脱属人化の進め方|属人化業務を特定し引き継ぎ可能な状態へ移す手順を作成できる | マナビズ

脱属人化の進め方|属人化業務を特定し引き継ぎ可能な状態へ移す手順を作成できる

「Bさんが辞めたら、この業務はどうなるんだろう」——チームを預かる立場になると、一度はこの不安がよぎるのではないでしょうか。ベテランのBさんが一手に握っている業務があり、Bさんが休むと処理が止まる、進捗が誰にも見えない、Bさんに聞かないと先に進まない。属人化がまずいことは分かっている。けれど、どの業務が本当に危ないのか、引き継ぎに何から手をつければいいのかが分からず、結局「Bさん任せ」のまま放置してしまう——。

この講座は、その「放置」を「着手」に変えるための手順をお渡しします。終えると、属人化が「専門化」と何が違いどんなリスクを生むのかを説明でき、チームの業務から引き継ぎに着手すべき属人化業務を特定でき、その1つを観察→言語化→仮運用→定着の4ステップで引き継ぎ可能な状態へ移す手順を作成できるようになります。覚えて帰る型は、「属人化を特定する(頻度×代替不能度)→ 4ステップで暗黙知を形式知に移す → 更新の仕組みで再発を防ぐ」。全章を通して、課長のあなたが、ベテランBさんが握る「主要顧客からの特注品の受注処理」を引き継ぎ可能にしていく場面を追いかけます。

先にレーンをお伝えします。本講座は「1つの属人化業務を特定し、引き継ぎ可能な状態へ移す手順を作る」ことに絞ります。業務そのものを洗い出す棚卸しの手順は業務棚卸しの進め方、暗黙知を図で可視化するフロー図の書き方は業務フロー図の書き方、引き継ぎの中核になる手順書の書式・書き方は業務手順書(SOP)の書き方、そして1業務でなく全社の標準化計画に広げるステップは業務標準化の進め方が、それぞれの正本です。本講座はそこには踏み込みません。

この講座のポイント

  • 属人化が「専門化」と何が違い、どんなリスク(業務停止・品質のばらつき・ブラックボックス化)を生むのかを、自分の言葉で説明できる。
  • チームの業務の中から、引き継ぎに着手すべき属人化業務を「頻度×代替不能度」の観点で特定できる。
  • 特定した1業務を、観察→言語化→仮運用→定着の4ステップで引き継ぎ可能な状態へ移す手順を作成できる。
  • 引き継いだ状態を維持し、属人化を再発させない仕組みを説明できる。

属人化とは何か——「専門化」との違いとリスクを見極める

この章のゴール

属人化が「専門化」と何が違い、どんなリスク(業務停止・品質のばらつき・ブラックボックス化)を生むのかを、自分の言葉で説明できる。

属人化とは「その人しか進め方・進捗を把握していない」状態

属人化とは、ある業務の進め方や進捗状況を、特定の担当者しか把握していない状態を指します。ここで大事なのは、よく似た「専門化」との違いです。専門化は、特定分野の知識や技術を深めて効率的に業務を行うことで、それ自体は組織の強みです。両者を分けるのは、たった一点——ノウハウが共有されているかどうかです。知識や技術が深くても、それが本人以外にも共有されていれば「専門化」で問題ありません。共有されず、情報が個人の頭の中に留まっているとき、それが「属人化」になります。

だから、Bさんが特注品受注処理の専門家であること自体は、まったく悪いことではありません。問題は、その進め方がBさんの頭の中にしかなく、他の誰も再現できない点にあります。属人化の解消方法を考えるときの出発点は、「Bさんのスキルが高いこと」ではなく「そのスキルが共有されていないこと」に照準を合わせることです。

放置すると生まれる3つのリスク

共有されないまま属人化を放置すると、リスクが積み上がります。1つ目は業務停止のリスク。Bさんが急に休んだり退職したりすれば、特注品の受注処理が止まります。2つ目は品質のばらつき。判断基準が共有されず、別の人がやると成果物の質が変わります。3つ目はブラックボックス化。誰も中身を知らないため改善もチェックもできず、ミスや不正が起きても気づけません。

国も、この問題を「個人に依存した見えない資産をどう引き継ぐか」という観点で捉えています。中小企業庁は事業承継の考え方として、経営者や担当者の頭の中にある方針・ノウハウといった無形の知的資産を、承継可能な形にドキュメント化して「見える化」する必要があると説いています(出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」/2024年版中小企業白書)。属人化の解消とは、まさにこの「個人に依存した知的資産を、共有できる形に見える化する」取り組みなのです。

つまずきやすいのは、属人化を「Bさんが悪い」という人の問題にすり替えることです。属人化は、共有する仕組みがないことから生まれる構造の問題です。責めるべきは人ではなく共有の仕組みがない状態——ここを取り違えないことが、次章からの手順の土台になります。

この章の確認(演習)

自分のチームで「その人しか分からない業務」を1つ挙げてください。そのうえで、それが専門化(深いスキルが共有されている)なのか、属人化(共有されていない)なのかを判定し、判定した理由を「共有されているか」の一点で1文で説明してみましょう。

