「ターゲットは20〜40代の女性」。施策の企画書にそう書いて、「で、具体的にどんな人?」「この人、本当にいる?」と差し戻された——もし覚えがあるなら、それはあなたの書き方が雑だったからではありません。年齢や性別といった属性を並べただけでは、誰に向けて作るのかが決まらないからです。属性が同じでも、20歳と29歳では悩みが違います。属性の幅をいくら丁寧に区切っても、「だから何を言えばいいのか」は最後まで見えてきません。
そこで使うのがペルソナです。ペルソナとは、狙うと決めた相手を「実在しそうな1人の人物」に具体化したもの。属性を並べることが目的ではなく、その人がどんな場面にいて・何に困り・いま実際どう動いているかという、観察できる中身で1人を描き切ることが目的です。本講座は、この「狙う相手を1人の人物像に作成する工程」だけに絞ります。どの市場・どのセグメントを狙うかという戦略の判断はSTP分析入門が、作ったペルソナの行動を「認知→検討→購入→継続」と時系列で地図化するのはカスタマージャーニー入門が、それぞれの正本です。本講座はその間にある「1人に具体化する」ところだけを扱います。
この講座を終えると、次の3つができるようになります。ペルソナが何か・なぜ属性の羅列ではダメなのかを自分の言葉で説明できること、属性ではなく困りごと・行動・状況の観点で人物像を書き出せること、そして事実と仮説を区別しながら1人分のペルソナシートを作成できることです。覚えて帰る型は「状況を書く → 困りごとを書く → いまの行動を書く →(事実か仮説か印をつけて)1枚にまとめる」。本講座では、在宅勤務向けの時短コーヒー商品を担当するマーケ若手(例)が、その買い手を1人のペルソナに具体化していく場面を、全章で追いかけます。
この講座のポイント
- ペルソナが何か・なぜ属性だけではうまくいかないのかを、自分の言葉で説明できる。
- 属性ではなく困りごと・行動・状況の観点で、対象の人物像を書き出せる。
- 事実と仮説を区別しながら、1人分のペルソナシートを作成できる。
ペルソナとは何か——属性の羅列ではうまくいかない理由
この章のゴール
ペルソナが何か・なぜ属性だけではうまくいかないのかを、自分の言葉で説明できる。
ペルソナとは狙う相手を「実在しそうな1人」に具体化したもの
ターゲットは、性別・年代・職業などの属性で絞った「想定する顧客層」、つまり集団です。これに対してペルソナは、その想定するお客さんを究極の一人に絞り、プロフィールの詳細まで作り上げたものを指します(出典:J-Net21「事業コンセプトの書き方」)。同じ「ターゲティング」でも、ターゲットが浅く広いのに対し、ペルソナは狭く深い——見込み客の「集団的な属性」ではなく、個人の「詳細な人物像」を描くのがペルソナです(出典:Yappli「ペルソナとは?」)。たとえば、ターゲットなら「30代・女性・会社員」のように属性で区切るところを、ペルソナでは具体的な一人の生活や行動まで設定していきます(出典:HubSpot「ペルソナシートの作り方」)。
属性だけでは「誰に何を言うか」が決まらない
問題は、属性の羅列だけでは施策の拠り所にならないことです。「40代男性」といった属性だけでは顧客像をイメージできず、職業・職場での役割・家族構成・目標といった軸で見て初めて、具体的な人となりが浮かび上がります(出典:HubSpot「ペルソナ分析とは」)。人物像が曖昧なまま進めると、メンバーの立場や知識によって思い浮かべる人物がバラバラになる「ゴムのユーザー」(ペルソナの生みの親アラン・クーパーが指摘した現象)に陥り、施策の方向が定まりません(出典:HubSpot「ペルソナシートの作り方」)。
共通例で考えます。時短コーヒー商品の担当者が「ターゲット=30代女性」とだけ書いても、コピーも訴求も決まりません。ところが「在宅勤務で日中もコーヒーを飲むが、毎回お湯を沸かして淹れるのが面倒で困っている人」(例)まで具体化すると、「お湯を沸かさず数秒で一杯」という言うべきことが見えてきます。逆に言えば、一人の人間としてイメージできるまで具体化できれば、メンバー全員が目線の揃った議論や意思決定ができ、一貫したメッセージを打ち出せます(出典:HubSpot「ペルソナシートの作り方」)。ペルソナは、開発・営業・カスタマーサービスまで部門をまたいだ共通の目的としても機能します(出典:HubSpot「ペルソナ分析とは」)。
「細かく設定すれば良い」「絞ると売れない」というつまずき
