「自分がやれば早いんだけど、それだと休めない」——後輩や新しいメンバーに業務を渡そうとして、口で説明し、メモを渡し、それでも質問が来て、結局自分でやり直した。実務担当者やチームのリーダーなら、一度は経験があるのではないでしょうか。手順書を作れと言われても、何をどこまで書けばいいのか分からず、書き出すと長くなりすぎて途中で挫折した、という声もよく聞きます。
けれども手順書(SOP)は、うまい文章を書くことではありません。目的は、「誰がやっても同じ結果を出せる」ようにすること、ただそれだけです。実際、SOP(Standard Operating Procedure)とは、業務を行うための段階的な手順を文書にしたもので、担当者が「正確かつ一貫して」作業を実行し、同じ品質の結果を出せるようにするための道具だとされています(出典:The FDA Group「SOP の書き方ガイド」)。この「同じ結果の再現」という一点さえ外さなければ、手順書は決まった型どおりに進めるだけで、1業務分は誰でも書き上げられます。
この講座で持ち帰ってほしい型は、「目的・対象・粒度・完了の基準を決める → 標準書式の空欄を埋める → 手順は動詞で始め、1ステップ1動作で書く → 他人がやって同じ結果になるかで見直す」の4ステップです。終えると、良い手順書と使われない手順書の違いを説明でき、標準書式に沿って1業務分の手順を書き出せて、書いたものを再現性の観点で見直して直せるようになります。全章を通して、「請求書の発行と送付」という1つの業務を、後輩の誰がやっても同じ結果になるよう手順書に書き起こしていく場面を、共通の題材として追いかけます。
ひとつだけ先にレーンをお伝えします。本講座は「1つの業務を選んだあと、それを1本の手順書に書き上げる」実務に絞ります。そもそもどの業務を手順書化すべきかの選び方は業務棚卸しの進め方、手順書の前に業務の流れを図にする方法は業務フロー図の書き方、手順書化を含めた標準化の計画は業務標準化の進め方、そして手順書を脱属人化の中にどう位置づけるかは脱属人化の進め方が、それぞれの正本です。本講座は、そこには踏み込みません。
この講座のポイント
- 「誰でも同じ結果を出せる手順書」が満たすべき条件——目的・対象読者・粒度・完了の判断基準——を、自分の言葉で説明できる。
- 手順書の標準書式の各項目が「何を書く場所か」を説明でき、共通例の業務でその空欄を埋められる。
- 手順ステップを「動詞で始める」「1ステップ1動作」「順番どおり」「分岐は明示」の4ルールで書き出せる。
- 完成した手順書を再現性の観点で見直し、あいまいな記述を具体的な記述に直せる。
使われる手順書と使われない手順書は何が違うか
この章のゴール
「誰でも同じ結果を出せる手順書」が満たすべき条件——目的・対象読者・粒度・完了の判断基準——を、自分の言葉で説明できる。
手順書の目的は「同じ結果を再現すること」
まず押さえたいのは、手順書のゴールは「作業を全部書き出すこと」ではなく、「誰がやっても同じ結果が出ること」だという点です。前述のとおり、SOP の目的は、担当者が正確かつ一貫して作業を行い、均一な品質の結果を達成することにあります(出典:The FDA Group)。つまり手順書は、読む人が変わっても成果物が変わらないための設計図です。
だからこそ、手順書は「自分が読み返すためのメモ」ではなく、実際に使う人の視点から、実用的に書くべきだとされています(出典:The FDA Group)。あなたにとっての当たり前が、初めてやる人には当たり前ではない——ここが出発点です。
使われない手順書の典型——長すぎる・あいまい・その人にしか読めない
使われない手順書には、共通のパターンがあります。1つ目は、長すぎること。思いついたことを全部書き込んで、読む気が失せる分量になっています。2つ目は、あいまいなこと。「請求書を確認する」とだけ書いてあり、何を確認するのかが読む人に伝わりません。3つ目は、その人にしか読めないこと。社内でしか通じない略語や、自分だけが知っている前提が説明なしに使われています。
ここで大事なのは、「詳しく書くほど良い」わけではないという点です。品質マネジメントの国際規格でも、文書は「必要な程度まで」維持すればよく、量は望む結果に対して適切なものにすべきだとされています(出典:日本規格協会「ISO 9001:2015 文書化した情報の要求事項について」参考訳)。詳しさは目的ではなく、あくまで「同じ結果になるか」が基準です。
