ABM実践入門 | マナビズ

ABM実践入門

「うちの製品は、少数の大口企業に売れれば十分なんだよ。数を集めるより、あの狙っている企業に確実に食い込む動きに変えたい。ABMをやりたいんだけど、進め方を考えてくれる?」——ある日、上司にそう任されたあなたは、少し困ってしまいました。これまでの仕事は、Web広告やメール配信、資料ダウンロードで見込み客(リード)を大量に集め、営業に渡すことだったからです。しかも、せっかく渡したリードの多くは、営業から「この会社、うちの客じゃない」と戻されてきます。上司の言う「狙っている企業」を聞いても、営業の頭の中にあるだけでリスト化されていないし、選ぶ基準もバラバラ。「ABMをやろう」と号令はかかったものの、最初の一歩——どの企業を対象にして、何を基準に選ぶのか——で手が止まってしまった。そんな経験、ありませんか。

でも、安心してください。手が止まる原因は、知識やセンスの不足ではありません。「広く集めて絞る」から「取りたい企業を先に決めて動く」へ、頭の向きを180度変える地図を持っていないだけです。ABM(アカウントベースドマーケティング)は、ひとことで言えば「取りたい企業(アカウント)を先に決めて、その企業に合わせてマーケと営業が一緒に動く」やり方。多くの見込みを広く集めるのとは、まさに逆の発想で、狙う単位が「個人のリード」から「企業(アカウント)」に変わるのがいちばんの違いです。この講座は、その地図を1枚お渡しします。「ABM やり方」を、抽象論ではなく手を動かす順番でお見せします。

この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。

  1. ABM(アカウントベースドマーケティング)を、従来の「見込み客を広く集めて絞る」やり方と対比して、「取りたい企業を先に決めて、その企業に合わせてマーケと営業が動く」考え方として説明でき、どんな商材に向くか(少数の大口を狙う商材ほど向く)を説明できる
  2. 自社が取りたいターゲットアカウントの選定基準を3軸(事業規模/フィット/タイミング)で言語化して定義でき、その3軸で候補企業を採点してターゲットアカウントのリストを作れる。さらに、選んだ1社の中の意思決定関係者(決裁者/推進担当/現場ユーザー)を洗い出し、関心に合わせてメッセージを出し分けられる
  3. 対象企業ごとに、届けるオファー・マーケと営業それぞれの担当・実施の時期を1枚にまとめた「アカウント別の実行計画」を作成でき、営業と同じ計画を見て「誰が・いつ・何をするか」を合意できる

この講座は最後まで、「勤怠管理クラウド“マナビ勤怠”(架空のBtoB SaaS企業)が、リードを広く集める従来のやり方から切り替えて、本当に取りたい少数の企業を狙い撃ちする」という、たった1つの場面だけで説明します。この同じ題材を、考え方の転換→選定基準3軸→関係者別メッセージ→アカウント別実行計画、と1段ずつ組み上げ、最後に「アカウント別の実行計画1枚」ができあがる流れです。各章末には手を動かす演習もあります。なお、対象選定から実行計画づくり、その先のチャネル設計まで一連で学びたくなったら、有料プランの実務講座で続けて学べます。まずはこの1本で、ABMの実行計画を1枚作れる状態を手に入れましょう。

なお、この講座に出てくる企業名(マナビ勤怠・○○ホールディングス)、従業員数や拠点数、3軸の採点(○△×)、時期や担当分担は、すべて説明のための架空の設定です。実在のサービスや実データではありません。

この講座のポイント

  • ABM(アカウントベースドマーケティング)を、従来の「見込み客を広く集めて絞る」やり方と対比して、「取りたい企業を先に決めて、その企業に合わせてマーケと営業が動く」考え方として説明でき、どんな商材に向くか(少数の大口を狙う商材ほど向く)を説明できる
  • 自社が取りたいターゲットアカウントの選定基準を3軸(事業規模/フィット/タイミング)で言語化して定義でき、その3軸で候補企業を採点してターゲットアカウントのリストを作れる
  • 選んだ1社について、中の意思決定に関わる関係者(決裁者/推進担当/現場ユーザー)を洗い出し、それぞれの関心に合わせてメッセージを出し分けられる
  • 対象企業ごとに、届けるオファー・マーケと営業それぞれの担当・実施の時期を1枚にまとめた「アカウント別の実行計画」を作成でき、営業と同じ計画を見て「誰が・いつ・何をするか」を合意できる

