傾聴力の基本

傾聴力の基本

「ちょっと聞いてほしいんだけど」——同期からそう声をかけられたとき、相手が話している最中に、あなたの頭の中は「次に何て返そう」「どうアドバイスしよう」でいっぱいになっていないでしょうか。良かれと思って「それなら○○すれば?」とすぐ解決策を出したり、「私のときもさ」と自分の話にすり替えたり。なのに相手は「うーん、そうなんだけど…」と口ごもって、なんだか話が深まらない。ちゃんと聞いているつもりなのに、「分かってくれてない」という顔をされる——配属されて間もない頃、こんな経験はありませんか。

でも、安心してください。相談されてうまく受け止められる先輩と、空回りしてしまうあなたの違いは、やさしさでも、気のきいた返しの引き出しの多さでもありません。相手が話している間に、“次に自分が何を言うか”を考えているか、それとも“相手を分かろうとして聴いているか”——たったそれだけです。実は、あなたは相手の話を「聞いて」はいても、「聴いて」いないのです。

この「聴く」力のことを、傾聴と言います。米国の心理学者カール・ロジャーズが提唱した、相手を理解しようとして聴く聴き方です(厚生労働省「こころの耳」)。難しい心理テクニックではありません。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. 「聞く(ただ音として耳に入れる)」と「聴く(傾聴=相手を理解しようとして聴く)」の違いを、自分の言葉で説明できる
  2. 相手が話しやすいように、うなずき・あいづちで受け止め、話を最後まで遮らずに聴ける
  3. 相手の話を自分の言葉で要約して返し、「○○という理解で合っていますか?」と確認しながら聴ける

この講座は最後まで、「同期の田中さんが『最近、仕事がうまく回らなくて…』とあなたに相談してくる」という、たった1つの場面だけで説明します。この同じ場面を、傾聴とは何か→どう受け止めるか→どう要約して確認するか、と1段ずつ積み上げていきます。各章末には手を動かす演習も置いているので、自分の最近の会話を思い浮かべながら読み進めてみてください。そして、この聴き方をもっと広げたくなったら、最後に関連講座への入口も用意しています。まずは、この1本で「聴く」の型を身につけましょう。

第1章:傾聴とは何か(「聞く」と「聴く」の違い)

まずは、「ちゃんと聞いてるのに分かってもらえない」というモヤモヤの正体を、はっきりさせましょう。「聞く」と「聴く」は、似ているようでまったく別ものです。

この章のゴール

この章を読み終えると、「聞く」と「聴く(傾聴)」の違いを、相手を理解しようとして聴くことだと、自分の言葉で説明できるようになります。

「ちゃんと聞いてるのに分かってもらえない」正体

あなたのやさしさが足りないわけではありません。相手が話しているのに「分かってくれてない」という顔をされてしまうのは、相手が話している最中に、あなたの頭が「次に何て返そう」「どうアドバイスしよう」でいっぱいになっている——これが正体です。

耳には、相手の声がちゃんと入っています。でも、意識は「自分の返し」に向いていて、相手のほうには向いていない。これが「聞いて(耳に入れて)はいるけれど、聴いて(理解しようとして)いない」状態です。ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。傾聴は“話す準備”をやめて、“相手を分かろうとして聴く”こと。答えを返すのは、相手を正しく理解できたあとで十分です。

「聞く」と「聴く」は別もの

同じ「きく」でも、日本語には2つの漢字があります。

きく意味意識の向き
聞く(hear)音や言葉が、自然に耳に入ってくる受け身。相手に向いていない
聴く(listen=傾聴)意識を相手に向けて、理解しようとして聴く相手に向いている

「聞く」は、BGM が耳に入るのと同じで、放っておいても起こります。一方で「聴く(傾聴)」は、自分から意識を相手に向けにいく、能動的な行為です。厚生労働省のサイトでも、傾聴の「聴く」は「相手の関心ごとに注意を払いながらきくこと」と説明されています(こころの耳)。

傾聴とは、相手の話を「自分が評価したり、次に何を言うか考えたりするための材料」にすることではありません。まず、相手の立場・気持ち・言いたいことを、相手の側に立って分かろうとする聴き方です。ロジャーズは、傾聴する人の心構えとして「相手の側に立って分かろうとする」「善し悪しを決めつけずに受け止める」「分からないところは、そのままにせず確かめる」といった姿勢を挙げています(こころの耳)。専門用語を覚える必要はありません。要は、相手を主役にして聴く、ということです。