ここでのつまずきは2つです。1つは、名前・年収・趣味といった架空の細かい設定を埋めること自体が目的になってしまうこと。設定の細かさではなく、判断の拠り所になるかが大事です。もう1つは「絞ると売れなくなる」という思い込みで、広いまま止めてしまうこと。そもそも「どの相手を狙うか」という市場の切り分け(戦略の判断)はSTP分析入門の領域です。本講座は、狙うと決めた相手を1人に具体化する工程に絞ります。なお、ペルソナの効果を示す統計値(「導入で成果が何割上がった」など)は、本講座では確かな出典で裏が取れたものだけを扱う方針のため、ここでは数字には踏み込みません。
この章の確認(演習)
自分が関わる商品・サービスを1つ選び、「誰のどんな困りごとを解決するか」を一文で書き出してください。書けたら、その一文が属性(年齢・性別)だけになっていないか、「何を言えばいいか」が一歩見えてくるかを確認しましょう。
観察できる人物像で書き出す——属性ではなく困りごと・行動・状況
この章のゴール
属性ではなく困りごと・行動・状況の観点で、対象の人物像を書き出せる。
ペルソナの中身は「観察できること」で書く
ペルソナシートに書く項目は、属性だけではありません。性別・年齢・居住地・職業といったデモグラフィック(人口統計学的)な属性に加えて、行動特性のパターン、そしてユーザーヒアリングで判明した目標・課題を記載します(出典:HubSpot「ペルソナシートの作り方」)。属性は基礎の項目で、本当に効いてくるのは「抱えている悩み」や「問題に対する意識レベル」まで踏み込んだ中身です(出典:Yappli「ペルソナとは?」)。
本講座では、この中身を初学者が手を動かしやすいよう、観察できる3つの観点に整理します。①状況(どんな場面・環境にいるか)、②困りごと(何に不便・不満を感じているか)、③いまの行動(その困りごとに今どう対処しているか)。属性は、この3つを書いたあとに最後に最小限だけ添えます。
状況→困りごと→いまの行動の順で書き、属性は最後に最小限
共通例の買い手を「30代・女性」で止めず、観察できる言葉で書き出してみます。状況は「在宅勤務で、会議の合間にコーヒーを飲む」(例)。困りごとは「毎回お湯を沸かして淹れるのが面倒」(例)。いまの行動は「インスタントで妥協している」(例)。ここまで書けると、「お湯を沸かす手間」という具体的な不便に対して、自社の商品が何を解決するのかが一目で分かります。手順としては、①状況、②困りごと、③いまの行動の順に各1文ずつ書き、④年齢・性別などの属性は最後に最小限だけ添える、という流れです。
このとき大事なのが、実際の顧客の声に基づくことです。ペルソナは架空の顧客像ですが、ユーザーヒアリングやアンケートで得た実在する顧客の声に基づいて作らなければなりません(出典:HubSpot「ペルソナシートの作り方」)。担当者の主観や希望は排除します(出典:同上)。思い込みや先入観で作ると、実際のユーザーと大きくズレるからです(出典:Yappli「ペルソナとは?」)。
「忙しい」「コスパ重視」という抽象語で埋めるつまずき
つまずきは、中身を抽象語で埋めてしまうことです。「忙しい」「コスパ重視」と書いても、読む人によって思い浮かべる人物が変わり、誰の頭にも同じ像が結びません。たとえば「母親」とだけ書けば、専業主婦を思う人もいれば兼業主婦を思う人もいて、抱える課題はバラバラです。だから、実在する一人としてイメージできるレベルまで具体性を高め、課題は誰が読んでも同じ解釈になるように書きます(出典:HubSpot「ペルソナシートの作り方」)。「忙しい」なら「会議の合間にしか飲む時間がない」のように、観察できる場面まで降ろすのがコツです。逆に、属性ばかり細かくして困りごとが空のまま、というのも避けたいつまずきです。
書き出した人物像について、困りごとを解決した先の行動の流れ(認知→検討→購入→継続)を時系列で地図化したくなったら、それは次の工程です。カスタマージャーニー入門へ進んでください。本章は「人物像づくり」までで止めます。
この章の確認(演習)
第1章で選んだ商品について、買い手の「状況・困りごと・いまの行動」を各1文ずつ、観察できる言葉で書き出してください。「忙しい」「コスパ重視」のような抽象語が混じっていないか、具体的な場面まで降りているかを見直しましょう。
1枚のペルソナシートにまとめる——事実と仮説を区別する
この章のゴール
事実と仮説を区別しながら、1人分のペルソナシートを作成できる。
ペルソナは「いま確かめた事実」と「これから確かめる仮説」を分けて使う
ここまで書いた状況・困りごと・行動を、1枚のペルソナシートにまとめます。ただし、まとめて終わりではありません。出典が繰り返し強調するのは、ペルソナは憶測だけで固めてはいけない、ということです。「こういうお客さんに届けたい」「きっとこんな顧客層だろう」という憶測だけで作ると、本来のターゲットからズレます(出典:HubSpot「ペルソナとは?」)。インタビューでも「なるべく相手から事実を引き出す」のが基本で、自社に都合のいい人物像を作らないことが大前提です(出典:HubSpot「ペルソナ分析とは」)。