ABMとは何か(“広く集めて絞る”から“取りたい企業を先に決める”への転換)

最初に、「手が止まる」モヤモヤの正体を消しておきましょう。ABMが「従来のやり方と何がどう逆なのか」を掴めば、この後の選定も計画づくりも、ぐっと分かりやすくなります。

この章のゴール

この章を読み終えると、ABM(アカウントベースドマーケティング)を、従来の「見込み客を広く集めて絞る」やり方と対比して、「取りたい企業を先に決めて、その企業に合わせてマーケと営業が動く」考え方として説明でき、どんな商材に向くか(少数の大口を狙う商材ほど向く)を説明できるようになります。

広く集めて絞る従来型と、先に企業を決めるABM

多くのBtoBマーケが慣れているのは、広告や資料ダウンロードで見込み客(リード)を広く大量に集め、その中から見込みの高い人を絞って営業に渡す、という流れです。上が広くて下が狭い漏斗(ファネル)の形をイメージしてください。上から見込み客をたくさん流し込み、下に行くほど絞られて、最後に商談・契約につながる。これがリードジェネレーション(リード獲得)型の発想です。

ABMは、この漏斗を上下逆さまにします。まず「取りたい企業(アカウント)」を先に指名し、その企業に食い込むために、マーケと営業が一緒に働きかける。ABMはアカウントベースドマーケティングの略で、価値の高い特定の企業にリソースを集中し、一社一社を“一つの市場”のように扱う考え方です。広く不特定多数に届けるのとは、まさに逆向き。「ABM やり方」とは、この「取りたい企業を先に決めて動く進め方」のことだと、まず押さえてください。

単位が「個人のリード」から「企業(アカウント)」に変わる

ABMのいちばんの違いは、狙う単位が「個人のリード」から「企業(アカウント)」に変わることです。従来型では「◯◯さんという担当者が資料をダウンロードした」という個人単位で見込みを数えていました。ABMでは「△△という企業に食い込めているか」という企業単位で考えます。

単位が変わると、成果の測り方も変わります。従来型のものさしは「何件リードを集めたか」でしたが、ABMのものさしは「狙った企業に食い込めたか(商談が始まったか、関係づくりが進んだか)」に変わります。リードを大量に集めても、取りたい企業と1社も接点ができていなければ前に進んでいませんし、逆に、リード件数は少なくても狙った企業の中に話を聞いてくれる人が増えていれば、それは前進です。この「取りたいと定めた企業」を、ターゲットアカウントと呼びます。

ABMが向く商材・向かない商材(少数の大口か、数で稼ぐか)

ABMには向き・不向きがあります。判断するときは、次の3つを自分の商材に当ててみてください。

判断の問いABMが向くABMが合いにくい
1社取れれば大きいか、数で稼ぐか1社の契約額が大きい(大口BtoB・高単価SaaS 等)単価が低く、数で稼ぐ
取りたい企業をリスト化できるほど絞れるか対象がある程度絞れる不特定多数が相手
マーケと営業が同じ企業を一緒に追える体制か連携して動ける部門がバラバラに動く

この3つが揃うほど、ABMが効きます。逆に、不特定多数に安く広く売る商材なら、従来のリード獲得のほうが合います。大事なのは、ABMは「どんな商材にも効く万能薬」ではなく、少数の大口を狙う場面で選ぶ手法だと分かっていることです。

リード獲得・需要創出との関係(否定でなく1手法という位置づけ)