知らないうちに“自分が主役”になっていないか

ところが、相談を受けると、わたしたちはつい“自分”を主役にしてしまいます。よくあるのが、次の3つです。

やりがち具体例何が起きているか
アドバイスの先回り「それなら○○すれば?」理解する前に、解決策を出している
自分の話へのすり替え「私のときもさ…」主役が相手から自分に移っている
評価・判断しながら聞く「それは甘えだよ」善し悪しを決めて、相手が話せなくなる

どれも、悪気はありません。むしろ「力になりたい」という気持ちの表れです。でも、3つに共通しているのは、相手を理解しきる前に、自分が口を出していること。これでは、相手は「分かってもらえた」と感じられません。

ここで、この講座を通して登場してもらう同期の田中さんに出てきてもらいましょう。ある日、田中さんがあなたに「最近、仕事がうまく回らなくて…」と話しかけてきました。その瞬間、あなたの頭の中はどうなっているでしょうか。「タスク管理アプリを教えてあげよう」「優先順位をつければいいんじゃない?」——もう“返す内容”でいっぱいになっていないでしょうか。

でも、よく考えてみてください。あなたはまだ、田中さんが本当は何に困っているのかを、一つも分かっていません。仕事量が多いのか、人間関係なのか、やり方が分からないのか。それなのに、もうアドバイスを用意してしまっている。これが「聞いてはいるが、聴いていない」状態です。アドバイスも評価も、田中さんを正しく理解できた“あと”に回せばいい。まずは、返す内容を考えるのを一旦やめて、田中さんを分かろうとすることから始めます。

この章の確認(演習)

直近で「人の話を聞いた場面」を、1つ思い出してください。そのとき、相手が話している間、あなたは何を考えていましたか。「次に何て返そう」? 「どうアドバイスしよう」? それとも、自分の感想? あるいは、相手を分かろうとしていましたか。正直に書き出してみましょう。

そのうえで、「傾聴とは、相手を○○しようとして聴くことだ」の○○を、自分の言葉で埋めて、1〜2行に書いてみてください。「聞く」と「聴く」の違いを、自分の手で言葉にできたら、この章はゴールです。

第2章:受け止める聴き方(うなずき・あいづち・遮らない・おうむ返し)

「相手を分かろう」と思っても、相手が話してくれなければ始まりません。第2章では、相手が「この人になら話せる」と感じる、受け止める聴き方を身につけます。

この章のゴール

この章を読み終えると、相手が話しやすいように、うなずき・あいづちで受け止め、話を最後まで遮らずに聴けるようになります。

傾聴の第一歩は「話しやすい」をつくること

相手を理解しようと心の中で思っていても、それが相手に伝わらなければ、相手は安心して話せません。だから傾聴の第一歩は、聴いていることを態度で見せて、「ちゃんと受け取ってもらえている」と感じてもらうことです。

むずかしい理屈はいりません。大事なのは、シンプルに、あなたの受け止める所作が、相手の「話しやすさ」をつくる、ということです。「聴いていますよ」という気持ちは、態度にして見せてはじめて、相手に伝わります。心の中で思っているだけでは、相手には届かないのです。

受け止める4つの所作

具体的には、次の4つを意識します。どれも、今日からすぐにできることばかりです。

所作やること
体を向けるPC・スマホから手を離し、体を相手のほうへ向ける
うなずく相手の話の区切りで、うなずく
あいづちを打つ「うん」「なるほど」「それで?」と声に出す
遮らない相手が話し終わるまで、口をはさまない

特にやってしまいがちなのが、PC やスマホを見ながらの「ながら聞き」です。「聞いてるよ」と口で言っても、画面を見ていたら、相手には「片手間だな」と伝わってしまいます。手を止めて、体を向ける。それだけで、相手の安心感はぐっと変わります。

そして、もう一つ大事なのが「遮らない」こと。相手が考えこんで沈黙すると、気まずくて、つい「で、どうしたいの?」とかぶせたくなります。でも、その沈黙は相手が言葉を探している大切な時間です。ぐっとこらえて、待ちましょう。

キーワードをそのまま返す=おうむ返し

受け止めをもう一歩進めるのが、おうむ返し(バックトラッキング)です。むずかしくありません。相手が言ったキーワードを、そのまま返すだけです。たとえば相手が「タスクが増えて…」と言ったら、「タスクが増えてるんだ」と返す。これだけで、相手は「ちゃんと受け取ってもらえた」と感じて、安心して先を続けられます。相手が使った言葉をそのまま返すので、否定されたようにも感じません(株式会社一創)。

