「それ、もっと早く言ってよ」「で、結局どうしたいの?」——配属されて間もない頃、上司や先輩にそう返されて、ぐっと言葉に詰まったことはありませんか。自分では「ちゃんと言った」つもりなのに、なぜか伝わっていない。チャットで送っておいた連絡が、相手に届いていなくて後でトラブルになる。そんなことが続くと、「自分は口下手だから、コミュニケーションが苦手なんだ」と落ち込んでしまいますよね。
でも、安心してください。コミュニケーションが上手な先輩と、詰まってしまうあなたの違いは、しゃべりのうまさでも、声の大きさでも、愛想のよさでもありません。違いは、「自分が言いたいことを言う」前に、相手・目的・場面を見て、伝え方を選んでいるかどうかだけです。その「見るべき3つ」こそが、この講座で渡す1枚の地図です。
実は、「コミュニケーション」という言葉は、ラテン語の「communicare(コムニカーレ)」=「分かち合う・共有する」がもとになっています。つまりコミュニケーションは、自分の言いたいことを一方的に投げることではなく、相手と意味を分かち合って、はじめて成り立つもの。だから、うまくいったかどうかは「自分が言ったかどうか」ではなく、「相手に伝わったかどうか」で決まります。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。
- コミュニケーションを「話し上手かどうか」ではなく、“言った”ではなく“相手に伝わって”はじめて成立するものとして、自分の言葉で説明できる
- 何かを伝える前に、①相手(誰に)→②目的(何のために)→③場面(どんな状況)の3点を挙げて確認でき、同じ用件でも相手・目的・場面によって伝え方が変わることを説明できる
- 1つの場面について、相手・目的・場面の3点を見て、伝え方(手段・順番・言葉づかい)を選んで、伝える一言を組み立てられる(「言った」で終わらせず、「伝わったか」を確かめるところまで)
この講座は最後まで、「先輩(田中さん)に任された会議資料が、約束の締め切り(明日の朝)に間に合いそうにないと、今日の夕方に気づいた」という、たった1つの場面だけで説明します。この同じ場面を、コミュニケーションとは何か→誰に→何のために→どんな状況で、と1マスずつ地図を埋めていきます。各章末には手を動かす演習も置いているので、書きながら読み進めてみてください。そして、この「相手→目的→場面で伝え方を選ぶ」地図を、自分の毎日のやりとりでも使えるようにしたくなったら、無料会員登録で続きの講座(PREP法・報連相・ロジカルシンキング・ビジネスメール)に進めます。まずは、この1本で地図の全体像を掴みましょう。
第1章:コミュニケーションとは何か(“言った”ではなく“伝わった”)
まずは、「ちゃんと言ったのに伝わらない」というモヤモヤの正体を、はっきりさせましょう。コミュニケーションという言葉を、「しゃべりが上手いかどうか」という思い込みから、自分で使える1枚の地図に変える土台の章です。
この章のゴール
この章を読み終えると、コミュニケーションを「話し上手かどうか」ではなく、“言った”ではなく“相手に伝わって、相手が分かって(動いて)”はじめて成立するものとして、自分の言葉で説明できるようになります。
「ちゃんと言ったのに伝わらない」の正体
あなたのしゃべりが下手なわけでも、センスがないわけでもありません。多くの場合、「ちゃんと言ったのに伝わらない」のは、コミュニケーションを「話し上手・愛想のよさ」と狭く考えていて、「言った=伝わった」と思い込んでいる——これが正体です。
考えてみてください。あなたが心の中で「この資料、間に合わないかも」とどれだけ強く思っても、口にしなければ、相手には1ミリも伝わりません。これは当たり前ですよね。ところが、口に出しさえすれば伝わる、とも限らないのです。早口で要点がぼやけていたり、相手が忙しくて聞き流していたりすれば、「言った」のに「伝わっていない」状態になります。「チャットで送っておいたから大丈夫」も同じです。送信=相手が読んで理解した、ではありません。
ここで覚えてほしい背骨は、ひとつです。コミュニケーションは“言った”ではなく“伝わった”。そして、伝える前に、相手・目的・場面を見て、伝え方を選ぶ。この順番さえ持てば、口下手でも、ちゃんと伝わるようになります。