そこで本講座は、この「実態に即す」という原則を、初学者が手を動かしやすい運用に落とします。シートの各項目に、「いま確かめた事実か」「これから確かめる仮説か」の印をつけるのです。これは出典に書かれた決まった記法ではなく、憶測と事実を混ぜないための講座からの提案ですが、こうすると、どこが確かでどこが思い込みかが一目で分かります。
状況・困りごと・行動を1枚に並べ、各項目に事実/仮説の印をつける
手順はこうです。まず、第2章で書いた状況・困りごと・いまの行動を1枚に並べます。次に、各項目に「事実/仮説」の印をつけます。そして、仮説の項目には「何を確かめれば事実にできるか」を一言添えます。最後に、仕上げとして「この人に向けて何を伝えるか」を一文で書きます。一次情報をもとに課題やニーズを言語化し、要素を整理して1枚にまとめるという流れ自体は、出典が示す作り方とも合致します(出典:HubSpot「ペルソナシートの作り方」「ペルソナ分析とは」)。
共通例で書くと、こうなります。「在宅勤務である(事実:社内アンケートで確認)」(例)、「お湯を沸かすのを面倒だと感じている(仮説:これから声を聞いて確かめる)」(例)。同じシートでも、根拠の有無を分けて書くだけで、次に何を調べればいいかが見えてきます。
「全部を事実のように断定」「確かめられず手が止まる」というつまずき
つまずきは2方向です。1つは、裏取りがないのに全部を事実のように断定してしまうこと。これは憶測でペルソナを固めるのと同じで、実際の顧客とズレます。もう1つは逆に、確かめられないことを理由に何も書けず手が止まってしまうこと。仮説は、仮説と分かるように印をつけておけば、堂々と書いて構いません。大事なのは、事実と仮説を混ぜないことです。
そして、ペルソナは一度作って終わりではありません。実態に沿っているかを定期的に検証し、市場や顧客が変われば見直します(出典:HubSpot「ペルソナ分析とは」「ペルソナとは?」)。最初の仮説を、声を聞いて事実へと書き換えていく——その更新こそが、ペルソナを使い続けるということです。なお、「そもそもどの相手を狙うか」という市場の切り分けから組み立て直したくなったら、STP分析入門へ戻るとよいでしょう。
この章の確認(演習)
第1・2章の内容を、1枚のペルソナシート(状況・困りごと・いまの行動・伝えたいこと)にまとめてください。各項目に「事実/仮説」の印をつけ、仮説の項目には「何を確かめれば事実にできるか」を一言添えましょう。
まとめ
ペルソナとは、狙うと決めた相手を「実在しそうな1人」に具体化したものです。年齢・性別といった属性を並べることが目的ではなく、観察できる状況・困りごと・行動で1人を描き切り、事実と仮説を区別して1枚にまとめることが目的でした。覚えて帰る型は「状況を書く → 困りごとを書く → いまの行動を書く →(事実か仮説か印をつけて)1枚にまとめる」。ペルソナは、属性ではなく「困りごと」で描く——これが本講座の背骨です。
明日の一歩として、担当する商品の買い手を1人選び、「状況・困りごと・いまの行動」を観察できる言葉で書き出し、各項目に事実/仮説の印をつけて1枚にしてみてください。作ったペルソナの行動を「認知→検討→購入→継続」の時系列で追うコツを知りたくなったら、カスタマージャーニー入門へ進むのが次のステップです。
本講座の特典として、状況・困りごと・いまの行動・伝えたいこと、そして事実/仮説の記入欄をそのまま埋められる「ペルソナシート」をご用意しています。テンプレートのダウンロードは、無料会員登録からどうぞ。
よくある質問
ペルソナとターゲットは何が違うのですか
ターゲットは属性で絞った顧客層(集団)、ペルソナはそこから一人に絞った詳細な人物像です。ターゲットは浅く広く、ペルソナは狭く深く、が違いです。
ペルソナは名前や年収まで細かく決めないといけませんか
必須ではありません。大事なのは設定の細かさより、状況・困りごと・いまの行動という判断の拠り所です。属性は最後に最小限だけ添えれば十分です。
調べきれず、想像で埋めてしまう部分はどうすればよいですか
想像の部分は「仮説」と印をつけて書いて構いません。憶測と事実を混ぜないことが大切で、仮説は後で声を聞いて事実へ書き換えていきます。
ペルソナは一度作れば使い続けられますか
いいえ。実態に沿っているかを定期的に検証し、市場や顧客が変われば見直します。最初の仮説を事実へ更新し続けることで、使えるペルソナになります。