ここで田中さんに戻りましょう。田中さんの「最近、仕事がうまく回らなくて…」に、あなたはまず PC から手を離し、体を向けて、うなずきます。「うん、うんうん」。田中さんが「タスクが増えてて…」と続けたら、「タスクが増えてるんだ」とおうむ返し。「それで?」と先を促す。ここで「アプリ使えば?」と遮らないのがポイントです。

すると、どうでしょう。田中さんは「実は…」と、最初の一言の奥にあった本当の話を、ぽつぽつと話し始めます。第1章で“返す内容”でいっぱいだったあなたが、今度はまず受け止める側に回った。たったこれだけで、田中さんは「この人は聴いてくれる」と感じ始めているのです。

この章の確認(演習)

まず、あなたがやりがちな「NG の聴き方」を、1つだけ正直に選んでみてください。「つい遮ってしまう」「ながら聞きをしてしまう」「『でも』『いや』と否定から受けてしまう」「自分の話にすり替えてしまう」——どれでしょうか。

そのうえで、次に誰かの話を聴くときに試す「受け止める所作」を、1つだけ決めて書いてください。「相手が話し終わるまで遮らない」「PC から手を離して体を向ける」「相手のキーワードをおうむ返しする」など、なんでもかまいません。1つでいいので、「次にやること」を具体的に決められたら、この章はゴールです。

第3章:要約して返し、確認する(理解を合わせる)

うなずいて受け止められるようになったら、いよいよ仕上げです。第3章では、相手の話を要約して返し、「合っていますか?」と確認する——傾聴のいちばん大事な仕上げを学びます。これが、この講座の到達点です。

この章のゴール

この章を読み終えると、相手の話を自分の言葉で要約して返し、「○○という理解で合っていますか?」と確認しながら聴けるようになります。

受け止めるだけでは「聴いたつもり」で終わる

うなずいて、あいづちを打って、遮らずに最後まで聴いた。これで傾聴は完成でしょうか。実は、まだです。受け止めるだけだと、あなたが相手の話を本当に正しく理解できたかどうかは、誰にも分かりません。あなた自身も「たぶん、こういうことだろう」と思っているだけ。これが「聴いたつもり」のワナです。

だから傾聴の仕上げは、自分の理解が合っているかを、目に見える形で確かめることです。ロジャーズも、傾聴する人の心構えとして「分からないところは、そのままにせず、真意を確認する」ことを挙げています(こころの耳)。

自分の言葉で要約して返す

そのためにやることが、要約です。相手の話を、自分の言葉で短くまとめて返します。

ここで、第2章の「おうむ返し」との違いをはっきりさせておきましょう。

やること役割
おうむ返し相手の言葉を、そのまま返す「受け取ったよ」の合図
要約相手の話を、自分の言葉で要点にまとめて返す「こう理解したよ」の証明

おうむ返しが「受け取った合図」なら、要約は「自分はこう理解した、という証明」です。話を聴き終わったら、頭の中で要点を2〜3点に整理して、自分の言葉でまとめ直します。コツは、短くすること。要約が長すぎると、今度はあなたが話しすぎて、相手の話を奪ってしまいます。

「○○ということで合っていますか?」=理解の答え合わせ

そして、要約のあとに、ひとこと付け足します。「○○ということで、合っていますか?」。この確認の一言が、傾聴の決め手です。

なぜなら、この一言には2つの効き目があるからです。

もし…何が起きるか
理解が合っていたら相手は「分かってもらえた」と安心し、話がさらに深まる
理解がズレていたら相手がその場で「いや、そうじゃなくて」と直してくれる

つまり、確認は自分の理解の“答え合わせ”なのです。合っていても、ズレていても、どちらでもあなたは得をします。やってはいけないのは、「要するに甘えでしょ」と自分の解釈を決めつけることです。それは確認ではなく、押しつけです。あくまで「これで合っていますか?」と、相手に確かめてもらう姿勢が肝心です。

田中さんで仕上げてみましょう。ひととおり聴いたあと、あなたはこう返します。「つまり、最近タスクが増えて、何から手をつけるか優先順位がつけられなくて、毎日バタバタしてる、ということで合ってる?」。