コミュニケーション=相手に“伝わって”はじめて成立する
冒頭で触れたとおり、「コミュニケーション」の語源は、ラテン語で「分かち合う・共有する」を意味する言葉です。ここがとても大事なポイントです。コミュニケーションは、自分の言いたいことを相手にぶつける作業ではなく、相手と意味を分かち合う作業なのです。
つまり、「伝える」だけではコミュニケーションの半分でしかありません。相手がそれを受け取って、あなたが意図したとおりに分かって(必要なら動いて)くれて、はじめて「分かち合えた=成立した」ことになります。だから、うまくいったかどうかを測るものさしは、「自分が言ったか」ではなく「相手に伝わったか」。一方的に話して満足するのではなく、相手に届いたかどうかまでがセットなのです。
ここで先回りして、いちばんありがちな2つの誤解を潰しておきます。1つめは、「コミュニケーション=話し上手・愛想のよさ」という思い込み。流ちょうに話せても、相手が知りたいこととズレていれば伝わりません。逆に、口下手でも、相手・目的・場面を押さえれば、ちゃんと伝わります。2つめは、「一度言えば(チャットで送れば)伝わっているはず」という思い込み。「言った」と「伝わった」は別物です。この2つを手放すだけで、コミュニケーションはぐっとラクになります。
全体像は1枚の地図:相手→目的→場面
では、「伝わる」ようにするには、何を見ればいいのか。しゃべりの練習ではありません。伝える前に、次の3つを順番に見るだけです。
| 順番 | 見ること | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| ① 相手 | 誰に伝えるか(立場・知りたいこと・今の状況) | 誰に? |
| ② 目的 | 何のために伝えるか(報告・相談・お願い・お詫び) | 何のために? |
| ③ 場面 | どんな状況で伝えるか(急ぎか・どの手段か) | どんな状況で? |
これが、コミュニケーションの全体像=1枚の地図です。①相手から始めて、②目的、③場面の順に見て、伝え方(何を先に言うか・どの手段で・どんな言葉で)を選びます。大事なのは、いきなり「何と言おう」から考えないこと。多くの人は、相手も目的も飛ばして、いきなり言葉を探し始めるので空回りします。
ちなみに、よく聞く「PREP法(結論から話す型)」「報連相」「ロジカルシンキング」「ビジネスメールの書き方」といったものは、この地図の上で“伝え方の型”を整えるための道具です。便利な道具ですが、まずは地図(相手・目的・場面)を持つのが先。地図がないまま型だけ覚えても、どの場面でどの型を使えばいいか分かりません。今は「いろんな型は、この地図の上に乗るんだな」とだけ掴んでください。
ここで、この講座を通して使う共通の場面に登場してもらいましょう。あなたは入社1年目。先輩の田中さんから任された会議資料が、約束の締め切り(明日の朝)に間に合いそうにないと、今日の夕方になって気づきました。さあ、どうしますか。地図を持たないと、頭の中が真っ白になって、何も言えないまま時間だけが過ぎたり、逆にいきなり「すみません、間に合いません!」とだけ口走って、田中さんを「で、どうするの?」と困らせたりします。そうではなく、「①誰に? ②何のために? ③どんな状況で?」の順で考える——これがコミュニケーションです。この章では、まだ中身は埋めません。3つの問いの“枠”だけを立てておきます。
この章の確認(演習)
共通の場面「締め切りに間に合わない資料」について、いきなり「何と言うか」を考えるのをやめて、次の3つの問いを、答えは空欄のまま書き出してみてください。
- ① 誰に(相手):_____
- ② 何のために(目的):_____
- ③ どんな状況で(場面):_____
そのうえで、「コミュニケーションとは、相手に“伝わって”はじめて成立するもので、伝える前に相手・目的・場面を見て伝え方を選ぶことだ」を、自分の言葉で1〜2行に書いてみます。「何と言おう」からではなく“枠”から入る感覚を、自分の手で言葉にできたら、この章はゴールです。空欄は、これから第2章・第3章・第4章で1つずつ埋めていきます。
第2章:相手(誰に)を読む — 立場・知りたいこと・今の状況
