ポジショニング——狙った相手の頭の中に、自社の立ち位置を取ることです。いちばん大事な考え方を先に言うと、ポジショニングとは、「自社が言いたいこと」ではなく、「お客さんの頭の中で、競合と比べて、独自に立てる場所」のことです。「うちは高品質です」は自社の言い分であって、立ち位置ではありません。立ち位置とは、お客さんの頭の中で「○○といえば、あのお店だよね」と思い出してもらえる、その“○○”の場所のことです。
この考え方は、アル・ライズとジャック・トラウトが著書『ポジショニング戦略』で説いたもので、彼らはポジショニングを「お客さんの頭の中での戦い」だと表現しました。商品そのものをいじるのではなく、頭の中にどう位置づけられるかが勝負、というわけです。だから立ち位置は、自分で「決める」ものではなく、お客さんに「そう思ってもらえる」もの。最終的に決めるのは、お客さんなのです。
空き地を見つける道具=ポジショニングマップ(2軸)
では、お客さんの頭の中で、どこに立てばいいのか。それを見つける道具がポジショニングマップです。やり方はシンプルで、お客さんが選ぶときに気にする“ものさし”を2つ選んで、タテ軸・ヨコ軸にとり、自社と競合をその上に置くだけです。そうすると、誰もいない“空き地”が見えてきます。
ここでひとつコツがあります。2つの軸には、できるだけ関係の薄い(独立した)ものを選ぶこと。たとえば「価格」と「品質」を2軸にすると、たいてい「高いものは高品質、安いものは低品質」と斜め一直線に並んでしまい、空き地が見えません。価格のような分かりやすい軸を1本とったら、もう1本は「お客さんが本当に気にしている、別のこと」を選びましょう。
共通例「からだ基地」で描いてみます。狙うのは(C)の「一人だと続かない人」。この人たちが選ぶときに気にするのは、「価格(安いか・高いか)」と、もう1つ「一人で黙々とやるのか/コーチが伴走してくれるのか」です。この2軸でマップを描くと、競合はこう置けます。
| 一人で黙々 | コーチが伴走 | |
|---|---|---|
| 安い | 大手格安ジム | (空き地) |
| 高い | (あまりいない) | 高級パーソナルジム |
「安い(手ごろ)× コーチが伴走」の場所が、ぽっかり空いているのが分かります。大手格安ジムは「安いが基本は放置」、高級パーソナルジムは「伴走してくれるが高くて続けにくい」。だから「手ごろな価格で、コーチが伴走してくれる(=続けやすい)」場所には、まだ誰もいません。ここに「からだ基地」が立ちます。
立ち位置を一文で言い切る(ポジショニングステートメント)
空き地が見つかったら、最後に、その立ち位置を一文で言い切ります。これをポジショニングステートメントと呼び、次の形に当てはめるだけです。
「(狙う相手)にとって、(競合)と違って、(自社の独自の価値)を届ける」
「からだ基地」を当てはめると、こうなります。
「運動が苦手で続かない人にとって、放置されがちな大手ジムと違って、コーチが伴走して三日坊主にさせない、駅前の続くジムです」
これが、(C)の人の頭の中に作る立ち位置です。Cの人は、「続けられないなら、からだ基地だよね」と思い出してくれます。「安くて、高品質で、サポートも手厚い」と全部を言うのではなく、空いている1点に絞って立つから、頭の中にはっきりした居場所ができる——第1章の「全部入りは居場所を作れない」が、ここで回収されました。これで、第1章で立てた3つの問いの“枠”が、すべて埋まりました。
この章の確認(演習)
共通例「からだ基地」について、お客さん(Cの人)が選ぶときに気にする2軸で、ポジショニングマップを描いてみてください。そこに、自社と競合(大手格安ジム・高級パーソナルジム)を置いて、“空いている場所”を1つ指します(軸は、関係の薄い独立した2つを選ぶのがコツ)。そして、見つけた立ち位置を、「(狙う相手)にとって、(競合)と違って、(独自の価値)を届ける」の一文で書いてみましょう。自社が言いたいことではなく、お客さんの頭の中・競合との違いで一文にできたら、ゴールです。
まとめ:STPは“みんなに少し”ではなく“この人に一番”を選ぶこと
おつかれさまでした。「駅前の小さなフィットネスジム『からだ基地』」という1つの事業を、STPとは何か→どう分けるか→誰を選ぶか→どんな立ち位置か、と1マスずつ埋めてきました。第1章で空欄だった3つの問いを振り返ります。