ここで1つ、誤解を先回りして潰しておきます。ABMは、従来のリード獲得や需要創出(デマンドジェネレーション)を「やめて置き換えるもの」ではありません。需要創出は買い手がまだ課題に気づく前から市場の関心を育てる働き、リード獲得はその中から購入意欲を見せた人の連絡先をつかむ働きで、この2つは対立せず補い合って商談の流れをつくります。ABMは、その全体の中で「特定の企業を狙う場面で使う1つの手法」という位置づけです。

だから、従来のリード獲得と併用するのが普通で、「ABMを始めたら、これまでのリード獲得は全部やめる」という二者択一ではありません。リード獲得チャネル全体の設計や需要創出の枠組みそのものは、この先に続く別の講座で深掘りします。この章では、まず「ABMは広く集めるのとは逆で、取りたい企業を先に決める1手法」という位置づけを押さえてください。

勤怠管理クラウドで、逆さの発想を掴む

共通例で見てみましょう。自社は「マナビ勤怠」——多拠点の勤怠を一元管理できる勤怠管理クラウドを売るBtoB SaaS企業です。あなたはマーケ3年目。これまでは「勤怠管理 クラウド」で検索した人や資料をダウンロードした人を広く集めて営業に渡していました。ところが集まるのは、従業員が数人の会社や情報収集だけの担当も多く、営業が本当に売りたい「多拠点・大人数で勤怠が煩雑な企業」とはズレています。だから「うちの客じゃない」と戻される。

ABMに切り替えると、順番が逆になります。先に「取りたい企業」——たとえば全国20拠点・従業員300人の小売チェーン「○○ホールディングス」——を名指しで決め、その1社に食い込むために、マーケ(事例送付・説明会の案内)と営業(アポ・提案)が一緒に動く。ゴールは「リードを多く集める」ではなく「○○ホールディングスと商談を始める」に変わります。同じマナビ勤怠を売るのでも、頭の向きがまるで違うのが分かるはずです。

ここでよくあるつまずきが4つあります。①「ABM=ただの大口営業やテレアポの言い換え」と思う——違いは、マーケと営業が“同じ企業”を狙って連携する点です。②「ABMを始めたら従来のリード獲得はやめる」と二者択一で捉える——併用が普通で、使う場面が違うだけです。③単位が「企業」に変わったのに、成果をリード件数で測り続ける——ものさしを「食い込めたか」に変えないと、動きが変わりません。④どんな商材にも効くと思う——少数の大口向きで、数で稼ぐ商材には不向きです。この4つを避けられれば、第2章からの選定に進む土台ができています。

この章の確認(演習)

自社(または身近なBtoB商材)を思い浮かべて、次の2つを書いてください。まず、その商材が「1社取れれば大きい/数で稼ぐ」のどちらかを1行で判断し、ABMが向くか向かないかを、その理由とともに書きます。次に、従来の「リードを集める」やり方と、ABMの「取りたい企業を先に決める」やり方とで、成果の測り方がどう変わるかを、1〜2行で対比してみましょう。「単位=企業/成果=食い込めたか」への頭の切り替えを、自分の商材の言葉で言えたら、この章はゴールです。

ターゲットアカウントの選定基準を3軸で定義する(事業規模/フィット/タイミング)

頭の向きが変わったら、いよいよABMの一歩目です。「取りたい企業を先に決める」と言っても、勘で選んでいては始まりません。この章では、選ぶ基準を言葉にして、候補を採点し、ターゲットアカウントのリストを作ります。

この章のゴール

この章を読み終えると、自社が取りたいターゲットアカウントの選定基準を3軸(事業規模/フィット/タイミング)で言語化して定義でき、その3軸で候補企業を採点してターゲットアカウントのリストを作れるようになります。

営業の勘でなく言葉にした基準で選ぶ

ABMの一歩目は、「取りたい企業をどう選ぶか」を、営業の頭の中の感覚でなく言葉にした基準にすることです。「狙っている企業」が営業一人ひとりの頭の中にあるだけだと、選ぶ人によって答えがブレますし、担当が代わったら引き継げません。基準を言葉にしておけば、誰が見ても同じ企業を「狙うべき1社」と選べます。これがリスト化の前提です。