地図の1マス目、相手(誰に)を埋めていきます。コミュニケーションは、自分の言いたいことからではなく、相手から考える——その第一歩です。
この章のゴール
この章を読み終えると、伝える相手の「立場・知りたいこと・今の状況」を読み、分からないことは決めつけずに確かめられる(相手から考えられる)ようになります。
同じ用件でも、相手が変われば伝え方が変わる
まず押さえたいのは、同じ内容でも、相手によって“伝わる伝え方”は変わるということです。「資料が遅れそう」という同じ用件でも、相手が、事情をよく知っている直属の先輩なのか、その資料を待っている他部署の人なのか、社外の取引先なのかで、知りたいことも、通じる言葉も、ちょうどいい丁寧さも、まったく違います。
だから、相手が誰でも同じ調子で話すと、誰かには必ずズレます。「相手によって言い方を変えるなんて、裏表があるみたいで気が引ける」と感じる人もいますが、それは誤解です。相手に合わせて伝え方を変えるのは“裏表”ではなく、“相手への配慮”。同じ料理でも、子どもには小さく切って出すのと同じことです。
相手の「立場・知りたいこと・今の状況」を読む
では、相手の何を見ればいいのか。次の3つです。
| 読むこと | 中身 | 例(資料が遅れそうな件) |
|---|---|---|
| 立場 | 自分との関係・どこまで事情を知っているか | 先輩は経緯を知っている/他部署は事情を知らない |
| 知りたいこと | その相手の関心はどこにあるか | 先輩は「どれくらい遅れる・どうリカバリする」を知りたい |
| 今の状況 | 忙しいか・余裕があるか | 先輩がいま電話中なら、少し待つか「後で3分いいですか」 |
そして、いちばん大事なのはここです。相手の3つを「読む」というのは、勝手に決めつけることとは違います。「たぶん怒ってるだろうから言いにくい」「どうせ忙しいから後でいいや」と思い込んで動かないのは、相手を読んでいるのではなく、自分の不安で決めているだけ。分からないときは、思い込みで進めず、相手に聞いて確かめます。「どこまで進めて共有すればいいですか?」と一言聞くだけで、ズレは防げます。
この「相手の話を、さえぎらず・決めつけず、最後まで聞いて受け止める」聞き方を、傾聴(けいちょう)と呼びます。コミュニケーションは話すことだと思われがちですが、実は、相手を読むための「聞く」がその半分を占めているのです。
共通の場面:田中先輩を読む
共通の場面で考えてみましょう。締め切りを決めたのは、先輩の田中さんです。だから、まず伝えるべき相手は田中さん。では、田中さんの立場で「何を知りたいか」を読んでみます。
あなたはつい「すみません!」と謝ることから考えてしまうかもしれません。でも、田中さんが本当に知りたいのは、謝罪の言葉そのものよりも、「どれくらい遅れそうか」「取り返せる見込みはあるか」「手伝いが必要か」のほうです。なぜなら、田中さんはその情報がないと、次にどう動けばいいか判断できないからです。
さらに、田中さんが今まさに別の打ち合わせで忙しそうなら、状況を読んで「いま3分だけ、よろしいですか」と切り出す。もし「どこまで自分で進めてから相談すべきか」が分からなければ、勝手に判断せず「このまま進めるか、いったん止めて相談すべきか、どちらがいいですか」と聞いて確かめる。これが、相手から考えるということです。
この章の確認(演習)
共通の場面「締め切りに間に合わない資料」を、田中先輩ではなく、別の相手に伝えるとしたら、どう変わるかを考えてみてください。たとえば、「一緒に作業している同僚」や「その資料を待っている他部署の人」です。
それぞれの相手について、「その人が知りたいことは何か」「言い方はどう変わるか」を、1〜2行で書いてみます。同僚になら「ちょっと手伝ってもらえない?」と素直に頼めるかもしれませんし、他部署になら「ご迷惑をおかけしますが」と一言添えて見通しを伝える必要があるかもしれません。相手が変われば、伝える中身も言葉も変わる——これを自分の手で確かめられたら、ゴールです。
第3章:目的(何のために)で、伝える中身と順番を選ぶ
地図の2マス目、目的(何のために)を埋めます。「で、結局どうしたいの?」と返されてしまう、あの場面を抜け出す章です。