どの業務から着手するか——属人化業務を特定する

この章のゴール

チームの業務の中から、引き継ぎに着手すべき属人化業務を「頻度×代替不能度」の観点で特定できる。

全部を一度に直そうとすると頓挫する

属人化した業務が複数あると、つい「全部いっぺんにマニュアル化しよう」と考えがちですが、これは頓挫の典型です。時間も手も足りず、結局どれも中途半端になります。属人化の解消は、まず1つ選ぶことから始めます。最初の1つを引き継ぎ可能にする手順を作れれば、同じ型を他の業務にも展開できるからです。

では、どの1つを選ぶか。中小企業庁も、知的資産の見える化は「自社が有する知的資産に気付くこと(知的資産の棚卸し)から始める」ことが大切だとしています(出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」)。つまり、着手の入口は「何が属人化しているか」に気付くことです。チームの業務を洗い出す棚卸しそのものの手順は業務棚卸しの進め方で扱うので、ここでは棚卸しで挙がった業務の中から「どれから着手するか」を選ぶところに集中します。

「頻度」×「代替不能度」の2軸で危険度を並べる

着手する1つを選ぶ物差しとして、本講座では2つの軸をおすすめします。1つは頻度——その業務がどれだけ頻繁に回るか。もう1つは代替不能度——その人がいないと止まるか。この2軸で並べると、危険度が見えてきます。頻度が高く、かつ代替不能度も高い業務は、止まったときの影響が最も大きいので、最優先です。

Bさんの特注品受注処理を、この2軸に当てはめてみましょう。この処理は毎週回っていて(例)、しかもBさん以外に手順を知る人がいない(例)。頻度も代替不能度も高く、最優先で着手すべき業務だと判定できます。逆に、年に一度しか発生しない業務は、頻度は低いので後回しに見えます。ただし注意したいのは、頻度が低くても「止まると致命的」な業務を見落とさないことです。年1回でも、それが決算や許認可の更新のように失敗できない業務なら、代替不能度の軸で高く評価して優先度を上げます。なお、この2軸で見えた業務の流れを図にして共有したい場合は、業務フロー図の書き方が可視化の手段になります。

この章の確認(演習)

自分のチームの属人化候補を3つ挙げてください。それぞれを「頻度(どれだけ回るか)」と「代替不能度(その人がいないと止まるか)」の2軸で並べ、最初に着手する1つを選びます。選んだ理由を、2軸の言葉で1文にしてみましょう。

引き継ぎ可能な状態へ移す4ステップ——暗黙知を形式知にする

この章のゴール

特定した1業務を、観察→言語化→仮運用→定着の4ステップで引き継ぎ可能な状態へ移す手順を作成できる。

属人化の核は「暗黙知」——それを形式知に変える

なぜ引き継ぎは難しいのでしょうか。属人化の核には「暗黙知」があるからです。暗黙知とは、本人も言葉にできていない勘や経験のことです。Bさんは「なんとなくこうしている」だけで、なぜそうするのかを説明できないことが多い。この暗黙知を、他者が理解・再現できる「形式知」に変換することが、引き継ぎ可能化の正体です。

この「暗黙知を形式知に変換する」考え方は、経営学者の野中郁次郎氏と竹内弘高氏が提唱したSECIモデルの「表出化(Externalization)」にあたります。表出化とは、暗黙知を明確なコンセプトや形式知に変換するプロセスで、メタファーや具体例、モデルなどを使って他者が議論できる形にすることだとされています(出典:SECIモデル/野中郁次郎・竹内弘高『The Knowledge-Creating Company』1995)。属人化の解消方法とは、突き詰めればこの表出化を、現場の手順に落として回すことなのです。

観察→言語化→仮運用→定着の4ステップ

表出化を現場で回すために、本講座では4つのステップに分けます。

第1ステップは観察です。いきなりBさんに「マニュアルを書いて」と頼んではいけません。本人は忙しく、暗黙知は本人ほど言葉にしにくいからです。まずはあなたがBさんの作業に張り付き、手順とその途中の判断を書き出します。拾いたいのは、「この客は納期を短く言うが実は余裕がある(例)」といった、Bさんが無意識にやっている判断です。

第2ステップは言語化です。観察したメモを、判断基準と例外処理まで含めて言葉にします。「特注品はまず在庫を確認する」だけでなく、「在庫がないときは誰に、どの順で相談するか」まで書き切るのがポイントです。

第3ステップは仮運用です。書いた手順を使って、Bさん以外の人に実際にやってもらいます。詰まった箇所こそ、暗黙知が抜け落ちていた場所です。ここで初めて、本当の穴が見えます。最初から完璧な手順を目指す必要はありません。仮運用で直せばよいのです。

第4ステップは定着です。仮運用で見つかった詰まりを手順に反映し、更新の担当を決めます。この段階で作る手順書そのものの書式・粒度・テンプレは業務手順書(SOP)の書き方が正本なので、書式で迷ったらそちらへ進んでください。本講座では、「観察して、言葉にして、試して、直す」という4ステップの流れを設計できれば十分です。