田中さんが「そうそう、まさにそれ」と答えれば、あなたの理解は正しかった。でも、もしかしたら「いや、量より、急な割り込みが多いのがしんどくて」と返ってくるかもしれません。だとしたら——第1章であなたが先回りした「タスク管理アプリ」も「優先順位をつけよう」も、実は的外れだったことになります。確認したからこそ、それに気づけた。ここまで来て、はじめて、田中さんと一緒に解決策を考えるスタートラインに立てるのです。

この章の確認(演習)

共通例「田中さんの相談」を、あなた自身の言葉で、3行以内に要約して書いてみてください。長くしすぎないのがコツです。

そして最後に、「○○という理解で合っていますか?」という確認の一言を、付け足してみましょう。書けたら、この講座の型を、声に出して1回言ってみてください——うなずいて受け止める→要約して返す→確認する。口に出して言えたら、あなたはもう、傾聴の型を手に入れています。

まとめ:傾聴は“話す準備”をやめて、相手を分かろうとして聴くこと

おつかれさまでした。「同期の田中さんの相談」という、たった1つの場面を、傾聴とは何か→どう受け止めるか→どう要約して確認するか、と1段ずつ積み上げてきました。最初は「アプリを教えよう」と先回りしていたあなたが、最後には、受け止めて、要約して、確認できるようになりました。要点を振り返ります。

  1. 傾聴とは……「次に自分が何を言うか」を考えながら聞くことではなく、相手を理解しようとして聴くこと。「聞く(耳に入れる)」と「聴く(理解しようとする)」は別もの。アドバイスや評価は、正しく理解できた“あと”に回す(第1章)。
  2. 受け止める……うなずき・あいづちで受け止め、体を向け、最後まで遮らない。相手のキーワードを「おうむ返し」して、「話しやすい」をつくる(第2章)。
  3. 要約して確認する……相手の話を自分の言葉で短く要約して返し、「○○ということで合っていますか?」と確認する。合っていれば安心が生まれ、ズレていればその場で直る=理解の答え合わせ(第3章)。

この3つは、1つの型にまとまります——うなずいて受け止める→要約して返す→確認する。この型さえ持っていれば、相談されても「何か気のきいたことを言わなきゃ」と焦らずにすみます。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です。傾聴は“話す準備”をやめて、“相手を分かろうとして聴く”こと。聴いたら、自分の言葉で要約して『合ってますか?』と返す

明日の最初の一歩:次に誰か(同期・同僚・お客さま)があなたに話してきたら、最後まで遮らずに聴いて、最後に一度だけ「○○という理解で合っていますか?」と、自分の言葉で要約して確認してみてください。たった1回でいい。相手の表情が、ふっとゆるむのを確かめてみましょう。

そして、この「聴く」力を、もっと広げたくなったら、その先の道も用意されています。伝える・聴くの全体像をつかむコミュニケーションの基礎、あいまいな指示や話を確かめる質問力、相手の考えを引き出し育てるコーチング・1on1・フィードバック——これらは、今日身につけた「うなずいて受け止める→要約して返す→確認する」を、さらに使いこなすためのものです。続きは、関連講座へ進んでみてください。まずは今日学んだ型を、明日の会話で1回、試してみることから始めましょう。

よくある質問

傾聴とは何ですか?

傾聴とは、次に自分が何を言うかを考えながら聞くのではなく、相手を理解しようとして意識を相手に向けて聴くことです。「聞く(耳に入れる)」とは異なる、能動的な行為です。

「聞く」と「聴く」はどう違いますか?

「聞く」は音や言葉が自然に耳に入る受け身の状態です。「聴く(傾聴)」は意識を相手に向けて、相手の立場・気持ち・言いたいことを理解しようとする能動的な行為です。

うなずきやあいづちだけで傾聴は完成しますか?

いいえ、受け止めるだけでは「聴いたつもり」で終わる可能性があります。相手の話を自分の言葉で要約して返し、「○○ということで合っていますか?」と確認することが傾聴の仕上げです。

要約とおうむ返しはどう違いますか?

おうむ返しは相手の言葉をそのまま返す「受け取ったよ」の合図です。要約は相手の話を自分の言葉で要点にまとめて返す「こう理解したよ」の証明であり、役割が異なります。

初心者でもすぐに実践できますか?

はい、まず「最後まで遮らずに聴く」「体を向けてうなずく」という所作から始められます。慣れてきたら要約と確認の一言を加えると、相手に「分かってもらえた」と感じてもらいやすくなります。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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