この章のゴール
この章を読み終えると、「何のために伝えるのか(目的)」をはっきりさせ、目的によって伝える中身と順番(何を先に言うか)が変わることを説明できるようになります。
「で、どうしたいの?」の正体は、目的のあいまいさ
上司に「で、結局どうしたいの?」と返されるとき、たいてい原因は1つです。自分でも、何のために話しているのかがあいまいなまま、話し始めているのです。
たとえば、田中さんのところに行って、「えっと、資料なんですけど、その、ちょっと間に合わなそうで…」と話し出したとします。聞いている田中さんからすると、これは「ただ知らせているだけ?」「相談したいの?」「手伝ってほしいの?」「謝りたいの?」のどれなのか分かりません。だから「で、どうしたいの?」と聞き返すしかないのです。あなたが悪いのではなく、目的が相手に渡っていないだけ。
同じ出来事でも、目的で伝えることが変わる
そこで、口を開く前に決めるのが目的です。目的とは、ひとことで言えば「この話で、相手にどうしてほしいのか」。同じ「資料が間に合わない」という出来事でも、目的が違えば、伝えるべき中身も、何を先に言うかも変わります。
| 目的 | 相手にどうしてほしい | 第一声(最初のひと言)の例 |
|---|---|---|
| 報告 | 状況を知っておいてほしい | 「進捗の共有です。ここまで終わって、残りはこれです」 |
| 相談 | 一緒に考えて、判断してほしい | 「ご相談です。締め切りを1日延ばせないでしょうか」 |
| お願い(依頼) | 手伝ってほしい | 「お願いがあります。一部を手伝っていただけませんか」 |
| お詫び | 迷惑をかけたことを謝りたい | 「お詫びです。納期に間に合わず申し訳ありません」 |
このように、目的が「相談」なのか「お願い」なのかで、最初に言うべき言葉がまるで変わります。逆に言えば、目的を1つに決めれば、第一声は自然と決まるのです。
なお、よく聞く「報連相(報告・連絡・相談)」は、まさにこの“目的の代表的な分類”です。そして「結論から話すPREP法」は、目的を決めたあとに「いちばん言いたいこと(結論やお願い)を先に言う」ための型です。この章では、それぞれの細かいやり方には踏み込みません。まずは「目的によって、何を先に言うかが変わる」ことさえ掴めれば十分です。
共通の場面:目的で第一声を書き分ける
共通の場面で、目的を変えて比べてみましょう。
もしあなたの目的が「相談(締め切りを延ばしてもらえないか、一緒に考えてほしい)」なら、第一声はこうです。「田中さん、ご相談です。明日朝の締め切りに間に合いそうになくて、1日いただけないでしょうか」。一方、目的が「お願い(手伝ってほしい)」なら、「田中さん、お願いがあります。資料の後半を、少し手伝っていただけませんか」。
どちらも同じ「間に合わない」という出来事ですが、最初のひと言が違いますよね。先に「相談です」「お願いです」と目的を渡すから、田中さんは「これは判断が必要なやつだな」「手伝えばいいんだな」と、すぐに身構えられるのです。
ここで気をつけたいのが、言い訳や経緯から長々と話し始めること。「実は昨日からデータの整理に手間取っていて、それで他の仕事も重なって…」と続けると、肝心の「どうしてほしいか」が最後まで出てきません。経緯は、目的を伝えたあとに、聞かれたら答えれば十分です。目的に関係のない前置きは、思いきってそぎ落とす。これだけで、ぐっと伝わりやすくなります。
この章の確認(演習)
共通の場面「締め切りに間に合わない資料」を、2つの目的で書き分けてみてください。
- (A) 目的が「相談(締め切りを延ばしたい)」のときの、最初のひと言
- (B) 目的が「お願い(手伝ってほしい)」のときの、最初のひと言
どちらも、まず目的(「ご相談です」「お願いがあります」)を先に置くのがコツです。目的が変わると、最初に言うことが変わる——これを自分の手で書き分けられたら、ゴールです。
第4章:場面(どんな状況)で、手段と言葉づかいを選ぶ
地図の3マス目、場面(どんな状況)を埋めます。ここまで決めた「相手」と「目的」を、実際にどうやって届けるかを選ぶ、最後の章です。
この章のゴール