良い手順書が満たす4つの条件
では、良い手順書は何を満たしているのか。次の4つで整理できます。ひとつ、目的——何のための作業か。ふたつ、対象読者——誰が読む前提か。みっつ、粒度——どこまで細かく書くか。よっつ、完了の判断基準——どうなったら終わりか。使われない手順書は、たいていこの4つのどれかが抜けています。
共通例の「請求書の発行と送付」で見てみましょう。目的は「取引先に正しい金額を、決められた期日までに請求すること」。対象読者は「経理を初めて担当する新人」。粒度は、その新人が迷わない程度、たとえば「どの画面のどのボタンを押すか」まで。完了の判断基準は「請求書が送付済みとして記録された状態」。この4つが決まっていれば、あとの手順は自然と定まります。逆に、目的や対象読者を決めずにいきなり作業を書き始めると、粒度がぶれて長すぎたり足りなかったりします。なお、そもそもどの業務を手順書にすべきかを選ぶところから始めたい場合は、業務棚卸しの進め方が正本です。本講座は、業務を1つ選んだあとの「書き方」に絞ります。
この章の確認(演習)
自分の担当業務を1つ選んでください。そのうえで、①目的(何のための作業か)②対象読者(誰が読む前提か)③粒度(どこまで細かく書くか)④完了の判断基準(どうなったら終わりか)を、それぞれ1行ずつ書き出してみましょう。この4行が、次の章で作る手順書の土台になります。
手順書の標準書式に沿って書く
この章のゴール
手順書の標準書式の各項目が「何を書く場所か」を説明でき、共通例の業務でその空欄を埋められる。
毎回ゼロから作らない——決まった型を埋める
手順書づくりで挫折する人の多くは、白紙から書こうとします。そうではなく、決まった型(書式)を用意して、空欄を埋めていくと考えると、ぐっと楽になります。型があると、書く側は「何を書き忘れたか」がすぐ分かり、読む側も「知りたいことがどこにあるか」を同じ場所で探せます。
実際、手順書の実務ガイドでも、効果的な手順書に含める要素として、タイトル(文書番号・版)、目的、適用範囲、参照文書、用語の定義、役割と責任、手順、付録、改訂履歴、承認、といった構成が示されています。ただしこれは「企業が自分のニーズに合わせて適応できるモデル」で、絶対の固定フォーマットではないとも述べられています(出典:The FDA Group)。そこで本講座では、一般の業務ですぐ使えるよう、次の7項目に絞った書式を土台にします。
手順書の7項目——各欄に何を書くか
型は次の7項目です。ひとつ、タイトル——業務名を一目で分かる言葉で。ふたつ、目的——何のための作業かを1〜2文で。手順書の実務ガイドでも、目的は1〜2文にとどめ、読めば何をカバーするかが分かる程度にすべきだとされています(出典:The FDA Group)。みっつ、対象と前提条件——誰が読む前提で、始める前に何が済んでいる必要があるか。よっつ、必要なもの・環境——使うシステムや書類、権限。いつつ、手順ステップ——実際の作業手順(次の章で詳しく扱います)。むっつ、完了チェック——どうなったら終わりかの判断基準。ななつ、注意・例外——間違えやすい点や、例外が起きたときの対処。
適用範囲や前提を書くときのコツは、「解釈の余地を残さない」ことです。手順書の実務ガイドでも、範囲は解釈の余地が残っていないかを自問して確かめ、該当する人・しない人を明確にすることで全員が同じ理解の出発点に立てるとされています(出典:The FDA Group)。また、社内用語や略語は「用語の定義」として説明を添えます。自分に馴染みのある言葉でも、読む人には馴染みがないかもしれないからです(出典:同上)。
共通例でスケルトンの空欄を埋める
「請求書の発行と送付」を7項目に当てはめてみます。タイトルは「請求書の発行と送付」。目的は「取引先に正しい金額を期日までに請求し、送付記録を残す」。対象と前提は「経理システムのログイン権限を持つ担当者。今月の請求対象がすでに確定していること」。必要なものは「経理システム、請求先一覧、送付用のメールまたは郵送の宛先情報」。完了チェックは「請求書が送付済みとして経理システムに記録されていること」。注意・例外は「金額に誤りを見つけたら送付せず上長に確認する」。手順ステップだけを空欄のまま残せば、骨格はもう完成です。ポイントは、いきなり手順ステップから書き始めないこと。目的や前提を先に埋めるからこそ、手順の粒度がぶれずに済みます。