選定基準の3軸:事業規模・フィット・タイミング

選定基準は、3つの軸で定義するのがおすすめです。この3軸は「これが唯一の正解」という公式の型ではなく、手を動かして選べるようにするための、選び方の一例です。3軸を並べると、次のようになります。

何を見るか具体的な問い
事業規模自社の製品単価・想定契約額に見合う規模か従業員数・売上・拠点数などで、「取れたら大きい」と言える下限を数字で置けるか
フィット自社の強みが刺さる課題を持っているかその企業は、自社が解ける“痛み”を抱えている業種・事業構造か
タイミング今動く兆しがあるか拡大・組織変更・制度改定・既存の不満など、“今なら話を聞いてもらえる”サインがあるか

ここで一番大事なのは、規模が大きいだけでは選ばないということです。ABMは「価値の高い企業=自社が価値を出せる相手」に集中する考え方なので、フィット(自社の強みが刺さるか)とタイミング(今動く兆しがあるか)を必ず一緒に見ます。タイミングについては、「拠点を増やした」「法改正への対応が要る」「今のやり方に不満が出ている」といった、今なら話を聞いてもらえるサインを探します。こうした兆しをネット上の行動データ(自社カテゴリを調べている等)から捉える「インテントデータ」という仕組みもありますが、まずはツールに頼らず、公開情報やニュースから“今動く兆し”を拾えれば十分です。

3軸で採点してターゲットアカウントをリスト化する

3軸を決めたら、候補企業を1社ずつ採点します。各軸を○△×の3段階でつけるのが分かりやすいでしょう(この○△×は、選び方を説明するための作り物です)。そして、3軸が揃う企業から、ターゲットアカウントのリストを作ります。

このとき、多く選びすぎないのがコツです。ABMは1社ごとに手をかけるやり方なので、100社を対象にすると回りません。まずは狙う数社から十数社に絞ります。「絞りすぎかな」と感じるくらいで、ちょうどよいと考えてください。

勤怠管理クラウドで、3軸を言語化する

共通例のマナビ勤怠で、3軸を言葉にしてみましょう。

  • 事業規模=従業員100人以上・複数拠点。1拠点・数人の会社は、月額の契約額が製品単価に見合わないので外します。
  • フィット=拠点ごとに勤怠のやり方がバラバラで、集計コストや打刻ミスが出ている業種。小売・飲食チェーンや多店舗サービス業など、マナビ勤怠の「多拠点一元管理」が刺さる相手です。
  • タイミング=直近で拠点や人員を増やした、または法改正への対応が必要。勤怠の見直しが起きやすい瞬間です。

この3軸で候補を採点すると、次のようになります(企業名・数値・採点はすべて架空の設定です)。

候補企業事業規模フィットタイミング判定
○○ホールディングス(全国20拠点・従業員300人・小売・昨年5拠点増)最優先のターゲットアカウント
従業員10人・1拠点のIT企業×規模で外す
従業員500人・単一オフィスのメーカー×今は後回し

○○ホールディングスは3軸すべて○なので、狙う1社目に決めます。従業員10人・1拠点のIT企業は規模が×なので外します。こうして採点表から、たとえば「狙う10社」をリスト化していきます。ポイントは、規模だけを見ていたら「従業員500人のメーカー」も候補に見えてしまうところを、フィットとタイミングまで見て順位をつけている点です。

3軸で選ぶ手順(下限を置く→フィットを言葉に→兆しを挙げる→採点→絞る)

自分の商材でやるときの手順を、5ステップにまとめます。

  1. 「取れたら大きい」と言える事業規模の下限を数字で置く(従業員・売上・拠点数など)
  2. 自社の強みが刺さるフィットの条件を、業種・課題の言葉で書く(“規模だけで選ばない”ための核)
  3. “今動く兆し”=タイミングのサインを挙げる(拡大・組織変更・制度対応・既存の不満)
  4. 候補企業を3軸で採点する(○△×など)
  5. 3軸が揃う企業から、狙う数社〜十数社をリスト化する(絞りすぎるくらいでよい)