この章を読み終えると、場面(急ぎか・対面かチャットか・記録を残すか)に合わせて、伝える手段(対面・電話・チャット・メール)と言葉づかい(クッション言葉)を選べるようになります。
場面によって、ふさわしい手段は変わる
伝える中身が同じでも、今の状況によって、ベストな伝え方は変わります。見るポイントは、おもに3つ。「急ぎかどうか」「記録を残したいか」「相手がその場にいてつかまるか」です。
| 場面 | 向いている手段 | 理由 |
|---|---|---|
| 今すぐ判断がほしい(急ぎ) | まず口頭(対面・電話) | 文字を打って既読を待つより速い |
| 急がない・記録を残したい | チャット・メール | 相手の時間を選ばず、あとで見返せる |
| 急ぎ&あとで証拠も残したい | 口頭で一報+チャットに記録 | 速さと記録、両方を取れる |
たとえば、締め切りが明日の朝に迫っていて、今すぐ田中さんの判断がほしいのに、長文のチャットを打って既読がつくのを待っていたら、その間にどんどん時間が過ぎてしまいます。急ぎのときは、まず口頭でひと声かけるのが速い。逆に、急がない進捗の共有なら、わざわざ対面で時間を取らせるより、チャットで一報入れておくほうが、相手にとってもラクです。
文字は記録に残る代わりに、温度が伝わりにくい
チャットやメールはとても便利ですが、弱点もあります。声の調子や表情が伝わらないので、本人にそのつもりがなくても、文字だけだと冷たく・そっけなく受け取られやすいのです。対面なら、申し訳なさそうな表情や、困っている声のトーンも一緒に伝わりますが、文字にはそれが乗りません。
だから、文字で伝えるときは、用件をはっきり書きつつ、クッション言葉を添えて印象をやわらげます。クッション言葉とは、本題の前に置く、相手への配慮のひと言のこと。「お忙しいところすみません」「ご相談なのですが」「恐れ入りますが」などです。たとえば、いきなり「資料、間に合いません」と送るのと、「お疲れさまです。お忙しいところすみません、急ぎのご相談です」と一言置いてから本題に入るのとでは、受け取る印象がまったく違います。
なお、「コミュニケーションは見た目が9割」といった話を聞いたことがあるかもしれませんが、これは元の研究を大げさに広めた言い方で、正確ではありません。話の中身が大事なのは当たり前です。ここで覚えてほしいのは、「見た目が大事」ではなく、「文字だけだと、対面より気持ちや温度が伝わりにくい。だからクッション言葉でおぎなう」という点だけです。
共通の場面:場面で手段を選び、最後に“伝わったか”を確かめる
共通の場面で、手段を選んでみましょう。締め切りは「明日の朝」、今すぐ田中さんの判断がほしい——つまり急ぎです。だとすると、チャットだけ送って既読を待つより、まず田中さんに口頭で「いま3分いいですか」と声をかけて相談し、そこで決まったこと(締め切りを1日延ばす、など)をチャットに残しておくのがベストです。口頭の速さと、チャットの記録、両方が取れます。
もし田中さんが外出中で、その場にいないなら? その場合は、電話をするか、「【至急ご相談】会議資料の納期について」のように、急ぎだと一目で分かる件名でチャットを送ります。もちろん、本文の最初には「お疲れさまです。お忙しいところすみません」とクッション言葉を添えます。
そして、いちばん大事な仕上げがあります。第1章で学んだ背骨——コミュニケーションは“言った”ではなく“伝わった”——を思い出してください。口頭で話したあとも、チャットを送ったあとも、「送った=伝わった」で終わらせない。「ここまでの理解で合っていますか?」と確かめたり、相手の返事や表情を見て、ちゃんと伝わったかを確認する。ここまでやって、はじめてコミュニケーションが「成立」します。
この章の確認(演習)
共通の場面「締め切りに間に合わない資料」を、2つの場面で考えてみてください。
- (A) 今すぐ判断が必要な、急ぎの場合
- (B) 急がない、ただの進捗共有の場合
それぞれについて、「どの手段で伝えるか(対面・電話・チャット・メール、または組み合わせ)」と「最初のひと言(文字で送るなら、その書き出し)」を書いてみます。同じ用件でも、場面が変われば、手段も言葉づかいも変わる——これを自分の手で確かめられたら、ゴールです。