- STP分析とは……用語を覚えることではなく、市場を分ける(S)→狙う相手を選ぶ(T)→立ち位置を一文で取る(P)の、一本につながった3手順。順番は必ずS→T→Pで、どれも最後は「お客さんの頭の中」で勝負している(第1章)。
- 分ける(Segmentation)……市場は、年齢・性別という属性ではなく、「求めるもの(ニーズ)」で似たかたまりに分ける。同じ40代女性でも「安く自由に派」と「一人だと続かない派」に割れる(第2章)。
- 選ぶ(Targeting)……分けた中から、「大手が手薄で、自社の強みが一番活きる1つ」に絞る。絞るから減るのではなく、絞るから選ばれる。からだ基地なら、伴走の強みが活きる「一人だと続かない40代」(第3章)。
- 言い切る(Positioning)……立ち位置は自社の言い分ではなく、お客さんの頭の中で競合と違う“空き地”。マップで空き地を指し、「(誰に)にとって、(競合)と違って、(独自の価値)を届ける」の一文にする(第4章)。
この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「『ターゲットは?売りは?』に、属性と全部入りではなく、“このセグメントに、この立ち位置で”と一文で答えられているか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——STPは“みんなに少し”ではなく“この人に一番”を選び、お客さんの頭の中に居場所を作ること。順番は、分ける→選ぶ→言い切る。これが身につけば、「ターゲットと売りを説明して」に、分ける→選ぶ→言い切るの順で筋道立てて答えられるようになります。
明日の最初の一歩:自分の会社の商品やサービスを1つ選び、①市場をニーズで3〜4つに分け、②自社の強みが一番活きる1つを選び、③ポジショニングマップで空き地を指して、立ち位置を一文で書いてみてください。きれいにまとめる必要はありません。「ターゲットは?売りは?」に、属性と全部入りではなく「このセグメントに、この立ち位置で」と答えられたら、それが第一歩です。
そして、ここで決めた「誰に・どう選ばれるか」を事実で裏付けて使えるようにしたくなったら、その先の道も用意されています。市場・顧客・競合・自社の事実を集める3C分析、顧客→価値→届け方の全体像を見るマーケティングの基礎、立ち位置を価格・流通・販促に落とす4P、自社の内と外の環境から取るべき一手を導くSWOT分析——これらの関連講座で、今日描いた立ち位置を、事実の裏付けと届け方まで具体化していきましょう。まずはこの「分ける→選ぶ→言い切る」を、自分の事業で1周できるようにしておくことが、すべての土台になります。
よくある質問
STP分析とはどういう意味ですか?
STP分析とは、市場を「分ける(Segmentation)」→狙う相手を「選ぶ(Targeting)」→お客さんの頭の中に「立ち位置を取る(Positioning)」の3手順を指します。「みんなに少し」ではなく「この人に一番」を選ぶための、マーケティング戦略の基本的な型です。
セグメンテーションで年齢・性別だけで分けてはいけないのですか?
年齢・性別は手がかりの一つですが、それだけで分けると「求めているものが違う人」を同じグループに入れてしまいます。本当に分けるべきは「その人が何を求めているか(ニーズ)」のかたまりです。属性で止めず、心理的・行動的な切り口まで踏み込むのがコツです。
ターゲットを1つに絞ると、お客さんが減りませんか?
絞るから減るのではなく、絞るから選ばれます。全セグメントを狙うと「みんなに少しずつ」になり誰にも刺さりません。一方、1つに絞るとその人に「自分のためだ」と感じてもらえ、第一候補に選ばれやすくなります。
ポジショニングマップの2軸はどう選べばいいですか?
お客さんが選ぶときに実際に気にする「ものさし」を2つ選び、できるだけ独立した(関係の薄い)軸にするのがポイントです。「価格」と「品質」のように相関が強い2軸を選ぶと競合が一直線に並んで空き地が見えにくくなります。
STP分析はマーケティング初心者でも使えますか?
はい。この講座で扱うように、やることは「分ける→選ぶ→言い切る」の3手順だけです。自分の会社の商品を1つ選び、市場をニーズで3〜4つに分け、自社の強みが一番活きる相手を選んで、立ち位置を一文で書くことが最初の一歩になります。