ここでよくあるつまずきが4つあります。①「大きい企業=良いターゲット」と規模だけで選ぶ——フィットとタイミングが抜けると、大きいけれど自社の強みが刺さらない企業を追ってしまいます。②基準を作らず営業の勘だけでリスト化する——人によってブレて、引き継げません。③最初から数十〜百社を対象にする——1社ごとに手をかけるABMでは回らないので、まず絞ります。④タイミングを無視して「良い企業」を延々追う——今動く兆しがない企業は、いったん後回しでかまいません。

この章の確認(演習)

自社(または身近なBtoB商材)で、選定基準の3軸を言語化してください。①事業規模の下限(数字で)、②フィット(業種・刺さる課題)、③タイミング(今動く兆し)の3つを、それぞれ1〜2行で書きます。次に、候補企業を3社挙げて、3軸で○△×の採点をし、最優先の1社を選んで「なぜこの企業か」を3軸の言葉で説明してみましょう。共通例の採点表と同じ形で、自分の商材版の採点表が1つできれば、この章はゴールです。この採点表は、第3章・第4章でそのまま使います。

アカウント内の関係者を洗い出しメッセージを出し分ける(決裁者/推進担当/現場ユーザー)

狙う1社が決まりました。でも、「企業を狙う」といっても、実際に動くのは、その中にいる人です。この章では、1社の中の関係者を洗い出し、それぞれに響く言葉を出し分けます。

この章のゴール

この章を読み終えると、選んだ1社について、中の意思決定に関わる関係者(決裁者/推進担当/現場ユーザー)を洗い出し、それぞれの関心に合わせてメッセージを出し分けられるようになります。

企業を狙うが、動くのは中の人(複数の関係者が別々の関心で関わる)

BtoBの購入は、1人では決まりません。特に規模の大きい企業では、複数の関係者が、それぞれ別々の関心で関わります。お金を出す判断をする人、導入を実際に進める人、日々使う人——この人たちが、それぞれの立場から「これは自分たちにとって良いか」を見て、全員が納得して初めて話が進みます(この「購入に関わる人たちのまとまり」を、購買委員会と呼ぶこともあります)。

だから、企業を狙うと決めたら、その中の「誰が」「何を気にして」判断するのかを分けて考える必要があります。窓口の担当者1人と話しているだけでは、裏にいる決裁者や現場が抜けてしまい、話が途中で止まります。

関係者を3種で捉える(決裁者/推進担当/現場ユーザー)

関係者は、まず次の3種類で捉えると分かりやすいです。

関係者どんな人か何で判断するか
決裁者最終的にお金を出す判断をする人コスト・全社最適・投資に見合うか
推進担当導入を実際に進める人既存システムとの連携・移行の手間・実現できるか
現場ユーザー日々その製品を使う人使いやすいか・日々の手間が減るか

この3者は、見ている所がまるで違います。決裁者は「会社全体でコストに見合うか」、現場は「自分の毎日が楽になるか」、推進担当は「今の仕組みと繋がるか、移行が大変ではないか」を気にします。同じ製品でも、刺さるポイントが3者3様なのです。

全員に同じ資料は誰にも刺さらない(関心ごとに言葉を分ける)

ここが、この章で一番覚えて帰ってほしいところです。3者の判断軸が違う以上、全員に同じ資料を送っても、誰にも刺さりません。決裁者向けの「コスト削減」の話を現場に見せても「自分には関係ない」と感じますし、現場向けの「操作が楽」の話を決裁者に見せても「それで会社にいくらメリットがあるの」と刺さりません。だからABMでは、1社の中で関係者ごとに“響く言葉”を出し分けます。決裁者にはコスト・経営への効果、推進担当には連携・移行の安心、現場には日々の楽さと、同じ製品を相手の関心に翻訳して届けるわけです。