この章の確認(演習)
第1章で選んだ業務について、7項目のうち「手順ステップ」以外の6項目を、先に埋めてみましょう。タイトル・目的・対象と前提・必要なもの・完了チェック・注意/例外の6つです。手順ステップは次の章で書くので、ここでは空欄のままで構いません。
手順ステップの書き方——動詞で始め、1ステップ1動作
この章のゴール
手順ステップを「動詞で始める」「1ステップ1動作」「順番どおり」「分岐は明示」の4ルールで書き出せる。
手順ステップの4つのルール
手順ステップは、次の4つを守るだけで、ぐっと読みやすくなります。ひとつ、動詞で始める。「〜する」で終わる行動の文にします。手順書の実務ガイドでも、「identify(特定する)」「evaluate(評価する)」「review(確認する)」のような単純な行動動詞は、解釈を要さずに意図が伝わるとされています(出典:The FDA Group)。ふたつ、1ステップ1動作。1つの文に複数の作業を詰め込まず、動作ごとに行を分けます。みっつ、順番どおり。上から順にやれば終わる並びにします。よっつ、分岐は明示。判断が必要な箇所は「もし〜なら〜する」と条件を書き出します。
避けたいのは、あいまいな言葉です。手順書の実務ガイドでは、「適宜」「必要に応じて」のように具体的な意味を持たない一般語は、一貫した実行を強制できず、手順書本来の目的に反すると指摘されています(出典:The FDA Group)。判断を読む人に丸投げする言葉は、再現性を壊します。
悪い例を良い例に書き直す
「請求書の発行と送付」の手順を例に、書き直してみましょう。悪い例はこうです——「請求書を確認して送付する」。これでは、何を確認するのか、どう送るのかが分かりません。1文に複数の動作も入っています。良い例に直すと、こうなります。「①経理システムにログインする。②今月の請求先一覧を開く。③請求先ごとに、契約金額と請求金額が一致しているか照合する。④一致していれば請求書を発行する。⑤発行した請求書を、宛先情報に沿って送付する。⑥送付済みとして経理システムに記録する」。動詞で始まり、1ステップ1動作になり、上から順にやれば終わります。
判断が要る箇所は、分岐で書きます。たとえば③で金額が一致しない場合、「もし契約金額と請求金額が一致しなければ、送付せず上長に確認する」と条件を明示します。こう書けば、初めての人でも判断に迷いません。言葉だけで足りないところは、画面のスクリーンショットを添えると、さらに親切です。なお、複数の担当者をまたぐ業務では、先に業務全体の流れを図にしてから手順に落とすと書きやすくなります。その流れを図にする方法は、業務フロー図の書き方で扱います。本講座は、流れを言葉の手順に落とす側を担います。
この章の確認(演習)
第2章で埋めた書式の「手順ステップ」欄を、動詞始まり・1ステップ1動作で、最後まで書き切ってみましょう。判断が要る箇所があれば、「もし〜なら〜する」の形で分岐を書き加えます。「適宜」「必要に応じて」という言葉を使いたくなったら、それは判断基準を書き切れていない合図です。
書いた手順書を「他人がやって同じ結果になるか」で見直す
この章のゴール
完成した手順書を再現性の観点で見直し、あいまいな記述を具体的な記述に直せる。
手順書は書いて終わりではない
手順書は、書き上げた瞬間に完成、ではありません。「その通りにやったら、本当に同じ結果になるか」を確かめて、初めて使える道具になります。手順書の実務ガイドでも、従業員がその手順を理解できているかをテスト・評価する仕組みを含めるべきだとされています(出典:The FDA Group)。実際、「書かれた手順に従えていない」ことは、現場でよく指摘される問題の代表格です(出典:同上)。書いただけで実作業と食い違ったままの手順書は、かえって混乱のもとになります。
セルフチェックの4つの観点
他人に渡す前に、自分で次の4つを確認しましょう。ひとつ、用語の説明があるか。社内用語や略語に、初めての人でも分かる説明が添えてあるか。ふたつ、判断を丸投げした言葉がないか。「適宜」「たぶん」「必要に応じて」で済ませた箇所が残っていないか。みっつ、完了の判断基準が書いてあるか。どうなったら終わりかが明確か。よっつ、実際になぞれるか。自分が初めての人になったつもりで、上から順に読んでその通り動けるか。