この章の確認(演習)

第2章で選んだ1業務について、観察・言語化・仮運用・定着の4ステップそれぞれで「今週やること」を1つずつ書き出してください。たとえば観察なら「木曜にBさんの受注処理に1時間張り付く」のように、行動で書けたら合格です。

属人化を再発させない——仕組みと運用に落とす

この章のゴール

引き継いだ状態を維持し、属人化を再発させない仕組みを説明できる。

引き継いでも、更新されなければ再び属人化する

苦労して引き継いだのに、半年後にはまた「あの業務はあの人しか分からない」に戻っている——これはよくある話です。手順は作った瞬間から古くなります。やり方が変わり、新しい例外が出てくるのに、手順が更新されなければ、実態は再び個人の頭の中に戻ってしまいます。だから脱属人化は、引き継いで終わりではなく、更新され続ける仕組みまで作って完成です。

再発を防ぐ3点——担当の分散・更新の責任者・戻すサイクル

再発防止は、次の3点を仕組みに落とすことで実現します。1つ目は担当の分散です。Bさんの受注処理を引き継いだ後、Bさんと新しい担当者が交互に回す(例)ようにすれば、どちらかが欠けても止まりません。2つ目は更新の責任者と頻度を決めることです。「月1で手順を見直す担当は誰か(例)」を明確にしないと、更新は誰の仕事でもなくなり放置されます。3つ目は、新しい暗黙知が生まれたら形式知に戻すサイクルです。運用の中で「実はこう変えた方が早い」が見つかったら、その都度手順に反映します。

この発想は、中小企業庁が事業承継の「磨き上げ」として説く、「マニュアルを整備し、業務が効率良く流れる体制を作る」ことと同じ方向です(出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」)。つまずきやすいのは、再発防止を「気をつけよう」という個人の心がけに頼ってしまうことです。心がけは続きません。担当・頻度・サイクルという「仕組み」に落とすことが、再発を防ぐ唯一の現実的な方法です。なお、こうした取り組みを1業務にとどめず、全社の標準化計画として広げていくステップは業務標準化の進め方が正本です。

この章の確認(演習)

第3章で引き継いだ1業務について、「更新の担当(誰が)」「見直しの頻度(いつ)」「複数人で回す方法」を1つずつ決めて書き出してください。3つとも「仕組み」の言葉で書けていれば、再発防止の設計は合格です。

まとめ

脱属人化とは、特定個人の頭の中にある暗黙知を、「引き継ぎ可能な形式知」に移す手順を回すことでした。やることは3つです。まず、全部を一度に直そうとせず、頻度×代替不能度で危ない1業務を特定する。次に、その1業務を観察→言語化→仮運用→定着の4ステップで移す(この4ステップの核が、暗黙知を形式知に変える「表出化」です)。最後に、担当の分散・更新の責任者・戻すサイクルという仕組みで、再発を防ぐ。覚えて帰る型は、「属人化を特定する → 4ステップで表出化する → 更新の仕組みで再発を防ぐ」です。

管理職に必要なのは、「Bさんが悪い」と嘆くことでも、Bさん本人にマニュアルを丸投げすることでもありません。危ない1業務を選び、引き継ぎ可能にする計画を自分で1本作れることです。明日の一歩として、あなたのチームのBさん的存在が握る業務を1つ選び、「なぜ属人化しているか」「4ステップ」「今週やること」を1枚の計画に落として、本人と合意してみてください。そのうえで、4ステップの最後に作る手順書の書式・書き方を固めたくなったら、業務手順書(SOP)の書き方が次のステップになります。

本講座の特典として、属人化業務の特定(頻度×代替不能度マトリクス)から引き継ぎの4ステップ計画までを1枚で回せる「脱属人化ワークシート」をご用意しています。棚卸し・手順書・標準化の関連講座とあわせて実務に落とし込みたい方に向けた入手案内は、有料プランからご確認ください。

よくある質問

属人化と専門化はどう違うのですか

違いは「共有されているか」の一点です。深いスキルが本人以外にも共有されていれば専門化、本人の頭の中に留まっていれば属人化。スキルの高さ自体は問題ではありません。

属人化した業務が多すぎて何から手をつければいいか分かりません

全部を一度に直そうとせず、まず1つに絞ります。「頻度(どれだけ回るか)」と「代替不能度(その人がいないと止まるか)」の2軸で危険度を並べ、最も高い業務から着手します。

本人にマニュアルを書いてもらえば解決しますか

本人任せは進みにくい方法です。暗黙知は本人ほど言葉にしにくく、時間も取れません。まず管理職が作業を観察して手順を書き出し、別の人が試して穴を埋めるのが現実的です。

引き継いだのにまた属人化してしまいます

手順が更新されないと再発します。担当を複数人に分散し、更新の責任者と見直し頻度を決め、新しいやり方が出たら手順に戻すサイクルを仕組みにすることで防げます。

監修
マナビズ編集部

マナビズ(Manabiz)編集部。AIを活用した原稿制作に加え、人間によるレビューで品質を担保しています。 編集ポリシー

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