勤怠管理クラウドで、関係者を洗い出す

共通例の○○ホールディングスの中を洗い出してみましょう(役職・関心・メッセージはすべて架空の設定です)。

関係者(役割)立場と関心届けるメッセージ(響く一言)
管理部長(決裁者)20拠点分の勤怠集計にコストと残業がかかっているのを何とかしたい多拠点の勤怠を一元化して、集計コストと打刻ミスを減らせます
情報システム担当(推進担当)今の給与システムとの連携や、移行の手間が心配既存の給与システムと連携でき、移行の負担を抑えられます
各店舗の店長・スタッフ(現場ユーザー)紙のタイムカードと月末の締め作業が面倒スマホで打刻でき、月末の締め作業が楽になります

同じマナビ勤怠でも、管理部長に「打刻が楽になります」と言っても響かず、現場に「集計コストが削減できます」と言っても響きません。関係者×関心でメッセージを分けるからこそ、社内の複数の人が、それぞれ「これは自分ごとだ」と感じて動いてくれるのです。

関係者別メッセージの手順(洗い出す→関心を1行→書き分ける→1社1枚に並べる)

自分の商材でやるときの手順は、次の4ステップです。

  1. 狙う1社の中で、この導入に関わりそうな人を役割で洗い出す(決裁者/推進担当/現場ユーザーを、最低ひとりずつ)
  2. それぞれが「何で判断するか(関心)」を1行で書く(コスト/連携・移行/使いやすさ など)
  3. その関心に合わせて、届けるメッセージ(響く一言)を関係者ごとに書き分ける
  4. 「誰に・何を届けるか」を、1社1枚のメモに並べる(これが第4章の実行計画の材料になります)

ここでよくあるつまずきが4つあります。①窓口の1人だけを相手に進める——決裁者や現場が抜けて、話が途中で止まります。②全関係者に同じ資料・同じ売り文句を送る——誰にも刺さりません。③現場の使いやすさばかり訴えて、決裁者のコスト観点が抜ける——承認が下りません。④関係者を役職名だけで並べて「何で判断するか」を書かない——書かないと、メッセージを分けられません。役職名の隣に、必ず「何で判断するか」を1行添えてください。

この章の確認(演習)

第2章で選んだ最優先の1社(自社の商材の場合)について、関わりそうな関係者を、決裁者/推進担当/現場ユーザーの3種で洗い出してください。それぞれに「何で判断するか」を1行、「届けるメッセージ(響く一言)」を1本ずつ書きます。共通例の○○ホールディングスの3者と同じ形で、自社版の「関係者×関心×メッセージ」の表を1つ作りましょう。窓口1人でなく3種を洗い出し、関心ごとに言葉を分けられたら、この章はゴールです。

アカウント別の実行計画を1枚に作成する(誰が・いつ・何をするか)

対象の1社(第2章)と、関係者別メッセージ(第3章)が揃いました。最後は、これを「で、誰が・いつ・何をするか」という1枚の実行計画にまとめます。この章で、ABMの実行計画を1枚作り切ります。

この章のゴール

この章を読み終えると、対象企業ごとに、届けるオファー・マーケと営業それぞれの担当・実施の時期を1枚にまとめた「アカウント別の実行計画」を作成でき、営業と同じ計画を見て「誰が・いつ・何をするか」を合意できるようになります。

対象と関係者別メッセージが揃ったら「誰が・いつ・何を」を1枚にする

ここが、ABMが従来のリード獲得と決定的に違う所です。従来型は「マーケが集めて営業に丸投げ」でしたが、ABMではマーケと営業が“同じ企業”を“同じ計画”で追います。そのために、対象・メッセージが揃ったら、最後は「誰が・いつ・何をするか」を1枚の紙にして、営業と一緒に見て合意します。この1枚があるから、マーケと営業が別々に動くのではなく、1社に向かって足並みを揃えられるのです。

1枚に載せる6項目(対象・選定理由・関係者メッセージ・オファー・担当・時期)