まとめ:コミュニケーションは“言った”ではなく“伝わった”を作ること
おつかれさまでした。「締め切りに間に合わない会議資料を、先輩の田中さんにどう伝えるか」という、たった1つの場面を、コミュニケーションとは何か→誰に→何のために→どんな状況で、と1マスずつ地図に埋めてきました。第1章で空欄だった3つの問いを、ここで振り返ります。
- コミュニケーションとは……自分の言いたいことを一方的に言うことではなく、相手と意味を分かち合い、相手に“伝わって”はじめて成立するもの。だから「言ったか」ではなく「伝わったか」で測る。話し上手かどうかは関係ありません(第1章)。
- 相手(誰に)……伝える相手の「立場・知りたいこと・今の状況」を読む。決めつけず、分からなければ聞いて確かめる。田中さんが知りたいのは、謝罪より「どれくらい遅れる・取り返せるか・手伝いがいるか」(第2章)。
- 目的(何のために)……「相手にどうしてほしいか」を1つに決める。報告か、相談か、お願いか、お詫びか。目的を先に渡せば「で、どうしたいの?」と返されない(第3章)。
- 場面(どんな状況)……急ぎか・記録を残したいか・相手がつかまるかで、手段(対面・電話・チャット・メール)を選ぶ。文字は温度が伝わりにくいので、クッション言葉を添える。そして「送った=伝わった」で終わらせず、伝わったかを確かめる(第4章)。
この4つは、すべて1つの問いに戻ります。「『言った』で終わらせず、相手・目的・場面を見て伝え方を選び、ちゃんと“伝わったか”を確かめられているか?」。この講座でいちばん覚えて帰ってほしいのは、このひと言です——コミュニケーションは“言った”ではなく“伝わった”。伝える前に、相手・目的・場面を見て、伝え方を選ぶ。これが身につくと、田中さんへの第一声も、「田中さん、いま3分いいですか。ご相談です。明日朝の締め切りに間に合いそうになくて、1日いただくか、後半を少し手伝っていただけないか、ご相談したくて」と、相手・目的・場面がそろった一言として、自然に出てくるようになります。
明日の最初の一歩:今日これから誰かに何かを伝える前に、ひと呼吸おいて、①相手(誰に・何を知りたい人か)②目的(自分は相手にどうしてほしいのか)③場面(急ぎか・どの手段か)を、頭の中で1回だけ確認してから話してみてください。たった3つを見るだけで、「で、どうしたいの?」「もっと早く言ってよ」と返される回数が、確実に減っていきます。
そして、この「相手→目的→場面で伝え方を選ぶ」地図を、もっと具体的に使いこなせるようになりたくなったら、その先の道も用意されています。結論から短く伝えるPREP法、報告・連絡・相談を使い分ける報連相、話の筋道を立てるロジカルシンキング、伝わるメールを書くビジネスメール——これらは、今日描いた地図の上に、1つずつ乗せていく”型”です。続きは、無料会員登録で次の講座に進めます。まずはこの「相手→目的→場面」の地図を、自分の手で1枚描けるようにしておきましょう。それが、すべての伝え方の土台になります。
よくある質問
コミュニケーションとは何ですか?
コミュニケーションとは、自分の言いたいことを一方的に言うことではなく、相手と意味を分かち合い「伝わって」はじめて成立するものです。うまくいったかどうかは「自分が言ったか」ではなく「相手に伝わったか」で測ります。
話し上手でなくてもコミュニケーションは上達しますか?
はい。話し上手かどうかではなく、伝える前に「①相手(誰に)→②目的(何のために)→③場面(どんな状況)」の3点を確認して伝え方を選ぶ習慣が、伝わるかどうかを左右します。この3点を押さえれば、口下手でも伝わるようになります。
相手・目的・場面の3点はどの順番で考えればいいですか?
①相手→②目的→③場面の順番が基本です。まず「誰に伝えるか」を出発点にして、次に「何のために伝えるか(報告か相談かお願いか)」を決め、最後に「どの手段で・どんな言葉で届けるか」を選ぶと、伝え方が自然に決まります。
チャットで送ったのに「見てなかった」と言われます。どうすればいいですか?
急ぎの場合はまず口頭(対面または電話)でひと声かけるのが速い伝え方です。口頭で確認したうえで、決まった内容をチャットに記録として残す組み合わせが、速さと記録の両方を取れるためおすすめです。