たとえば「金額を確認する」という1文は、あいまいなままです。「何と何を照合するのか」が抜けているからです。これを「契約書に記載された契約金額と、経理システムに入力された請求金額が一致しているかを照合する」と直せば、誰がやっても同じ確認ができます。あいまいな1文を、何と何をどうするかまで具体化する——これが見直しの基本動作です。
他人になぞってもらい、運用しながら直し続ける
いちばん確実なのは、実際に別の人に手順書だけを渡してやってもらい、詰まった箇所を直すことです。作った本人には見えない「暗黙の前提」が、そこで初めて表に出ます。そして手順書は、業務のやり方が変わるたびに見直して更新し続けるものです。品質マネジメントの規格でも、手順書のような「維持する文書」は、最新の状態を保つために定期的に見直し・改訂し、どれが最新版かを管理して最新版だけを使うべきだ、という考え方が示されています(出典:日本規格協会「ISO 9001:2015 文書化した情報の要求事項について」参考訳/JIS Q 9002:2018)。更新したら、いつ・どこを変えたかを改訂履歴に残しておくと、どれが最新かで迷いません。
こうして書いて・見直して・直した手順書が1本できれば、それはもう「あなたがいなくても回る業務」の第一歩です。作った手順書を業務全体の標準化計画に組み込むステップは業務標準化の進め方、手順書が脱属人化のどの位置にあるのかを俯瞰したい場合は脱属人化の進め方が正本です。
この章の確認(演習)
第3章までで書いた手順書を、セルフチェックの4観点(用語の説明・判断の丸投げ語・完了基準・実際になぞれるか)で見直してください。そのうえで、あいまいな1文を少なくとも1つ見つけ、「何と何をどうするか」まで具体的な記述に直しましょう。ここまでできれば、1業務分の手順書が完成です。
まとめ
手順書(SOP)の目的は、うまく書くことではなく、「誰がやっても同じ結果を出せる」再現性でした。良い手順書は、目的・対象読者・粒度・完了の判断基準の4条件を満たしています。作るときは白紙から書かず、7項目の標準書式(タイトル/目的/対象と前提/必要なもの/手順ステップ/完了チェック/注意・例外)の空欄を埋めます。手順ステップは、動詞で始め、1ステップ1動作で、順番どおりに並べ、判断が要る箇所は「もし〜なら」で分岐を明示します。そして書いたら、「他人がやって同じ結果になるか」で見直し、あいまいな記述を具体的な記述に直す。この4ステップで、1業務分の手順書を最後まで書き上げられます。
明日からの一歩は、いま自分の頭の中にしかない業務を1つ選び、この7項目書式に沿って手順書を1本、最後まで書き切ってみることです。1本書ければ、2本目からはずっと速くなります。さらに進んで、その手順書を業務標準化の計画に組み込むステップへ踏み出したい方は、業務標準化の進め方が次のステップです。
本講座の特典として、7項目の標準書式スケルトンと、見直し用のセルフチェックリストを1枚にまとめた「手順書の標準書式テンプレート」をご用意しています。空欄を埋めるだけで1業務分の手順書が書き上がるこのテンプレートの入手案内は、有料プランからご確認ください。
よくある質問
手順書とマニュアルは何が違うのですか
手順書(SOP)は特定の1業務を「同じ結果で実行する」ための手順に絞った文書、マニュアルは業務の全体像や背景まで含む幅広い文書です。まず1業務分の手順書から始めるのが実務的です。
手順書はどこまで細かく書けばいいですか
「対象読者が迷わずに同じ結果を出せる粒度」が基準です。詳しく書くほど良いわけではなく、初めての人がその通りやって完了できるかで判断します。
手順ステップを書くとき避ける言葉はありますか
「適宜」「必要に応じて」「たぶん」など、判断を読む人に丸投げする言葉です。これらは再現性を壊すので、条件を「もし〜なら〜する」と書き切ります(出典:The FDA Group)。
作った手順書は作りっぱなしでいいですか
いいえ。業務のやり方が変わるたびに見直して更新し、最新版だけを使えるよう改訂履歴を残します。品質マネジメントの規格でも、手順書は最新に維持すべき文書とされています。