実行計画の1枚には、次の6項目を載せます。

項目何を書くか
①対象企業狙う1社の名前
②選定理由3軸(事業規模/フィット/タイミング)のどれに当たるか
③関係者と各メッセージ第3章で作った「関係者×関心×メッセージ」
④届けるオファー何を渡すか(事例資料・説明会の案内・個別提案 など)
⑤担当マーケ/営業のどちらがやるか
⑥時期いつ・どの順でやるか

④の「届けるオファー」は、相手に手渡す“中身”です。たとえば、多拠点導入の事例をまとめた資料(ホワイトペーパー)を送る、業種別のオンライン説明会に招く、決裁者向けに個別の提案をする、といったものです。こうした資料そのものの作り込みは、この先に続く別の講座(ホワイトペーパー作成)で深掘りします。この章では、「何を渡すかを決めて、計画に載せる」ところまでを押さえてください。

マーケが“材料”を作り営業が“人”に会う(役割で分けて時期を並べる)

6項目を埋めるとき、⑤担当と⑥時期の並べ方にコツがあります。順番は「まず関心を持ってもらう→関係者を増やす→商談へ」と上流から下流へ。そして役割で分けます。マーケが“場”や“材料”を作り(事例資料の送付・説明会の案内・特定企業向けのメッセージ)、営業が“人”に会いに行く(決裁者へのアポ・個別提案)。マーケが上流で関心をつくり、その温まった相手に営業が会いに行く——この受け渡しを時期の流れに沿って1枚に描くのが、実行計画づくりの中心です。

勤怠管理クラウドで、実行計画を1枚にする

共通例の○○ホールディングスで、実行計画を1枚にしてみましょう(時期・担当・オファーはすべて架空の設定です)。

項目内容
①対象企業○○ホールディングス
②選定理由3軸すべて○(従業員300人・多拠点/小売で勤怠バラバラ/昨年5拠点増)
③関係者と各メッセージ管理部長=集計コストと打刻ミスを減らす/情シス=既存システムと連携し移行負担を抑える/店長・現場=スマホ打刻で締め作業が楽
④届けるオファー多拠点導入事例の資料送付+小売向けオンライン説明会の案内+管理部長向け個別提案
⑤担当マーケ=資料送付・説明会案内/営業=管理部長へのアポ・個別提案
⑥時期1週目:マーケが資料送付・説明会案内/2〜3週目:営業が管理部長にアポ/説明会後:情シス・現場も巻き込み個別提案へ

この1枚を営業部長と共有し、「この企業に、誰が、いつ、何をするか」を口頭でなく紙で合意します。マーケが1週目に資料と説明会で関心をつくり、2〜3週目に営業が管理部長にアポを取り、説明会をきっかけに情シスや現場も巻き込んで個別提案へ進む——この流れが1枚に描かれているから、両者が同じ企業を協働で追えます。この1社分の型ができたら、第2章で作ったリストの次の企業へ、同じ6項目の型を横展開していきます。

実行計画の手順(転記→オファーを決める→担当を振る→時期を並べる→合意→次の企業へ)

自分の商材でやるときの手順は、次の6ステップです。

  1. 第2〜3章の材料(対象・3軸の選定理由・関係者別メッセージ)を1枚に転記する
  2. 各関係者に「何を届けるか(オファー)」を決める(事例資料・説明会・個別提案 など)
  3. 各オファーを「マーケ/営業どちらの担当か」で振り分ける
  4. 「いつ・どの順でやるか(時期・順番)」を、上流(関心づくり)から下流(商談)へ並べる
  5. この1枚を営業と一緒に見て、担当と時期を合意する
  6. 1社分ができたら、ターゲットリストの次の企業へ、同じ型で横展開する

ここでよくあるつまずきが4つあります。①計画を作っても営業と共有せず、マーケだけで動く——「集めて丸投げ」に逆戻りで、企業に食い込めません。②オファー(届けるもの)を決めず「連絡する」で止まる——何を渡すかが無いと、動きようがありません。③担当と時期を書かず「そのうちやる」にする——書かないと、実行されません。④1枚に全部盛り込みすぎて重くする——まずは1社・6項目のシンプルな型から始めます。⑤1社目で完璧を目指して横展開まで進まない——型を作って次の企業へ回すのが、ABMの回し方です。

この章の確認(演習)

第2〜3章で選んだ自社の最優先1社について、6項目(対象/選定理由=3軸/関係者別メッセージ/オファー/担当=マーケ・営業/時期)を埋めて、アカウント別実行計画を1枚作ってください。共通例の○○ホールディングスの1枚と同じ形でかまいません。次に、その計画を「営業に見せて合意する」と仮定して、営業から出そうな質問——「この企業で本当に合っているのか」「誰が最初に動くのか」——に、1〜2行で答えられるように準備しておきましょう。対象・関係者・オファー・担当・時期を1枚に統合し、営業と合意できる形にできたら、この章はゴールです。

まとめ:ABMは“広く集めて絞る”の逆。取りたい企業を先に決め、フィットとタイミングで選び、関係者ごとに言葉を変え、1枚で営業と動く

おつかれさまでした。「マナビ勤怠が○○ホールディングスを狙い撃ちする」という1つの場面を、考え方の転換→選定基準3軸→関係者別メッセージ→アカウント別実行計画と、1段ずつ組み上げてきました。最後に、「ABM やり方」の全体像を、ABM実行の4ステップとして1枚に振り返ります。

  1. 考え方の転換……広く集めて絞るのではなく、取りたい企業を先に決める。単位は「個人のリード」から「企業(アカウント)」へ、成果は「何件集めたか」から「狙った企業に食い込めたか」へ。少数の大口を狙う商材ほど向く(第1章)
  2. 選定基準3軸……事業規模/フィット/タイミングで候補を採点してリスト化する。規模だけで選ばず、フィットとタイミングを必ず含める。まずは数社〜十数社に絞る(第2章)
  3. 関係者別メッセージ……1社の中の決裁者(コスト)/推進担当(連携・移行)/現場ユーザー(使いやすさ)を洗い出し、関心ごとに言葉を出し分ける。全員に同じ資料は誰にも刺さらない(第3章)
  4. アカウント別実行計画……対象・選定理由・関係者メッセージ・オファー・マーケと営業の担当・時期の6項目を1枚にして、営業と合意する。1社できたら次の企業へ横展開(第4章)

この4つは、すべて1つの合言葉に戻ります——「ABMは“広く集めて絞る”の逆。取りたい企業を先に決め、規模だけでなくフィットとタイミングで選び、関係者ごとに言葉を変え、1枚で営業と動く」。対象の選び方も、メッセージの分け方も、計画の立て方も、判断の軸はいつもこれです。この地図さえあれば、「ABMをやろう」の号令に圧倒されて手が止まることは、もうありません。

明日の最初の一歩:自社(自部門)が本当に取りたい企業を思い浮かべ、①選定基準の3軸(事業規模の下限・フィットの条件・タイミングのサイン)を言葉にする ②候補を3社採点して、最優先の1社を選ぶ ③その1社の関係者を、決裁者/推進担当/現場で洗い出し、メッセージを1本ずつ書く ④6項目のアカウント別実行計画を紙1枚に埋める——ここまでを紙1枚に書き出してみてください。狙う企業への設計図が、1枚できあがります。

ABMは、需要創出という大きな流れの中の1手法です。この先には、BtoBのリード獲得チャネル全体を4象限で設計する話、リード獲得のためのホワイトペーパー作成、そしてデマンドジェネレーション(需要創出)の3段階とKPIの枠組みを深掘りする講座が続きます。本講座は、その中でも「特定の企業を狙うABMの実行計画を1枚作れる状態まで」に絞ってお届けしました。対象選定から実行計画づくり、その先のチャネル設計までを一連で学び、実務で回せるようになりたくなったら、その先の道も用意されています。続きは有料プランで学べます。まずは今日の4ステップで、狙う1社への実行計画1枚を、自分の手で作ってみてください。

監修
マナビズ編集部

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